悪魔と委員長

GreenWings

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 自分がイエスの様に水上に立つなどと言う奇跡を行えない事は重々承知だ。
 眩暈を誘う暴流を前にますみは沈みかけている車になんとかたどり着く方法は無いか見回したが何一つ方法が思いつかない。それでもどうしてもとなると人間と言うものは愚かな方法に飛びつきたくなってしまうものだ。
 上流の方にますみが向いた時、悪魔はいち早くそれを察して回り込んだ。

「言っておくがな、この濁流は魚だって横切る事なんか出来ない。流されながらも近づこうなんて甘すぎる考えだ。いや、考えなんてもんじゃない。無駄死にするつもりかお前は! 」

「私は姉なのです!あなたに何がわかりますか! 」

「わかってねぇのはお前だ小娘!どう考えたって無駄だ。百歩譲ってお前の泳ぎが達者だったとして、今流れているのは水じゃない、土砂だ。沈むんだよどうやったって! 」

「じゃぁどうしろと言うのです! 」

「決まっているだろ」

 二人の間に沈黙が流れる。

「早くした方が良いんじゃねぇか?弟の為にもよ。さすがに死んだ人間を生き返らせるなんて事は俺にもできねぇぞ?死んだまま動かせってのなら別だがな」

 ますみは悪魔から顔をそらし再び川の中に沈みかけている車を見た。
 このままでは本当にかなたが助からなくなってしまうと思うと指先が震えてきた。

 何とかしなくては。ひとまずこの場所をレスキュー隊に伝えよう。
 スマートフォンを取り出してみたが、画面に派手にヒビが入っている。
 やや青くなりつつ色々操作をしてみたがその一切が受け付けられなくなっていた。

「見ろよ、水位が上がってんじゃねぇか?それとも乗り物が沈んでいるのか? 」

 悪魔の言葉は嘘ではなかった。先ほどより微かにだが水面に出ていた部分が減っている。
 膨れ上がる不安と切迫感でますみは意味も無く辺りを見回した。
 当然助けになる様なものは何一つない。

「あああっ!神様っ!! 」

 今のますみに出来ることはその場に跪き、祈る事だけだった。

「へっ、やめとけ。神は見向きもしねぇよ」

「神様、どうかかなたをお救い下さい。忠実なあなたのしもべを、無垢なる息子を、どうかお救い下さい」

 そのすぐ隣に悪魔は寄り付き、あざ笑うかのように言った。

「おっかしいなぁ。救いの主も天使も現れる気配がねぇなぁ。偉大なる神様のご意志は、甘んじてこれを受け入れろって事なんじゃないのか? 」

「神様は慈悲深いお方です!ああ神様!どうかかなたにお慈悲を下さい。かなたは素直で良い子です。敬虔なあなたの信者です。ふがいないこの私をいつも支えてくれているのです。あの子がこの世を去るなんてまだ早すぎます。まだ子供なのです。これから先沢山の喜びや幸せを、あなたの愛を知って行く事になるはずなのです。どうか、かなたにお救いを!あの子の未来を奪わないで下さい! 」

 悪魔は鼻で笑った。

「言ったよな。その気が在ればそもそも流されたりはしなかった。さっきだって無事助け出されて丸く収まってもよかったんだ。だが実際はどうだ?お前の手の届かない所で見ろ!今まさに沈んで行っているぞ?意識が無くてよかったな、もしあったらどんな惨状だ?出られない密室でせりあがってくる泥に沈みながらその恐怖で気を狂わせていただろう。どんな声で泣くと思う?どんな顔をして助けを求めるんだ?きっとお前の見たことも無い様な絶望と恐怖に歪み切って、もはや子供に見えない表情なのかもな! 」

「黙りなさい! 」

「黙らせてみろよ。必死に泣きわめきながら助けてくれそうな相手の名を呼ぶんだ。喉をつぶしてな。お姉ちゃん!お姉ちゃん!助けて!怖いよ!死んじゃうよ!俺何も悪い事していないのになんでだよ!! 」

「その口を閉じなさい!! 」

 金切声と共にますみは悪魔の両襟を掴んだ。泥だらけの顔は溢れ出す涙と必死の形相で鬼気迫るものになっていた。
 だが悪魔はそれを見ても小馬鹿にした笑いを消さずに続けた。

