今日も僕は、先輩の官能的な攻めに耐えられない

九傷

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第10話 看病と雑炊

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(こんな時間に誰だろうか?)


 両親は共働きのため、この家には現在僕しかいない。
 しかし、出るかどうかは悩ましいところだ。

 本来この時間には誰もいないため、僕が出なくとも問題になるようなことはないハズである。
 もしかしたらセールスや勧誘の類の可能性もあるため、居留守が正解だったということもあるだろう。
 しかし宅配便などであった場合、二度手間になるのは少し面倒だ。


 ピンポーン♪


 迷っていると、再度インターホンが鳴らされる。


(……このまま迷っていても仕方ないか)


 一先ず、カメラで誰が来たのかくらいは確認することにしよう。
 セールスや勧誘だった場合見分けるのは困難だが、宅配便であれば見た目で判断可能なハズだ。

 僕は音を立てないよう階段を降り、インターホンの設置カメラから画像を確認する。


(っ!?)


 するとそこには、なんと初瀬先輩が映っているではないか。
 しかもカメラ目線で、ニッコリと笑っている。


(なんで!? 今はまだ学校のハズじゃ!?)


 時刻は13時10分。
 既に午後の授業が始まっている時間である。


 ピーンポーン♪


 色々疑問はあるが、再度インターホンが鳴らされたことで、僕は慌てて玄関へと向かう。
 ドア開くと、そこにはやはり制服姿の先輩が立っていた。


「せ、先輩、なんで……」


「うふ♪ 来ちゃった♪」


「……」




 ひとまず先輩を家に招き入れ、お茶を出すことにする。


「あ、藤馬とうま君は病人なんですから寝ていて下さい! 私がやりますので!」


「いえ……、それよりも先輩、学校はどうしたんですか?」


「午後半休しました」


 いや、会社員じゃないんだから、学生にそんなシステムはありませんよ……


「というのは冗談で、今日は早退しちゃいました」


「……それって、やっぱり僕のためですよね?」


「はい。恐らく昨日のことが原因でしょうから、お見舞いにと思いまして」


 図星なのだが、見られた当の本人が恥じらいもなく言わないで欲しい。
 僕だけ恥ずかしくなっているのが、バカみたいじゃないか……


「……お気持ちは嬉しいですけど、わざわざ早退しなくても良かったのでは?」


 ただお見舞いするのであれば、わざわざ早退などせずとも学校が終わってからで問題ない。
 そうしなかったのは、何か変な理由があるんじゃないか? とつい勘ぐってしまう。


「ご両親は共働きと聞いていましたので、看病が必要と思ったんです。お昼ご飯もまだでしょう?」


「っ! は、はい、まだ食べてません」


 どうやら先輩は、純粋に僕のためを思って、わざわざ早退してきてくれたようであった。
 変な勘ぐりをしてしまった自分が恥ずかしい。


「それでは、早速作ってしまいましょう。お台所をお借りしますね」


 そう言って台所で準備を始める先輩を、僕はただボーっと眺める。
 制服姿の先輩が自分の家の台所に立って料理をするというのは、なんと言うかグッとくるものがあった。
 髪の毛を縛ったことでチラチラ覗くうなじや、健康的で美しい膝裏がなんとも魅力的で、ついつい目で追ってしまう。


「……そんなにジッと見られると、恥ずかしいです。出来上がったら持っていきますので、藤馬君は部屋に戻って大人しく寝ていて下さい」


 そんな反応をする先輩も魅力的でもう少し見ていたかったが、そう言われては部屋に戻らざるを得ない。
 僕は後ろ髪を引かれながらも、部屋に戻るのであった。



 …………………………


 …………………


 …………




 部屋に戻り大人しく寝転がっていると、30分程で先輩がお盆を抱えて部屋にやってきた。


「土鍋があったので使わせてもらいましたが、大丈夫でしたか?」


「あ、はい。大丈夫です」


 土鍋ということは、お粥とか鍋焼きうどんだろうか?
 別に病気というワケではないので、消化に良いものである必要はないんだけど、それは言うまい。

 土鍋の蓋を開けると、美味しそうな匂いが部屋中に広がる。
 中身はどうやら雑炊らしい。


「ふぅー、ふぅー。……それじゃあ、あーんしてください」


「っ!?」


 ベッドに腰かけた先輩が、レンゲで雑炊をすくい、ふぅふぅしてから差し出してくる。
 漫画などではよくあるシチュエーションだが、いざ自分が同じ立場に立つと恥ずかしさの方が強い。


「せ、先輩、別に熱とかがあるワケじゃありませんし、自分で食べられますから!」


「駄目です。私は今日、藤馬君を甘やかしに来たのですから」


 看病しに来たって言ってたのに、内容が少し変わっていないか!?
 先程は疑ったことに罪悪感を覚えたが、やはり先輩は何か色々と企んでいるのかもしれない。


「……本当にやるんですか?」


「あーん」


 問答無用らしい。
 仕方ないので、僕は大人しく先輩に従うことにする。


「あむ。んぐんぐ……、っ!? せ、先輩、これ、めちゃくちゃ美味しいです!」


「それは良かったです♪ はい、あーん」


 恥ずかしさは抜けないが、雑炊があまりにも美味しいのでほとんど気にならなくなってしまった。


「んぐんぐ、これ、何雑炊なんですか?」


「牡蠣雑炊です」


「あ、本当だ。よく見ると牡蠣が入ってますね」


 牡蠣って結構高級食材じゃなかったけ……
 わざわざ僕のために買ってきてくれたなんて、ありがたい話だ。


「牡蠣は滋養強壮によく効きますから。それから、ニラと卵も」


 成程、滋養強壮に効くのか。
 元気を付けるにはうってつけの食材というワケだ。


「藤馬君、元気出ました?」


「はい。気分的には少し楽になりましたね」


「……そういうことが聞きたかったワケじゃないですけど、今はまだいいです。はい、あーん」


「……? あーん」


 僕も先輩が何を言いたかったかわからなかったが、とりあえず雑炊が美味しいので深く考えないことにしたのであった。

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