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3巻
3-3
しおりを挟む翌日、リサは一番早くカフェに出勤した。そして厨房で朝の準備を済ませた後、さっそく豆腐作りに取り掛かる。
鍋を三つ用意し、それぞれに同じ分量の豆乳を入れて火にかけた。にがりの量が違うものを二種類と、グリッツを使ったものの、計三種類を作ろうと思ったからだ。
豆乳を大体七十度から八十度くらいまで熱したら火を止め、それぞれの鍋ににがりとグリッツを加えていく。
グリッツを入れたものは、かき混ぜたらすぐ陶製の器に移し替え、冷蔵庫で冷やすだけなので、非常に簡単だ。
にがりを入れたものは、もう少し手間がかかる。
ゆっくりかき混ぜていると、徐々に塊が出来始める。ある程度ダマになってきたら、そのままの状態で少し置いておく。
十分から二十分くらい経つと、鍋の中身が白い固体と黄色味がかった液体に分離する。そうしたら、布を敷いたザルに固体を取り出すのだ。布を袋のようにして取り出したものを包み、口を絞ったら、上に重石を乗せて水気を切っていく。
これで作業は、ほぼ終了だ。
リサが達成感を覚えながら、ふぅと一息ついたところで、ヘレナが出勤してきた。
「おはようございます! どうしたんですか? こんなに早くから」
いつも一番早く出勤するヘレナは、リサを見て驚いている。
リサとジークは料理科の授業で不在のときも多いので、ヘレナが毎朝、店の鍵を開ける役目を担っているのだ。
「おはよう。ヘレナこそ早いね。私はちょっと、ダイエットメニューに使う食材の試作をね」
「もしかして、今日の賄いで試食できたりするんですか?」
「そのつもり」
「わぁ! やった~」
ヘレナは、ぱあっと顔を明るくして、機嫌よく厨房を出ていった。その姿に笑みを誘われながら、リサは片付けを始める。
使った鍋などを全て洗い終えたときには、豆腐の水切りもいい頃合いだった。
布の合わせ目を開くと、真っ白な豆腐がプルンと顔を出した。元の世界でよく目にしていたのと同じ姿だったので、リサは小声で「おおっ!」と感嘆する。
そして、冷たい水を張ったボウルの中にそれを入れた。このまま三十分くらい水に浸ければ、いよいよ完成だ。
そこでジークとアランが、揃って厨房にやってきた。
「リサさん、おはようございます」
「おっはよ~ございま~す!」
いつもと変わらず冷静沈着なジークと、これまたいつもと同じニコニコ顔のアラン。まるで主人に付き従うワンコのように、ジークの後ろについて歩くアランを見て、リサは微笑む。
そのアランは流し台に置かれているボウルを、興味深げに覗き込んだ。
「リサさん、それ何ですか?」
「アラン、先に手を洗え!」
「あ、はい!」
爪ブラシを使い、シャコシャコと音を立てて手を洗っていたジークに注意され、アランは慌ててそちらへ向かった。彼と入れ替わりに、手を洗い終えたジークがリサのもとへやってくる。
「これが例のものですか?」
「そうだよ。三種類作ったから、今日の賄いとして、みんなで食べ比べしようと思って」
ジークはリサに許可を得てから、ボウルの底に沈む真っ白な豆腐を指でつついた。アランもすぐさまやってきて、ジークと同じように豆腐をつつき始める。
「あ、アランくん、あまり強くつつくと……」
「あ……」
リサが注意しかけたものの、時既に遅く、アランがつついた部分には穴が開いてしまった。
リサとジークは、ジト目でアランを見る。
「す、すいませんっ!」
慌てて頭を下げるアラン。リサは、やれやれとため息を吐いた。お約束のようなことをしでかしたアランに、呆れつつも苦笑する。
「穴が開いたところは、アランくんが食べてよね」
「食べます食べます!」
「ならいいよ。それより、さっさと開店準備する!」
「はいっ」
アランはピシッと背筋を伸ばして返事をすると、その日の献立を貼るボードの方へと駆けていく。
ジークとリサは顔を見合わせ、小さく笑ってから、それぞれの作業に取り掛かった。
「へぇ~。豆腐っていうんですか、これ」
