異世界でカフェを開店しました。

甘沢林檎

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6巻

6-1

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 プロローグ


 フェリフォミア王国では例年にないほど暑い夏が、ようやく終わった。青々と茂っていた木々もだんだん秋の色合いに変わろうとしている。
 さわやかな風に揺れる街道沿いの木々を眺めながら、一人の若い女性が馬車に揺られていた。
 彼女が乗っているのは、街から街へ長距離を移動する乗合のりあい馬車だ。
 八人乗りの馬車には、彼女の他に幼い少女とその母親、そして一組の老夫婦が乗車しており、壮年の御者ぎょしゃが二頭の馬を巧みに操っていた。
 先程までおしゃべりしていた少女が眠りに落ちてからは、車内は穏やかな静寂に包まれ、馬のひづめの音と車輪が回る音だけが聞こえている。

「皆さん、もうすぐ到着ですよ」

 御者が眠っている少女を気遣い、声を抑えながら言った。
 その声にうながされるように、女性は前方を見る。
 すると、小高い丘の上にそびえ立つ王城が見えた。街道を行く馬車や人の数も増え、いよいよ街が近づいているという実感が湧いてくる。
 馬車が徐々に速度を落とし、やがて停車した。
 そこは王都の入り口にある停留所で、乗合馬車や貨物用の大型馬車が多く停まっていた。

「王都に到着しました。忘れ物にお気を付けて」

 一足先に馬車から降りた御者が、客室のドアを開けて声をかけてきた。
 ドアの近くに座っていた老夫婦がゆっくりと降りていくと、御者が彼らの荷物を下ろす手助けをする。
 馬車が停まったことで自然と目が覚めたのか、少女が眠たそうに目をこすりながら周囲をキョロキョロと見回す。
 その様子を、女性は微笑ましく見ていた。
 道中で仲良くなった少女との別れは惜しい。だが、彼ら母娘おやこにも、そして自分にも、向かうべき場所がある。
 またね、というように少女に手を振ると、女性は大きなトランクを軽々と持ち上げ、馬車を降りた。
 狭い客室から外へ出た解放感に、大きく伸びをする。そしてトランクを持ち直し、彼女は歩き出した。

「……帰ってきた」

 数年ぶりに見る街並みは懐かしく、自然とつぶやきが漏れる。かつて苦楽を共にした仲間たちの顔が次々と思い浮かぶ。
 彼らと会うのを楽しみにしながら、彼女は軽やかな足取りで王都の雑踏ざっとうの中へと歩き出した。



 第一章 謎の美女が来店しました。


「ヘレナちゃん、温かいカフェオレ頂戴ちょうだい!」

 店に入ってきた常連の男性客が、カウンターの中で作業をしている女性店員に言った。
 オレンジ色のショートヘアが似合う女性店員――ヘレナは、突然の注文にも慌てることなく、男性客に笑顔を向ける。

「かしこまりました」

 ここはフェリフォミア王国の王都に店を構える、カフェ・おむすび。
 小さな店でありながら、見たこともないおいしい料理が食べられると評判である。
 今日もランチタイムを過ぎているにもかかわらず、ほぼ満席だった。
 ヘレナは店内の様子に気を配りつつ、カウンター内に設置してある簡易コンロで、水とミルクをそれぞれ加熱していく。
 その間に、コーヒー豆の準備を始めた。
 あらかじめ焙煎ばいせんしてあるコーヒー豆を計量スプーンですくい、手挽てびきのコーヒーミルに入れていく。
 するとカウンターに座っている先程の男性客が、何やらそわそわし始めた。
 そんな彼の様子をクスリと笑い、ヘレナはコーヒーミルを差し出す。

