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第41話 後手
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財団は超能力技術を開発した。そして、それは超能力に限らない。
エルラードに施された人体改造は数多にある。その一つに、超再生力があった。ナノマシンにより自然治癒を促進し、また、肉体を人口細胞に置き換えることで、そもそもの細胞分裂速度を上げているのだ。
老化も極端に遅くなり、エルラードは三十一歳だが、肉体の年齢は二十代中盤程度である。これから何十年経とうが、見た目は殆ど変わらないだろう。
他にも筋肉量の増加、動体視力などの向上、反射神経の強化等々。
何よりも特筆すべきは、エルラードには副作用が一切ないことだ。
当然、彼は頭を徹甲弾で貫かれて、脳髄をぶちまけられた所で即死はしない。首を吹き飛ばしたり、胴体を真っ二つにしてようやく死の可能性が生まれるくらいの生命力である。
「────」
イーライに頭を撃ち抜かれたが、エルラードは立ち上がった。油断している彼とユウカに不意打ちを仕掛ければ、一人は確実に殺せる。
エルラードは拳を構え、イーライの腹をブチ抜こうとする。しかし、瞬間、エルラードは右腕に灼熱の如き痛みを感じた。
「危なかったね、協力者さん」
「何⋯⋯!?」
エストの魔術によって、エルラードの右腕は消し飛んだ。すぐさま再生を開始するが、一瞬では治り切らない。
「アンノウンめ⋯⋯逃げたな⋯⋯」
「で、どうするのかな? まあ、キミを逃すつもりはないけど、ね」
魔術陣が複数展開された。エルラードは射線を予測し回避しようとするが、エストの魔術操作は常軌を逸している。的確に彼をホーミングし、命中した。
エストはエルラードの全身を消し炭にするつもりで放った魔術だが、肉体が少しばかり欠損する程度だった。
「なるほど。防御礼装か。魔力を拡散させる⋯⋯防御魔術に似た構造をしているね」
エルラードは対魔術の改造も行われている。並の術師の一切の魔術を弾くものだが、エスト相手だと即死攻撃を重傷に抑える程度に留まった。
「舐めるな、魔術師!」
エルラードは地面を踏み込み、エストとの距離を詰めた。その頃には右腕の再生も終わらせており、このまま彼女の首を握り潰そうとしていた。
「舐めてるのはキミの方さ」
が、エルラードの手がエストの首に届く前に、彼の頭を彼女は握っており、そして、地面に叩きつけられた。
「多少マシな速度だね。でも遅いよ。パワーも素の私よりないし」
ゼロ距離で魔術を行使。反転の魔力を込めたその一撃は、防御性能が高いものほど耐えられない。頭が消し飛んだ死体を、エストは見下す。
「さて、邪魔者は居なくなった。そして私の価値もキミたちに示せたはずだ。どうだい? 協力する気になったかな?」
エストはイーライに訊いた。訊いていはいるが、選択肢はほぼ一つのようなものだ。彼女を敵に回すことは、下手をすればアンノウンを相手にするより避けるべき事態である。
「⋯⋯その前に星華を返せ。彼女の安否を確認してからだ」
「そうだね。尤もだ」
エストが左手を前に出したかと思えば、地面に白い魔術陣のようなものが展開され、そこから眠っているミナが現れた。
イーライはミナの呼吸、心臓の鼓動を一通り確認し、彼女が生きていると判断する。
「ミナ!」
そこで、ルイズを倒したリエサとレオンが走ってくる。すぐにミナを起こして、それからエストと対面する。
「一先ず、お前と協力することにした。それで、お前にいくつか聞きたいことがある。まず、どうして俺たちと協力する必要がある?」
エストはGMC所属の魔術師だ。わざわざメディエイトと協力するメリットは特にない。
