異世界でカフェを開店しました。

甘沢林檎

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3巻

3-1

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 プロローグ


 フェリフォミア王国の王都の、メインストリートを少し外れた通りから、笑顔で歩いてくる人々。一様に満足げな表情で、手には同じロゴマークの入った箱を抱えている。
 それは彼らが、道具街にあるカフェ・おむすびで購入したものだった。
 おおやけには知られていないが、その店は異世界にある日本という国からやってきた、一人の女性によっていとなまれていた。
 人目を引く赤いドア。その横にあるショーケースには、目にも鮮やかなケーキが何種類も並んでいる。しかし、それよりも人々の興味を引いているのは、ショーケースの上の、テイクアウト用の小窓からただよってくるいい匂いだ。
 湯気と共に、通りの中ほどまで届くその匂いの元は、セイロで蒸されてぷっくり太った肉まんだった。
 からかぜが吹き、冬の寒さが厳しくなってきたこの日、それは道行く人々を誘惑する。今もコートのポケットに手を入れ、縮こまって歩いていた男性が、ふらふらと引き寄せられていった。
 しばらくすると、彼の手には、まだ湯気の立ち上るホカホカの肉まんが。
 冷えきった両手を温めるように持っていた肉まんに、彼は大口を開けて噛みついた。
 中から出てきた熱い肉汁で口を火傷やけどしそうになりながら、ハフハフと咀嚼そしゃくすると、おいしさと温かさがじんわりと広がっていく。
 いつしか体だけでなく、心まで温かくなっていた。
 店先で肉まんを半分ほど堪能たんのうした後、男性はそれを片手で持ち、頬張ほおばりながら歩き出す。体に吹きつける風の冷たさは、もう気にならなかった。手に持った肉まんが、どんな分厚いコートよりも、体と心を温め、満たしてくれるからだ。
 そんな彼を見て、寒さに震える人々は、一人、また一人とカフェ・おむすびへ足を向けるのだった。



 第一章 女の子には悩みがたくさんあります。


 フェリフォミア国立総合魔術学院――通称『学院』に、この秋から新たに料理科が設置されたことは、大きな話題を呼んでいた。
 カフェ・おむすびのオーナー兼店長であるリサ・クロカワ・クロードを中心に、約二年かけて準備が行われた。ようやく授業が開始されて、既に数か月が経つ。
 季節は、冬を迎えていた。


 カラン、と小気味よいドアベルの音が響き、カフェ・おむすびの店員ヘレナ・チェスターは、そちらを見る。

「いらっしゃいませ~……って、なんだアンジェリカか」
「ども~」

 赤いドアから入ってきたのは、アンジェリカ・サイラスだった。はちみつ色の髪をポニーテールにした彼女は、体を両腕で抱くようにし、寒そうにしている。それもそのはず、コートなどは羽織っておらず、この季節に外を出歩くにしては、どう見ても薄着だった。
 アンジェリカはカフェの隣に立つサイラス魔術具店の一人娘で、家業を手伝い、店で受付と販売をしている。
 店からカフェまでは数歩の距離しかないため、外套がいとうを着る手間を惜しみ、そのままの格好でやってきたようだ。

「今日は、いつにも増して寒いね~」
「そんな格好だからでしょ!」

 アンジェリカに呆れた視線を送るヘレナは、オレンジ色の髪をショートヘアにして、カフェの制服に身を包んでいる。
 今年十九歳になった彼女は、十六歳のときからカフェ・おむすびで働いていた。アンジェリカとの付き合いも同じ頃に始まったため、今ではかなり気安い仲である。
 ヘレナの一つ年上であるアンジェリカは、常連客としてカフェに通うだけでなく、忙しいときは手伝ってくれている。また魔術具職人である彼女の父親は、カフェの設備関係をになってくれていた。
 アンジェリカは、カウンターのいている席に座るなり、「はぁ」とため息をいて突っ伏す。
 いつも明るく溌剌はつらつとしている彼女には、珍しい姿だった。

「どうしたの? そんなに落ち込んで」

 ヘレナが驚きながら、アンジェリカの前に水の入ったグラスを置く。
 ややあって、アンジェリカがむくりと頭を上げた。そしてグラスに手を伸ばしたが、何かを思い出したようにハッとして、その手をひっこめた。

