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第1章 ダンジョン編

会談

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ホテルに着くと

「料亭はここから15分の場所にあります。申し訳ございませんが30分で降りてきてください」

「俺はいいが、楓は間に合うか?」

「なんとかする」

シャワーを浴びて髭を剃って、ヤンググンゼの黒Tシャツとしまむらで買ったジーパンを着て髪型を適当に整える。

白いYシャツがあったので、ボタンを閉めないで羽織って外に出る。

ちょうど楓も同じタイミングで出てきたので一緒にエレベーターで降りる。

楓は完全には髪の毛が乾いていないようだ。

「なんですか、その黄ばんだYシャツ、佐久間さんも化粧ぐらいしてくださいよ」

「化粧水しか持ってないわよ」

「いいから、私が何とかします。運転手さん途中の紳士服売り場で止まってください
丸山さんは後ろに座って、佐久間さんは真ん中」

車が発車する。

「まずは、ベースはこれでいいや。佐久間さんベースくらい自分で出来ますよね」

「はい」

「元がいいのだからもったいないです」

立花さんは手際よく眉、目元、口を整えて、最後にチークを塗ってあっという間に化粧を終える。

「紳士服の店に着きました」

「丸山さんは、その黄ばんだのを脱いで来てください」

店に入るとすぐに、シャツのコーナーに向かい

「このシャツで、この人に合うサイズ出してくさい」

「これ8000円もするぞ」

「うるさい」

「こちらになります」

「すぐに着てくださいそれと、靴は何センチですか?」

「30cm」

「ありますか?」

「そのサイズは在庫してませんね」

「仕方ない、行こう」

「おつりは明日取りに来ますから、支払いはこれで」

そういって1万円をおいて店をでた。

車に入るとすぐに俺の髪の毛のセットを始める。

「ドライヤー無いので強引に行きますよ」

そういって、ハードジェルを手にたっぷり塗って、俺の髪に付けると、櫛で形を作っていく。

ウェットティッシュで手を拭くと、次は楓の髪をアップさせるようだ。

器用に髪を編んで持っていた髪飾りで髪の毛を止めた。

「かなりカジュアルだけどまだマシになった。二人とも腰道具をつけて帯刀してください。
冒険者スタイルと言うことで押し通します」

待ち合わせに10分ほど遅れてしまったが、料亭に到着した。

「楓、お前ってそんな美人だったか?」

「あなたも結構イケメンになってるわよ」

「俺がイケメンなのは前からだ」

「何言ってるんですか、二人とも美女とイケメンに仕上げてますよ。遅刻してるのですから急いでください」

店に入ると女中さんが部屋を案内してくれた。

「遅くなって、すみません」そう言って部屋に入った。

「51層攻略したのですよね、おめでとうございます」

澤村さんから援護射撃があったので、乗っかった。

「報告やらで時間がかかってしまいました」

「聞いていますから、気になさらないでください」

葉山さんからも援助射撃があった。

今日集まったメンバーを見ると知らない人が4人もいる。

名刺を頂くと、郷田自動車の社長と秘書、コンビニのセブンの社長と副社長だった。

話を聞くと澤村さん達のスポンサーに郷田自動車がなりたいという事らしい。

いくら葉山が大きな企業といっても、魔石エネルギー事業を1社で扱うには大きすぎるようだ。

まずは全日本企業が出資と技術力を出して事業を始める。

その後の勢力図の確保に大企業が動いている。

魔石エネルギー事業に立ち遅れた郷田自動車は、事業の一部に協力し合っている三葉に泣きついた。

郷田自動車の社長が言うには、

「郷田は致命傷で済んでいるが、ここで一歩でも間違えると致命傷では済まなくなる。
三葉さんから、勇者パーティーより可能性の高いパーティーを紹介していただけるとお聞きして飛んできた次第であります」