「俺に怒りを向けたところで現状は変わらない。あの小僧は間違いなく今命の危機に瀕していて、そしてそれを助ける手立ては無い。なぁ、どうするよ小娘。お前はこれを運命として受け入れるのか?少なくとも神は救う気はなさそうだぜ」

「そんな事はありません!これからきっと……」

「いいやあるね!そうやって希望的観測を繰り返しているうちに本当に取り返しがつかなくなっちまうんだ。いいか、現実を見ろ! 」

 悪魔は自分を掴む両手を払うとますみの顔を強引に両手で川に向けた。

「あれが現実だ。今まさにお前の弟が泥に沈み入っている。ああ、あとどれくらい持つだろうな、たいしてかからず完全に土砂に埋もれる。これはもう避けられない」

 ますみはかぶりを振ろうとしたががっちり掴まれていてそれは出来なかった。

「俺にとってはあれが単なる日常であろうがお前に課せられた試練だろうがどっちでも構わんのだ。さらに言うなら沈もうが助かろうがそれもどうでもいいのだ。だがな小娘、今お前は実に幸いな事にあれを助けてやれる手段があるんだ。それを使わない手はないんじゃないかって事を言ってんだよ」

「悪魔の力は借りません! 」

 ますみは再び叫んだ。

「そうかい、なら沈んで良いんだな?見ろ!どんどん沈んで行っているぞ。ああも飛沫がてっぺんまで届いているじゃないか」

「嫌だ…… 嫌だ…… 」

 目を背けようとするますみだが悪魔はそれを許さない。

「おいおい震えているのか?震えた所で状況は変わらんぞ。ほら!ほら見ろ!あそこに!あそこにお前の弟がいるんだ!あそこで可愛い可愛いかなた君は今まさに泥の中に沈もうとしているんだ。ハハハハハハハハ! 」

「神様ぁっ!かなたを!かなたをお救い下さい!あああ!神様!どうか!どうかかなたを!! 」

 体中を震わせて叫ぶますみと同じくらい大きな声で悪魔は笑った。

「そうだ神様よぅ!助けてあげたらどうだ?アハハハハハ!どうした神!ん?そうかー!聞いたか小娘、偉大なる神様はかなた君などどうでも良いってよ! 」

「そんな事神様はおっしゃいません!神様!どうか!どうかかなたに!……私にお慈悲を下さい……!救いの御手を伸ばして下さい……!」

 泣きじゃくるますみの頭を小脇に抱え、悪魔はがっかりしたようにぼやいた。

「あ~あ、お姉ちゃんが強情だから弟君は助からない……。誰の手も届かないまま泥の中に埋もれていくんだ…。可哀そうに可哀そうに、大好きなお姉ちゃんに見捨てられたって知ったら一体どれほど悲しいだろう、どれほど苦しむだろう……。お姉ちゃんは助ける手立てがありながら自分可愛さにそうしてくれなかった……復活の日(キリスト教では最後の審判の時キリストによって死者は甦るとされている。)の後小僧はそうして思い悩む事になるだろう。今まで注いでくれていたと思っていた愛情は笑顔は全部嘘だったんだと悟るんだ。復活後ってのは不死身だったなぁ。永遠に苦しむんだなぁかなた君はよ」

 ますみの目が見開かれる。

「だってそうだろう?弟の為なら何でもする様なそぶりを見せておきながら、実際はそうじゃないんだもんな。逆だったらどうだろうな。優しくって良い子のかなた君ならよ、大好きなお姉ちゃんの為なら躊躇なく魂くらい差し出すだろうよ」

 相手の歯が食いしばられ、表情がぎゅっとゆがむのを見つつ悪魔は小さくかぶりを振った。

「いや、責められんわな。人間てのはそういうもんだ。しかしなおい、ここは大事だから言っておくがな、今決断しなければもう後はないんだからな。ああ、もうすぐ完全に沈むな」

