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7巻
7-3
しおりを挟む第五章 悩みを打ち明けられました。
カフェの客足が最も多くなる、お昼の時間帯。
厨房ではジークとアランの二人が、次から次へと入ってくる注文をさばいていた。
「アラン。次のパスタセット、出来てるか?」
ジークが伝票を見ながら、まだ出ていない料理についてアランに確認する。
「パスタセット……? あれ、スープセットが先ですよね?」
アランはスープの入った器と、付け合わせのおかずがのったお皿を手に、ジークのもとへとやってきた。
「いや、パスタが先だ」
ジークが再び伝票を見ながら言うと、アランはハッとした様子で謝る。
「す、すみません‼ 俺……」
「結構待たせてしまってるから、パスタは俺がやる。その代わり、次のパンケーキを頼んでいいか?」
「は、はい!」
注文の順番を飛ばすなんて、アランにしては珍しいミスだ。ジークはおや? と思いながらも、飛ばされた料理に取り掛かる。
先程、二号店の店長を任されたばかりなので、仕事に集中できていないのかもしれない。そうジークは予想した。
突然のことに戸惑っているのだろうが、今はアランとゆっくり話せる時間がない。リサは開店の準備を終えると料理科の方へ行ってしまったので、今日は閉店までアランと二人で厨房を守ることになっているのだ。
今日一日この調子が続くようであれば、仕事が終わってからアランと話をした方がいいかもしれない。ジークはそう考えながら、途切れることなく入ってくる注文に対応していった。
カフェの営業が終了し、片付けと翌日の仕込みを早々に終えたジークは、アランを連れて一軒の飲み屋にやってきた。
騎士団時代に、先輩や同僚とよく来ていた店だ。メニューは果実酒の他、茹でた腸詰めや蒸かしたムム芋など、シンプルな料理が数種類しかない。
どこか心ここにあらずといった感じだったアランは、あの後もいつもはしないような小さなミスを連発し、すっかり意気消沈している。
ジークの誘いも断ろうとしていたのだが、そこを強引に連れてきたのである。
「果実酒とつまみを適当に頼むけど、いいか?」
「はい、俺はなんでも……」
アランは肩を落としたまま、力なく答える。
まずは飲ませてからだなと思いながら、ジークは近くを通った店員を捕まえ、いくつかの品を注文した。
しばらくすると、金属製のゴブレットに入った果実酒と、数種類のつまみがのったお皿が運ばれてきた。
「じゃあ、今日もお疲れ様」
「はい、お疲れ様です」
果実酒がなみなみと注がれたゴブレットをカチンと合わせ、二人はそれを呷った。
つまみをちびちびと口に入れながら、ジークはちらりとアランを見る。そして、おもむろに口を開いた。
「悩んでるのか?」
何を、とは言わなかったが、アランは核心を突かれたように小さく肩を揺らした。
言葉に詰まったアランが話し出すのを、ジークは果実酒を飲みながら待つ。
「……はい」
ややあって、アランがぽつりと言った。
「正直、自信がないっす……俺、もっと長くリサさんとジークさんの下でやっていくと思ってました。まさかこんなに早く一人で店を任されるとは予想もしてなくて」
アランは現在二十一歳。ジークの一つ年下だ。
カフェに勤めるようになってまだ三年と少しだが、十六歳から王宮の厨房で見習いをしていたため、料理人歴はもう少し長かった。
それでもまだまだ若い。この歳で店を一つ任されるというのは、かなり珍しいことだろう。
自信がない理由をポツリポツリと挙げていくアランの声を聞きながら、ジークはマイペースに酒を飲んでいた。
「別に、嫌ならやらなくてもいいぞ」
「……嫌ではありませんよ。選んでもらって嬉しかったし……」
「そうか? 俺が思うに、やるかやらないかの問題な気もするけどな」
そう言ってもう一口飲みつつ、ジークは目だけでアランを窺う。するとアランは表情をさらに曇らせ、唇を噛んだ。
二人の間に沈黙が落ちる。
少ししてから、アランが再び口を開いた。