イーライにはどうも、エストがただただ彼女の知識欲のためだけに協力しているようには思えなかった。
「キミたちの力を見たい。知って、理解したい。知識の収集趣味ってのと⋯⋯あと、そこの彼女。星華ミナ、キミに何よりも興味があるし、あと財団への牽制になりそうなんだ」
「え、わたし?」
「キミ、一目見たときから思ってたんだけど、色々と特異体質っぽくてね。研究のしがいがありそうなんだ。というかキミが寝てる間に体調べたんだけどね、一つ分かったことがあるんだよ」
体を調べたという言葉で何を想像したのか、ミナはエストから逃げるようにリエサの後ろに隠れた。エストは全く気にせずに話を続ける。
「何で財団はキミの身柄を確保しに来たか。アンノウンはどうしてキミを『被検体』と言ったか⋯⋯その結論から言うとね、星華ミナ。キミの超能力はどうもアンノウンの超能力と同系統っぽいんだ」
「アンノウンと、ミナの超能力が同系統⋯⋯? 私にはそう思えないけど⋯⋯」
ミナの超能力は『星屑』を生み出し、それを操るというものだ。あらゆる物質を『不解物質』に変換し、定義付ける概念能力とは全く違うように見えるが、
「キミの『仄明星々』は厳密に言えば『星屑』を生み出す能力じゃない、ってこと。詳しくは分からないけど、何かを『星屑』に変換しているんだよ」
エストは説明に「『星屑』に変換する前の、何か、はわからないけどね」と付け加えた。
これはミナ本人にも自覚がなかったことだ。今までは生み出していたものだと思っていたが、違うらしい。
「被検体⋯⋯アンノウンとミナの能力は同系統。⋯⋯つまり君は、ミナ君は、アンノウンのオーバーレベル化の事前実験対象であると、言いたいのか」
ユウカはエストの話をまとめた。
「そうだよ。多分、ミナちゃんで実験しないと財団もアンノウンをオーバーレベルにシフトさせないと思う。彼女の身柄を確保している限り、O.L.S.計画は停滞する。最低でも、すぐにはしないだろうね」
いきなりアンノウンで事をなすことはない。もしそれで何かしらのアクシデントがあった場合、最悪、アンノウンを失う可能性もある。無論スペアぐらいは用意しているだろうが、リスクを犯す必要はない。
「言うまでもないだろうけど、ミナちゃんの身の安全は絶対に確保しとくべきだよ。必ず、財団は攫いに来る。あ、私の魔法には頼らないでね。あれ使ってるとただでさえ悪い体調が余計悪くなるから」
「魔法⋯⋯? まあいい。ミナの安全は私が責任持って保証する」
「リエサ⋯⋯。ときめくってこんな感じなんだ⋯⋯」
「何ふざけてるの、ミナ。あんたも自分の身守るのよ」
「イチャつくのはいいが、話を続けるぞ」
イーライは緩んだ空気を戻した。
「とりあえずお前が俺たちに協力する理由はわかった。じゃあ二つ目の質問だ。アンノウンを抹殺すると言っていたが、どうやってやるつもりだ」
「あ、そういや情報共有を怠っていたね。⋯⋯アンノウン自体、この私と互角の実力者。財団が全力で対抗してくるなら、はっきり言ってGMCが全面に出ないと正面衝突で勝ち目はない。じゃあどうするか。簡単な話さ。財団の本部に奇襲して、アンノウンをピンポイントで抹殺するのさ。私の魔術なら即時撤退できるしね」
暗殺とは言っていない。本当に乗り込んで、アンノウンだけ殺して逃げるつもりなのだろう。作戦と言うにはあまりにも力技である。
ただし、一見荒唐無稽に見えて、不可能なことではなかった。エストの反転の魔力があれば、侵入も脱出も比較的容易であるからだ。
「じゃあ、その作戦での俺たちの役割はなんだ?」
「陽動、囮。さっきの男とか女とか。多分、彼らは財団でもトップクラスの実力者だろうけど、あれに次ぐ強さの実力者はゴロゴロ居るだろうね。別に学園都市が滅んだっていいなら私一人で全部なんとかできるけど、GMCもそれは望んじゃいないって言ってたし」