「どうぞ。ゆっくりお願いしますね」
「了解!」

 男性客は子供のように嬉しそうな顔で返事をした。彼がコーヒーミルのハンドルを回したがるのは、いつものことだ。
 コーヒーミルを受け取った男性客は、さっそく上部のハンドルを回し始めた。ゴリゴリという鈍い音と共に、香ばしいコーヒーの香りが広がっていく。
 やがてハンドルを回しても音が鳴らなくなったところで、ヘレナは男性客からコーヒーミルを返してもらった。
 そして、下部についている引き出しから粉砕ふんさいされたコーヒー豆を取り出し、用意していたドリップ用のネルフィルターに入れる。
 そこへ万遍まんべんなくお湯をかけて蒸らしてから、再びお湯を注ぐ。カフェオレには濃い目のコーヒーが合うので、ゆっくり時間をかけてドリップしていく。
 ドリップしたコーヒーをカップに移し、温めておいたミルクを注げば完成だ。

「お待たせしました、カフェオレです」

 ヘレナがカフェオレの入ったカップを男性客の前に置いた。

「ありがとう。いや~、いつ見ても手際がいいね」

 あっという間にカフェオレを作り終えたヘレナに、男性客は感心した顔で言う。
 そんな彼に微笑むと、ヘレナは別の仕事に取り掛かった。
 その頃、もう一人の女性店員がカウンターのはしで仕事をしていた。テイクアウト用の小窓越しに、外にいる女性客とやり取りをしている。

「えーっと、メイチのタルトとチーズケーキ、あとプリンを二つで!」

 小窓の下には店の外からも見えるガラスのショーケースがあり、女性客はそこに並べられたケーキを指さしながら注文していた。

「かしこまりました」

 ミルクティー色の髪をした女性店員――オリヴィアは、おっとりした笑みを浮かべた。そして、注文されたケーキをショーケースから丁寧に取り出していく。
 それを紙製の箱に詰め終えると、女性客に中身を見せた。

「こちらでお間違いないですか?」
「はい!」

 きちんと並べられたケーキを見て、女性客は嬉しそうにうなずいた。
 オリヴィアは彼女から代金を受け取り、きちんとふたをした箱を渡す。

「ありがとうございました」

 ケーキの入った箱を大事そうに抱えて、女性客は帰っていった。
 その時、出来上がった料理を手に、厨房ちゅうぼうからもう一人の女性店員が出てくる。
 長い黒髪を一つに結った女性店員は、パンケーキがのったお皿を持って、注文伝票に書かれた番号の席に向かった。

「お待たせいたしました、パンケーキでございます」

 彼女がテーブルにお皿を置くと、二人組の若い女性客は、パッと表情を明るくした。

「わぁ!」
「おいしそう!!」

 お皿にのっているのは、見るからにふわふわなパンケーキ。色とりどりのフルーツや、ホイップクリームがトッピングされている。
 小さい容器に入ったジャムとシロップも添えられており、お好みで味を変えられるようになっていた。
 二人はボリュームたっぷりのパンケーキをシェアするつもりらしく、既にテーブルには取り皿と二人分のカトラリーが準備されていた。
 女性店員はテーブルの上に目を走らせ、足りないものがないか確認する。

「ごゆっくりお召し上がりください」

 そう言って、彼女はきびすを返した。

「ねぇねぇ。今の人が、このお店の店長さんだよね?」
「そうみたいだよ! 話には聞いてたけど、若いんだね~」

 他のテーブルから空いたお皿を回収している女性店員を見て、二人の女性客はひそひそと話す。
 彼女たちが言う通り、黒髪の女性店員は、このカフェ・おむすびの店長だ。
 リサ・クロカワ・クロードという珍しい名前の彼女は、この世界とは別の世界からやってきた。現在はカフェ・おむすびを経営するかたわら、フェリフォミア国立総合魔術学院の料理科で主任講師を務めている。
 リサは空いたお皿を両手に持って、カウンターの中に入った。

