栄華の左目、誓いの右目

五色ひいらぎ

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慈寧宮にて・3

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 金では皇統九年(一一四九年)、海陵王完顔迪古乃による帝位簒奪事件が起きた。海陵王は苛烈な粛清を行い、金の皇族が多く殺害された。犠牲者として、史書には完顔宗賢の名が記録されている。
 完顔宗賢の子について、史書に記述はない。だが海陵王は身内の皇族を信用しておらず、後に彼が南宋を攻撃した際も、兵力の大半は契丹きったん人であったとされる。完顔宗賢の子らが生き延びたとすれば、おそらく彼らは南宋を攻撃する側でなく、それを止める側に身を置いたであろうと、推測される。



 宣和皇太后は左目を癒された後も長く生き、紹興二十九年(一一五九年)に八十歳で世を去った。死後は顕仁皇后とおくりなされ、共に戻った宣和の太上皇、すなわち徽宗きそうの陵墓に合葬された。晩年は富貴と名誉に満ちていたと伝わるが、皇太后本人は質素な生活を好み、帝から支給された銭の多くに手を付けず蓄財していたという。
 皇太后の晩年については奇妙な噂もある。皇太后が、金の使者にしばしば金品を託していたという説である。だがそれがどんな意図であったのか、最終的には誰に渡っていたのかなど、すべては謎のままである。

【了】
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感想 1

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みんなの感想(1件)

東郷しのぶ
2024.06.27 東郷しのぶ

〝靖康の変〟には、以前より興味がありまして……。
凄いお話でした。拝読して圧倒され、感動しました。

五色ひいらぎ
2024.06.30 五色ひいらぎ

お読みくださりありがとうございます。
靖康の変まわりは史実があまりにも重すぎるので、書きながら何度も「自分などが書いてしまっていいのだろうか……」と悩むことがありました。が、こうしてお言葉をいただけると、いくらか救われた気持ちになります。
あらためまして、ご感想ありがとうございました。

解除

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