偶像は神に祈る夢をみる

なめこ玉子

文字の大きさ
上 下
10 / 30

一年後の結末 5

しおりを挟む
空には雲がかかっていて、でも雨はない。
等間隔に置かれた街灯が交互に影を動かす様が、
姉さんの消えたあの日を思い起こさせた。

昨日のデミのことを思い出す。モグラと名乗ったあのデミは
すべてが終わったと言っていた。すべてが終わって元通りになると。

角をまがるとまた部屋の窓に光が灯っているのが見えた。
もう変な期待はすまい。モグラは姉が外界に消えたと教えてくれた。
あれは待ち続ける僕のことを哀れに思ったのだろうか。
外界へ行った人間は二度とこの街に帰っては来れない。

ドアに手をかける。あの毛むくじゃらの生き物がまた、我が物顔で部屋を荒らしているのを思うとため息が混じった。

「おい。お前また…」
「お、おかえりなさい。お兄様!」

玄関には知らない少女が立っていた。歳は10歳ぐらいだろうか。
灰色がかった瞳が、おずおずと探るように僕を捉える。

「なっ、だ、っだれ?」

「は、はじめまして。私、エリカ・G5-d003といいます。兄様の…、妹です!」
少女は恥ずかしそうに微笑む。

「エリカ…」
姉と同じ名前。茶色の髪、薄い色の瞳、白い肌、
その容姿すらどことなく姉に似ている気がする。

「今日からよろしくおねがいします。私、アカデミーの頃からずっと自分の兄妹になるのがどんな人か楽しみにしてたの。今日はお兄様に会えてほんとにうれし…」

「⁉」
家の中に違和感を感じて僕は、少女を押しのけてあがりこむ。

まず居間に駆け込む。違和感は偽りではなかった。
すぐさま二階へと登る。部屋のドアを開けて僕は愕然とした。

「無い、なんでだ?」
空っぽの部屋にスーツケースが一つだけ置かれていた。まるでそこが新しい主のものだと主張するように。昨日まで確かにここは姉の部屋だった。
「なにもない…」

「お、お兄様?」
気がつけば彼女がいつの間にか後ろにいて、困惑した表情を向ける。
「どうしたんですか?」
その可愛らしい表情に僕は嫌悪感さえ抱いた。

「どこだ!」
怒鳴り散らす。

「ひっ…、わ、私なにもしてないで…す」
少女は小さく声を上げて、怯えた表情に変わった。

「どこにやった!」
彼女の肩を乱暴につかみもう一度問いかける。

「なんのはなしですか」
今にも泣きそうな顔だった。混乱する彼女をよそに僕は悟る。
『全部、元通りになる』昨日、あのデミが僕に言った言葉の意味を。

僕たちの家から、姉さんの痕跡が消えていた。
花柄のシーツも、二人で撮った写真も、彼女のお気にのマグカップも、何もかも。彼女の私物だけ綺麗さっぱり。

まるで彼女なんて最初からいなかったかのように。

「ひっぐ…」
その声に思い出して、乱暴につかんでいた手を離す。
僕にはもう何がなんだかわからない。

「わ、私は、ひっ、きっとお兄様も、ひっ、妹ができること喜んでくれるかと…」
目の前では年端の行かぬ少女が泣いている。まるでエレナ姉さんのいた場所を埋め合わせのように現れた妹を前に、僕は苛立ちをぶつける相手を見つけられなかった。

僕は思い出す。が決めたことは絶対。それはこの街の鉄の掟。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅

シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。 探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。 その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。 エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。 この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。 -- プロモーション用の動画を作成しました。 オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...