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モグラのナターシャ
しおりを挟むモグラのナターシャは働きものです。
いつもせっせとみんなのために穴を掘っています。
今日のお仕事は、水場に続く道を作ることです。
「えっほ、えっほ」
せっせせっせと掘り進み、もうすぐ小川というところでナターシャは手を止めて首をかしげます。
「ぉーぃ、ぉーぃ」
掘り進んだ先から、声のようなものが聞こえているようです。
「誰かー! 助けてくれー!」
「っ!」
誰かが助けを呼んでいる。
それに気づいたナターシャは、穴を一気に掘り進めました。
「誰かー!」
小川まで掘り進むと、声がさっきよりもはっきりと聞こえます。
どうやら、誰かがおぼれているようでした。
「待っていろ! 今助けるぞ!」
川に飛び込んだナターシャは、目が見えないため、においをたよりに泳いでいきます。
ナターシャは、穴掘りだけじゃなく泳ぎも得意なのでした。
「もう大丈夫だぞ」
おぼれていたのはネズミでした。
ナターシャはネズミを背負って岸まで泳ぎます。
「あの、ありがとうございました」
「いやいや、無事で良かったよ」
ナターシャは笑顔でこたえてから、じゃあ自分は仕事に戻るからと行ってしまいます。
その背中を、ネズミは顔を赤くしながら見送るのでした。
次の日、ナターシャが助けたネズミがたくさんの仲間を連れてたずねてきました。
彼はどうやら、ネズミたちの国の王子様だったらしいです。
ナターシャは感謝のしるしにと、たくさんの食べ物をもらいました。
「それで、ナターシャさん、お願いがあるのですが、……僕と結婚してくれませんか?」
「っ!?」
これにはナターシャも驚きました。
プロポーズされたのも初めてでしたが、それ以上に彼とは種族が違ったからです。
「それは、無理だろう。俺はモグラで、アンタはネズミじゃないか」
「それでもいいんです! 僕と結婚してください!」
食い下がるネズミの王子様。
しかしナターシャは、申し訳ないとは思いつつも丁重に断ったのでした。
次の日、奇妙な客がナターシャを尋ねてきました。
若いモグラの男です。
なんとその男が、昨日のネズミの王子に引き続き結婚したいと言ってきたのです。
二日連続のプロポーズに、ナターシャは困惑しました。
しかし先日とは違い、相手は同じ種族なので追い返すこともできず、ひとまずお付き合いすることになりました。
彼、ラットンは、ナターシャのことをよく助けてくれ、仕事も一緒にしてくれています。
ナターシャはそんな彼を好ましく思っていましたが、不思議なこともありました。
ラットンはモグラなのに、何故か穴掘りが得意ではないのです。
その代わりに動きは素早いので、土運びの時などは助けられています。
ナターシャは、そんなラットンに少しずつ惹かれていきました。
「じゃあ! 結婚してくれるのかい!?」
「あ、ああ、その、いいぞ」
「チューーーーーッ!」
ラットンは時々、ネズミのようにチューチューと鳴きます。
それは当然です。何故なら、彼は本当はネズミなのだから。
そのことにはナターシャも薄々気づいていました。
目の見えないナターシャには、ラットンがどんな姿をしているか確認できません。
においは若いモグラのものでした。
でも時々、ネズミのにおいもさせていました。詰めの甘い王子様ですね。
ナターシャとラットンは種族が違います。
でも、ラットンの想いはしっかりとナターシャに伝わっていました。
だからナターシャは、その想いにこたえることにしたのです。
「……まあ、その、これからもよろしくな」
「うん! よろしくナターシャ!」
仲良しな二人は、今日もせっせとみんなのために穴を掘っています。
めでたしめでたし。
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