「……他にも気になることがあって……ヘレナの実家のことです」
「ヘレナの実家? チェスターパン店か?」
予想外の言葉が出てきて、ジークは少し驚く。
アランは少し前からヘレナと付き合っているが、そのことと関係があるのだろうか。
「はい。俺、このまま順調に交際が続けば、ヘレナと一緒になるつもりです。そしたら、きっとチェスターパン店を継がなきゃいけなくなる。チェスターパン店は王宮御用達の老舗ですから、途絶えさせるわけにはいきません。けど、俺はパンより料理の道を進みたいんです」
アランが思い詰めたような顔で一気に話した。
ジークはゴブレットをテーブルに置くと、アランをまっすぐに見据える。
「それをヘレナは知ってるのか?」
「ヘレナにも軽く話したことがあります。ヘレナからは、お父さんもまだ働き盛りだから、跡継ぎの話はすぐに考えなくても大丈夫だって言われました。でも、本当にそれでいいんですかね?」
「こればかりは、ヘレナの親父さんに聞かなければなんとも言えないからなぁ。少なくとも、アランが今すぐどうこう出来る問題じゃないだろ?」
「……はい」
思わぬ方向へ話が進み、ジークはしばし思案する。リサと二人で話した時は、チェスターパン店のことまで頭が回らなかった。
再度リサと相談しなければならないなと思いながら、ジークはアランに視線を戻した。
「でも、もしチェスターパン店の跡継ぎ問題を抜きにしたら、お前はどうしたい? 二号店の店長をやるか? それともやらないのか?」
ジークが知りたいのは、アランにやる気があるのかどうかということだ。
大役を任されて不安になる気持ちはわかるし、自信がないのもわかる。
ジークだって、料理科の講師をやることになった時は不安に思ったし、子供に教える自信なんてなかったのだ。
けれどアランにとって、これは大きなチャンスだと思う。
これほど若くして店を任されることなど、めったにない。
例えば王宮の料理人の中には、自分の店を持ちたいと思いながらも十年以上、独立できずにくすぶっている者もいる。
それに比べて、アランは幸運だ。ゆくゆくは独立させることも視野に入れて、リサはアランに二号店を任せようとしているのだ。
この千載一遇の機会を逃せば、アランはきっと後悔すると思う。だから、ジークは諭すように言った。
「俺とリサは、アランなら出来ると思ってるし、ヘレナもしっかり支えてくれるはずだ。俺たちの下にいても学べることはあるだろうが、新しい店を作っていくのは、それ以上にいい経験になる。アランにとってな」
その言葉から何かを感じ取ったのか、アランはじっと一点を見つめて考え込んでいる。
ジークが答えを急かすことなく待っていると、しばらくして、アランがゆっくりと顔を上げた。
「俺、正直自信はないですけど……それでもやってみたいです! ご指導お願いします」
「ああ、わかった」
アランからはっきりした答えが聞けたことで、ジークもようやくほっとする。
ジークを見つめるアランの目は、先程までとは違い、明らかな決意を秘めていた。
第六章 早くも問題発生です。
「チェスターパン店かぁ……」
翌日、ジークからアランとのやりとりを聞かされたリサは、開店前のカフェで頭を抱えていた。
まさかヘレナの実家の跡取り問題が出てくるとは、思ってもみなかったからだ。
「こればっかりは、うちがどうこう出来ることじゃないよね……」
「だよなぁ」
ジークも困った様子で苦笑する。
「まずはヘレナに聞いてみるしかないね」
昨日に引き続き、メンバー全員での打ち合わせが必要だった。
賄いを食べながら、いざ話そうとしたリサだが、どう切り出せばいいのかわからない。
アランが将来ヘレナと一緒になりたいと考えているのはわかったが、まだプロポーズはしていないはず。それなのに言っていいものか? とリサは思い悩む。
しかし、時間は有限だ。カフェの開店時間も迫っているため、そうもたもたしてはいられない。
核心部分については自分からは言わず、話すかどうかはアランに任せようと決めて口を開いた。
「昨日、みんなに話した二号店の件だけど……アランくん、正直まだ自信がないんだって?」
