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決意
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「姉様。良かったですね。あんな良い人に助けていただけて」
弟は寝台に転がりながら、明るく言った。
「きっと『知識と恵みの神』様が助けてくださったのですよ」
「そうだね。きっと……」
弟に反して、姉の表情は硬い。
「姉様?」
さすがに訝しんだのか、弟は姉の顔を覗き込んだ。
「――――わたくしの可愛い弟。もう寝なさい。明日はきっと早いだろうから」
姉は弟を心配させまいと顔を一つ振ってから、努めて優しい声音を作った。
「ああ。それから、お前はこれからわたくしのことは『姉さん』と呼びなさい。わたくしたちは【賊狩り】の奴隷として、生きていかねばならないのだから」
「……はい。『姉さん』」
「お休み」
少女はサイドテーブルに置かれた水仙を模したガラス製のランタンの明かりを消し、弟のなだらかな頬に軽くキスをして、自室となった部屋に引き上げていった。
のそりと、少女はベッドに潜り込む。顔が埋もれるほどふかふかな枕に頭を投げ出すと、白金の髪が散らばった。
雲の上みたいにふかふかなベッドに、さらりと流れるような肌触り良い絹のシーツ。適度な重みのある、カーテンと同じ色合いの真紅のキルト。
ベッドには天蓋が付いていて、薄絹で外界とベッドの中は切り離されていた。
その一つ一つが、少女の菫色の瞳に映される。
天蓋も寝台キルトもシーツも、贅を凝らした品のいいデザインで。
本当に、お貴族様が使っていそうな―――。
「………っ」
不覚にも、少女は咽いた。
涙が溢れそうになる。だめだ、堪えられない。
誰もいないから、もう泣いてもいいだろうか。なんだか、今日は妙に涙もろくなっている気がする。
「………っく」
枕に顔を埋めた。誰もいないと分かっていても、涙を流すことは抵抗があった。さっきはもう何がなんだか分からなくなっていたが、冷静さを取り戻した今はそんなはしたない真似はできない。
「………っ、あぁ……っくぅ」
涙が溢れる。止めたくても止まらなくて、でもなんとか止めようと堪らえようとした。
肩が震える。枕が涙に濡れた感触がした。
どうして。
ぎゅっと眉間に眉を寄せる。奥歯を噛みしめる。
どうして。レスラン。
もう、何もない。何もかも失ってしまった。
あの裏切り者のせいで。ああ、どうして。
「っれす………らん」
もう帰ってもない、あなたの顔を見ることは叶わない。
見たくもない。ひと目見てしまったら、きっとわたくしはあなたを殺す。そう、殺してやりたい。けれど、殺したくない。
わけが分からない。
色々な感情がごちゃまぜで、わけが分からない。
悲しいのか。悔しいのか。怒りなのか。憎いのか。
安堵なのか。嬉しいのか。喜んでいるのか。
わけが分からない。
ただ、涙が溢れて止まらない。
けれど、一つだけ確かなもの。
わたくしの可愛い弟。
ただ一人の、たった1人残った、わたくしの家族。
あの子だけは、守らなければ。
積もり積もった疲労が決壊するように、意識が闇に溶ける。
決意を新たにした少女は、薄れゆく意識に身を委ねた。
弟は寝台に転がりながら、明るく言った。
「きっと『知識と恵みの神』様が助けてくださったのですよ」
「そうだね。きっと……」
弟に反して、姉の表情は硬い。
「姉様?」
さすがに訝しんだのか、弟は姉の顔を覗き込んだ。
「――――わたくしの可愛い弟。もう寝なさい。明日はきっと早いだろうから」
姉は弟を心配させまいと顔を一つ振ってから、努めて優しい声音を作った。
「ああ。それから、お前はこれからわたくしのことは『姉さん』と呼びなさい。わたくしたちは【賊狩り】の奴隷として、生きていかねばならないのだから」
「……はい。『姉さん』」
「お休み」
少女はサイドテーブルに置かれた水仙を模したガラス製のランタンの明かりを消し、弟のなだらかな頬に軽くキスをして、自室となった部屋に引き上げていった。
のそりと、少女はベッドに潜り込む。顔が埋もれるほどふかふかな枕に頭を投げ出すと、白金の髪が散らばった。
雲の上みたいにふかふかなベッドに、さらりと流れるような肌触り良い絹のシーツ。適度な重みのある、カーテンと同じ色合いの真紅のキルト。
ベッドには天蓋が付いていて、薄絹で外界とベッドの中は切り離されていた。
その一つ一つが、少女の菫色の瞳に映される。
天蓋も寝台キルトもシーツも、贅を凝らした品のいいデザインで。
本当に、お貴族様が使っていそうな―――。
「………っ」
不覚にも、少女は咽いた。
涙が溢れそうになる。だめだ、堪えられない。
誰もいないから、もう泣いてもいいだろうか。なんだか、今日は妙に涙もろくなっている気がする。
「………っく」
枕に顔を埋めた。誰もいないと分かっていても、涙を流すことは抵抗があった。さっきはもう何がなんだか分からなくなっていたが、冷静さを取り戻した今はそんなはしたない真似はできない。
「………っ、あぁ……っくぅ」
涙が溢れる。止めたくても止まらなくて、でもなんとか止めようと堪らえようとした。
肩が震える。枕が涙に濡れた感触がした。
どうして。
ぎゅっと眉間に眉を寄せる。奥歯を噛みしめる。
どうして。レスラン。
もう、何もない。何もかも失ってしまった。
あの裏切り者のせいで。ああ、どうして。
「っれす………らん」
もう帰ってもない、あなたの顔を見ることは叶わない。
見たくもない。ひと目見てしまったら、きっとわたくしはあなたを殺す。そう、殺してやりたい。けれど、殺したくない。
わけが分からない。
色々な感情がごちゃまぜで、わけが分からない。
悲しいのか。悔しいのか。怒りなのか。憎いのか。
安堵なのか。嬉しいのか。喜んでいるのか。
わけが分からない。
ただ、涙が溢れて止まらない。
けれど、一つだけ確かなもの。
わたくしの可愛い弟。
ただ一人の、たった1人残った、わたくしの家族。
あの子だけは、守らなければ。
積もり積もった疲労が決壊するように、意識が闇に溶ける。
決意を新たにした少女は、薄れゆく意識に身を委ねた。
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