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7巻
7-1
しおりを挟むプロローグ
薄暗い部屋の中、一人の女性が机に向かい、視線を手元に落としていた。
小さな明かりが置かれた机の上。そこには一通の手紙があった。
数枚綴りになったその手紙をめくっていくと、末尾には相手の名前の頭文字だけが書かれている。
彼女は切なげな表情を浮かべながら、手紙の文字を指で愛しそうになぞった。
何やら複雑そうな様子だが、それには送り主が記名できない理由が大きく関わっているようだ。
「――様……」
独り言にしても小さすぎる声が、彼女の口から漏れる。
次いで、物憂げなため息がこぼれた。
――トントントン!
突然、ドアをノックする音が聞こえ、彼女はびくりと肩を揺らす。
そして慌てたように、手紙をすぐ傍にある本の下へと隠した。
「はい」
姿勢を正し、落ち着いた声で返事をする。
ドアを開けて部屋に入ってきたのは、一人の老婆だった。
「姫様、まだ起きていらしたのですか?」
やや咎めるような口調で言った老婆に、女性は苦笑した。
「眠れなかったから本を読んでいたの。でも、もう寝るわ」
そう言って机の明かりを消すと、立ち上がってベッドへと向かう。
老婆はベッドに近づいて掛け布団をめくり、女性が横になるのを手伝った。
肩までしっかり布団を掛けられた彼女は、傍らに立つ老婆を見上げる。老婆は満足げに微笑んでいた。
「では姫様、おやすみなさいませ」
「ええ、おやすみなさい」
最後に天蓋のカーテンを閉めてから、老婆は部屋を出ていく。
残された女性はドアが閉まる音を聞きながら、そっと目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、穏やかな眠りの世界ではなく、先程読んだ手紙の文字。
彼女はなかなか寝つけないまま、ベッドの中で思考に耽っていた。
第一章 自然と心が弾みます。
フェリフォミア王国の王都。その街中を、長い黒髪の女性が歩いていた。
彼女の名はリサ・クロカワ・クロード。彼女は朝の冷たく澄んだ空気を吸いながら、軽い足取りで仕事場に向かっていた。
片腕で抱えた紙袋の中には、中央広場の朝市で購入した品物が入っている。袋の口からは、黄緑色をしたリルの実が覗いていた。
そこそこの重さがあって腕が疲れたため、紙袋を右腕から左腕に持ち替える。その左手にはまった銀色の指輪が、真新しい輝きを放っていた。
リサはこの王都に店を構えるカフェ・おむすびのオーナー兼店長であり、国立総合魔術学院の料理科で講師も務めている。
そして公にはされていないが、こことは違う世界にある日本という国から召喚された、異世界人でもあるのだった。
時折、顔見知りの人々と朝の挨拶を交わしながら、リサは通りを歩く。やがて職場であるカフェ・おむすびに到着し、入り口のドアノブを回した。
だが、ガチッという音が鳴り、ノブが途中で止まってしまう。どうやらまだ誰も出勤していないらしい。
リサは食材の入った紙袋を抱えたまま、肩にかけているバッグの中に片手を突っ込む。そして、ガサゴソと鍵を探し始めた。
なかなか見つからず必死に探しているうちに、もう片方の腕で持っている紙袋が傾き、リルの実が一つ転がり出そうになる。
あっと思ったリサは慌てて紙袋を抱え直したが、もう遅かった。
あのリルの実はジャムになる運命か……という思いが、リサの頭に浮かぶ。
柔らかい床の上ならともかく、硬い石畳の上に落ちてしまったら、リルの実が傷むのは目に見えていた。そうなればジャムにするくらいしか使い道がない。
しかし、リルの実は地面にぶつかる直前、大きな手に掬い上げられる。
「……っと、危ないところだったな」
その声にリサが振り向くと、そこには銀髪の青年が立っていた。
「ジーク! ナイスキャッチ!」
リサが喜びをあらわに言うと、青年は少し得意げに口角を上げた。
いや、リサの目には得意げに映ったが、他の人が見てもそうは思わないだろう。