 弟の名と共にますみは悪魔を跳ねのけた。
 なりふり構わずガードレールを乗り越えようとするのを慌てて悪魔が引っ張り戻す。

「おい! 」

「放してっ!放しなさいっ!あそこに!私はあそこに行かなくては!!放せっ!! 」

 悪魔は面倒臭そうにもう片方の腕をありえない程伸ばすと、拾った石をますみの影に乗せた後彼女を放した。

 解放されたますみが再び川に向かおうとするが驚くべき事に一歩たりともその場を動く事が出来ない。まるでその場に縫い付けられたかのように一切進む事が出来なかった。

「何をしたのです! 」

「建設的な話をしようじゃないか。お前は今弟を助けたい、そして俺はそれをする事が出来る」

「だから何です! 」

 悪魔は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

「ここに名前を書け。それで丸く収まるんだ」

「神様!かなたを!今なら間に合います!神様!聞こえていらっしゃいますか!神様!! 」

 悪魔は静かに続けた。

「そうだ、今ならまだ間に合う。そうだな、見ろ」

 悪魔が羊皮紙の表面を撫でると長々書かれていた不思議な文字がたった一行に変わった。

「簡潔にした。これならお前でもすぐ理解できるだろう。契約内容はただ一つ『西野かなたを助ける事』助けるの定義はお前が決めて良い。ただここに連れて来るだけでも良いし、今怪我をしているならばそれをすべて治す事を含めて良い。一度限りの契約だ。これ以降助ける必要があるのなら再度契約してもらう。当然そのたびにお前の魂の一部を俺のものにさせてもらう」

 ますみは悪魔の話など聞かずただ沈みゆく車に向かって弟を呼び続けていた。

「叫んだところで変わりゃしねぇ!どうにかしたいんならこっちを向け! 」

「神様は助けて下さいます。これはきっと試練。世界の日常なんかじゃない。私の信仰が試されているだけ。だから私がそれに応えたならかなたは必ず無事で戻ってきます! 」

 悪魔は容赦なかった。

「そうか、やっぱ試練か。じゃぁよ、神はお前にこの先弟無しでも従順でいろと言っているのかもな。だってそうだろ?あいつを今から助ける術は人間にはない。天使も来ない。だとしたらここで神は……」

 至近距離で視線をばっちり合わせたまま劇的に彼は言った。

「お前から弟を取り上げるつもりだ」

 少女のものとは思えない絶叫が辺りに響き渡った。

 雪山に飛び込んだかの様に震え出した少女はうわごとのように繰り返す。

「そんな事ありませんそんな事ありませんそんな事ありません……」

「あるんだよ! 」

 無理やり自分に向かせつつ悪魔は怒鳴りつけた。

「この先はお前に弟無しで生きて行けと言っているんだ神は。それに応えるのがお前の信仰心だってんだよ」

 ますみは表情を完全に崩しながらかぶりを振り続ける。

「神様は…… 神様はそんなむごい事はしません…… これ以上私の家族を…… 私の支えを奪ったり……」

「そうだ、二度目だよな!母親を奪い、今度は弟だ!次は父親か?お前は確実に一人に追い込まれている。クリスチャンに最も必要な事、それは忍耐だったな。ならばこれからの孤独にも耐えて見せろよ、お姉ちゃん」

「そんな…… そんな…… そんな…… あ あなたの誘惑です…… 私は…… 私は屈しません…… 」

「自分で言ったんだぜ?お前をクソジジイの家から送ってよこした女にお前言ったよな。その価値があるから試練を課すのだと。前にも言ったがお前の魂はなかなか見られん上玉だ。だったら信仰を試す為に最も大切なものを失っても従順に強く生きていく姿を見せる必要があるってんじゃないのか? 」

 ますみは地にひれ伏した。

「神様……! 私には…… 私にはかなた無しの生活など不可能です……!母を失った時、それを乗り越える勇気と力をあなたに乞いました」

「けどくれたのは神じゃなく弟だったがな! 」

 悪魔の横口に首を振りつつますみはさらに続けた。

「私はあなたの愛のもと、かなたと言う支えで乗り越えてきました。ですがかなたまで奪われてしまっては立ち上がる事はできません……! 」

「なら神ではなく俺に祈れ! 」

「神様!かなただけは……どうかかなただけは……! 」

「駄目だとよ!もうあの小僧はお前の手を離れる!朝交わした挨拶が別れの言葉だ!もうお前はあいつの顔を見る事はない!お前は今から!そう今からもう一人なんだよ! 」

「違います!違います! 」

「違わねぇ! 」

 悪魔はますみの顎を掴んで自分の顔に向けた。

「もう、助からねぇ」

 ますみの声が消え、代わりにこれまで以上に大粒の涙があふれだした。

 幼い頃からのかなたの様々な表情、声、言葉が一気にますみの中に溢れ出した。そのどれもが自分に信頼を寄せた瞳で見つめ返している。そのどれもが親しみを込めた響きを秘めている。そして、自分を呼ぶ回数のなんと多かった事か。彼独特の立ち居振る舞い、癖、言葉遣い、香り、雰囲気、温度、鮮明に思い描ける何もかもが今ますみの胸を圧迫する。

 この愛おしい存在がなくなるですって?