「澤村さん達が勇者より上なのは俺が保証しますよ。」

「51層を世界で一番早く攻略した丸山さんの紹介なら一歩を間違えないで済みます」

「装備は、現在勇者が使っている装備の改良版を藤田から提供させますので、1週間ほど待ってもらえますか?」

「丸山さん、その改良版ってのは?」

「これと同じミスリルをハイミスリルにしたものです」

そういって、俺のナイフを抜いて見せた。

「参考に代金はおいくらくらいですか?」

「このナイフがいくらに見えます?」

「2000万円くらいでしょうか?」

「このナイフが2000万円なら澤村さん達4人の装備一式で5憶円くらいになると思います。
今はまだ、値段が決まってません。そこは葉山さんと相談してください」

「そのナイフを良く見せてもらえませんか?」

郷田の社長はナイフに強い興味を示した。

「バインドと言ってこの装備は俺しか装備できないので、見せることしかできません」

「これは、どれくらい良く切れるのでしょうか?」

「俺のナイフは切る武器ではなく突き刺す武器なんです。反りがなく片刃ですが先端だけは両刃になってます。
このナイフが歯が立たないのは同じ素材でできた防具だけだと思います」

「それは凄いですね。しかしハイミスリルという素材は初めて聞きました」

「2週間前に藤田さん達が初めて錬金に成功した素材ですから。まだ俺のナイフと楓のシミターしか使われていません」

「防具には使わないのですか?」

「俺と楓は、スピード重視なので金属製の防具はほとんど使いません。俺たちは体重を100g単位で管理してるのです」

「そうなのですか」

「楓の場合は、体脂肪率の管理も大切ですしね。MP総量って体脂肪の量に比例するようなのですよ」

「魔力は体脂肪に貯められるってことですか?」

「そうですね。楓の場合は身長があるおかげで、体重が多いので体脂肪の量も多いから、他の魔導士と比べると1.5倍くらいのMPはあると考えてます」

「丸山さんは、体脂肪率低そうですね」

「これでも13%は維持させてます。」

「澤村さんが少し太っているのも関係あるのですか?」

それは私から話させていただきます。

「2年ほど前に丸山さんに、私自身の戦い方について相談したのですよ。
そしたら、丸山さんが『どうしてお前は剣を振るんだ?』と聞いて来たので、
私は哲学かなと思ったのですが、違いました。
私のように両手剣をつかう者達は、暗黒騎士と呼ばれたりします。
騎士ですから、剣で戦うのが当たり前だと思ってたのですが、
『お前らは、魔導士』だというのですよ。
『両手剣を振り回すより暗黒竜という魔法を使われるのが一番戦いにくい』
その一言で、私の戦い方と体重は大きく変化したのですよ」

