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第45話 お家デート③
しおりを挟む控えめに言って、蟹鍋は最高であった。
蟹自体の美味しさは言わずもがな、その出汁が染み出た煮汁も堪らないモノだった。
シメの雑炊まで食べてしまい、お腹はパンパンである。
「ご馳走様です。本当に美味しかったです」
「お粗末さまです。年に何度か届きますので、その時はまたご馳走しますね」
こんな美味しい蟹が何度も届くなんて、羨ましいなぁ……
僕の家に届くのなんて、せいぜい果物くらいのものである。
それだって十分に嬉しいのだけど、蟹と比べると流石に少し劣ってしまう。
「さて、食事も終わったことですし今度は……」
伊万里先輩の言葉にビクリと反応してしまう。
やはりどうしても、さっきの「続きは、またあとで」という言葉を意識してしまうからだ。
「映画を見ましょうか」
「え、映画、ですか……」
先輩の言葉は、予想に反して普通の内容であった。
別に期待していたワケじゃないが、少し拍子抜けする。
「はい。この前見た映画と同じ監督が作った作品なんですけど、丁度安かったので買ってみたんです」
この前の映画というと、以前三人で見に行ったB級映画のことだろう。
あの時は、麻沙美先輩と伊万里先輩の二人に指を舐めしゃぶられるという、とんでもない状況に陥ったのを覚えている。お陰で、肝心の映画の内容はほとんど思い出せなかった。
(今度は落ち着いて見れるといいけど……)
………………………………
……………………
…………
やはり同じ監督ということもあり、この映画もB級の名に恥じぬ出来栄えであった。
主人公は休暇中の警官で、とある街に遊びに来たところトラブルに巻き込まれるという流れから物語は始まる。
そのトラブルというのが、新種の病原菌が原因で人が獣と化すというもので、獣化した住人は狂暴で主人公とヒロインを食べようと襲い掛かってくるのである。主人公とヒロインはなんとかその手から逃げ出すも、段々と逃げ場は失われ……
(そして濡れ場に突入するんだよなぁ……)
常識的に考えて、そんなことをしている場合じゃないと思うんだけど、何故かこの手の作品だとそういう流れになりやすいような気がしてならない。視聴者へのサービスシーンなのかもしれないが、もう少しやりようはないのだろうか……
『あぁ……、いいわ……』
映像では女優がお色気シーンを熱演している。
それに僕の体は……、残念ながら反応していた。
(だって、仕方ないじゃないか……)
映画やドラマのお色気シーンというのは、何故だか妙に興奮するものである。
終始アダルトな展開な映像作品よりも、こういったワンシーンで行われる性行為のほうが視聴者的には興奮度が高いのだ。
これは漫画や小説などにも当てはまる現象と言えるだろう。
『はぁ……、はぁ……』
「はぁ……、はぁ……」
映画の音声と重なるように、伊万里先輩の呼吸も荒くなっている。
最初は拳一つ分離れていた距離も、今では完全に密着状態であった。
「い、伊万里先輩……、その、近いですよ」
「はい……。近いですね」
そう言って、伊万里先輩は僕の顎の辺りをさわさわとくすぐってくる。
その手つきが妙にいやらしく、背筋にゾワゾワとした怖気が走った。
「……藤馬君。さっき言ったでしょう? 続きは、またあとでって」
「い、言ってましたけど、今は映画を見るんじゃ……」
「そのつもりでしたけど、アッチが盛り上がってるんですもの。私、もう我慢できません……」
アッチが盛り上がってるのはストーリー上の問題なので、感化される理由にはならないと思うんですけど!?
「藤馬君は、イヤですか?」
ズルイ質問が飛んでくる。
そんなの、イヤなワケないじゃないか……
「イヤでは、ありません。むしろ僕も興味はバリバリあるんです。ただ、それとは別に体の方がもたなそうで……」
「もたなくても、いいじゃありませんか。今日は誰もいませんし、私も受け止める覚悟はできていますよ」
「……っ!」
伊万里先輩の悪魔の誘惑が、僕の耳元で囁かれる。
そんなことを言われて我慢ができるほど、僕は子供でもないし、大人でもない。
「藤馬君……」
「伊万里先輩……」
僕はそのまま、まるで磁力にでも引かれるかのように、伊万里先輩の唇へと引き寄せられていった。
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