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一年後の結末 5
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空には雲がかかっていて、でも雨はない。
等間隔に置かれた街灯が交互に影を動かす様が、
姉さんの消えたあの日を思い起こさせた。
昨日のデミのことを思い出す。モグラと名乗ったあのデミは
すべてが終わったと言っていた。すべてが終わって元通りになると。
角をまがるとまた部屋の窓に光が灯っているのが見えた。
もう変な期待はすまい。モグラは姉が外界に消えたと教えてくれた。
あれは待ち続ける僕のことを哀れに思ったのだろうか。
外界へ行った人間は二度とこの街に帰っては来れない。
ドアに手をかける。あの毛むくじゃらの生き物がまた、我が物顔で部屋を荒らしているのを思うとため息が混じった。
「おい。お前また…」
「お、おかえりなさい。お兄様!」
玄関には知らない少女が立っていた。歳は10歳ぐらいだろうか。
灰色がかった瞳が、おずおずと探るように僕を捉える。
「なっ、だ、っだれ?」
「は、はじめまして。私、エリカ・G5-d003といいます。兄様の…、妹です!」
少女は恥ずかしそうに微笑む。
「エリカ…」
姉と同じ名前。茶色の髪、薄い色の瞳、白い肌、
その容姿すらどことなく姉に似ている気がする。
「今日からよろしくおねがいします。私、アカデミーの頃からずっと自分の兄妹になるのがどんな人か楽しみにしてたの。今日はお兄様に会えてほんとにうれし…」
「⁉」
家の中に違和感を感じて僕は、少女を押しのけてあがりこむ。
まず居間に駆け込む。違和感は偽りではなかった。
すぐさま二階へと登る。部屋のドアを開けて僕は愕然とした。
「無い、なんでだ?」
空っぽの部屋にスーツケースが一つだけ置かれていた。まるでそこが新しい主のものだと主張するように。昨日まで確かにここは姉の部屋だった。
「なにもない…」
「お、お兄様?」
気がつけば彼女がいつの間にか後ろにいて、困惑した表情を向ける。
「どうしたんですか?」
その可愛らしい表情に僕は嫌悪感さえ抱いた。
「どこだ!」
怒鳴り散らす。
「ひっ…、わ、私なにもしてないで…す」
少女は小さく声を上げて、怯えた表情に変わった。
「どこにやった!」
彼女の肩を乱暴につかみもう一度問いかける。
「なんのはなしですか」
今にも泣きそうな顔だった。混乱する彼女をよそに僕は悟る。
『全部、元通りになる』昨日、あのデミが僕に言った言葉の意味を。
僕たちの家から、姉さんの痕跡が消えていた。
花柄のシーツも、二人で撮った写真も、彼女のお気にのマグカップも、何もかも。彼女の私物だけ綺麗さっぱり。
まるで彼女なんて最初からいなかったかのように。
「ひっぐ…」
その声に思い出して、乱暴につかんでいた手を離す。
僕にはもう何がなんだかわからない。
「わ、私は、ひっ、きっとお兄様も、ひっ、妹ができること喜んでくれるかと…」
目の前では年端の行かぬ少女が泣いている。まるでエレナ姉さんのいた場所を埋め合わせのように現れた妹を前に、僕は苛立ちをぶつける相手を見つけられなかった。
僕は思い出す。彼女が決めたことは絶対。それはこの街の鉄の掟。
等間隔に置かれた街灯が交互に影を動かす様が、
姉さんの消えたあの日を思い起こさせた。
昨日のデミのことを思い出す。モグラと名乗ったあのデミは
すべてが終わったと言っていた。すべてが終わって元通りになると。
角をまがるとまた部屋の窓に光が灯っているのが見えた。
もう変な期待はすまい。モグラは姉が外界に消えたと教えてくれた。
あれは待ち続ける僕のことを哀れに思ったのだろうか。
外界へ行った人間は二度とこの街に帰っては来れない。
ドアに手をかける。あの毛むくじゃらの生き物がまた、我が物顔で部屋を荒らしているのを思うとため息が混じった。
「おい。お前また…」
「お、おかえりなさい。お兄様!」
玄関には知らない少女が立っていた。歳は10歳ぐらいだろうか。
灰色がかった瞳が、おずおずと探るように僕を捉える。
「なっ、だ、っだれ?」
「は、はじめまして。私、エリカ・G5-d003といいます。兄様の…、妹です!」
少女は恥ずかしそうに微笑む。
「エリカ…」
姉と同じ名前。茶色の髪、薄い色の瞳、白い肌、
その容姿すらどことなく姉に似ている気がする。
「今日からよろしくおねがいします。私、アカデミーの頃からずっと自分の兄妹になるのがどんな人か楽しみにしてたの。今日はお兄様に会えてほんとにうれし…」
「⁉」
家の中に違和感を感じて僕は、少女を押しのけてあがりこむ。
まず居間に駆け込む。違和感は偽りではなかった。
すぐさま二階へと登る。部屋のドアを開けて僕は愕然とした。
「無い、なんでだ?」
空っぽの部屋にスーツケースが一つだけ置かれていた。まるでそこが新しい主のものだと主張するように。昨日まで確かにここは姉の部屋だった。
「なにもない…」
「お、お兄様?」
気がつけば彼女がいつの間にか後ろにいて、困惑した表情を向ける。
「どうしたんですか?」
その可愛らしい表情に僕は嫌悪感さえ抱いた。
「どこだ!」
怒鳴り散らす。
「ひっ…、わ、私なにもしてないで…す」
少女は小さく声を上げて、怯えた表情に変わった。
「どこにやった!」
彼女の肩を乱暴につかみもう一度問いかける。
「なんのはなしですか」
今にも泣きそうな顔だった。混乱する彼女をよそに僕は悟る。
『全部、元通りになる』昨日、あのデミが僕に言った言葉の意味を。
僕たちの家から、姉さんの痕跡が消えていた。
花柄のシーツも、二人で撮った写真も、彼女のお気にのマグカップも、何もかも。彼女の私物だけ綺麗さっぱり。
まるで彼女なんて最初からいなかったかのように。
「ひっぐ…」
その声に思い出して、乱暴につかんでいた手を離す。
僕にはもう何がなんだかわからない。
「わ、私は、ひっ、きっとお兄様も、ひっ、妹ができること喜んでくれるかと…」
目の前では年端の行かぬ少女が泣いている。まるでエレナ姉さんのいた場所を埋め合わせのように現れた妹を前に、僕は苛立ちをぶつける相手を見つけられなかった。
僕は思い出す。彼女が決めたことは絶対。それはこの街の鉄の掟。
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