「リサさん、すみません」

 コーヒーをれながら申し訳なさそうに言ったヘレナに、リサは笑顔を向ける。

「ううん、厨房ちゅうぼうの方は落ち着いてるから問題ないよ~」

 すると、ヘレナはほっとした様子を見せた。

「このコーヒーをお客さんに出したら、他にオーダーは入っていないので、もうホールの方は大丈夫です」
「そう? じゃあ私は厨房に戻るね」

 リサはそう言って、カウンターの奥にある厨房へ向かった。
 その時、カランカランとドアベルの音が鳴り、入り口のドアが開く。

「いらっしゃいませ」

 リサは足を止め、手に持っていたお皿をひとまずカウンターの中に置いた。そして、入店してきた客を誘導しようと入り口へ向かう。
 やってきたのは、一人の女性だった。
 女性にしてはかなり背が高く、スラリとしていて、濃い紫色の髪を一つに結い上げている。
 元の世界にいたファッションモデルのような女性に、リサは目を奪われた。
 その女性は店内をキョロキョロと見回していたが、じっと見つめるリサの視線に気付いたのか、こちらに顔を向ける。
 リサは目が合ったことにドキッとしつつも、笑みを浮かべて言った。

「お一人様ですか?」

 女性は店内を見回していたので、誰かと待ち合わせしているのかもしれないが、リサは念のため人数を確認する。

「あー……待ち合わせ、ではないんですけど……」

 女性は困った顔をして、歯切れ悪く答えた。
 待ち合わせではないが、人を探している。そう言いたげな女性に、リサはどうしたものかと思いつつも、ひとまず席へ案内することにした。

「ではカウンター席に……」
「あの、ここでジーク・ブラウンっていう人が働いていると思うんですが」

 リサの言葉にかぶせるように、女性は言った。
 ジークは、調理を担当しているカフェ・おむすびの従業員だ。そして、リサと同じく学院の料理科で講師も務めている。
 今日は授業があるため、カフェには出勤していない。

「申し訳ありません。生憎あいにく今日は出勤していないのですが……」

 リサはそう答えながら、少し不安になる。
 ジークはシルバーブロンドに青い瞳の青年で、整った顔立ちをしている。その上、元騎士団員ということもあり、体格もいい。
 感情を顔に出すのが苦手らしくいつも無表情なのだが、それにもかかわらず、女性にすごくモテるのだ。
 カフェにもジーク目当ての女性客がいるし、中にはどうにかジークにアプローチしようと、あの手この手で迫る肉食女子もいたりする。
 カフェの店長としてだけではなく、リサ個人としても、そういう女性客には困っていた。
 なぜなら、リサはジークと付き合っているのだ。
 だが相手はお客さんということもあり、表情には出さないように気を付けながら、リサは女性の言葉を待った。

「そうですか。でも、ここで働いているというのは間違いないんですね」

 彼女は少し残念そうにしていたが、納得した様子でうなずく。

「すみませんが、出直します。……あ、ご迷惑でなければ、ジークに『ヴィルナが戻ってきた』と伝えていただけますか?」
「えっ? はい……」

 思わぬ言葉に戸惑いつつも、リサは了承した。
 女性は、サッときびすを返してカフェを出て行く。ジークにどんな用があるのかと、聞く暇もなかった。
 颯爽さっそうと立ち去ってしまった彼女の後ろ姿を、リサは呆然として見送ったのだった。


 どうやら、あの女性はヴィルナという名前らしい。そして、ジークのことをファーストネームで呼ぶほど親しい関係のようだ。
 もやもやした気持ちを抱えつつ、リサは閉店作業をしていた。

「リサさん、お先っす!」

 今日の売り上げを帳簿に書き込んでいたリサは、その声に顔を上げる。
 そこには、カフェの調理担当である、アラン・トレイルが立っていた。
 うぐいす色の天然パーマが特徴的な彼は、いつもニコニコしている。元は王宮の料理人見習いだったが、自ら希望してカフェ・おむすびに転職したのだ。
 最初はかなり苦労していたものの、今ではすっかり一人前に成長したアラン。リサも安心して彼に厨房ちゅうぼうを任せている。

