18 / 21
歪み
しおりを挟む
「それで、村人とは何の関係が?」
堤を作る許可を得るために城に来て料理三昧。それで魔物が死ぬのならば、村人たちからは喜ばれそうなのだが。
「ラキティスは魔物を退ける力が元からある。いれば魔物は遠ざかる。けれど、料理や体液は別で、魔物を近寄らせる。ラキティスが魔物を呼べば、近付くこともある」
ラキティスが認識すれば魔物が近付くとなると、確かに自分が小鳥ちゃんたちを認識すれば、近くを寄るようになってきた。
そして、料理や体液は別となると、
「餌付けしてたら、近寄ってくるってこと?」
「そうだ。村に戻って、今までは遠巻きにしていた魔物たちが、村へ近付くことを恐れなくなった」
それって、野生動物に餌あげて、その味しめて人を襲う、熊とかの性質な気がする。
そうなると、例えば人の味を覚えた熊は、人しか襲わないとか。
「村人を、襲ったってこと?」
「村に魔物が出るようになって、村人がラキティスを家に閉じ込めるようになった」
「そっちか…」
つまり村人はラキティスの特異体質を知っていて、彼女が留守にすることを不満に思ったのだろう。ラキティスが村から離れれば魔物が近付いてくる。その頻度が増えた。
実際は、餌付けをしてからは魔物が近付く理由がラキティスにあったのに、ラキティスがいないせいで、魔物が近付くようになったと勘違いしたのだ。
ラキティスは家に閉じ込められて、外に出ることを許されなくなった。しかし、それが却って魔物を寄せ付けることになるとは知らず。
「俺が行った時には村は火に包まれて、セルフィーユが助けに行った後だった」
村人が魔物と戦ったのか、村は焼けて廃村になった。だから骨組みだけの焦げた家が放置されていたのだ。
後味悪い、不幸な事故となってしまった。
「ラキティスはそれからセルフィーユの城にいたが、よく湖が見える花畑で村の方向を眺めていた。それからしばらくして、病になって死んだ」
マルヴィラはそのまま黙りこくる。
魔物のせいで村人は死んでしまった。ラキティスはショックだっただろう。セルフィーユに保護されたとは言え、一人残ったのだから、彼女の胸中は複雑だったはずだ。
村人のために堤を作る許可を、有力者の下にわざわざ頼みに行くほどの女性だ。村は大切だったに違いない。
ラキティスが死んだ後、セルフィーユは城に閉じ籠ったまま、ほとんど姿を見せなくなったそうだ。マルヴィラも城に留まることはせず、別の場所で生きていた。
ただ、遠くを見て離れないラキティスを、セルフィーユはいつも後ろから眺めていたと言う。
ため息しか出ない。
「この絵は、その時のラキティスさんなんだね」
小鳥たちが後ろでぴっぴ鳴いている。城にいる数少ない魔物たち。ラキティスの料理を口にしてほとんどいなくなってしまったが、残っている魔物もいる。
念の為、私も付けしないようにしないと。
絵をぼんやり眺めて、やはり哀しい絵だなと思いつつ、ならば何故セルフィーユは魔物が死ぬことを放置したのだろうと考え直す。
「喧騒が嫌だったから城を建てたんでしょ。静かな山の上。魔物がセルフィーユの強さに挑んだり、人がセルフィーユの力を欲しがったりで、鬱陶しいから。もうめんどくさーい。って投げ出したくなって」
いやー、分かるよ。鬱陶しかったら、必殺ちゃぶ台返しするよね。それから落ち着く場所でゆっくりのんびり。温泉でも行きたいなあ。
けれどそこでラキティスが現れる。魔物に餌をあげる彼女を横目に、セルフィーユは何を考えていたのだろう。
「分かっててやらせてたら、心無い」
さすが魔王と言うところか?けれど、それは何のために?