 獣のような声を上げながら、ますみはその場から動こうとあがいた。悪魔の呪縛から離れ、土石流に飛び込んで弟を救い出すのだ。神がしないなら自分がするんだ。そういうやり方だって神に逆らう訳ではないはずだ。

 少女が噛み締めた口の端から流れた血を指先で掬い取ると悪魔はそれを舐めた。

「神だからってよ、大切な家族を奪って良いって事にはならないよな。そう思うだろ?お姉ちゃん」

 そして必死になっている少女の肩をポンと抑えると彼女はその場に再び両ひざをつく形になった。

「そうだ、そうやって俺に跪く方が良い」

 起き上がろうとするますみの目の前に再び羊皮紙、そして羽ペンが置かれる。

「助けたいんならそれしかない。ペンを握れ。お前の血が染み出しインクとなる」

 か細く頼りない指が震えながら、見た事も無い黒くて大きな風切羽に伸ばされてゆく。

「そうだ、それを握れ」

 と次の瞬間それは大きく跳ねられた。

「神様はきっとかなたを救う手段を残して下さっています!私はそれを信じます! 」

 ますみの声に悪魔は不満そうに眉を寄せた。

「お前は妄信するタイプじゃないだろう。すがりたいのはわかるがな、もう認めろ!神の愛なんざ期待するな! 」

「神様の愛は普遍で平等です! 」

 悪魔は勝ち誇った。

「そうかい!ならよく考えろ!信心深くて良い子のかなた君と、懲役千年の凶悪殺人犯は神の前で平等だって事だ。どちらも大いなる愛で平等に愛される。平等に愛される存在ならよ、信心深いからとか良い子だから助けてくれってのは道理が通らないんじゃねぇか?なぁ、愛してはいるがこっちは助ける、こっちは助けない、そんなのがあるってんならそれはな、愛とは言わねぇ。なんだかわかるか? 」
 
 ますみの顔に恐怖が浮かぶ。

「差別ってんだよ」

 今のますみには返す言葉が全く思いつかなかった。頭の中が真っ白になってただただ悪魔の顔を見上げた。

「神が差別なんかしないんなら、かなた君は当然助からない。信心深くて高潔なお前の願いを特別に叶える事も当然しない。それによ、神の信者ぶった所でお前はむしろ悪魔側に近い。街のみんなに分け隔てなく接して、どんな嫌われ者だろうが大切に扱って、けどどうだ?そいつらに弟と同じ事をしてやってるのか?そいつらより結局弟が大事なんじゃねぇか。弟が家族だから?他の人も愛するが弟がもっと愛おしいだけ?そういうの全部差別なんじゃねぇか?それを考えたらよ、無神論を自覚している奴の方が偽善じゃない分よっぽど善良じゃねぇか。なぁ小娘、そろそろ気づけよ。お前は神側じゃない。こっち側だ」

 ますみは違いますと答えた。だがその声はあまりにも小さく、力なく、口から洩れる事すらなかった。

「こっち側の人間が悪魔と契約して何が悪い」

「あなたは、あなたは人が人に向ける気持ちを……大切に思う気持ちを…… そんなあたたかくて喜ばしい気持ちを差別と言うのですか! 」

 ようやく絞り出した声も悪魔は一蹴した。

「そうだとも。誰かを大切に思えば思う程、それは他の奴らと大きく差をつけている。大きく比較している。大きく特別扱いしている。お前らの言う所の愛情とやらが深ければ深い程それはそのまま差別の大きさって事だ」

 ますみは言葉を失ってしまった。

「わかったか。お前が力を借りるべきは誰も彼も同様に扱う神ではない。たった一人を大切にする事も認める悪魔にだ。それが自然ってもんだ」

「でも…… でも…… でも…… 」

「でもじゃねぇ!見ろ!このままじゃ沈むぞ。見ろ!もうほぼ沈んでしまっている。室内がどうなっているかもわかりゃしねぇ。もう一度言うぞ。契約しろ。本当に弟が大切だと思うのなら。今しかない」