開店準備が終わった後、二階のスタッフルームでは、リサが試作した豆腐が振舞われていた。
ヘレナは豆腐が載った皿を左右に揺らして、まじまじと見つめている。
「左の二つは、にがりっていう液体で固めたもので、右のはグリッツで固めたものだよ。まずはそのままで、その後、醤油やドレッシングをかけて召し上がれ」
リサの説明に、ふむふむと頷くと、他の四人は豆腐を匙で掬って口に入れた。
プリンとも、ゼリーとも、茶碗蒸しとも違う、柔らかくも、こしのある食感。味は淡白ではあるが、ほんのり甘く、豆の風味が口いっぱいに広がる。
リサも、同じように豆腐を味わう。出来上がった時点で味見はしたものの、改めて三種類の豆腐を食べ比べ、それぞれの違いを生かして、どんな料理に利用できるか考えていく。
「リサさん、この二つは、どちらもにがりを使っているんですよね? 食感が違うのはなぜですか?」
ジークの質問に、リサが答える。
「ああ、それは単純に、入ってるにがりの量が違うからだよ。にがりが多い方が固くなるの」
それを聞いて、ジークは頷く。他の三人も「へぇ~」と声を漏らした。
「はいは~い! リサさん」
まるで学校で生徒が質問するときのように、アランが手を挙げた。
「何? アランくん」
「何でわざわざ、にがりっていうのを使うんですか? こっちの豆腐みたいに、グリッツで作ればいいんじゃないですか?」
「いいところに気付いたね! グリッツを使った方が簡単に作れるけど、デメリットもあるんだ。グリッツで作ったゼリーは、熱を加えると溶けるでしょ? この豆腐も同じで、熱すると、溶けて液体に戻ってしまうの。だから、冷やして食べるしかない。その点、にがりで作った豆腐は一度固まると、加熱しても溶けないの。焼いたり、スープの具として使ったり、色々とレシピの幅が広がるんだよ!」
「おお! そんな利点があるんですね!!」
「その分、作るのに手間がかかるけどね」
リサが元いた世界では、豆腐は一パック百円前後でいつでも購入できた。それが自分で作るとなると、足かけ二日もかかる。リサは物を安価で手軽に買うことが出来ることのありがたみを、しみじみと感じた。
そんなとき、ヘレナが口を開く。
「ダイエットメニューに使うって言ってましたけど、実際、豆腐の何がダイエットにいいんですか?」
豆腐の作り方が気になる男性陣に対して、女性陣は豆腐の効果の方が気になるようだ。ヘレナだけでなく、オリヴィアも興味津々な様子でリサを見ている。
「豆腐は体にいい上に、低カロリー……えっと、食べても太りにくいんだ。それに豆で出来てるから、イソフラボンっていう物質が豊富に含まれててね。それが女の子に、すごくいい効果をもたらすの!」
「いい効果って、どんな?」
オリヴィアが、すかさず追及する。
「たとえば、胸が大きくなったり」
「本当ですか!」
ヘレナが、ぐっと前傾姿勢になって食いついた。
「あと、毎月ある女の子の憂鬱な一週間が軽くなったり」
「それは嬉しいわね」
オリヴィアが、そう言って微笑む。
リサは遠回しな言い方をしたが、彼女もヘレナも、すぐにぴんと来たようだ。
ジークも何となくわかったらしい。アランだけが、一人首を傾げた。
「憂鬱な一週間……?」
何のことかさっぱり見当がつかない様子のアランが、リサに聞こうとした瞬間、彼の向かいに座るオリヴィアが、にっこり笑った。
「いいのよ、知らなくて」
うふふと笑いながらも、彼女の目は全く笑っていない。その表情を見て、アランは青ざめ、がくがくと頷いた。これ以上踏み込んではならないと、本能で感じ取ったらしい。
そこでリサは、話を元に戻す。
「あとは、肉の代用品として使えるの。例えば豆腐でハンバーグを作ると、肉で作ったものより、かなりダイエットに効果的だよ!」
「ダイエット中でも、お肉がものすっごく食べたくなるときってあるものね」
オリヴィアが、なるほどといったように頷いた。
「そういうこと!」
豆腐の利便性を知ったメンバーは、「この白くて、あまり味のないものがねぇ……」とでも言いたげに豆腐を見つめている。