「ラキティスさんの力を試したかった。は、まあ、置いといて。そうなると、ラキティスさんって、セルフィーユにとって試す程度の相手だったんじゃないの?」
それで愛している?随分と表面的な言葉になってしまうわけだが、セルフィーユは根性の限りを費やし、ラキティスの生まれ変わりである自分(本当かはともかく)を見つけ出し、ここに連れた。
長い時を経て、やっとのこと。
そうなると、それはそれで矛盾するわけで。
「よく分からん」
頭を冷やしに部屋へ戻ろう。ベランダに戻り、風に当たりたい。いや、すごく寒いんだけれどね。
もう冬が近付いているからそろそろ雪も降る。綿帽子を被る山も見えた。春先になれば雨が降り、水が流れて村へと被害が出るかもしれない。
ラキティスはセルフィーユにお願いにきた。
「堤を作らせてください」
それを無碍に断り。しかし折れて、それを許した。その頃からずっと、ラキティスは菓子やパンを魔物に与えていた。
そうして城へ訪れる回数も増えて、セルフィーユと親しくなり…。
順に追って、何か分かるわけでもない。空を見上げれば、寒空の中光り輝く物が見える。
「月が、綺麗だなあ」
二つの月が見える。大きな月と小さな月。映画で見るような惑星が目視で見えるみたいだ。空はおかしな色をして瞬いている。ピンクだったり青だったり、オーロラのように揺れて色を変える空。
空は明るいけれど、雲が流れれば月が隠れて、時折雲間から覗いた。
「暗ければ、怖いよ。魔物が、来るから-------」
あっという間に、月が隠れた。
-------周りの森に、魔物がいるんだ。
-------囲まれている!
-------何で、ラキティスがいるのに!
小鳥がピッピ鳴いている。それなのに村人たちが何か騒いでいる。
部屋の中は自由にできて生活はできるけれども、外に出る出入り口も窓も封じられてしまった。
セルフィーユ様のところに行くことができない。
閉じられた場所で、隙間から漏れる光で一日が過ぎるのが分かる。
今は夜で、月明かりが見えたり見えなかったりした。
けれど外から小鳥たちの鳴き声が聞こえる。小鳥たちが月明かりの中、迎えに来たのだろうか。
「魔物だ!!」
「誰か、助けて!!」
騒ぎが近くなってくる。悲鳴が轟く。金属が重なる音。何かが飛ぶ音が耳に届いた。
その中で小鳥たちの鳴き声が混ざる。
どうして、村人たちは騒いでいるのだろう。小鳥たちは私を襲ったりしないのに。
「げほ。なに、煙…?」
家の中に黒煙が入り込んだ。外が燃えているのか、ぱちぱちと爆ぜる音がする。
悲鳴、悲鳴。逃げ惑う人たちの足音。
何が起きているのか。外を見ることができず、出ることもできない。
「ごほっ。や、誰か。出して」
扉を押してもびくともしない。当たり前だ。木で打ち付けられて、出られないようになっている。斧でもなければ、扉を壊すことはできない。
窓も同じ。
けれど、煙が入ってくる。家が燃えているのか、扉の下や窓の隙間から煙が入る。熱を感じて壁から離れた。
「誰か、助けて」
助けを呼んでも応える声はない。むしろ悲鳴が遠ざかっている気がする。叫び声や泣き声が聞こえていたのに、それも聞こえなくなってきた。
みんな火事で逃げてしまったのか。ここに私がいることも忘れて、どこかへ逃げてしまったのか。
喉が痛い。煙で前も見えなくなってきた。息がしにくく、熱さで息苦しい。座り込んで助けを呼んでも、爆ぜる音しか気聞こえなくなってきた。
「れか、誰か、助けて。セルフィーユ様!」
「ラキティス!」
「セルフィーユ、さまっ」
助けに来てくれた。
部屋に現れたセルフィーユはすぐに駆け寄った。
息苦しく平伏していた自分を抱き上げると、セルフィーユは静かに口付ける。
「大丈夫ですよ。これでもう、何も心配することなどない」
そう言って、火の粉舞う中、静かに笑んだ。
「―――――凛花、風邪を引いてしまいますよ」
