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第21話 先輩達とデート
しおりを挟む先日は保険をかけておいたお陰でなんとか事なきを得たが、アレからも麻沙美先輩の積極的なアプローチは続いている。
登下校にはセットで付いてくるようになり、それ以外でも頻繁に接触を試みてきたりと、ほとんどべったりの状態であった。
僕は誓って伊万里先輩一筋なのだが、ああも積極的に愛情を向けられると、流石に少なからず情が湧いてくるものである。
だから正直困っているのだけど……
「先……、伊万里先輩、本当に麻沙美先輩も来るんですか?」
「はい。ですが問題ありません。今日は私が勝ちますので!」
……どうやら、今日もアノ勝負が行われるようだ。
アノ勝負とは最近頻繁に行われている、『僕をより気持ちよくさせた方が勝ち』という酷い勝利条件の勝負のことである。
この一週間、僕はこの勝負に振り回されっぱなしであった……
何故こんな勝負が始まってしまったのか?
それはもちろん、麻沙美先輩が余計なことを言い出したせいである。
『藤馬君が逃げ出すのは、伊万里が下手くそだからだよ』
この発言が、伊万里先輩に火を点けてしまった。
当然僕は否定したのだが、伊万里先輩はああ見えて中々頑固で、一度火が点いたらそう簡単には止まってくれないところがある。
そのあとは麻沙美先輩の誘導にまんまと引っ掛かり、「じゃあ、麻沙美先輩より私が上手ければ問題ありませんね!」といった感じでこの勝負が始まったのであった。
「それよりも、やっぱりまだ慣れませんか? 名前で呼ぶの」
「……はい。僕の中では先輩と言えば伊万里先輩だったので」
麻沙美先輩と知り合ったことで、先輩と呼ぶと二人が振り返るという弊害が発生した。
その為に、麻沙美先輩、伊万里先輩と呼び分けることになったのだが、コレが未だに慣れずしっくりこないのだ。
この先、他の先輩達と交流が増える可能性を考えれば、早めに慣れるべきなのだろうけど……
「そう言ってもらえると嬉しいですけど、やはり名前を呼ばれるのも嬉しいので、複雑な気分です……」
そう言って困った顔を見せる伊万里先輩。
(ああ、今日も伊万里先輩は可愛いなぁ……)
「こらこら、私を抜きにして二人でイチャイチャ始めるのはズルイぞ?」
僕らが見つめ合ってニヤニヤしていると、その間に割り込むように麻沙美先輩が現れる。
「「麻沙美先輩……」」
「おいおい、なんだその反応は。流石の私も少し傷つくぞ?」
そう言って少し拗ねた様子を見せる麻沙美先輩。
しかし、正直に言って今のは完全にお邪魔虫の所業であった。
せめてもう少しだけでいいから、空気を読んで欲しいと思う。
「……それで、麻沙美先輩は何しに来たんですか?」
「おいおい、本当に冷たいな藤馬君。私がいたらマズかったりするのかな?」
「マズくはありませんが、今日はやっと伊万里先輩と二人きりになれると思っていたので……」
今日は以前から、伊万里先輩と二人でデートに行く約束をしていたのである。
久しぶり(といっても一週間ぶりくらいだけど)に二人きりになれると思い安心していたのだが、まさか休日まで麻沙美先輩がついてくるとは思わなかった。
「と、藤馬君、私とのデートを、そんなに楽しみにしていただなんて! ……麻沙美先輩、やっぱり今日の勝負はなしでお願いします」
「それは断る。私だって楽しみにしていたんだからな」
「でも、藤馬君が……」
意見を求めるよう、先輩が視線を投げかけてくる。
(うーん、困ったな……)
僕の精神衛生上は伊万里先輩の案に賛成なのだが、それだと流石に麻沙美先輩に悪い気がする。
僕は決して麻沙美先輩のことを嫌っているワケじゃない。
むしろ、楽しみにしていたなんて言われると嬉しく感じるくらいには好いている。
問題なのは、やはり僕がもつかどうかだけなのであった。
「……いえ、何も聞いていなかったからビックリしただけで、麻沙美先輩が一緒でも全然問題ありませんよ。人数が多い方が楽しいことも多いですしね」
「おお! 流石は藤馬君だ! 私が初めて好きになった男なだけはあるなぁ!」
そう言って頬ずりをしてくる麻沙美先輩。それを僕はやんわりと押しのけた。
「おや、初心な反応を期待したのに、つれないなぁ」
「この一週間でいい加減慣れましたから」
麻沙美先輩はことあるごとにスキンシップをしてくるため、流石にもう慣れてしまった。
ここは学校ではないので、ファンからの嫌がらせもないし気楽なものである。
「んっ!」
「って痛い!?」
などと思っていたら、何故か伊万里先輩から攻撃を受けてしまった。
「藤馬君、だんだん麻沙美先輩に優しくなっています……」
「そ、そんなことありませんよ! ただ慣れただけですって!」
ぽかぽかと叩いてくる伊万里先輩はとても可愛いのだが、誤解で叩くのは流石にやめて欲しい。
「ほほう、藤馬君も徐々に私に惹かれ始めているということか。ふふっ……♪」
……いや、本当に誤解ですからね!?
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