「アランくん、お疲れ様」
「はい。リサさんも、あまり遅くならないうちに帰ってくださいね」

 そう言って、アランは厨房を出て行った。
 その背を見送ると、リサは再び帳簿に目を落とす。
 やがて記入を終えたリサは帳簿を閉じ、固まった体をほぐすように大きく伸びをした。
「ん~」という気の抜けた声が、自然と口から漏れる。

「……お疲れ様、リサ」

 そんな言葉と共に、クスクスという笑い声が聞こえて、リサはパッと後ろを振り向いた。
 シンプルなシャツを着た銀髪の青年が、微笑みながらリサを見ている。

「ちょっ! ジークってば、いつからいたの!?」

 リサは恥ずかしさに頬を染め、思わず大声を上げた。
 彼こそがジーク・ブラウン。リサにとっては公私共にパートナーと言える男性だ。

「今来たばかりだよ。店の前を通りかかったら、厨房に明かりがいてるのが見えたから、誰か残っているのかと思って立ち寄ったんだ」

 どうやら、学院から帰る途中のようだ。

「だったら、入ってくる時に声をかけてよ! びっくりした~」
「集中してたみたいだから、邪魔しちゃ悪いと思ってさ」

 そう言ってジークはリサに近づき、調理台の上を覗き見る。

「帳簿をつけてたのか?」
「そう。出来る時にやっておかないと、と思ってね」

 リサはカフェ・おむすびだけではなく、料理科の責任者でもある。そのため、毎日カフェと料理科を行き来する生活を送っていた。
 自分がいない間はジークやヘレナに店を任せているものの、リサでなければ出来ないこともある。帳簿に関してもそうだ。つけるのは誰でも出来るが、最終的な数字の確認をしたり、毎月の売り上げをまとめたりするのは、リサにしか出来ない重要な仕事であった。
 リサの言葉を聞きながら、ジークは帳簿に手を伸ばす。そして座っているリサの後ろから調理台に左手をつき、右手で帳簿をパラパラとめくり始めた。どうやら自分が店に出なかった日の売り上げを確認しているようだ。
 気付けば、リサはジークの腕の中にすっぽりと囲われていた。
 近すぎる距離にドキリとしつつも、その状態のままジークからの質問に答える。
 そして今日の売り上げの話になった時、リサはハッと思い出した。

「そういえば、今日ジークを訪ねてきた人がいたよ」
「俺を?」

 特に思い当たる人物がいなかったのか、ジークは首を傾げた。

「ヴィルナっていう、背の高い女の人……『ヴィルナが戻ってきた』って伝えてほしいって言ってたけど、知り合いなの?」

 リサは腕の中に囲われたまま、ジークを見上げる。彼の顔が逆さまになって見えた。

「ヴィルナ……ああ、あいつか! 知り合いだ」

 ジークは懐かしそうに目を細めると、「そうか、戻ってきたのか……」とつぶやく。
 彼女がただのジークファンではないとわかったものの、ジークの嬉しそうな顔を見て、リサの胸にあのもやもやした気持ちが湧き上がる。
 せっかくドキドキするシチュエーションなのに、なんだか台無しになってしまった気がして、リサはジークの腕からさっと抜け出した。

「もう遅いから、そろそろ帰らなきゃ」

 リサが突然立ち上がったことに驚いた顔をしながらも、ジークは「そうだな」と返す。

「家まで送る」
「……ありがとう」

 ジークの言葉にどうにか笑顔で返してから、リサは帰り支度を始めるのだった。



 第二章 関係が気になります!