エストは強いがそれだけだ。一人で何でもできるわけではない。彼女が得意とするのは広範囲殲滅、虐殺、殺人であり、暗殺ではないのだ。
「それに大量の死者が出たら面倒だしね、色々と」
「⋯⋯そうか。⋯⋯実行日は?」
「詳細に関しちゃ、口頭で話すより書面にしよう。えーっと、メディエイトだっけ? そこに明日行くよ。じゃ、今日のとこは解散解散」
流れるがまま、言われるがまま、主導権を握られたままエストとの会話は終了し、ミナたちはそこに取り残された。
特にやることも無いため、彼らは解散し、各々自宅や寮に戻ることにした。
だが、ミナとリエサだけは、メディエイトに戻った。
◆◆◆
時刻は深夜一時。港からメディエイトに戻ってきたミナとリエサの二人は、事務所の電気をつける。
「⋯⋯いや、待って。どうして電気消えてるの。というか、そう言えばアルゼス君は?」
ミナは違和感に気が付き、すぐさま辺りを警戒する。そんな彼女のある一言にリエサは驚いたようで、動揺していた。
「アルゼス⋯⋯? ⋯⋯⋯⋯誰のこと?」
「⋯⋯え?」
一瞬、ミナは何も理解できなかった。リエサは、何を言っているのだろうかと。しかしそれはリエサも同じだった。
「いや、アルゼス。アルゼス・スミスだよ。レベル6の超能力者、第四位の」
「第四位のレベル6はレイチェル・S・ホワイトよ? どうしたの、ミナ? ⋯⋯まさかあの魔女に何かを⋯⋯」
「⋯⋯ちょっと、待って⋯⋯うん。確認させて。レベル6は全員、何人居る?」
「七人よ。上から、アンノウン、ジョーカー、千咲リンネ、レイチェル・S・ホワイト、ローザ・リメティック、白石ユウカ、エルネスト・ファンタジア」
「⋯⋯⋯⋯嘘でしょ」
ミナはまず、自らの記憶を疑った。しかし、そうは思えなかった。無論、記憶が可笑しくなっているのであれば、間違っているという自覚を持つこともできないだろうが、どうも、そうだと確信できる。
異変が起きているのはリエサたちのほうだ、と、ミナは思う。
(どういうことなの⋯⋯? どうしてわたしだけ影響を受けていないの? それとも、逆にわたしだけ影響を受けているってこと?)
エストに異空間に保管されていたから、何らかの影響から免れた。あるいは、これは魔術的な影響であるという可能性が頭に過る。
どちらでもあり得る。
もしも魔術的な影響故の記憶喪失であるならば、ミナが影響を受けていない理由には凡そ見当がつく。
(わたしには魔術耐性がある。でもリエサたちもそうだとは限らない。⋯⋯魔術ってのはよく分からないけど⋯⋯、何となく、感覚としては⋯⋯)
ミナはリクの魔術に抵抗した時の感覚を思い出した。
自分の体ではなく、それを他者で行う。そうすることで、リエサに掛けられた魔術を解くことができるのではないか、と考えたのだ。
「リエサ。ちょっとこっち来て」
「え? 何?」
ミナはリエサの頭に触れる。彼女はより困惑の表情を強めたが、ミナは気にせずに続ける。
感覚のみで魔術を扱うのは骨が折れるが、できない気はしなかった。少し時間は掛かったが、コツを掴み、魔術に抵抗する。
「⋯⋯っ!?」
だが、成功はしなかった。しかし収穫は得た。
ミナの体に伝わる衝撃。それは確かに魔力由来のものだった。リエサに掛けられた魔術を解こうとして、反発された。その結果だと、分かった。
「⋯⋯今のは⋯⋯」
「ごめん、失敗した。リエサ、まだ多分記憶戻ってないよね? アルゼスというのが誰なのか、分からないよね?」
「⋯⋯そうみたいね。でも、ミナが嘘を言っている感じはしない。今、あんたが私の記憶を戻そうとした時、一瞬だけ晴れた感覚があった。直ぐに淀んだけど⋯⋯なるほど、どうやら⋯⋯」
ミナたちは事務所に人が居ないかを確かめた。しかしそこには誰も居なかった。完全に無人であるようだ。
「ただ外に出てった⋯⋯ってだけなら良いんだけど」
