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5話
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線香花火がパチパチと音をたてて火花を周囲に散らしている。頼りない光が夜の海辺と僕らの姿をぼんやりと照らした。線香花火放たれる驟雨のように降り注ぐ光の筋を僕らはじっと眺めた。光は次第に勢いが弱まっていき、やがて大きな玉となった。そして最後は、ぼとりと砂浜の上に落ちる。その様子は僕に死を連想させた。いずれこの線香花火や父さんと同じ、僕というちっぽけな存在もこの世から後からも無く消えて無くなってしまうのだ。夜空には無数にきらめく星々たちが、まるでガラス片を散りばめたかのように瞬いていた。
大きな満月が海の上で漂う。海面に映し出された月の虚像はザァーザァーと押し寄せる波に砕けて、不気味に歪んでいた。白く泡立つ波打ち際で小さなカニがひょこひょこ呑気に横歩きしているのを眺めていると後ろからおばさんが僕に声を掛けてきた。
「直樹くん。楽しかった?」
「楽しかったです。僕なんかの為にわざわざありがとうございます。おばさん」
楽しいはずが無かった。お尻には尾を引くような鈍い痛みがあるし、数時間前までシュウ兄のものが突き刺さっていたせいかお尻は未だに異物感がある。髪の毛を引っ張られながら僕は後ろからシュウ兄に貫かれた。内臓が裏返るかと思うほど痛くて僕はたまらず大きな声を出してしまった。驚いたシュウ兄は慌てた様子で僕の顔を何度か殴りつけると手近にあったタオルを無理やり噛ませ、口を塞いできた。
行為は小一時間ほど続いた。何度も何度もシュウ兄のものが僕の中で行ったり来たりしたせいでお尻は擦り切れ、血がにじみ、シーツは赤く汚れた。霞みがかったように視界がぼやけ始め、僕は枕を顔に押し当てて泣いた。おばさんたちが買い物から早く帰ってきてくれさえすれば僕はこんな酷い目に遭わずに済んだかもしれないのにと思わず恨み言を口にしたくなる衝動に駆られる。
おばさんたちに非がないことは分かっている。行き場を失くした感情をおばさんに八つ当たりしたところで何にもなりやしない。それも分かっていた。重たい沈黙の時間が僕とおばさんの間にしばし流れる。僕は白くなるほど拳を握りしめ、奥歯を強く噛みしめた。
死んでしまえばいいのに。僕の信頼を裏切ったシュウ兄なんて死んでしまえばいいのに。
陰鬱な表情を取り繕うように笑顔を振りまこうとするが顔が強張ってしまい、どこか引きつったような顔になってしまっているのが自分でもよく分かった。
真正面にいるシュウ兄が射貫くような視線を僕に向けている。月の冷ややかな光を受けたシュウ兄の瞳は怪しい光を帯びていた。大きく見開かれた無機質な双眸の奥にはおぞましい感情が見え隠れしていた。夜の匂いを孕んだ潮風がふと海から僕らの間に割って入るように吹き込んでくる。人の吐息を彷彿とさせる生暖かい風に、身体は汗ばみ、息がしづらくなった。
「シュウも楽しめたか? 花火」
「まぁそこそこかな。もう花火で喜ぶ年でもねぇし」
大きく伸びをしながらシュウ兄はおじさんに言葉を返す。
「ははは。確かにそうだな。さてと、さっさと片付けて家に帰るとするか」
「なぁ親父。 直樹がお腹痛いらしいから。あっちのトイレまで付き添って来るわ 」
シュウ兄が僕の目をじっと見つめながら突然、そう口にし始める。
「シュウ。あんた片づけをサボる口実として直樹くん を利用しているんじゃないでしょうね?」
「ちげーよ!! さっき直樹が俺にそう言ったんだよ。そうだよな? 直樹」
シュウ兄の真っ直ぐな視線は”黙って俺に従え”と言っている。
僕は静かに首を縦に振った。