ジークから聞いたということを匂わせながらリサが言うと、アランはすべてを察したらしく、困ったような表情で頷いた。
「はい……やってみたいとは思ってますけど……」
アランは自信なさげに語尾を濁す。
そこでジークが助け船を出した。
「昨日、閉店後にアランと話したんだ。やる気はあるみたいだから、やはりアランに任せたいと思ってるんだが、一つ懸念がある」
そこで、ジークは続きを言えといわんばかりにアランを肘で小突いた。
「……その、チェスターパン店のことで……」
ヘレナをちらりと窺いながらアランが言う。ヘレナはきょとんとした表情で首を傾げた。
「え? うちがなんですか?」
ヘレナに聞かれ、アランは意を決したように口を開く。
「俺は、将来ヘレナと結婚したいと思ってる。もし二号店の店長を引き受けたとしても、いずれはチェスターパン店を継ぐために辞めなくちゃいけない。それが数年後なのか数十年後なのかはわからないけど、中途半端にはしたくないんだ。カフェのことも、ヘレナの家のことも」
真剣な表情でヘレナに伝えるアラン。
初めは落ち着いた様子で聞いていたヘレナだが、だんだんと頬が染まり、最終的には視線を激しく泳がせていた。
リサもアランを援護するように言う。
「私もジークくんも、昨日はそのことまで考えが及ばなくて……二人の将来はもちろん、チェスターパン店の将来にも関わることだから、勝手に事を進めるわけにはいかないと思ったの」
リサの言葉を聞いて、ヘレナは少し考え込む。
やがて困惑した顔で話し始めた。
「正直、私もチェスターパン店の跡継ぎ問題に関しては、なんとも言えません。昔は店を手伝ってましたけど、カフェで働き始めてからは、手伝うこともほとんどなくなったし……。元彼と別れる時、父は私に『結婚相手はパン屋を継いでくれる人じゃなくてもいい』と言ってました。でも、今もそう思っているのかどうか……」
ヘレナが元彼と別れたのは、三年以上も前のことだ。
元彼は長男だったので、家業を継ぐ必要があった。それどころか、ヘレナが自分の家に嫁入りしてくれるものだと、当然のように思い込んでいたらしい。それが、二人が別れるきっかけだった。
彼と別れてひどく落ち込んでいたヘレナを元気づけようとしたのか、父親のポールは『パン屋を継いでくれる人と結婚しなくてもいい』と言ってくれたらしい。
だが、それがポールの本心なのかどうかはわからないし、今でもそう思っているとは限らない。
リサは困った顔で呟く。
「うーん……ポールさんにズバリ聞いてみるのが一番早いんだけど……」
もし聞くとなったら、おそらくアランとヘレナが二人で聞きに行くことになるだろう。結婚の挨拶とまではいかないが、それに近いことをしなければならなくなる。
だが、二人はまだ付き合って日が浅い。ポールに将来結婚を考えていることを伝える決意があるのかどうか、リサにはわからなかった。
リサの心配が伝わったらしく、アランとヘレナはお互いの意思を確認するように視線を交わす。
そして頷き合うと、リサの方へと向き直った。
「ヘレナのお父さんと、話をさせてもらいます」
「はい、それが一番早いですから」
二人から同時に真剣な表情を見せられ、リサは彼らの意思に任せようと思った。
第七章 当事者同士が話し合いました。
ヘレナの父・ポールとの話し合いは、カフェ・おむすびで行われることになった。
最初はアランとヘレナが彼のもとを訪ねようとしていたのだが、二号店についてのことはリサから説明した方がいいと考えたからだ。
二号店を出すことは、大きなビジネスチャンスと言えた。カフェ・おむすびのメンバーはもちろんのこと、周りの商人や料理人を含むいろんな人が絡むことになる。
もし計画の段階で話が外に漏れたら、どこからどんな横槍が入ってくるかわからない。模倣店という悪い前例もあるのだし、用心するに越したことはなかった。
そういった理由から、リサが直接ポールに伝え、外に漏らさないよう約束してもらうことにしたのだ。
カフェのメンバーで二度目の話し合いをした翌日は、ちょうどカフェの休業日だった。