「ううー……」

 眉根を寄せ、うなり声を上げるアンジェリカ。

「……本当に、どうしちゃったの?」

 普段と違う彼女を、ヘレナはいぶかしげに見つめた。
 アンジェリカは、カウンターに頬杖をつき、正面に立つヘレナを上から下まで舐めるように見る。
 ショートカットの似合う、すっきりとした顔の輪郭りんかく。制服のえりに囲まれた首は細く、ウエストはきゅっと締まっている。キュロットから伸びる脚は、程よく筋肉がついているが細く、スラリとしていた。
 アンジェリカはうらやましそうな顔で、再びため息を吐く。

「ヘレナは悩んでなさそうだなぁ」
「悩むって何をよ?」
「……うぅ~」
「そんなに言い辛いことなの?」
「……いや、それがさぁ……昨日、服の整理をしてたんだ。でね、毎年着る花祭りの衣装を試しに着てみたんだけど……入んなかったのよ……」

 アンジェリカは、がっくりと項垂うなだれた。
 フェリフォミア王国では、毎年春に花祭りという大きな祭りが行われる。国の主要な特産品である、花の収穫を祝う祭りだ。フェリフォミア王国は別名『花の王国』と呼ばれるほど、花も花祭りも有名だった。
 花祭りは国を挙げて行われ、国民は皆、伝統衣装を着て参加するのが通例である。
 アンジェリカは、毎年着ているその伝統衣装を着られなくなった――つまり太ってしまったと告白したのだ。
 それを聞いたヘレナは、改めてアンジェリカを眺めた。言われてみると、出会った頃の彼女は、今よりもっとスリムだったような気もする。
 だが、ほぼ毎日顔を合わせているせいか、体型の変化に全く気付かなかった。

「実は、去年もぎりぎりだったんだよ……はぁ、今年はいよいよ新調しなきゃいけないかなぁ」

 アンジェリカはそう言って頬杖をつくのをやめ、カウンターに置いた腕の中に顔をうずめる。

「でも、花祭りって何か月も先でしょ? それまでにせれば、衣装を作り直す必要はないじゃない」
「もちろん、それも考えてるけど……」
「あら、そう。……で、今日は何にするの?」

 ヘレナは、アンジェリカにメニューを渡しながらたずねた。

「えっと、何にしよっかな~」
「……それがダメなんじゃない?」
「――っ! わかってるよ! お茶で!」

 アンジェリカはふくれっつらを作ると、渡されたメニューを開くことなく、ヘレナに突き返した。

「はいはい~」

 そのときカウンターの奥から、料理が載った皿を持って女性が顔を出した。

「あら、アンジーいらっしゃい。来てたんだ」

 この世界では珍しい黒髪と黒い瞳を持つ彼女は、カフェ・おむすびのオーナー兼店長のリサである。三年半前に異世界からやってきて、この店を作った女性だ。
 ヘレナやアンジェリカと同年代に見えるが、今年で二十五歳になる。こちらの世界の人々は、リサがいた世界で言うところの欧風の顔立ちをしているため、日本人であるリサは、実年齢より若く見られることが多い。
 リサは手にしていた料理を客に出し終えると、アンジェリカたちのもとへやってきた。
 そんな彼女に、アンジェリカが尋ねる。

「あれ? リサ、今日は学院に行かなくていいの?」
「学院は今日から冬休みよ」

 数か月前、フェリフォミア国立総合魔術学院に、新たに料理科が設置された。リサはその料理科の、総合監修と講師を務めている。そのため、カフェで料理を作る日は、週に二、三日ほどに減った。
 しかし、学院は今日から冬休みに入ったので、リサは本業とも言えるカフェの仕事に打ち込んでいた。