そんな皆を見て、リサは苦笑した。
「まぁ、豆腐そのものは、それほど味がするものではないけど、その分、色々なメニューに活用できるのが一番のメリットかな」
試食してみて改善すべき点をいくつか見つけたため、カフェのメニューに取り入れるのはまだ先になるだろうが、豆腐を使ったレシピを考えると胸が躍る。
柔らかな表面に匙を差し入れ、白い塊を掬うと、リサは「あーん」と大口を開けて、それを頬張った。
第四章 ダイエットメニュー始めました。
豆腐の試食会が終わってカフェを開店し、ランチタイムのピークを過ぎた頃。
常連の女性客が唐突に言った。
「リサちゃん、ダイエットメニューを考えてるんですって?」
彼女はカフェと同じく道具街に店を構える、雑貨屋の奥さんだ。カフェ・おむすびは、よく道具街商店婦人会の会合に使われており、それに参加している婦人たちは、普段からカフェを利用してくれていた。
リサは、ちょっと面食らいつつ答える。
「そうですけど……どこからその話を?」
「昨日お隣の店にお邪魔したら、アンジェリカちゃんが言ってたんだよ。それで私もこれを機に、ダイエットしようかな~と思って」
雑貨屋の奥さんが知っているということは、きっと道具街の奥様方はみんな知っているのだろうな、とリサは想像した。彼女たちは商売柄もあってか、おしゃべりが大好きで、情報の伝達スピードも速い。
伝わって困ることではないが、ダイエットメニューはまだ開発中なので、リサは少し戸惑う。雑貨屋の奥さんが、わざわざその話をしにやってきたのだとしたら、よっぽど興味があるのだろう。
そういえば、初めて会ったときの彼女は、ややふっくらしてはいたものの、太ってはいなかった。けれど、今目の前にいる彼女は、だいぶふくよかである。お世辞にも、痩せているとは言えない体型だった。
彼女やアンジェリカだけでなく、クロード家の侍女たちや道具街の奥様方も、皆この数年で、いくらか丸くなった感じがする。
カフェ・おむすびのお菓子が原因なのは、明白だった。
何を、どのくらい食べるかは個人の問題だとしても、こちらの世界にお菓子というものを持ち込んだのはリサだ。だから、自分に責任が全くないとは思えなかった。
これはいよいよ、ダイエット問題に真剣に向き合わねばと感じたリサは、雑貨屋の奥さんとの話が終わると、本腰を入れてダイエットメニューを考え始めた。
「野菜中心だけど、魚と豆腐でタンパク質が摂れて、炭水化物は控えめで……」
栄養が偏らないようにしつつ、彩りとボリューム感を出すのは、なかなか難しい。調理法も油をなるべく使わず、オーブンで焼いたり、茹でたりと、工夫が必要になってくる。
とはいえ、カフェのメニューとして提供する以上、作業効率も考えなくてはならず、それも悩みどころだった。
リサは、どうにか十数種類のレシピを書き出した。次は、価格設定だ。原価に利益を上乗せして、適正な価格を設定する。もし価格が高くなりすぎる場合は、材料から見直さなければならない。正直に言って、リサはこの作業があまり好きではなかった。
レシピを考えたり、新しい料理を作ったりする方が楽しい。けれども、カフェの経営者として、こういった経理面も疎かには出来ない。
開業当時と同じく、リサ一人でやっていたなら、それでも良かったかもしれない。しかし、今は従業員が四人もいる。それぞれに、毎月給料を払わなければならないのだ。締めるところは締めないと、経営は続けられない。
唸りながら頭を悩ませ、リサは紙にペンを走らせるのであった。
――数日後。
数度の試作と改良を経て、いよいよ今日から、カフェでダイエットメニューを提供することとなった。
これまでランチメニューは二種類だったが、今日からは三種類となる。またサラダ類のメニューに、新たに豆腐サラダが追加された。
「さっそく食べに来たよ~」
開店して間もなく、アンジェリカがやってきた。彼女には今日からダイエットメニューを始めると、リサから話してあった。
