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第11話 体を拭いてもらいました
しおりを挟む少しドキドキしつつも、僕はなんとか無事雑炊を食べ終えることができた。
たかが雑炊を食べるのに無事も何もないだろと思うかもしれないが、実はここでも先輩は攻めてきたのである。
例えば、口に挿し入れるレンゲで歯茎や舌を優しく刺激したり、口移しで食べさせようとしたりなどだ……
口移しについてはなんとか阻止したものの、口内への刺激については防ぐことが難しく、正直何度か危ない場面もあった。
しかし、
(流石の僕も、市販のプラスチックレンゲごときに屈するワケにはいかないからね……)
かなり謎なプライドだが、そのプライドのお陰で先輩の攻撃を防ぎきれたとも言えるので気にしないでおく。
それよりも……、珍しく攻撃に耐えきった僕に対し、先輩はどういう反応をするのだろうか?
「……先輩?」
悔しがるのか、それとも喜ぶのか、そんな期待にも似た感情を抱きつつ視線を送ると、先輩は何故かレンゲを見つめながらニマニマとしていた。一体何かと思い声をかけると、先輩がニマニマした表情のままこちらに流し目を送ってくる。
「……初、間接キッスです」
「間せ……つ、つぅっっっ!?」
想定外の言葉に僕は一瞬固まり、直後に変な声を出してしまう。
具体的には、不良が「ああぁぁん!?」というような感じで「つぅっっっ!?」と叫んだのである。
恐らく、これが外だったら僕は間違いなく奇異の視線を向けられていただろう。
「はい。間接キスです。実は初めてでしたよね?」
「…………」
僕は脳をフル稼働し記憶を探ってみるが、確かにした記憶はない。
どうやら、あれだけ色々やられている癖に、本当に初めての間接キスだったようである。
「みたい、ですね……」
「ふふ♪ 今日は記念日ですね♪」
嬉しそうに言う先輩は非常に可愛らしい。
しかし何故だろう? 確かに魅力的ではあるのだが、何故だかいつも以上にドキドキしている。
なんだか体温も上がってきているみたいだし、妙に気が昂っている感じだ。
「せ、先輩、なんだか暑くなってきたんで、クーラー入れますね」
「あ、そうですか。ちゃんと効果が出たんですね」
「え……? 効果って、なんのですか……」
そう尋ねながらも、僕は内心で少し焦りを覚える。
まさか、先程の食事に、何か入れられたとか……? いやいや、まさかね……
「先程の料理のです」
「入れたの!?」
「……? 何をです?」
それはコッチの台詞だよ! と叫びたかったが、顔がどんどん熱くなっていくので、まずは一旦深呼吸してクールダウンを図る。
「すぅーー、はぁーー。……えーっと、一応確認させてください。先輩、その、先程の食事に、何か盛りましたか?」
「……その質問は、もしかして藤馬君、媚薬か何かを盛られたとでも思ったのですか?」
「……」
改めて尋ね返されると、返答に困ってしまう。
しかし、無言はイコール肯定と受け取られたようだ。
「はぁ……、藤馬君、いくら私でも、薬を盛ったりはしませんよ?」
「そ、そうですよね……。すいません。疑るようなことを言ってしまって……」
「そういう薬って、結構危ないモノが多いんですからね? 私はちゃんと、天然素材を使った料理のみで仕込みましたので、安心して下さい♪」
「…って、やっぱり盛ったんじゃないですか!?」
「違いますよ! 盛ってません! そういう食材を使っただけですぅー!」
そんな可愛く言っても、やってることはアレですよ!?
長らくご無沙汰な夫婦とかがやるような内容じゃないですか!
「先輩……」
「藤馬君、私、悪いと思っていませんからね?」
いつものように小言を返そうとしたら、先輩はそれを遮るように言葉で割り込んでくる。
「むしろ悪いのは藤馬君の方です。なんだかんだいつも逃げてしまいますし、今日だって、これから行くってメッセージ送ったのに見てもくれていないし……」
そういえば、さっきは慌てて電源を落としたので、メッセージの類があったかは確認していなかった。
もし通話中に飛んできていたのなら、気づかないでそのまま放置していたことになる。
「逃げてしまう件については、面目ありませんとしか言えませんが……、メッセージを見なかった件については、その、なんというか、身の危険を感じて電源を落としたという事情がありまして……」
「それは、私が危険だと言いたいんですか?」
「滅相もございません! 先輩は今日も可愛くて素敵です!」
「……本当ですか?」
「本当ですとも!」
事実であるため、僕は何の躊躇いもなく答える。
しかし、これはいつものパターンにハマっているのだと答えてから気づいた。
「じゃあ、その素敵な先輩のために、一肌脱いでください」
ホラ来たーー!