後ろから届く声にびくりと肩が揺れた。セルフィーユがいつの間にか部屋にいる。外に出ていた凛花へと、ゆっくり近付いて、扉を封じるように足を止めた。
「セルフィーユ…」
「部屋にお入りなさい。夜の風は身体に良くない」
緩やかな微笑み。けれどそれがひどく歪に見えるのは何故なのか。じりり、と後ずさる。ベランダの柵にぶつかって、それを止めた。
「どうしました?いらっしゃい。外は寒いですからね」
違和感があった。
どこからの違和感だろうか。
セルフィーユは動かない凛花に眇めた目を向ける。静かな笑みがいやに恐ろしい。柔らかな笑みではない、冷えた笑み。
「村は、燃えたんでしょう?」
「ええ、そうですね。魔物が襲い、村人が魔物に火を放ちました。闇雲に打ち続けて、家に燃え移ってしまった」
抑揚のない、感情の見えない声音。ただ、淡々と、セルフィーユは口にする。
「火焔が舞い、あと少しでラキティスも巻き込まれるところでした。村は燃え尽きてしまった」
「ラキティスさんが魔物に餌をあげたら、魔物が近付くって知ってたんでしょ。それなのに、どうして、魔物が近付く前に、村人から監禁されたラキティスさんを、もっと早く、助けにいかなかったの?」
セルフィーユは笑みを消した。冷眼がこちらへ届く。
どこから分かっていたのか。
「わざと、放置して、村人が何をするかも、想定してたんじゃない?」
「ラキティスは、気付きませんでしたけれど」
セルフィーユは間も取らず返答した。分かっていて、行ったのだと。
ぞわりと肌が泡立った。
「何で?ラキティスさんは村人のために堤を作ろうとしたんでしょう?村人たちが生きていけるように、セルフィーユにお願いをしに行ったんじゃないの?」
「彼女がそう思うのと、村人たちの思惑は違うでしょう」
セルフィーユは当然のように言い放つ。
ラキティスに依存する村人たちが、邪魔だったと。
彼女を道具のように扱ったことが許せないのか?いや、その前にラキティスは魔物に餌をやった。その行為を放置した時点で、セルフィーユがラキティスを道具として扱っているんじゃないか?
「彼女のためみたいに聞こえるけど、全然そんな感じじゃなくない?」
「何故です?ラキティスにとって村人は邪魔な存在でしょう。優しい言葉を掛けながら、村から出ないように繋いでいたんです。村人の一員として唆し」
それが、セルフィーユの行ったことと何が違うのか。
ラキティスを憂いるならば、他にも方法があっただろう。発端はラキティスで、彼女が行ったことに対して村人が動いた結果が、村の焼失になっている。
しかも彼女はそれが分かっていなかった。
それを、彼女のために放置したと言うのか?
堤を作る許可を得るために城に来て料理三昧。それで魔物が死ぬのならば、村人たちからは喜ばれそうなのだが。
「ラキティスは魔物を退ける力が元からある。いれば魔物は遠ざかる。けれど、料理や体液は別で、魔物を近寄らせる。ラキティスが魔物を呼べば、近付くこともある」
ラキティスが認識すれば魔物が近付くとなると、確かに自分が小鳥ちゃんたちを認識すれば、近くを寄るようになってきた。
そして、料理や体液は別となると、
「餌付けしてたら、近寄ってくるってこと?」
「そうだ。村に戻って、今までは遠巻きにしていた魔物たちが、村へ近付くことを恐れなくなった」
それって、野生動物に餌あげて、その味しめて人を襲う、熊とかの性質な気がする。
そうなると、例えば人の味を覚えた熊は、人しか襲わないとか。
「村人を、襲ったってこと?」
「村に魔物が出るようになって、村人がラキティスを家に閉じ込めるようになった」
「そっちか…」
つまり村人はラキティスの特異体質を知っていて、彼女が留守にすることを不満に思ったのだろう。ラキティスが村から離れれば魔物が近付いてくる。その頻度が増えた。
実際は、餌付けをしてからは魔物が近付く理由がラキティスにあったのに、ラキティスがいないせいで、魔物が近付くようになったと勘違いしたのだ。