カウンター席に座った彼女は、正面の黒板に『ダイエットランチ』の文字があるのを目ざとく見つける。そしてリサがお冷を置くや否や、「ダイエットランチで」と注文した。
リサは「はいはい」と笑いながら伝票に注文を書き込み、厨房に伝える。そしてアンジェリカのもとへ戻ると、彼女に一枚の紙を差し出した。
アンジェリカは、きょとんとする。
「なぁに? これ」
「いいから読んでみて」
リサに促され、彼女は渡された紙に目を落とした。
前書きには、『ダイエットメニューは、あくまでもダイエットを無理なく行うための補助的なものです。通常の食事よりも砂糖や油が少ないため太りにくくはありますが、食べたからといって痩せるものではありません』とある。その後に、ダイエットに必要な五箇条が書かれていた。
一、色々な食材を、バランスよく食べましょう
二、朝昼晩、しっかり食べましょう。ただし、夜は少なめに
三、早食いをせず、よく噛んでゆっくり食べましょう
四、間食は、出来るだけ避けましょう
五、毎日少しずつ運動しましょう
アンジェリカはなるほどと頷くと、リサの方を見上げた。
「いいね、これ! わかりやすいし、これくらいなら無理せず出来そうだね!」
「アンジーにダイエットのことを相談されてから、いろんな人にダイエット法を聞いて回ったんだけどね、一番多かったのが、食事を抜く方法だったんだ。でも、結局お腹が空いたら我慢できなくて食べちゃうし、反動でドカ食いして逆に太ったっていう人もいたの。普通に食べながら痩せられる方法があれば、そっちの方がいいじゃない? だから、毎食しっかり食べた上で出来ることを考えて、まとめてみたんだ」
「ここまでしてくれるとは思ってなかったよ~!! ありがとう!!」
この紙は、リサとヘレナ、オリヴィアの三人で相談して作り上げたものだった。「ダイエットメニューと謳ったら、食べるだけで痩せると勘違いする人もいるのでは」というオリヴィアの指摘があったからだ。
どんなに低カロリーの食事でも、たくさん食べたら太る。
食べるだけじゃなく運動もしましょうね~、食べ方にも気を付けましょうね~、というアドバイスを含む注意書きを用意するというのは、ヘレナの案だった。
誤解によるトラブルを防ぎ、またダイエットの指針としての役割を期待して、ダイエットメニューを注文した人には、もれなく配ることにしたのだ。
「でもね、アンジー。一つ重大な問題があって」
「問題って?」
「ダイエットメニューを食べてダイエットに成功した人は、まだいないってこと。何せ、今日から始めるわけだからね」
リサが真剣な表情で言うと、アンジェリカは頷く。
「それはそうだよね」
「だから、ダイエットメニューの効果を証明するために、アンジーには何がなんでもダイエットに成功してもらわなくちゃいけないんだ!」
「うえっ!? 私!?」
リサの言葉を聞いて、アンジェリカは目を丸くした。
「だって、発端はアンジーだもん。ちゃんと綺麗に痩せて、このメニューの広告塔をしてもらわないと!」
「そうよ~。せっかくリサさんが一生懸命考えて作ったんだから!」
と、料理を運んできたヘレナがリサに加勢した。
「はい、これがダイエットメニューよ」
ヘレナが持ってきた木製のトレーには、数種類の料理が並んでいた。どれも一見、普通の料理と変わらないように見える。だが実際は、様々な工夫が凝らされていた。
今日のダイエットランチは、ケールという鮭に似た赤身の魚を使った炊き込みご飯と、ザラナという葉物野菜と豆腐のスープ、豆乳とキノコのグラタンに、野菜のマリネだ。デザートとして、果物のゼリーまでついている。
品目は多いが、それぞれの量は抑えてある。色々な品目を食べることで、物足りなさを感じることなく、満腹感を得られるようにしたのだ。
ご飯に魚を入れることによって炭水化物を減らすと同時に、食感に変化をつけてもいる。
スープには、今回新たに作った豆腐が入っており、カロリーを抑えつつ、タンパク質を摂取できるようにしてある。
メインのグラタンは、ミルクの代わりに豆乳を使用し、バターも減らしている。また、キノコを数種類使って、ボリュームと食べ応えを出した。