「あの人と、どういう関係なんだろう……」

 リサは自室のベッドに寝転び、天井を見上げてため息をいた。
 あの後、ジークに自宅まで送ってもらったが、ヴィルナとどういう関係なのかは結局聞けず仕舞いだった。
 ジークは女友達を作るタイプではない。
 リサの知る限り、ヘレナとオリヴィア、それとカフェの隣に立つサイラス魔術具店のアンジェリカぐらいしか、親しくしている女性はいないはずだ。
 けれど、ヴィルナという名前を聞いて、ジークはとても嬉しそうにしていた。
 怪しさは一切感じなかったものの、リサとしては複雑な気持ちになってしまう。

「マスター? どうしたんですか?」

 天井を見上げるリサの視界に、小さな人影が入り込んできた。
 緑の服を着た、体長二十センチほどの女の子。
 リサと契約している精霊のバジルだ。
 バジルは植物をつかさどる精霊で、リサをマスターと呼び、普段は彼女の肩にのったり近くを飛んでいたりする。
 純粋な目でこちらを見つめるバジルに、リサは微笑みかけた。

「ちょっと、ヴィルナさんっていう人が気になっててね……」
「昼間、カフェに来た人ですね!」
「そう。ジークを訪ねてきたみたいなんだけど……」

 呼び捨てにしているということは、かなり親しい間柄あいだがらなのだろう。
 それならそれで構わないけれど、ジークからどういう関係なのかを説明してくれてもよさそうなものだ。だが、彼からそういう話は一切なかった。
 そのことが、余計にリサの頭を悩ませている。

「背が高くて、スラッとしてて、りんとした美人だったなぁ……」

 濃い紫色の髪を高い位置で結び、瞳は深い緑色。
 日本人らしく凹凸おうとつの少ない顔をしているリサとは違い、スッと鼻筋が通った彫りの深い顔立ちだった。
 民族的な違いなのだから仕方ないとは思いつつも、リサは劣等感を覚えてしまう。
 思考がどんどんネガティブな方へ傾いていくのに気付き、リサはぶんぶんと頭を振った。

「考えても仕方ない! もう寝よう!!」

 考えるのをやめたリサは、布団をバサッとかぶって丸くなる。
 そんなリサの様子を、バジルは不思議そうに見つめていた。


 ――翌日。
 この日もカフェの営業日だったが、リサは午後から料理科の授業があるため、途中で抜けることになっていた。
 開店準備をした後、ランチタイムの最初のオーダー分だけを手伝うと、リサは料理科へ行く準備を始める。

「じゃあ、後はよろしくね」

 厨房ちゅうぼうで忙しく働いているジークとアランに声をかけると、二人からこころよい返事がきた。
 それに安堵したリサが厨房を出ようとしたところで、オリヴィアがやってくる。

「あの、ジークくんに、お客さんが来てるんだけど……」
「俺に客ですか?」

 首を傾げたジークに、オリヴィアは答える。

「ヴィルナっていう女の人で……」
「ああ! ……アラン、悪いけど少し外してもいいか?」

 ジークは納得した様子で大きくうなずき、アランに声をかけた。

「いいっすよ!」

 アランは元気よく答えた。
 今店内にいる客のオーダー分は、すべて作り終えている。新たな客が来てオーダーを受けるまでは、多少の時間があるだろう。
 ジークは厨房ちゅうぼうをアランに任せ、ホールの方へ向かった。
 そんなジークの行動を黙って見ていたリサだが、内心気になって仕方がない。
 料理科に行かなければと思いつつ、こっそりホールを覗いた。
 多くの客でにぎわう中、ジークはカウンターのはしでヴィルナと話していた。
 内容までは聞こえないが、親しげに会話をしている二人の姿に、リサは戸惑いを隠せない。あまり口数の多くないジークが、珍しく積極的に話しているのがわかったからだ。
 リサの胸に、ちくりと小さなとげが刺さったような気がした。
 自分が嫉妬しっとしているということに、リサはすぐに気が付く。昨日から続くもやもやも、嫉妬からくるものなのだろう。

「リサさん、時間大丈夫ですか?」

 厨房とホールの間にいたリサに、ヘレナが声をかけてきた。
 その声にハッとして、リサは時計を見る。料理科の授業時間が迫っていた。

「ああ、行かないと。あとのこと、よろしくね」
「はい。いってらっしゃい」

 ジークとヴィルナの様子は気になるけれど、料理科に向かわなければならない。
 今も楽しそうに会話をしている二人を横目に、リサはカフェ・おむすびを後にした。


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