「そんなことはないわね。アレンさんはそんな無責任な人じゃない。⋯⋯おそらく、財団関係者に襲撃された」
全く室内が荒らされていないことから考えるに、そう判断して良いだろう。
メディエイト事務所にはアレン、ヒナタ、バルバラ、ルナが居たはずだ。死体がないということは殺されていないか、攫われたか、逃げたのか。
「連絡は⋯⋯取れない。ミナ」
「うん。もう先生には連絡した。すぐ来るって、全員」
「とりあえず監視カメラと、何か痕跡がないかもう一度調べるよ。私はカメラを見る」
リエサはパソコンを開こうと電源を入れる。が、入らない。外見に損傷はない。バッテリーを確認すると、やはり、なかった。
「メモリーも⋯⋯まあないよね。この調子だと電源もイカれてる。復旧はヒナタじゃないと無理ね」
だが肝心のヒナタはここには居ない。
リエサもミナもコンピュータには詳しくない。水没したコンピュータを直すことはできない。
ミナも事務所内に残された痕跡がないかを調べたものの、これと言った痕跡は見られなかった。
しかしながら、それはただの人間だったらの話だ。
「⋯⋯魔力。魔力の残り香、痕跡⋯⋯」
魔術を使って、魔力を感じ、扱えるようになってから、ミナには魔力を察知できるようになった。魔術師でなければ魔力の痕跡を残さないということはできない。
魔力の痕跡は色で見ることができる。紫色の傷跡のようなもの。あるいは粉のようなものとも表現できる。もしくはオーラか。
「いやでも⋯⋯普通の人よりも痕跡が薄い? 魔力が少ないんじゃなくて、消そうとしていた⋯⋯のかな」
そうなれば、ここを襲撃したのは魔術師である、ということになる。
GMCがメディエイトを奇襲する理由はない。ルイズのように、財団に所属する魔術師であるとしてよい。
「⋯⋯魔力の痕跡は続いている。アレンさんたちの魔力の特徴は覚えている。とすると、こっちが襲撃者の魔力で間違いない」
ミナは外に続く魔力痕を見て、そうだと判断した。
イーライたちが到着次第、この痕跡を追うべきだろう。あまり時間を掛けてはいられない。
「さっきはわたしが迷惑掛けたんだ。そのせいなら⋯⋯必ず助けなきゃ」
エルラードに施された人体改造は数多にある。その一つに、超再生力があった。ナノマシンにより自然治癒を促進し、また、肉体を人口細胞に置き換えることで、そもそもの細胞分裂速度を上げているのだ。
老化も極端に遅くなり、エルラードは三十一歳だが、肉体の年齢は二十代中盤程度である。これから何十年経とうが、見た目は殆ど変わらないだろう。
他にも筋肉量の増加、動体視力などの向上、反射神経の強化等々。
何よりも特筆すべきは、エルラードには副作用が一切ないことだ。
当然、彼は頭を徹甲弾で貫かれて、脳髄をぶちまけられた所で即死はしない。首を吹き飛ばしたり、胴体を真っ二つにしてようやく死の可能性が生まれるくらいの生命力である。
「────」
イーライに頭を撃ち抜かれたが、エルラードは立ち上がった。油断している彼とユウカに不意打ちを仕掛ければ、一人は確実に殺せる。
エルラードは拳を構え、イーライの腹をブチ抜こうとする。しかし、瞬間、エルラードは右腕に灼熱の如き痛みを感じた。
「危なかったね、協力者さん」
「何⋯⋯!?」
エストの魔術によって、エルラードの右腕は消し飛んだ。すぐさま再生を開始するが、一瞬では治り切らない。
「アンノウンめ⋯⋯逃げたな⋯⋯」
「で、どうするのかな? まあ、キミを逃すつもりはないけど、ね」
魔術陣が複数展開された。エルラードは射線を予測し回避しようとするが、エストの魔術操作は常軌を逸している。的確に彼をホーミングし、命中した。
エストはエルラードの全身を消し炭にするつもりで放った魔術だが、肉体が少しばかり欠損する程度だった。
「なるほど。防御礼装か。魔力を拡散させる⋯⋯防御魔術に似た構造をしているね」