ラキティスは家に閉じ込められて、外に出ることを許されなくなった。しかし、それが却って魔物を寄せ付けることになるとは知らず。
「俺が行った時には村は火に包まれて、セルフィーユが助けに行った後だった」
村人が魔物と戦ったのか、村は焼けて廃村になった。だから骨組みだけの焦げた家が放置されていたのだ。
後味悪い、不幸な事故となってしまった。
「ラキティスはそれからセルフィーユの城にいたが、よく湖が見える花畑で村の方向を眺めていた。それからしばらくして、病になって死んだ」
マルヴィラはそのまま黙りこくる。
魔物のせいで村人は死んでしまった。ラキティスはショックだっただろう。セルフィーユに保護されたとは言え、一人残ったのだから、彼女の胸中は複雑だったはずだ。
村人のために堤を作る許可を、有力者の下にわざわざ頼みに行くほどの女性だ。村は大切だったに違いない。
ラキティスが死んだ後、セルフィーユは城に閉じ籠ったまま、ほとんど姿を見せなくなったそうだ。マルヴィラも城に留まることはせず、別の場所で生きていた。
ただ、遠くを見て離れないラキティスを、セルフィーユはいつも後ろから眺めていたと言う。
ため息しか出ない。
「この絵は、その時のラキティスさんなんだね」
小鳥たちが後ろでぴっぴ鳴いている。城にいる数少ない魔物たち。ラキティスの料理を口にしてほとんどいなくなってしまったが、残っている魔物もいる。
念の為、私も付けしないようにしないと。
絵をぼんやり眺めて、やはり哀しい絵だなと思いつつ、ならば何故セルフィーユは魔物が死ぬことを放置したのだろうと考え直す。
「喧騒が嫌だったから城を建てたんでしょ。静かな山の上。魔物がセルフィーユの強さに挑んだり、人がセルフィーユの力を欲しがったりで、鬱陶しいから。もうめんどくさーい。って投げ出したくなって」
いやー、分かるよ。鬱陶しかったら、必殺ちゃぶ台返しするよね。それから落ち着く場所でゆっくりのんびり。温泉でも行きたいなあ。
けれどそこでラキティスが現れる。魔物に餌をあげる彼女を横目に、セルフィーユは何を考えていたのだろう。
「分かっててやらせてたら、心無い」
さすが魔王と言うところか?けれど、それは何のために?
「ラキティスさんの力を試したかった。は、まあ、置いといて。そうなると、ラキティスさんって、セルフィーユにとって試す程度の相手だったんじゃないの?」
それで愛している?随分と表面的な言葉になってしまうわけだが、セルフィーユは根性の限りを費やし、ラキティスの生まれ変わりである自分(本当かはともかく)を見つけ出し、ここに連れた。
長い時を経て、やっとのこと。
そうなると、それはそれで矛盾するわけで。
「よく分からん」
頭を冷やしに部屋へ戻ろう。ベランダに戻り、風に当たりたい。いや、すごく寒いんだけれどね。
もう冬が近付いているからそろそろ雪も降る。綿帽子を被る山も見えた。春先になれば雨が降り、水が流れて村へと被害が出るかもしれない。
ラキティスはセルフィーユにお願いにきた。
「堤を作らせてください」
それを無碍に断り。しかし折れて、それを許した。その頃からずっと、ラキティスは菓子やパンを魔物に与えていた。
そうして城へ訪れる回数も増えて、セルフィーユと親しくなり…。
順に追って、何か分かるわけでもない。空を見上げれば、寒空の中光り輝く物が見える。
「月が、綺麗だなあ」
二つの月が見える。大きな月と小さな月。映画で見るような惑星が目視で見えるみたいだ。空はおかしな色をして瞬いている。ピンクだったり青だったり、オーロラのように揺れて色を変える空。
空は明るいけれど、雲が流れれば月が隠れて、時折雲間から覗いた。
「暗ければ、怖いよ。魔物が、来るから-------」
あっという間に、月が隠れた。
-------周りの森に、魔物がいるんだ。
-------囲まれている!
-------何で、ラキティスがいるのに!