「いいよね~、学生は。長い休みがあってうらやまし~い!」

 店番をさぼってカフェに来たのであろうアンジェリカの台詞セリフに、リサは苦笑する。

「そんなこと言ってるけど、アンジーだって今休んでるじゃない? 店番はいいの?」
「それがね、実は、お父さんに追い出されてさ……」
「ええ!? 何で?」

 リサは驚いて聞いたが、アンジェリカは黙り込んでしまった。ヘレナは料理を注文しようとしている客に気付き、リサに目配せしてからそちらへ向かう。

「追い出されたって、何かあったの? 私でよかったら相談に乗るけど」

 リサの言葉を聞いたアンジェリカはガバッと顔を上げ、彼女の方に身を乗り出す。

「本当!? じゃあさ、じゃあさっ、ダイエット手伝ってくれる?」
「へっ!?」

 思わぬことを言われて面食らうリサに、アンジェリカは先程ヘレナに話した内容を改めて伝えた。前々から抱えていたその悩みが、ここにきていよいよ深刻化し、かなり焦っているようだ。
 リサもヘレナと同じように、数年前に出会ったときのアンジェリカを思い出す。その頃の彼女に比べると、確かにふっくらしている気がした。

「花祭りまでに、せめて去年の衣装が着られる体型に戻したいよぅ!」

 鬼気迫る表情で懇願こんがんされ、リサは少し腰が引けつつも、アンジェリカがなぜ太ったかを考えた。そして、その原因に思い至る。
 アンジェリカは、カフェ・おむすびのお菓子が大好きだ。どんなお菓子も喜んで食べるが、中でもエッグタルトが大好物である。
 彼女はエッグタルトを、週に何度かテイクアウトしていく。それは、エッグタルトがメニューに登場した二年前から続いていた。
 そのエッグタルトだが、他のケーキより小ぶりであるにもかかわらず、カロリーは決して低くない。なぜなら生地にはたっぷりのバターと卵、そして砂糖が使われているからだ。
 アンジェリカはそんなエッグタルトを、一度に二個も三個も食べる。朝昼晩にしっかり食事を取った上で、間食として食べるのだ。成人女性が一日に必要とするカロリーを、大幅にえていることは明白だった。

「なるほどね~。それで落ち込んでたら、ガントさんに追い出されたんだ」

 ガントとはアンジェリカの父親で、サイラス魔術具店の店主である。優秀な魔術具職人で、生活に使われる魔術具の製作を得意としている。
 カフェ・おむすびで使われている調理機器のほとんどは、彼が作ったものだ。

「そう! ひどいんだよ! 『太ったかな?』って聞いたら『そういえばそうかもなぁ、でも女はそこそこ肉がついてた方が可愛いぞ、がはははっ』だって!! 乙女心が全然わかってない!」

 憤慨ふんがいしたアンジェリカは、目の前のグラスをグワシッとつかみ、中に入っていた水を勢いよく飲み干した。だが変なところに入ったらしく、盛大にむせ返る。
 リサは慌てて紙ナプキンを差し出し、からになったグラスに水をぎ足した。

「……げほっ、とにかく花祭りまでに何とかしたいの。衣装を新しく作るとなるとお金がかかるし、そもそも年に一回しか着ないのに、新しく買うのは無駄だな~って思うし。ねぇリサ、何とかならないかな~」

 アンジェリカは「お願いっ」と言いながら、手を合わせてリサに懇願こんがんした。
 彼女がこうまでせたいと願うのには、金銭的な理由もある。花祭りの衣装に既製品はなく、全てオーダーメイドだ。伝統にのっとり作られるその衣装は、各家で柄が違うため、生地から作らなければならない。着る機会は年に一度しかないのに、作るにはかなりの費用がかかるので、それだけは避けたかった。

「ダイエットねぇ。太るのは簡単だけど、痩せるのは難しいよね。私もダイエットの経験はあるけど、結局続かなかったし……」

 リサは過去の経験を思い出しながら言った。

「うんうん、でも経験はあるんでしょ? その経験を生かして、協力してよ~」
「協力って……私に出来ることって言ったら、ダイエットメニューを考えることくらいしか……」

 リサの言葉に、アンジェリカは目を輝かせた。

「ダイエットメニュー!! それでいいよ、めちゃくちゃいいじゃん!」
「いや、ダイエットメニューって言っても私、専門家じゃないから大したものは出来ないよ? それに運動もしないと、痩せるのは難しいんじゃ……」
「それは自分で頑張るから! お願い、ダイエットメニュー作って~」