エルラードは対魔術の改造も行われている。並の術師の一切の魔術を弾くものだが、エスト相手だと即死攻撃を重傷に抑える程度に留まった。
「舐めるな、魔術師!」
エルラードは地面を踏み込み、エストとの距離を詰めた。その頃には右腕の再生も終わらせており、このまま彼女の首を握り潰そうとしていた。
「舐めてるのはキミの方さ」
が、エルラードの手がエストの首に届く前に、彼の頭を彼女は握っており、そして、地面に叩きつけられた。
「多少マシな速度だね。でも遅いよ。パワーも素の私よりないし」
ゼロ距離で魔術を行使。反転の魔力を込めたその一撃は、防御性能が高いものほど耐えられない。頭が消し飛んだ死体を、エストは見下す。
「さて、邪魔者は居なくなった。そして私の価値もキミたちに示せたはずだ。どうだい? 協力する気になったかな?」
エストはイーライに訊いた。訊いていはいるが、選択肢はほぼ一つのようなものだ。彼女を敵に回すことは、下手をすればアンノウンを相手にするより避けるべき事態である。
「⋯⋯その前に星華を返せ。彼女の安否を確認してからだ」
「そうだね。尤もだ」
エストが左手を前に出したかと思えば、地面に白い魔術陣のようなものが展開され、そこから眠っているミナが現れた。
イーライはミナの呼吸、心臓の鼓動を一通り確認し、彼女が生きていると判断する。
「ミナ!」
そこで、ルイズを倒したリエサとレオンが走ってくる。すぐにミナを起こして、それからエストと対面する。
「一先ず、お前と協力することにした。それで、お前にいくつか聞きたいことがある。まず、どうして俺たちと協力する必要がある?」
エストはGMC所属の魔術師だ。わざわざメディエイトと協力するメリットは特にない。
イーライにはどうも、エストがただただ彼女の知識欲のためだけに協力しているようには思えなかった。
「キミたちの力を見たい。知って、理解したい。知識の収集趣味ってのと⋯⋯あと、そこの彼女。星華ミナ、キミに何よりも興味があるし、あと財団への牽制になりそうなんだ」
「え、わたし?」
「キミ、一目見たときから思ってたんだけど、色々と特異体質っぽくてね。研究のしがいがありそうなんだ。というかキミが寝てる間に体調べたんだけどね、一つ分かったことがあるんだよ」
体を調べたという言葉で何を想像したのか、ミナはエストから逃げるようにリエサの後ろに隠れた。エストは全く気にせずに話を続ける。
「何で財団はキミの身柄を確保しに来たか。アンノウンはどうしてキミを『被検体』と言ったか⋯⋯その結論から言うとね、星華ミナ。キミの超能力はどうもアンノウンの超能力と同系統っぽいんだ」
「アンノウンと、ミナの超能力が同系統⋯⋯? 私にはそう思えないけど⋯⋯」
ミナの超能力は『星屑』を生み出し、それを操るというものだ。あらゆる物質を『不解物質』に変換し、定義付ける概念能力とは全く違うように見えるが、
「キミの『仄明星々』は厳密に言えば『星屑』を生み出す能力じゃない、ってこと。詳しくは分からないけど、何かを『星屑』に変換しているんだよ」
エストは説明に「『星屑』に変換する前の、何か、はわからないけどね」と付け加えた。
これはミナ本人にも自覚がなかったことだ。今までは生み出していたものだと思っていたが、違うらしい。
「被検体⋯⋯アンノウンとミナの能力は同系統。⋯⋯つまり君は、ミナ君は、アンノウンのオーバーレベル化の事前実験対象であると、言いたいのか」
ユウカはエストの話をまとめた。
「そうだよ。多分、ミナちゃんで実験しないと財団もアンノウンをオーバーレベルにシフトさせないと思う。彼女の身柄を確保している限り、O.L.S.計画は停滞する。最低でも、すぐにはしないだろうね」
いきなりアンノウンで事をなすことはない。もしそれで何かしらのアクシデントがあった場合、最悪、アンノウンを失う可能性もある。無論スペアぐらいは用意しているだろうが、リスクを犯す必要はない。