小鳥がピッピ鳴いている。それなのに村人たちが何か騒いでいる。
部屋の中は自由にできて生活はできるけれども、外に出る出入り口も窓も封じられてしまった。
セルフィーユ様のところに行くことができない。
閉じられた場所で、隙間から漏れる光で一日が過ぎるのが分かる。
今は夜で、月明かりが見えたり見えなかったりした。
けれど外から小鳥たちの鳴き声が聞こえる。小鳥たちが月明かりの中、迎えに来たのだろうか。
「魔物だ!!」
「誰か、助けて!!」
騒ぎが近くなってくる。悲鳴が轟く。金属が重なる音。何かが飛ぶ音が耳に届いた。
その中で小鳥たちの鳴き声が混ざる。
どうして、村人たちは騒いでいるのだろう。小鳥たちは私を襲ったりしないのに。
「げほ。なに、煙…?」
家の中に黒煙が入り込んだ。外が燃えているのか、ぱちぱちと爆ぜる音がする。
悲鳴、悲鳴。逃げ惑う人たちの足音。
何が起きているのか。外を見ることができず、出ることもできない。
「ごほっ。や、誰か。出して」
扉を押してもびくともしない。当たり前だ。木で打ち付けられて、出られないようになっている。斧でもなければ、扉を壊すことはできない。
窓も同じ。
けれど、煙が入ってくる。家が燃えているのか、扉の下や窓の隙間から煙が入る。熱を感じて壁から離れた。
「誰か、助けて」
助けを呼んでも応える声はない。むしろ悲鳴が遠ざかっている気がする。叫び声や泣き声が聞こえていたのに、それも聞こえなくなってきた。
みんな火事で逃げてしまったのか。ここに私がいることも忘れて、どこかへ逃げてしまったのか。
喉が痛い。煙で前も見えなくなってきた。息がしにくく、熱さで息苦しい。座り込んで助けを呼んでも、爆ぜる音しか気聞こえなくなってきた。
「れか、誰か、助けて。セルフィーユ様!」
「ラキティス!」
「セルフィーユ、さまっ」
助けに来てくれた。
部屋に現れたセルフィーユはすぐに駆け寄った。
息苦しく平伏していた自分を抱き上げると、セルフィーユは静かに口付ける。
「大丈夫ですよ。これでもう、何も心配することなどない」
そう言って、火の粉舞う中、静かに笑んだ。
「―――――凛花、風邪を引いてしまいますよ」
後ろから届く声にびくりと肩が揺れた。セルフィーユがいつの間にか部屋にいる。外に出ていた凛花へと、ゆっくり近付いて、扉を封じるように足を止めた。
「セルフィーユ…」
「部屋にお入りなさい。夜の風は身体に良くない」
緩やかな微笑み。けれどそれがひどく歪に見えるのは何故なのか。じりり、と後ずさる。ベランダの柵にぶつかって、それを止めた。
「どうしました?いらっしゃい。外は寒いですからね」
違和感があった。
どこからの違和感だろうか。
セルフィーユは動かない凛花に眇めた目を向ける。静かな笑みがいやに恐ろしい。柔らかな笑みではない、冷えた笑み。
「村は、燃えたんでしょう?」
「ええ、そうですね。魔物が襲い、村人が魔物に火を放ちました。闇雲に打ち続けて、家に燃え移ってしまった」
抑揚のない、感情の見えない声音。ただ、淡々と、セルフィーユは口にする。
「火焔が舞い、あと少しでラキティスも巻き込まれるところでした。村は燃え尽きてしまった」
「ラキティスさんが魔物に餌をあげたら、魔物が近付くって知ってたんでしょ。それなのに、どうして、魔物が近付く前に、村人から監禁されたラキティスさんを、もっと早く、助けにいかなかったの?」
セルフィーユは笑みを消した。冷眼がこちらへ届く。
どこから分かっていたのか。
「わざと、放置して、村人が何をするかも、想定してたんじゃない?」
「ラキティスは、気付きませんでしたけれど」
セルフィーユは間も取らず返答した。分かっていて、行ったのだと。
ぞわりと肌が泡立った。
「何で?ラキティスさんは村人のために堤を作ろうとしたんでしょう?村人たちが生きていけるように、セルフィーユにお願いをしに行ったんじゃないの?」
「彼女がそう思うのと、村人たちの思惑は違うでしょう」
セルフィーユは当然のように言い放つ。
ラキティスに依存する村人たちが、邪魔だったと。
彼女を道具のように扱ったことが許せないのか?いや、その前にラキティスは魔物に餌をやった。その行為を放置した時点で、セルフィーユがラキティスを道具として扱っているんじゃないか?
「彼女のためみたいに聞こえるけど、全然そんな感じじゃなくない?」
「何故です?ラキティスにとって村人は邪魔な存在でしょう。優しい言葉を掛けながら、村から出ないように繋いでいたんです。村人の一員として唆し」
それが、セルフィーユの行ったことと何が違うのか。
ラキティスを憂いるならば、他にも方法があっただろう。発端はラキティスで、彼女が行ったことに対して村人が動いた結果が、村の焼失になっている。
しかも彼女はそれが分かっていなかった。
それを、彼女のために放置したと言うのか?
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる