お付き様のおもわく

三々 こころ

文字の大きさ
上 下
14 / 15

5-6. 法政会議(六)

しおりを挟む
 思わず手が出た。
 桃雪は隼樺の胸ぐらをつかもうとした。

 だが、その手は急に力を増した吸盤に制止された。
 と同時に、さっきまで静かだった軟体が、一気にひしめき出した。

「ああ、あまり速く動こうとしない方がいいですよ。その生き物は、被着物の動きに連動しますから」

 隼樺の忠告も虚しく、活気づいた蛸らしきなにかは、漢服の内側で激しく暴れた。

「やめろ!」
(苦しいっ)

 人がいないのいいことに、桃雪はたまらず大声を上げた。
 だがそうもがくほど、その生物は余った脚も併せ、服の下で血が通わなくなるばかりに桃雪を締め上げる。

「な、んで、私ばっかり…」
 愛されている、なんて戯れ言は通用しない。むしろ殺しにかかられているようなものだ。
 飛びそうになる意識の中で、ふと湧いた疑問が口をついて出た。
 どう考えても助けるべきなのに、眺めているだけの隼樺が、桃雪のそばに寄った。


「これですよ、これ」

 にこっと笑った隼樺が、首に手をかけようとする食材だったものをぴしゃっとはね切る。
 その調子で全部払ってくれればいいのだが、桃雪はそれより彼が手にしているものを見て愕然とした。
 それは、いつか貰ったあの香り水が入っていた小瓶だった。

「なに、言って」
「この香り水に、少々興奮剤を混ぜたんですよ、その珍味に効く種の。あ、私が付けているのには入っていませんよ。西国では交接強迫剤フェロモンとよぶらしいですね、これ」

 茶会で得た豆知識を淡々と披露する隼樺。
 桃雪が浮かれていた香。
 それに少しでも優しさを見いだしていた自分。

 色んなことがすべて一つになっていく。

 桃雪は訳の分からない言葉を絶叫した。

 たぶん、隼樺の名前も叫んだんだと思う。
 彼は桃雪が狂うさまを、頬を赤らめて見ていた。
 冷たさと熱が共存するような、神にでも召される前の恍惚とした笑みを垂らして。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

アダルトショップでオナホになった俺

ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。 覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。 バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。 ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

風邪ひいた社会人がおねしょする話

こじらせた処女
BL
恋人の咲耶(さくや)が出張に行っている間、日翔(にちか)は風邪をひいてしまう。 一年前に風邪をひいたときには、咲耶にお粥を食べさせてもらったり、寝かしつけてもらったりと甘やかされたことを思い出して、寂しくなってしまう。一緒の気分を味わいたくて咲耶の部屋のベッドで寝るけれど…?

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

処理中です...