「言うまでもないだろうけど、ミナちゃんの身の安全は絶対に確保しとくべきだよ。必ず、財団は攫いに来る。あ、私の魔法には頼らないでね。あれ使ってるとただでさえ悪い体調が余計悪くなるから」
「魔法⋯⋯? まあいい。ミナの安全は私が責任持って保証する」
「リエサ⋯⋯。ときめくってこんな感じなんだ⋯⋯」
「何ふざけてるの、ミナ。あんたも自分の身守るのよ」
「イチャつくのはいいが、話を続けるぞ」
イーライは緩んだ空気を戻した。
「とりあえずお前が俺たちに協力する理由はわかった。じゃあ二つ目の質問だ。アンノウンを抹殺すると言っていたが、どうやってやるつもりだ」
「あ、そういや情報共有を怠っていたね。⋯⋯アンノウン自体、この私と互角の実力者。財団が全力で対抗してくるなら、はっきり言ってGMCが全面に出ないと正面衝突で勝ち目はない。じゃあどうするか。簡単な話さ。財団の本部に奇襲して、アンノウンをピンポイントで抹殺するのさ。私の魔術なら即時撤退できるしね」
暗殺とは言っていない。本当に乗り込んで、アンノウンだけ殺して逃げるつもりなのだろう。作戦と言うにはあまりにも力技である。
ただし、一見荒唐無稽に見えて、不可能なことではなかった。エストの反転の魔力があれば、侵入も脱出も比較的容易であるからだ。
「じゃあ、その作戦での俺たちの役割はなんだ?」
「陽動、囮。さっきの男とか女とか。多分、彼らは財団でもトップクラスの実力者だろうけど、あれに次ぐ強さの実力者はゴロゴロ居るだろうね。別に学園都市が滅んだっていいなら私一人で全部なんとかできるけど、GMCもそれは望んじゃいないって言ってたし」
エストは強いがそれだけだ。一人で何でもできるわけではない。彼女が得意とするのは広範囲殲滅、虐殺、殺人であり、暗殺ではないのだ。
「それに大量の死者が出たら面倒だしね、色々と」
「⋯⋯そうか。⋯⋯実行日は?」
「詳細に関しちゃ、口頭で話すより書面にしよう。えーっと、メディエイトだっけ? そこに明日行くよ。じゃ、今日のとこは解散解散」
流れるがまま、言われるがまま、主導権を握られたままエストとの会話は終了し、ミナたちはそこに取り残された。
特にやることも無いため、彼らは解散し、各々自宅や寮に戻ることにした。
だが、ミナとリエサだけは、メディエイトに戻った。
◆◆◆
時刻は深夜一時。港からメディエイトに戻ってきたミナとリエサの二人は、事務所の電気をつける。
「⋯⋯いや、待って。どうして電気消えてるの。というか、そう言えばアルゼス君は?」
ミナは違和感に気が付き、すぐさま辺りを警戒する。そんな彼女のある一言にリエサは驚いたようで、動揺していた。
「アルゼス⋯⋯? ⋯⋯⋯⋯誰のこと?」
「⋯⋯え?」
一瞬、ミナは何も理解できなかった。リエサは、何を言っているのだろうかと。しかしそれはリエサも同じだった。
「いや、アルゼス。アルゼス・スミスだよ。レベル6の超能力者、第四位の」
「第四位のレベル6はレイチェル・S・ホワイトよ? どうしたの、ミナ? ⋯⋯まさかあの魔女に何かを⋯⋯」
「⋯⋯ちょっと、待って⋯⋯うん。確認させて。レベル6は全員、何人居る?」
「七人よ。上から、アンノウン、ジョーカー、千咲リンネ、レイチェル・S・ホワイト、ローザ・リメティック、白石ユウカ、エルネスト・ファンタジア」
「⋯⋯⋯⋯嘘でしょ」
ミナはまず、自らの記憶を疑った。しかし、そうは思えなかった。無論、記憶が可笑しくなっているのであれば、間違っているという自覚を持つこともできないだろうが、どうも、そうだと確信できる。
異変が起きているのはリエサたちのほうだ、と、ミナは思う。
(どういうことなの⋯⋯? どうしてわたしだけ影響を受けていないの? それとも、逆にわたしだけ影響を受けているってこと?)