彼――ジーク・ブラウンは銀髪と青い瞳を持ち、整った顔をした青年だ。しかし、基本的に無表情で愛想は全くない。長年共に過ごした相手でなければ、その顔から喜怒哀楽を読み取ることは出来なかった。
そんな彼は、リサがつい先日婚約した相手であり、彼女の左手にはまっている指輪の贈り主でもあった。
「持つよ」
そう言って、ジークはリサから紙袋を取り上げる。そして、今しがた掬い上げたばかりのリルの実を、袋の中に戻した。
「ありがとう。鍵、開けちゃうね」
両手が自由になったところで、ちょうどバッグの中から鍵を見つけ出したリサは、カフェのドアを開けた。そのままジークと一緒に店内へ入る。
シンと静かな店内は、外よりも幾分か暖かかったが、それでも十分に寒い。また、日差しが弱い今の季節は、日中でも明かりが欠かせなかった。
リサは照明の役目をする魔術具と、暖房の役目をする魔術具を起動させる。ジークは紙袋を持って厨房へと入っていった。
その時、入り口のドアが再び開いた。
「おはようございます!」
「おはよう、アランくん」
元気のいい挨拶と共に入ってきたのは、天然パーマがかかった鶯色の髪が特徴的な青年だ。
彼――アラン・トレイルは、リサやジークと同じく料理人としてカフェで働いている。
元は王宮の厨房で料理人見習いをしていたが、ジークに調理指導してもらったことがきっかけで、カフェの従業員になったのだ。
首に巻いていたマフラーを解くアランの後ろで、またしてもドアが開いた。
そして、今度は二人の女性が入ってくる。
「おはようございます」
「おはようございます、リサさん、アランくん」
先に入ってきた女性は、オリヴィア・シャーレイン。
ミルクティー色の長い髪と、豊かな胸。たれ目の下の泣きぼくろが色っぽい彼女は、一人息子を持つシングルマザーだった。
カフェのメンバーの中では最年長で、おっとりとした見た目に反して、頼れるお姉さん的存在である。
そんな彼女の後から入ってきたのは、ヘレナ・チェスター。こちらはオレンジ色のショートヘアが特徴的だ。
リサ、ジークに続く古株のメンバーで、オリヴィアと共に接客を担当している。
実家は老舗のパン屋であるチェスターパン店だ。カフェ・おむすびはそこからパンを仕入れているため、店主であるヘレナの父とも何かと関わりがあった。
カフェのメンバーが全員出勤したところで、開店準備が始まる。
二階にある更衣室でそれぞれ制服に着替えると、厨房とホールに分かれてテキパキと準備を進めていった。
開店は二時間後だ。
限られた時間を有効に使うべく、各々が要領よく仕事をこなしていく。
やがて厨房からは、スープやパスタソースのおいしそうな匂いが漂い始めた。
掃除がしやすいようテーブルの上にひっくり返されていた椅子が、正しい位置にセットされる。ホールにはコーヒー豆を焙煎する香ばしい匂いが充満していた。
店の外まで漏れ出すその香りに、通りすがりの人たちが一人、また一人と引き寄せられる。
今はがらんとしている店内がお客さんで埋まるのは、もうすぐだった。
今日のリサは、傍目にもわかるほど上機嫌だった。つい先日、恋人のジークからプロポーズされ、晴れて婚約したばかりなのである。
営業用とは明らかに違う笑みを浮かべる彼女は、鼻歌でも歌い出しそうだ。
そんな彼女のことを半ば呆れた目で見つめているのは、カフェの隣にあるサイラス魔術具店の看板娘・アンジェリカだった。
休憩を兼ねて午後のお茶をしに来たアンジェリカにとって、リサのこうした姿は既に見慣れたものとなっている。
何しろ、リサはジークにプロポーズされた日から、ずっとこの調子なのだ。
初めは純粋に祝福していたアンジェリカだが、周囲に花を飛ばしているようなリサを数日間も見続けていれば、いい加減うんざりしてしまう。
リサより五つ年下のアンジェリカにも、付き合っている相手がいる。まだ結婚を焦ってはいないとはいえ、それでもリサに対して羨ましい気持ちはあるし、先を越された悔しさもちょっぴりあった。