 アンジェリカはカウンターの上に身を乗り出して、リサに向かっておがむ。
 リサもアンジェリカのダイエットに協力したいという気持ちはあった。何しろアンジェリカが太ってしまったのは、自分が作ったお菓子のせいとも言えるからだ。
 ただ、リサはダイエットの専門家ではないので、元の世界にいたときにテレビや雑誌で目にした程度の、一般的な知識しかない。
 だからあまり期待しないで欲しいと前置きして、協力することに同意した。


 カフェの営業が終わり、帰宅したリサは、クロード家の自室でダイエットメニューについて考えてみた。

「う~ん、ダイエットメニューねぇ……」

 過去に実践したダイエット法を思い出し、紙に箇条書きしていく。断食だんじき、炭水化物抜き等々。さらにダイエットに有効だと聞いたことがある食材も、書き出していく。トマト、チョコレート、寒天、海藻……。ただ、それらをダイエットメニューにどう活用していくかが悩みどころだった。

「マスター、今度は何を考えているんです?」

 気付けばテーブルの上に、緑の服をまとった身長二十センチほどの精霊がいた。
 緑をつかさどる精霊のバジルだ。リサがこの世界にきたときに知り合った縁で『契約』を結んだ彼女は、常にリサのそばにいる。
 バジルはリサと一緒にカフェから帰ってくるなり、ソファのクッションの上でうたた寝をしていたが、いつの間にか起きていたようだ。
 リサが箇条書きした文字を見て、不思議そうな表情を浮かべている。別の世界の文字で書いてあるため、何と書いてあるのかわからないらしい。

「今日、アンジェリカから相談されたダイエットのことで、何かいいアイデアがないか考えてるんだ」
「そうなんですか~。……マスター、ダイエットって何ですか?」

 何か楽しいことだと思ったのか、笑顔で聞いてきたバジルを見て、リサは苦笑した。
 精霊は人間と違ってご飯を食べる必要がないため、せたり太ったりすることもない。必要なエネルギーはそれぞれが司る物質、例えばバジルの場合は植物から得る。バジルはリサの作った料理が好きで、よく一緒に食事をしている。けれど、そもそも精霊に食事は必要ないのだから、バジルは精霊の中でも例外なのかもしれない。
 リサからダイエットとは何なのかを説明されても、バジルはイマイチ理解できていない様子だった。だが、リサが人間を果物にたとえて「養分や水分が多いと大きい実が出来るけど、大味でおいしくなかったりするでしょ? アンジェリカもちょっと大きくなりすぎたから、少し小さくなりたいんだって」と言うと、納得したようだった。

「それでマスターは、その方法を考えているんですね~」
「そうなの。でもこっちの世界に来てからカロリーとかGI値とか気にしたことがなかったし、そもそも私にその手の専門知識があるわけでもないからなぁ」

「カロリー? GI値?」と頭の上にハテナマークを浮かべているバジルをよそに、リサは思考の海に沈んだ。
 アンジェリカの好物であるケーキ類は、全般的にカロリーが高い。元の世界には砂糖に代わる甘味料がたくさんあったため、低カロリーでもおいしいスイーツを作れただろう。だが、こちらの世界にそういったものはない。
 アンジェリカには酷だろうが、ダイエット中は彼女が大好きなエッグタルトも禁止にするしかない。
 その上で、リサが知る限りの低カロリー食品を使って、ダイエットを無理なく続けられるおいしいメニューを開発しなければ。
 不思議そうに眺めるバジルの前で、リサは自分が持つ知恵を振り絞り、アイデアを書き出していくのであった。



 第二章 食べないわけにはいきません。


 翌朝、リサはクロード家で働く侍女たちに話を聞くことにした。
 昨夜は元の世界での経験や知識をもとにダイエットメニューを考えてみたものの、あまり良いアイデアが浮かばなかった。だからこちらの世界で行われているダイエット法について、情報を集めようと思ったのだ。
 そのため、いつもより早く起きたリサであったが、既にキッチンや洗濯場などでは、侍女たちが忙しく働いていた。
 リサは洗濯場で、一人の侍女に声をかける。