野菜はサラダではなく、さっぱりとしたマリネにしてある。ビネガーで酸味を加えることによって、塩分を抑えられる。油も使っていないので、ドレッシンングをかけて食べるサラダよりも低カロリーだ。
デザートのゼリーは、砂糖をほとんど使わず、果物本来の甘みを生かしている。ダイエット中とはいえ、甘いものも食べたい女心に配慮したのだ。
「すごいね~。もっと質素な感じを想像してた! 普通においしそうじゃん!!」
そのアンジェリカの言葉を聞いて、リサは嬉しくなる。
「食べたら感想聞かせてね」
「うん! それじゃあ、いっただっきま~す!」
アンジェリカは待ちきれない様子で、いそいそとフォークを手に持った。そしてまず、メインのグラタンに手を伸ばす。
こんがり焼き色のついた表面にフォークを差し入れ、中の具を掬うと、とろけたチーズが糸を引いた。「あーん」と大口を開けたアンジェリカを見たリサは「あっ」と思い、止めようとした。だが、ひと足遅かった。
「あっちぃ!!」
熱々のグラタンを思いっきり頬張ってしまい、ハフハフしながら悶絶するアンジェリカ。リサがお冷のグラスを差し出すと、彼女は口の中のグラタンを、慌てて水で流し込む。
そんなアンジェリカを見て、リサは苦笑した。
「熱いから気を付けてって言おうと思ったんだけど、遅かったね」
「はぁ、熱かったぁ! でもおいしい!!」
アンジェリカは、すっきりした顔で食事を再開する。二口目のグラタンに、息を丁寧に吹きかけてから口に運び、じっくり味わった。濃厚でクリーミーなホワイトソースと、キノコの香ばしい風味、トロリととろけたチーズが、最高にマッチしている。
その味を十分に堪能してから呑み込み、次に手に取ったのは、ケールの炊き込みご飯だった。白いご飯にオレンジがかったピンク色の魚肉が映え、目にも鮮やかだ。
頬張ると、磯の香りが口いっぱいに広がる。ほんのり塩味のついたケールは、ご飯との相性が良い。リサから渡された注意書きの通りしっかり咀嚼すると、ご飯の甘みが感じられた。
そこで、スープを飲んでみる。さっぱりとした飲み口だ。白くて四角い謎の具材も、スプーンで掬って食べてみる。柔らかくて味もあっさりしているが、なかなか食べ応えがあった。
「ねぇ、この白くて四角いのってなあに? 味はあんまりしないけど、おもしろい食感だね!」
「それはね、豆腐って言うんだ。ダイエットメニューに色々活用しようと思っている食材なの。太りにくい上に、豆で出来てるから栄養があるし、肉の代わりにもなるっていう優れものなんだ。ダイエットメニューのために、一から作ったの」
「わざわざこのために!?」
まさか自分が言い出したダイエットのために、リサが新しい食べ物を一から手作りしてくれるとまでは思っておらず、アンジェリカは食べる手を止めて彼女を見やった。
「まあ、それなりに手間はかかったけど、いつか作ろうとは思ってたの。だから、この機会に作ってみようかなってね」
リサは事もなげに言ったが、そんな彼女のためにもダイエットを頑張ろうと、アンジェリカは決意を新たにした。
そして豆腐をもう一切れ掬い、柔らかな食感を楽しんだ。
スープで体が温まったアンジェリカは、ほうっと息を吐いてから、残りの料理に手を付ける。小鉢に盛られたマリネには、色々な野菜が使われていた。白、橙、黄、緑とカラフルな野菜たちは、ビネガーで和えられることで光沢を増している。
フォークで刺して口に運ぶと、ビネガーの爽やかな酸味と野菜のシャキシャキした食感が、食事にアクセントを加えてくれる。決して濃い味付けではないけれど、しっかりとした味わいがあり、満足感が得られた。
デザートのゼリーを食べ終えた頃には、お腹いっぱいになっていた。空になった器を見ると、その倍以上は食べたような気がする。
水を飲んで満足げにため息を吐くアンジェリカのもとに、リサがやってきた。
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