時折リサが制服のシャツの上から、鎖骨のあたりを無意識に指で撫でる。その様子を見ているうちに、アンジェリカはますます複雑な心境になった。
なぜなら、アンジェリカは知っているのだ。リサの首からは、チェーンに通した婚約指輪が下げられているということを。
なんでも飲食店の従業員が指輪をするのは衛生上あまりよろしくないため、仕事中は首から下げることにしたらしい。
ダイエットのため砂糖を入れなかったはずのお茶が、なぜだか甘く感じられてきた。こんな日くらいはお菓子を食べてもいいだろうと思いながら、アンジェリカはカップを置いた。
「ねえ、リサー」
「なあに?」
リサは、浮かれていても仕事は決しておろそかにせず、むしろやる気にあふれているらしい。カウンターの中で作業しながら返事をする。
「そこにある、リルのパイ頂戴!」
アンジェリカが大声で注文すると、リサは顔を上げ、少し驚いた様子を見せた。
「あれ? 今日はおやつの日じゃないよね?」
アンジェリカはおやつを食べていい日を週二回だけと決めている。
というのも、以前カフェ・おむすびのお菓子を毎日食べていたことが原因で、太ってしまったからだ。
「そうだけど、今日はいいことにする! その代わり明日は我慢するから!」
アンジェリカの言い訳を聞いてクスクス笑いながら、リサはトングを手にした。そして、カウンターの上のケーキクーラーからリルのパイを一つ取り、お皿にのせる。
そもそも、まるで食べてくれと言わんばかりに、カウンターの上に置かれているのが悪いのだ。アンジェリカは心の中で、さらに自分に言い訳する。
焼き立てホカホカのパイは、手のひら大で四角い形をしている。
通常、カフェのパイは、カスタードを敷いたホール状のパイ生地にスライスしたリルの実を並べて焼き上げたものを、三角形にカットしている。だが、目の前にあるパイはそれとは違い、一つずつ個別にパイ生地で包み、焼き上げたものだった。
上部には切り込みが入っており、とろりと煮込まれたリルの実が顔を覗かせている。
加熱しつつも生の部分を少し残してあるので、果物のジューシーさも味わうことが出来るのだ。これはリルの実の旬である今の時季にしか食べられない。
しかも出来立てアツアツを食べられる機会はめったにないので、アンジェリカは明日のおやつの日を前借りする形で、リルのパイを思いきり頬張る。
その瞬間、リサに恨めしそうな視線を送っていたアンジェリカの表情は、へにゃりと崩れた。
第二章 ある人から招待を受けました。
幸せそうなアンジェリカを見て笑いながら、リサはリルのパイの横に別のケーキクーラーを置き、出来上がったばかりのスイートポテトを並べていく。
秋に行ったモンブランフェアは、栗に似た木の実であるブブロンの旬と共に終了した。それと入れ替えるようにして、カフェでは温かいスイーツのフェアを始めたのだ。
アンジェリカが今食べているリルのパイも、そのラインナップの一つ。リルはりんごによく似た果物なので、リサが元いた世界で食べられているアップルパイとほぼ同じものだった。
そして今カウンターに並べているスイートポテトは、サツマイモによく似たナナット芋で作ったクリームを、小さな舟形のタルト生地に入れて焼き上げてある。
ねっとりとしたナナット芋と生クリームが見事に合わさり、ほどよい甘さと滑らかな食感を生み出している。それがサクサクしたタルト生地と絶妙にマッチしていた。
また、オーダーが入ってから焼くパンプディングも絶品だ。
カットしたパンにたっぷりと卵液を染み込ませ、オーブンで軽く焦げ目がつくまで焼く。お好みで花蜜かリルの実のコンポートをかけて食べるのだ。
それと、スイーツではないが、ミートパイも用意してある。
パイ生地の中に、ひき肉と細かく切った野菜、そしてキノコをトマトに似たマローで煮込んだものがぎっしりと詰まっていて、食べごたえも抜群だ。
軽食として十分なボリュームがあるため、遅いお昼ご飯を食べに来たお客さんには、スープと一緒に出している。
これらのメニューが、お昼のランチセットとは別に、メニューに名を連ねていた。