「はぁ……それならもっと早く声を掛けてくれれば良かったのに」
「なかなか言い出せなくてずっと我慢してたんだろ。 な?」
僕は静かに首を縦に振った。
「直樹くん。ウチにいる間は何も遠慮する必要はないんだよ。おじさんたちで片付けやっとくから、シュウと一緒にお手洗いに行っておいで」
僕は静かに首を縦に振った。
大きな満月が海の上で漂う。海面に映し出された月の虚像はザァーザァーと押し寄せる波に砕けて、不気味に歪んでいた。白く泡立つ波打ち際で小さなカニがひょこひょこ呑気に横歩きしているのを眺めていると後ろからおばさんが僕に声を掛けてきた。
「直樹くん。楽しかった?」
「楽しかったです。僕なんかの為にわざわざありがとうございます。おばさん」
楽しいはずが無かった。お尻には尾を引くような鈍い痛みがあるし、数時間前までシュウ兄のものが突き刺さっていたせいかお尻は未だに異物感がある。髪の毛を引っ張られながら僕は後ろからシュウ兄に貫かれた。内臓が裏返るかと思うほど痛くて僕はたまらず大きな声を出してしまった。驚いたシュウ兄は慌てた様子で僕の顔を何度か殴りつけると手近にあったタオルを無理やり噛ませ、口を塞いできた。
行為は小一時間ほど続いた。何度も何度もシュウ兄のものが僕の中で行ったり来たりしたせいでお尻は擦り切れ、血がにじみ、シーツは赤く汚れた。霞みがかったように視界がぼやけ始め、僕は枕を顔に押し当てて泣いた。おばさんたちが買い物から早く帰ってきてくれさえすれば僕はこんな酷い目に遭わずに済んだかもしれないのにと思わず恨み言を口にしたくなる衝動に駆られる。
おばさんたちに非がないことは分かっている。行き場を失くした感情をおばさんに八つ当たりしたところで何にもなりやしない。それも分かっていた。重たい沈黙の時間が僕とおばさんの間にしばし流れる。僕は白くなるほど拳を握りしめ、奥歯を強く噛みしめた。
死んでしまえばいいのに。僕の信頼を裏切ったシュウ兄なんて死んでしまえばいいのに。
陰鬱な表情を取り繕うように笑顔を振りまこうとするが顔が強張ってしまい、どこか引きつったような顔になってしまっているのが自分でもよく分かった。
真正面にいるシュウ兄が射貫くような視線を僕に向けている。月の冷ややかな光を受けたシュウ兄の瞳は怪しい光を帯びていた。大きく見開かれた無機質な双眸の奥にはおぞましい感情が見え隠れしていた。夜の匂いを孕んだ潮風がふと海から僕らの間に割って入るように吹き込んでくる。人の吐息を彷彿とさせる生暖かい風に、身体は汗ばみ、息がしづらくなった。
「シュウも楽しめたか? 花火」
「まぁそこそこかな。もう花火で喜ぶ年でもねぇし」
大きく伸びをしながらシュウ兄はおじさんに言葉を返す。
「ははは。確かにそうだな。さてと、さっさと片付けて家に帰るとするか」
「なぁ親父。 直樹がお腹痛いらしいから。あっちのトイレまで付き添って来るわ 」
シュウ兄が僕の目をじっと見つめながら突然、そう口にし始める。
「シュウ。あんた片づけをサボる口実として直樹くん を利用しているんじゃないでしょうね?」
「ちげーよ!! さっき直樹が俺にそう言ったんだよ。そうだよな? 直樹」
シュウ兄の真っ直ぐな視線は”黙って俺に従え”と言っている。
僕は静かに首を縦に振った。
「はぁ……それならもっと早く声を掛けてくれれば良かったのに」
「なかなか言い出せなくてずっと我慢してたんだろ。 な?」
僕は静かに首を縦に振った。
「直樹くん。ウチにいる間は何も遠慮する必要はないんだよ。おじさんたちで片付けやっとくから、シュウと一緒にお手洗いに行っておいで」
僕は静かに首を縦に振った。
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