ヘレナからポールに「大事な話がある」と伝え、カフェに連れてきてもらうことになっている。
他の四人はカフェのホールで、チェスター親子が来るのを待っていた。
「アランくん、少し落ち着きなよ」
まるで檻に入れられた熊のように、同じところをうろうろしているアランを見かねて、リサが声をかけた。
「す、すみません……」
そう言って緊張に声を震わせるアランは、どうにか落ち着こうと椅子に座る。それでも、椅子の上で体や足をせわしなく揺らしていた。
チェスター親子の来店が近づくにつれて、どんどん緊張が高まっているのだろう。
その気持ちはわかるが、リサたちが代わってあげることは出来ないので、ただ彼を見守るしかない。
リサが他の二人に視線を向けると、オリヴィアは苦笑し、ジークは肩を竦めていた。
そうこうしているうちに、ヘレナがポールを連れてカフェにやってくる。
「大事な話があると聞いて来たんですが……」
ポールは、戸惑った様子で店内へと入ってきた。
「ポールさん、お忙しいところをお越しいただき、ありがとうございます。こちらへどうぞ」
そう言って、リサはポールをテーブル席へと案内する。
「はあ……」
ポールが怪訝な顔で席に座ると、オリヴィアがお茶を出した。
そしてポールの向かいに、ヘレナとアランが並んで座る。
「ヘレナ? それと……アランくんと言ったかな? どうして二人が……?」
ポールは理由を問うように、リサに視線を向けた。
「二人からポールさんにお話ししたいことがあるそうです」
そのリサの言葉を聞いて、ポールが目の前の二人に向き直った。
三人だけで話してもらうため、リサはそっとテーブルから離れる。
ヘレナが心配そうに見つめる中、アランが口を開いた。
「き、きちんとご挨拶するのは初めてですよね。僕はアラン・トレイルと言います。今日、こうしてお時間をいただいたのは、チェ、チェスターさんにお伝えしなければならないことがありまして……」
緊張に身を硬くしながらも、アランはどうにか言葉を紡いでいく。
ポールは黙って聞いていた。その顔は完全な無表情だ。
「――っ、ぼ、僕は、ヘレナさんとお付き合いしています。そ、そして、ゆくゆくは結婚したいと思っています!」
所々つかえながらも、アランはどうにか言い切った。
フォローするように、ヘレナも口を開く。
「真剣に将来を考えているの。だから、お父さんにも認めてもらいたいと思って……」
アランとヘレナは、ポールをじっと見つめて反応を窺った。
ポールは目を閉じて黙り込む。二人の話をどう思っているのか、さっぱりわからなかった。
リサ、ジーク、オリヴィアの三人も、少し離れたところからポールの様子を窺う。
しばらくすると、ポールが目を開けて、アランとヘレナを順番に見た。
「……二人の考えはわかった。ただな、それを言うのに、なぜわざわざカフェ・おむすびに呼んだんだ? 二人で俺のところに来るのが普通じゃないのか?」
静かな、だがしっかりとした口調で言われて、アランとヘレナは言葉に詰まる。
確かに父親を呼び出し、しかもリサたちがいる場で交際の報告をするのは、あまり一般的ではないかもしれない。
けれど、今回の話はカフェの将来にも大きく関わることなので、成り行き上、仕方なかったのである。
見かねたリサは三人のいるテーブルに近づくと、こうなった経緯を説明した。
「ポールさんのおっしゃることも一理ありますが、今回二人がここで報告することになったのは、こちらの事情が大きく関わっています。そもそもの発端は、私がカフェの二号店をアランくんとヘレナの二人に任せたいと言ったことです」
リサの言葉に、ポールは目を大きく見開いた。
「二号店!? この二人に任せるんですか!?」
まさかと言わんばかりのポールに、リサは不思議に思いながらも説明を続ける。
「アランくんに店長を、ヘレナに副店長を任せたいと思っています。しかし、二人から将来結婚するつもりであることと、それにはチェスターパン店の跡継ぎ問題も関わってくることを聞かされ、ポールさんにもご相談したいと思ってこの場を設けたのです」