「おはようございます」
「あら、リサお嬢様、おはようございます。どうされました? こんな早くから」

 洗い物を仕分けしていた侍女は、にこやかに挨拶あいさつを返した。

「忙しいところごめんなさい。今、少し大丈夫?」
「はい、何ですか?」

 リサよりいくつか年下の侍女は、嫌な顔ひとつせず、リサの方へ体を向けた。

「聞きたいことがあってね。ダイエットの経験ってある?」
「ダイエットですか? そりゃ、ありますよ~」

 それを聞いたリサは、思わず身を乗り出すようにしてたずねる。

「本当!? どういうことをしたの?」
「う~ん……食事を少なくしたり、移動のときには駅馬車を使わないで極力歩いたり……あと、仕事中はあまり座らず立ったままでいたり、ですかね」
「そっかあ。ダイエットに効く食べ物とか知らないかな?」
「ダイエットに効く食べ物ですか? そんなものがあったら、私も知りたいです!」

 その後、リサは他の侍女にも聞き込みをした。だが、返ってきたのは似たような回答ばかりで、あまり有力な情報は得られなかった。
 ただ、彼女たちの多くが、今まさにダイエット中だった。
 リサがやってくる前、この世界にはお菓子類がなく、食事も今より質素だったのだ。だが、リサが来てからこの家の食事もおいしくて、栄養豊富なものになった。
 そのため、彼女たちは皆ここ最近、体型が気になっているらしい。
 リサは驚くと同時に、これまでの自分の行動が、予想していなかった弊害へいがいを生んでいることを思い知らされ、頭を抱えた。


 朝食の席でも、リサはダイエットのことを考えていた。
 ぼーっとしたままご飯を食べるリサが気になったのか、隣に座るアナスタシアが、心配そうな視線を向けてくる。

「リサちゃん、どうしたの?」

 アナスタシア・アシュリー・クロードは、リサの養母だ。この世界に来てすぐ行き倒れていたリサを助けてくれた、恩人でもある。
 柔らかな色合いのツーピースドレスをビシッと着こなしている彼女は、『シリルメリー』という人気服飾店を経営している。
 カフェ・おむすびや料理科の制服も、シリルメリー製だった。
 アナスタシアの声で、リサはハッと我に返った。
 そういえば、彼女にはまだ聞いていなかったと気が付く。

「シアさん、ダイエットってしたことあります?」
「あら、リサちゃんってば、ダイエットしてるの?」
「いえ、私ではなくて……」

 リサはこれまでのいきさつを、アナスタシアに話した。アンジェリカから相談されたことに始まり、侍女たちに話を聞いて回ったことまでだ。
 やがて話を聞き終えたアナスタシアが口を開く。

「そうだったの。私もお店の従業員からよく相談されるわ。うちのお店はお洋服を売ってるから、自分たちの格好が一番の宣伝になるの。だから、いやおうでも体型に気を遣うのよね」
「シアさんは、いつもどうアドバイスしてるんですか?」

 リサが問うと、アナスタシアは頬に手をあて、悩ましげな顔をした。

「それが、私も困っているのよ。『食べるものを減らしなさい』と言って倒れられたら大変だから、『運動しなさい』って言うしかないのよね~」
「いや~、女の子は大変だねぇ」

 リサとアナスタシアの会話に、突如、男性が割り込んできた。それはリサの向かい側に座る、ギルフォードだった。
 ギルフォード・ハイド・クロードはアナスタシアの夫であり、リサの養父でもある。そして彼は、王宮の筆頭魔術師というすごい肩書を持つ人でもあった。
 二人の話を興味深げに聞いていたギルフォードは、しみじみと頷いている。
 そんな彼に、アナスタシアが言う。

「女の子は色々と気を遣うのよ! 特に好きな人の前では、可愛くありたいじゃない?」
「そういうものなのかい? でも、君はいつでも可愛いよ、アナスタシア」
「あら、嬉しいわ。うふふ」

 アナスタシアとギルフォードは見つめ合い、二人の世界に入ってしまった。相変わらず仲のいい二人に苦笑しながら、リサは朝食を再開した。


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