エストに異空間に保管されていたから、何らかの影響から免れた。あるいは、これは魔術的な影響であるという可能性が頭に過る。
どちらでもあり得る。
もしも魔術的な影響故の記憶喪失であるならば、ミナが影響を受けていない理由には凡そ見当がつく。
(わたしには魔術耐性がある。でもリエサたちもそうだとは限らない。⋯⋯魔術ってのはよく分からないけど⋯⋯、何となく、感覚としては⋯⋯)
ミナはリクの魔術に抵抗した時の感覚を思い出した。
自分の体ではなく、それを他者で行う。そうすることで、リエサに掛けられた魔術を解くことができるのではないか、と考えたのだ。
「リエサ。ちょっとこっち来て」
「え? 何?」
ミナはリエサの頭に触れる。彼女はより困惑の表情を強めたが、ミナは気にせずに続ける。
感覚のみで魔術を扱うのは骨が折れるが、できない気はしなかった。少し時間は掛かったが、コツを掴み、魔術に抵抗する。
「⋯⋯っ!?」
だが、成功はしなかった。しかし収穫は得た。
ミナの体に伝わる衝撃。それは確かに魔力由来のものだった。リエサに掛けられた魔術を解こうとして、反発された。その結果だと、分かった。
「⋯⋯今のは⋯⋯」
「ごめん、失敗した。リエサ、まだ多分記憶戻ってないよね? アルゼスというのが誰なのか、分からないよね?」
「⋯⋯そうみたいね。でも、ミナが嘘を言っている感じはしない。今、あんたが私の記憶を戻そうとした時、一瞬だけ晴れた感覚があった。直ぐに淀んだけど⋯⋯なるほど、どうやら⋯⋯」
ミナたちは事務所に人が居ないかを確かめた。しかしそこには誰も居なかった。完全に無人であるようだ。
「ただ外に出てった⋯⋯ってだけなら良いんだけど」
「そんなことはないわね。アレンさんはそんな無責任な人じゃない。⋯⋯おそらく、財団関係者に襲撃された」
全く室内が荒らされていないことから考えるに、そう判断して良いだろう。
メディエイト事務所にはアレン、ヒナタ、バルバラ、ルナが居たはずだ。死体がないということは殺されていないか、攫われたか、逃げたのか。
「連絡は⋯⋯取れない。ミナ」
「うん。もう先生には連絡した。すぐ来るって、全員」
「とりあえず監視カメラと、何か痕跡がないかもう一度調べるよ。私はカメラを見る」
リエサはパソコンを開こうと電源を入れる。が、入らない。外見に損傷はない。バッテリーを確認すると、やはり、なかった。
「メモリーも⋯⋯まあないよね。この調子だと電源もイカれてる。復旧はヒナタじゃないと無理ね」
だが肝心のヒナタはここには居ない。
リエサもミナもコンピュータには詳しくない。水没したコンピュータを直すことはできない。
ミナも事務所内に残された痕跡がないかを調べたものの、これと言った痕跡は見られなかった。
しかしながら、それはただの人間だったらの話だ。
「⋯⋯魔力。魔力の残り香、痕跡⋯⋯」
魔術を使って、魔力を感じ、扱えるようになってから、ミナには魔力を察知できるようになった。魔術師でなければ魔力の痕跡を残さないということはできない。
魔力の痕跡は色で見ることができる。紫色の傷跡のようなもの。あるいは粉のようなものとも表現できる。もしくはオーラか。
「いやでも⋯⋯普通の人よりも痕跡が薄い? 魔力が少ないんじゃなくて、消そうとしていた⋯⋯のかな」
そうなれば、ここを襲撃したのは魔術師である、ということになる。
GMCがメディエイトを奇襲する理由はない。ルイズのように、財団に所属する魔術師であるとしてよい。
「⋯⋯魔力の痕跡は続いている。アレンさんたちの魔力の特徴は覚えている。とすると、こっちが襲撃者の魔力で間違いない」
ミナは外に続く魔力痕を見て、そうだと判断した。
イーライたちが到着次第、この痕跡を追うべきだろう。あまり時間を掛けてはいられない。
「さっきはわたしが迷惑掛けたんだ。そのせいなら⋯⋯必ず助けなきゃ」
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