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『黒蛇』
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もとは、【賊狩り】はレング大陸で活動していた一人の傭兵から始まった。彼はその業界では、こと賊に対する対応が的確なことで名を馳せていた。海賊に対しては空寒くなるほど徹底的で無感動。善良な一般人からしてみれば、これほど頼もしい傭兵はいない。『賞金首制度』が無くとも仕事の方から勝手に押し寄せてくるほど、彼は名の売れた傭兵だった。
そんな男が【賞金首制度】なんていう、格好の餌に食いつかないわけがない。むしろ、この新制度は彼のためにできたと言ってもいいほどであった。
最初の【賊狩り】。名を、シアン。
シアンは次々と賊を狩っては、軍に連行してきた。彼一人に敗れた賊の数は計り知れない。
ついた二つ名は『黒蛇』。名の由来は、蛇のごとく獲物を丸呑みするような勢いを誇っていたからだと言われている。誰が最初に言い出したのかは不明だ。強靭な剣技を繰り出す靱やかな肢体と、翻る長い黒髪も、この二つ名を定着させるに一役買った。
彼は艷やかな黒髪を翻し、非常なまでに賊を狩っていく。このまま行けば、彼の手によって賊が全滅させられるのではないかと、希望と一緒に民たちの中で語られるまでになった。
この時、正に『黒蛇』は国民の希望の光だった。
彼は仕事で忙しいのか、街中をぶらつくことはあまりなかったが、彼の容姿は知れ渡っていた。街の屋台で売られる彼の姿絵が、飛ぶように売れたせいである。
おかげで、たまに街中を歩いていると『お礼』と称して色々な品を贈られたりする。
『黒蛇』の噂は独り歩きしていた。
やれ、彼は英雄イリューレスの生まれ変わりだの。いいや、太古の大戦争で英雄イリューレスを助けた二柱の神の一神、『誓約と武勇の神』の地上での仮の姿だの。それを言うなら、もう一柱の『知識と恵みの神』の方に容姿の特徴が合っているだの。
もはや信仰に近い期待を、彼は己の預かり知らぬところで背負わされていた。
しかし、彼はそんなことはつゆ知らず、この日も淡々と(少なくとも彼自身はそう思っている)賊を狩り、レング大陸北西の港町にある軍の駐屯所にやってきていた。
「『剛鉄』マザレスか……」
「賞金が上がった」
無造作に麻袋に突っ込まれた賊を手渡された兵士は、苦笑するしかない。
「……そうかい。ちなみに、こいつは脱獄していたんだがな……」
この『黒蛇』が、『剛鉄』のマザレスを『狩る』のは3回目だった。
1回目は、『剛鉄』が勝手にヘマをしてくれたおかげで、道すがら連行できた。『黒蛇』にとっては偶然の収入だったわけだ。
2回目は、このときも脱獄したマザレスを捕えるために軍が『黒蛇』に捕縛依頼を出した。『剛鉄』はあっさり捕まった。
そして、性懲りもなく3回目である。
脱獄してくれたおかげで賞金額が上がったと喜び勇んで『狩り』に行く『黒蛇』と、どんな気持ちで駐屯兵が会話していたのか想像に難くない。
このとき、兵士が一番言いたかったことは多分これであっているだろう。
――『どうやってこいつの居場所を掴んだんだよ……』
軍に連行されたマザレスは、裁判を受けずにすぐさまブタ箱に放おりこまれた。脱獄したのだから当然である。
3ヶ月前にマザレスは配下の者の手で脱獄してのけたのである。マザレスが脱獄してその間、軍は彼の足取りを全く掴めていなかった。これだけでも、軍がいかに無能か分かろうというものだ。
万策尽きて、軍がマザレスを再指名手配したのは2日前のことだ。
軍が三ヶ月かけても見つからなかった存在を、この【賊狩り】は一人でさっさと見つけ出してしまったのである。軍属の人間が泣きたくなるのもわかるえげつなさであった。
そんな男が【賞金首制度】なんていう、格好の餌に食いつかないわけがない。むしろ、この新制度は彼のためにできたと言ってもいいほどであった。
最初の【賊狩り】。名を、シアン。
シアンは次々と賊を狩っては、軍に連行してきた。彼一人に敗れた賊の数は計り知れない。
ついた二つ名は『黒蛇』。名の由来は、蛇のごとく獲物を丸呑みするような勢いを誇っていたからだと言われている。誰が最初に言い出したのかは不明だ。強靭な剣技を繰り出す靱やかな肢体と、翻る長い黒髪も、この二つ名を定着させるに一役買った。
彼は艷やかな黒髪を翻し、非常なまでに賊を狩っていく。このまま行けば、彼の手によって賊が全滅させられるのではないかと、希望と一緒に民たちの中で語られるまでになった。
この時、正に『黒蛇』は国民の希望の光だった。
彼は仕事で忙しいのか、街中をぶらつくことはあまりなかったが、彼の容姿は知れ渡っていた。街の屋台で売られる彼の姿絵が、飛ぶように売れたせいである。
おかげで、たまに街中を歩いていると『お礼』と称して色々な品を贈られたりする。
『黒蛇』の噂は独り歩きしていた。
やれ、彼は英雄イリューレスの生まれ変わりだの。いいや、太古の大戦争で英雄イリューレスを助けた二柱の神の一神、『誓約と武勇の神』の地上での仮の姿だの。それを言うなら、もう一柱の『知識と恵みの神』の方に容姿の特徴が合っているだの。
もはや信仰に近い期待を、彼は己の預かり知らぬところで背負わされていた。
しかし、彼はそんなことはつゆ知らず、この日も淡々と(少なくとも彼自身はそう思っている)賊を狩り、レング大陸北西の港町にある軍の駐屯所にやってきていた。
「『剛鉄』マザレスか……」
「賞金が上がった」
無造作に麻袋に突っ込まれた賊を手渡された兵士は、苦笑するしかない。
「……そうかい。ちなみに、こいつは脱獄していたんだがな……」
この『黒蛇』が、『剛鉄』のマザレスを『狩る』のは3回目だった。
1回目は、『剛鉄』が勝手にヘマをしてくれたおかげで、道すがら連行できた。『黒蛇』にとっては偶然の収入だったわけだ。
2回目は、このときも脱獄したマザレスを捕えるために軍が『黒蛇』に捕縛依頼を出した。『剛鉄』はあっさり捕まった。
そして、性懲りもなく3回目である。
脱獄してくれたおかげで賞金額が上がったと喜び勇んで『狩り』に行く『黒蛇』と、どんな気持ちで駐屯兵が会話していたのか想像に難くない。
このとき、兵士が一番言いたかったことは多分これであっているだろう。
――『どうやってこいつの居場所を掴んだんだよ……』
軍に連行されたマザレスは、裁判を受けずにすぐさまブタ箱に放おりこまれた。脱獄したのだから当然である。
3ヶ月前にマザレスは配下の者の手で脱獄してのけたのである。マザレスが脱獄してその間、軍は彼の足取りを全く掴めていなかった。これだけでも、軍がいかに無能か分かろうというものだ。
万策尽きて、軍がマザレスを再指名手配したのは2日前のことだ。
軍が三ヶ月かけても見つからなかった存在を、この【賊狩り】は一人でさっさと見つけ出してしまったのである。軍属の人間が泣きたくなるのもわかるえげつなさであった。
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