「澤村さんのお腹についている脂肪に少し不安があったのですが、今の話を聞いて納得しました」

「私は、30kgの装備で1日25kmを歩け、体脂肪率を20%に維持することを心がけています」

「新しい装備は、タンク用でも総重量で15kg以下ですよ。ハイミスリルの魔法変換率もミスリルより高いので体つくりを変えないといけないかもよ」

「白魔導士も黒魔導士も効率上がるのですか?」

「ああ、ハイミスリルの杖は2本できていたぞ。明日にでも受け取るといいよ」

「あのー、勇者パーティーが使ってたみたいなド派手な杖ですか?」

「性能重視なので、非常にシンプルだったぞ。俺のナイフみたいに」

「良かったと思いながらも、少し残念な気がします。」

「性能に影響でない程度に派手さもスポンサー様にとっては大事になってくると思うから、藤田達と相談するといいよ」

「「わかりました」」

「装備が出来上がったら、澤村達には、51層の素材集めしてもらいたいから、俺たちが51層まで引っ張るよ」

「いい素材が出たのですか?」

「ああ」

「デススパイダーの糸ですね。ギルドから情報が上がってきました。」

葉山さんの耳にはすでに届いている。

「あの手の魔物は、タンクがいるパーティーの方が戦いやすい。俺たちには不向きな魔物だ」

「丸山さん達は、スピードタイプだから、同じスピードタイプが戦いにくいのでした?」

「今日は毒を4回もくらってしまった。澤村なら暗黒竜で魔物の動きを束縛できるから楽に戦えるだろうよ」

「勇者達は、デススパイダーに苦戦して攻略を中断したようですね。」

「スタンだけでは、毒を防ぎきるのは無理だろうよ」

新素材に興味のある葉山さんと郷田の社長は、折れて血の話を食い入るように聞いていたが、

コンビニセブンのお二人は、

「新装備で4人のフィギュアの一番くじを独占販売させてください」

を言うのが精いっぱいだったようだ。

葉山さんも郷田社長も許可を出してほっとしていた。

1時間ほど話をしていると、食事が運ばれてきた。

そこからは、仕事の話はなくなった。

「丸山さんと佐久間さん、今日は雰囲気が違いますね」

「実は今日遅れた理由は、服を買いに行ったり化粧をする時間がかかったためなんだ。
澤村さんたちは、正式な服装持っていたのですね」

「セブンさんのパーティーに何度か出席する機会がありましたから」

「俺たちは持ってなくて、ちょうど明日買いに行こうとは話していたんだがな
葉山さん、明日バイク借りれないですか?大阪まで行きたいのですが?」

「立花に車を出させるように言っておきます。バイクは少し待ってください。
今、安全性の確認をしている魔動バイク試作車をお渡しします。」

「もう、そんなところまで行ってるのですね」

「二人乗りはできますか?」

「そのように改造させておきます。」

「ありがとうございます」

楓は後ろに乗る気満々なようだ。

「あのーその一番くじの発売も・・・・」

「わかりました。セブンさんの独占でかまいません」

「あっ、澤村さん、相談ってこれでよかったのですか?」

「はい、俺たちのクラフターは藤田さんのチームで雇ってもらえるようになりました。
俺たちが装備を提供していた冒険者パーティーも郷田さんがサポートしていただけるようになりました。」

「澤村さん達はそんなことまでしてたんだ。」

「セブンさんが毎年1億円もサポートしてくれていましたから。」

「勇者パーティー達はそれ以上貰っていたけど、自分達が豪遊するために使ってただけだ」

「それは通信大手のセントラルラインは当てが外れたでしょうね
それだけ出してるってことは、クラフターの金も含んでいたのですよ。
サポーター側にも金額の目安が存在しますから。」

「あいつら、藤田達の金を横取りしてたのか!」

「そうだと思います。サポート料が最高でも一人2500万円ですから」

「セブンさんはどいった見積だったのですか?」

「たしか戦闘員に1500万円、クラフターには一人200万円です。
勇者パーティーのクラフターはレベル高いので500万円は出していたと思います。
一円も配られてなかったのですか?」

「ああ」

「おかげで、三葉が簡単に引く抜けたのですよ」

「たしか、勇者パーティーは戦闘員6名で登録されていましたから、お二人の分も出ていたと思いますよ」

「じゃあ、あいつら2億近い金貰ってたのかよ」

「おそらくは・・・・」

「昨日、セントラルラインの弁護士から10名を返すように訴えてきたのですよ。契約書をもってね」

「そこには、リーダーの判しかなかったので、金の流れを調べてもう一度来いと言ってやりましたよ」

「じゃあ、裁判とかで負けたら、俺たち勇者の下で働くのか?」

「それはありませんよ。契約書の内容をこちらで確認しましたが、10人の名前すら載ってませんでした」

「あいつら、俺たちの名前すら覚えてないですからね」

「近いうちに発表があるのですが、異世界と現世界を結ぶ通信素子が見つかったのですよ。」

「マジですか?」

「エネルギー変換装置を研究していたら、たまたま見つかったのですよ。
それは、セントラルラインの商売敵である、ドッコモさんと、AGさんに技術提携を結んでおります。
そこに、セントラルラインが入れるようにするために、色々仕掛けてきてるのですよ」

「葉山さんも大変っすね」

「そうだ、藤田君がその通信素子に興味をもってね。面白い企画書を書いて来たので、開発を進めるように言ってます」

「どんなものですか?」

「この場では、まだ言えませんね」

「後で聞きます」

郷田の社長は、教えて欲しいと何度もお願いしていたが、葉山さんは断った。

企業間でのマウントの取り合いって感じだった。

その日の会談はこれでお開きとなった。
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