「な、何をしようと……?」
「ですから、一肌脱いでもらいます。藤馬君、服を脱いでください」
ちょ、ちょっと今回は直接的過ぎやしませんかね……!?
「警戒しないでも大丈夫ですよ? 汗を拭いてあげるだけですから」
「……あの、僕、別に熱を出しているとかそういうワケではないんですが」
「知っています。でも、熱くなって、結構汗かいていますよね?」
確かにかいているけど、それは先輩が汗を拭く理由にはならないんじゃ……
「とにかく、今日私は、この為に来たといっても過言ではないのです! いいから服を脱いでください! じゃないと私が脱がしちゃいますよ!?」
堂々と年下の彼氏を剥くと宣言する先輩。
この清楚な見た目でそれを言うもんだから、僕としてはもうドキドキである。
先輩はビッチではないので『清楚ビッチ』という言葉は当てはまらないけど、これは最早それに類するジャンルなのではないだろうか。
「ぬーげ! ぬーげ!」
訂正。やはりビッチなのかもしれない。
「……わかりましたよ、もう。上半身だけでいいんですよね?」
「そうですね。今日は準備もありませんし、下は次の機会にしましょう」
そんな機会はない! と言いたい所だが、正直ないとも言い切れない。
というか、準備って一体何が必要なのだろうか……
「はい、脱ぎましたよ」
「では早速」
そう言って、先輩はタオルを持って背後に回り込む。
「本当はお湯を用意するのですが、今日はそういうプレイというだけなので省略します」
プレイとか言っちゃってるじゃないですか!
主語がなければいいと思ったら、大間違いですよ!
「今日は市販の体拭き用ウェットティッシュを用意しました。それと……、体拭き用のローションです」
また出ましたローション!
何々用とか用途が書いてあるから許されると思ったら、大間違いですよ!
「はい、ヒンヤリしますよ~」
先輩はそう言ってヌルリヌルリとローションを延ばしていく。
その手つきは相変わらずイヤらしく、優しく擦り付けるように背中を這う。
僕はそれだけでビクビクと体を震わせるが、口内を少し噛むことでそれに耐えた。
(これが秘技、食いしばりだ!)
自分でも何が秘技なのか良くわからないが、とりあえず名前を付けることで必殺技感を出してみた。
実際、これは中々に効果的な技で、最近の耳に対する刺激に耐える際にも重宝している。
難点は頬側の粘膜がボロボロになることだが、このくらいであれば食事に支障は無い。
「腕を上げて貰えますか?」
どうやら先輩は次に脇を拭きにかかるらしく、僕に手を上げるよう要求をしてくる。
逆らってもどうしようもないので素直に腕を上げると、ヌルリとした感触が敏感な腋の下を擦っていく。
「っ!? っ!?」
こればかりは気持ちよさよりもくすぐったさが勝り、声にならない声が口から洩れてしまう。
先輩は、からかうかのように指を這わせ、僕の表情を窺ってくる。
「先っ、輩……、くすぐったい、ですよ……」
「ふふ♪ ごめんなさい。藤馬君が可愛くて、つい……」
そう言いながらも、先輩の指は止まらず、僕の胸をまさぐるように前に回される。
その指が、僕の、ち……
(TKB!!!!!)
その瞬間、再び僕の脳裏にあの映像が浮かび上がる。
思わずしならせた背に先輩もビックリしたのか、ローションを塗りたくっていた手が滑って下半身に滑り込んでしまう。
「んぎゃん!?」
思わず漏れたのは、犬か猫が踏まれた時のような悲鳴であった。
それと同時に、僕は反射的に立ち上がり、ベッドから飛び出す。
「と、藤馬君!?」
「すいませんーーーーーーーー!!!!!」
上半身裸のまま逃げ出した僕は、その後本当に風邪をひいたのであった。
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