アンジェリカがリルのパイを平らげたところで、新たな来客があった。
「いらっしゃいませ」
入り口の近くにいたヘレナが、ドアの開く音に気付いて声をかける。
店内に入ってきたのは二人の男性だった。
そのうちの一人は、リサもよく知る人物だ。
「久しぶり! リサちゃん」
「アレクさん!」
彼が来店するのは珍しいので、リサは目を大きく見開いた。
アレクシス・アシュリー。リサの養母アナスタシアの兄で、フェリフォミアで一、二を争う大商会、アシュリー商会の代表である。
カフェ・おむすびでも学院の料理科でも、備品や食材はアシュリー商会から仕入れているので、リサは普段から大変お世話になっていた。
「それじゃあ、私はそろそろ戻るわね」
そう言って、アンジェリカが席を立つ。
今、席はアンジェリカの隣の一つしか空いていないので、気を使って自分の席を空けてくれたのだろう。
リサは「ありがとう」という気持ちを込めて目配せする。するとアンジェリカは「気にしないで」とでもいうようにウィンクを返してくれた。
アンジェリカの使った食器を素早く片付けると、リサはアレクシスたちをカウンター席へと誘導した。
「こちらへどうぞ」
「忙しい時間帯に来ちゃって悪いね」
身内でもあるので口調こそ気安いものの、実に申し訳なさそうに言いながら、アレクシスは椅子に座った。
もう一人の男性も、その隣の椅子に腰かける。
ユージーンという名の彼は、アレクシスの秘書的な役割をしている。本来は秘書ではなく家令なのだが、家の中の仕事だけではなく、商会での仕事も手伝っているらしい。
多忙を極めるアレクシスは、スケジュール管理や会計処理を、すべてユージーンに任せているのだった。
「それで、アレクさん。今日はどうなさったんですか? あ、もちろんお客様として来ていただくだけでも、私としては大歓迎ですけど」
なんの前触れもなく突然やってきたアレクシスに、リサは不思議に思って尋ねた。すると、アレクシスは苦笑を浮かべる。
「この近くを視察がてら歩いていたから寄ったんだ。あと、リサちゃんにちょっと話したいこともあったからね」
「私にお話ですか?」
思い当たる節がなく、リサは首を傾げた。
「そう。だけど、その前に何か食べさせてもらってもいいかい? お昼を食べる時間がなくて、お腹空いてるんだよね」
そのアレクシスの言葉にリサはハッとし、慌ててメニューを差し出した。
「わっ! すみません、そうですよね! 軽食でしたらサンドイッチか、温かいミートパイがおすすめです。ミートパイはお茶だけでなく、スープともセットにも出来ますよ」
リサがメニューを指さしながら言うと、アレクシスは頷く。
「じゃあ、僕はミートパイをスープとセットにしてもらおうかな。ユージーン、君は?」
アレクシスはさっさと注文を決めて、隣のユージーンに聞いた。
「では、私はこの季節限定のリルのパイと、スイートポテトを。お茶とセットでお願いします」
しれっとした冷静な表情をしながらも、目だけはキラキラと輝かせて、ユージーンは言った。
それを微笑ましく思いつつ、リサは伝票に注文内容を書いていく。
一方、アレクシスは「うわー……」と言わんばかりに顔を顰めていた。
実はユージーンは、かなりの甘党なのだ。
以前、リサはアシュリー商会からの依頼で、贈答用のお菓子をいくつか試作したことがある。その際、誰よりも率先して試食していたのが彼だった。
それまでは、そんなそぶりなど少しも見せなかったので、リサはものすごく驚いたのを覚えている。
ちょうど手が空いていたオリヴィアと一緒に、注文の品を準備していく。
本来リサは厨房を担当しているのだが、アレクシスから話があると言われたので、このまま接客を続けることにした。オリヴィアに事情を話し、他のメンバーにもそう伝えてもらうようにお願いする。
それほど時間がかからず、注文の品が揃った。
「お待たせしました。ミートパイとスープのセットに、リルのパイとスイートポテトとお茶のセットです」
リサはそう言って、二人の前にそれぞれが注文した品を並べる。