それを聞いて、ポールは厳しい表情へと変わる。
「経緯はわかりました。……私の考えを率直に言いましょう」
そう言って、ポールはアラン、ヘレナ、リサを順番に見た。
「――反対だ。将来二人が結婚するのも、二号店を二人に任せるのも」
ポール以外の三人が、同時に息を呑む。
「お父さん、なんでっ……」
ヘレナは勢いよく立ち上がると、ポールの方へ身を乗り出した。
一方、リサは冷静さを保ったまま説明を求める。
「ポールさん、どうしてですか? 理由を教えてください。やはりチェスターパン店の跡継ぎ問題があるからですか?」
ポールは一つ息を吐き出すと、再び口を開いた。
「うちの跡継ぎのことは、今は問題ではありません。……アランくん、君が今の状態で店を持つのは力不足じゃないかと私は思っている。君はカフェの料理人の中で三番手、いわば見習いの立場だろう。そんな状態で店を持っても、成功しないんじゃないか? 店を切り盛りするというのは、そう簡単なことではないんだぞ」
そのポールの意見に、リサが真っ先に反論する。
「アランくんは、確かにうちでは三番手の位置にいます。ですが、だからといって見習いというわけではありません。それどころか、カフェの主戦力です。だからこそ、私は彼に二号店を任せたいと思っているんですよ」
「けれど、彼はまだ若いでしょう? 今いくつだ?」
ポールから歳を聞かれて、アランは咄嗟に答える。
「こ、今年で二十一です!」
「ほらな。独立するには若すぎますよ」
リサはムッとして言い返す。
「私がこの店を開いたのは二十二の時です。ですから、アランくんがやっていける可能性は十分にあります。それに独立と言っても、店が軌道に乗るまではカフェ・おむすびと全く同じメニューを出してもらいますし、経営も私がやります。任せるのはあくまで営業面だけなんです。もちろん将来的には、アランくんに経営もやってもらうつもりですが」
すると、ポールはなるほどとばかりに頷き、理解を示してくれた。
だが、これで納得してもらえるかと思いきや、そうではなかった。
「しかし、私にはまだアランくんの人となりも、実力のほどもわからなかった。よって二号店のことはまだしも、ヘレナとの結婚に関しては承諾できん」
「どうして!? リサさんも言ったように、アランさんはカフェを安心して任せられる人だわ! 今だってリサさんとジークさんが料理科の授業で不在の時は、一人でしっかり店を回してるもの!」
ヘレナが激昂してポールに詰め寄る。
恋人であるアランのことを認めてもらえず、父親に裏切られたような気持ちになっているのかもしれない。
「リサさんやヘレナがそう言うなら、そうなのかもしれない。けれど、さっきも言ったように、私自身はアランくんのことをよく知らないんだ。仕事をしている時のことも、そうでない時のことも……」
ポールに難しい顔で言われて、ヘレナは不機嫌そうに黙り込んだ。
ポールは今度はアランに視線を向ける。
「君はどう思っているんだ?」
「僕は……」
ポールに話を振られたアランは、そう言ったきり言葉を詰まらせる。
だが少しの沈黙ののち、ポールの目をしっかりと見つめた。
「……僕は、まだまだ修業中の身だと、自分でもわかっています。けれど、カフェ・おむすびでリサさんやジークさんからたくさんのことを学んできました。それを生かせる環境と機会が与えられた今、それを諦めたくはありません。……もちろん、ヘレナさんのことも」
アランは落ち着いた様子でポールに伝えた。最初の緊張はどこかへ行ってしまったようだ。
ポールはアランの言葉を聞くと、ふぅとため息を吐いて立ち上がる。
「わかった。私は自分の意見を変えるつもりはないが、君たちの行動に干渉することもしない。ただ見守らせてもらい、そして私なりの答えを出そうと思う。とりあえず、今日はこれで失礼させていただくよ」
ポールはそう言うと、すたすたと入り口まで歩いて店を出ていく。
ドアベルの音が、静まり返った店の中に響いた。
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