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第52話 衝撃の事実
しおりを挟む学校帰り、僕達は再び麻沙美先輩のお家にお邪魔していた。
「お茶を用意するから、二人はくつろいでいてくれ」
麻沙美先輩にそう言われ、僕と伊万里先輩は大人しく通された席にて待つ。
「「…………」」
なんとなく、気まずい沈黙が流れる。
僕の方は先日この家で麻沙美先輩と致してしまった背景があるので当然なのだが、伊万里先輩もやはり意識しているのだろうか。
「どうしたんだい? 二人ともそんな固まって」
お茶を手に戻ってきた麻沙美先輩が、僕らを見てそんなことを言ってくる。
自分も当事者だというのに、この余裕はなんなのだろうか。
「……まあいいか。それで、藤馬君の方から何か私達に話すことがあるらしいけど、なんだろうか?」
そう。今日こうして三人で集まったのは、昼に永田と話した件について確認したかったからである。
具体的に、伊万里先輩はこの関係についてどう思っているのか、僕らの前で話して貰おうと思ったのだ。
「それは……、伊万里先輩に、僕と麻沙美先輩が関係を持ってしまったことについて、どう思っているかを聞かせて欲しいんです」
僕がそう言うと、伊万里先輩はその大きな目をさらに大きく開いて驚いた顔をした。
無理も無いだろう。僕が今言ったのは、より軽薄に言うと「僕、麻沙美先輩とヤッちゃったけど、今どんな気分?」と煽っているのと変わらないレベルだからだ。
「……藤馬君、その質問の意図は、なんでしょうか?」
「……すいません。まず断っておくべきでしたが、僕は決して単純に感想を聞きたいとかそういうワケではないんです。ただ、こんな関係になってしまって、伊万里先輩はどう思っているか、聞いておきたかったんです」
僕と麻沙美先輩は、肉体関係を持ってしまった。
しかし、それは伊万里先輩も同意の上であったという。
僕としては、それにどういう意図があったのか、聞いておく必要があるのだ。
「それは……、正直に言えば複雑な気持ちですよ。やっぱり、藤馬君は私の彼氏ですし、独り占めしたい気持ちはありますから。ですが……」
伊万里先輩は本当に複雑そうな表情になり、そこで言葉を切る。
僕ははやる気持ちでその続きを促そうとしたが、後ろから麻沙美先輩の口を押えられ、阻止されてしまう。
「……ありがとうございます。麻沙美先輩。でも、もう覚悟は決めたので、大丈夫です」
……覚悟? 覚悟ってなんの覚悟だ?
単語が単語なだけに、僕の中でざわざわとした感情がこみ上げてくる。
伊万里先輩は、一体僕に何を言うつもりなんだ?
「藤馬君、実は私、一つだけ隠し事をしていました」
「隠し事、ですか?」
「はい。実は私、藤馬君と付き合うまでは、麻沙美先輩と、少し進んだ関係にまで発展していたんです」
「っ!?」
少し、進んだ関係? それって……
「で、でも、前に麻沙美先輩は、友人以上の関係にはなれなかったって……」
「はい。麻沙美先輩とは、恋人関係にまでは至りませんでした。でも、その……、肉体関係は、あったんです……」
なん……、だと……
じゃあ、前に麻沙美先輩がエロの知識を仕込んだって言ってたのは……
自然と麻沙美先輩へと視線が向く。すると麻沙美先輩はコクリと頷き、
「言っただろ? 私は実践派だって」
た、確かに言っていた!
しかも、よくよく考えてみれば、伊万里先輩にどんな風にエロ知識を仕込んだのか、聞いた覚えがないぞ!?
「藤馬君と出会うまで、私と麻沙美先輩は所謂〇ックスフレンドのような関係でした。と言っても、本当にソフトな内容ではありましたが……」
衝撃の事実である。
しかし、伊万里先輩のエロ知識や技術を考えれば、その可能性は否定できるものではなかった。
「伊万里は私との関係を一方的に打ち切った手前、負い目があったんだよ。だから、私と藤馬君との接触に寛容だったんだ」
「……そうですね。それに、私自身に自信がなかったのもあります。私の知識や技術は、所詮麻沙美先輩から軽くかじった程度のものでしかありませんでしたから」
告げられた事実が衝撃的過ぎて、頭の中が大混乱中である。
色々と覚悟してきたつもりだったのに、怒涛の展開に全くついていけてない。
「……私は、麻沙美先輩と肉体関係を持っていたことを隠していました。だから、麻沙美先輩と藤馬君が肉体関係を持つことを止める資格なんて、最初からなかったんですよ」
まさか、伊万里先輩が僕と麻沙美先輩の関係を認めた背景に、そんな事実が隠されていただなんて……
そんなの、想像できるワケがない。
「それが、二人の関係を認めた理由です。……怒りますか?」
「いや、怒りませんけど……」
僕の中では、怒るとか怒らないとか、そういう次元の話ではなくなってしまっている。
昼に、もし伊万里先輩が別の男と……といった想像をしたが、相手が麻沙美先輩であったのなら話は大分違うぞ……
ていうかあれ、コレって僕……、どうすればいいんだ?
「ふぅ……、良かった。藤馬君が思いつめた表情で話しがしたいなんて言うから、私はちょっとビビっていたよ」
「え、ビビっていたって、なんでですか?」
「そりゃ決まってるだろう。藤馬君にフラれるかもしれないと思っていたのさ」
「ええぇ!?」
いや、話の展開次第ではそうなる可能性も十分あったけど、まさか麻沙美先輩がビビるなんて……
そう思ったが、よく見てみると僕の肩に置いた麻沙美先輩の手は少し震えていた。
僕なんかにフラれるのを、本当にビビっていたのか……
「それで伊万里、私からも一つ謝りたいことがある」
「それは、藤馬君に本気になってしまったことですか?」
「なっ!? 何故わかった!」
「わかりますよ。だって麻沙美先輩、完全に乙女の顔してますから」
「なん……だと……」
麻沙美先輩は自分の顔をベタベタと触りながら、首をかしげている。
その姿を見て、僕は思わず吹き出してしまった。
「な、何故笑う! この! この!」
そんな僕を見て、麻沙美先輩は照れ隠しなのかコツコツと頭を叩いてくる。
それを無視しつつ、僕は改めて伊万里先輩に向き直る。
「僕からも、伝えることがあります」
改めて覚悟を決め、僕も胸の内を伝えることにする。
あとは、なるようになれだ。
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