「以上でお揃いですよね?」
念のため確認したリサに、アレクシスはニッコリと微笑んだ。
「ああ、ありがとう。いただくよ」
二人はカトラリーを手に取り、さっそく食べ始める。
それを眺めながら、アレクシスの用事とは一体なんなのだろうとリサは考えていた。
気になるものの、食べ始めたばかりのアレクシスに聞くのは気が引ける。だから、まずは視察の話題を振ってみた。
「先程視察とおっしゃってましたけど、どういうことをなさってるんですか?」
「定期的に、王都中の店を見て回っているんだよ。商売柄、流行や市場の流れに敏感でいなければならないんだ。もちろん部下や取引先から報告はもらっているけれど、自分で町に出て実際に見聞きすることも重要だからね」
「へぇ、代表自ら市場調査なさってるんですねぇ」
カウンター内で出来る作業をしながら、リサはアレクシスとそんな会話を続ける。
やがてアレクシスがミートパイとスープを食べ終え、ユージーンもスイーツ二つをペロリと完食した。
リサはアレクシスに食後のお茶を出し、ユージーンのカップにもおかわりを注ぐ。すると、いよいよアレクシスが本題に入った。
「さっき、リサちゃんに話があるって言ったよね?」
「はい。もしよろしければ、二階でお話を聞くこともできますけど……」
リサの提案に対し、アレクシスは首を横に振った。
「いや、やっぱり日を改めて、きちんと話をしたい。近々アシュリー商会に来てもらえるかな?」
アレクシスの言葉を聞いたリサは、「そこまで重大な話なのか」と少し身構える。
そんなリサの様子から内心を察したらしく、アレクシスは彼女を安心させるように微笑んだ。
「決して悪い話ではないし、ただの相談事みたいなものだから、あんまり身構えなくても大丈夫だよ」
「……そうなんですか?」
「うん。ただ、出来ればちゃんと時間を取って話した方がいいことだからね」
アレクシスにこのようなことを言われたのは初めてだ。リサは戸惑いつつも頷いた。
「わかりました。いつ伺えばいいですか?」
そのリサの言葉に動いたのは、ユージーンだった。
彼は懐から手帳を取り出し、パラパラとめくりながら口を開く。
「代表のご予定でしたら、一番早くて明日の午後が空いています。それより後となると明後日の午前か、もしくは五日後の午後ですね」
「リサちゃんの都合はどうだい?」
そう言って、アレクシスがリサの顔を窺った。
リサは自分の予定表を頭に浮かべて答える。
「明日の午後なら大丈夫です。料理科の授業も午前だけなので」
それを聞いたユージーンが、今度は筆記用具とカードのようなものを取り出し、何やら書き始めた。
よく見ると、カードには既に文章が書かれており、日時を記入するところだけが空欄になっている。そのカードに明日の日付と時間を書くと、ユージーンはそれをアレクシスに手渡した。
アレクシスはカードを確認してから、リサの方へ差し出す。
「これ、念のために渡しておくね。略式ではあるけれど招待状だよ。商会の受付でこれを見せればすぐに案内してもらえるように、手配しておくから」
なんと、このカードは略式の招待状らしい。
これまでも王宮から呼び出しを受けた際などに、招待状を目にしたことはある。それらはもっと仰々しい感じだったので、確かにこれは略式だな、とリサはカードを見ながら思った。
「あ、そうだ。もし都合がつくなら、ジークくんも一緒に来てもらった方がいいかもしれない。リサちゃん一人でも大丈夫だと思うから、あくまで都合がつけばだけど……」
「では、彼にも話してみますね」
どんな話であるにせよ、ジークがいてくれた方が、リサとしても心強い。
リサの返事を聞いたアレクシスとユージーンは、カップに残っていたお茶を飲み干し、椅子から立ち上がる。
「じゃあ、そろそろお暇するよ。明日、待ってるね」
そう言って飲食代金を支払うと、二人はカフェを出ていった。
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