 放られた羽ペンがふわりと舞い上がりますみの目の前に降りる。

「ああ…… あああ…… 」

 激しい悪寒と吐き気に襲われながらますみはぼろぼろと涙をこぼしながら羽ペンを見つめた。これは一体何に対する罰なのだろうか、神は自分を悪魔にゆだねようというのだろうか、そもそも自分の事でどうしてかなたが酷い目に合わなくてはならなかったのだろうか。
 ますみは急激に自分の体温が足先から抜けてゆく様な感覚を覚えていた。

 神は自分に期待などしていない、これは試練なのではない、ふがいなかった自分を、偽善を神の教えと勘違いして行い続けてきた自分を手放そうとしているのだろう。そんな考えた事も無かった思いが次々とわいてきた。

「決断しろ」

 悪魔は言いながら意外な程優しく丁寧な手つきで哀れな少女に羽ペンを握らせた。

「神様…… 神様…… 神様…… 」

「神はお前も弟も特別扱いしないぞ」

「嫌だ…… 嫌だ…… 嫌だ…… 私は…… 」

「お前は神を取るのか、弟を取るのか、はっきりしろ!どっちもなんて行くと思うなよ?時間もねぇんだ。本当に俺でもどうにもならなくなるぞ」

 ゆっくりとますみの手が上がる。その腕は激しく痙攣し、不自然なほど大きく震えていた。

「そうだ、そこに署名しろ。そうすれば弟は助かる。きっと涙を流してお前に感謝するだろう」

「かなた…… 私のかなた…… 」

 ますみの脳裏に満面の笑みの弟がよぎる。署名するだけで守られる。そうしなければ失われる……。だが同時に別の思いが沸き上がった。
 悪魔と契約した自分に弟はこの笑顔を向けてくれるだろうか、自分は胸を張って弟と会えるだろうか、母はどう思うのだろうか……。

「早く書け!手遅れになるぞ! 」

 ますみはペンを握り締めたままそれを契約書に降ろす事が出来ずにいた。

「神様…… 」

「悪魔様だ! 」

 ペンを両手で握りしめ、ますみは祈りの姿勢を取っていた。それは神にすがると言うより長い習慣から出た行動だった。

 握りしめたペン先からぽたぽたと赤い雫がこぼれ、それがアスファルトにはじかれて流れてゆく。

「祈ってる場合か!おい!本当に沈む…… 沈んでるぞおい!早くしろ!! 」

 悪魔の声に開かれ、身を起こしたますみの目には車の一部など見つける事は出来なかった。ただその名残の様に少しだけ土砂が盛り上がってはじけている場所がある。

 再び獣の様な悲鳴が上がる。

「かなた!かなた!かなた!! 」

「馬鹿野郎!取り乱す暇がったらさっさと署名しろ!まだ間に合う! 」

「ああ!かなた!!かなたっ!! 」

 地に突っ伏し、ますみは地面をひっかいた。

「早くしろ!!お前まさかこのままにするつもりじゃないだろな!! 」

 およそ少女と思えない奇声を上げながらますみは自分の腕や体を掻きむしっていた。

「気が触れるのは後でいい!署名しろ! 」

 普段からは想像さえできない取り乱した奇行の後、ますみは黒い羽ペンを再び握った。

「そうだ、それで良い。早くしろ」

 契約書を手繰るとますみはそれに覆いかぶさった。
 そして、その姿勢のまま震え続けた。

「いつまで泣いてんだ!もっと泣く事になるんだぞ! 」

 奇声を発しながらますみは震えていた。深い信仰心と弟への愛情のせめぎ合いでますみの精神は崩壊しかけていた。

「お、おい…… 早く…… 」

 悪魔の声が途切れた。
 そして次の瞬間には落胆のため息が続いていた。

「手遅れだ小娘。もう終わった」

 悪魔がますみの影から石を拾って投げ捨てると彼女の体は不意に軽くなった。

 激しい葛藤の中に居たますみはそれに気付くのがいくらか遅れたが、悪魔が彼女を引っ張り上げて立たせ、川を見せる事で事態が把握できた。

 大量の流木が流れていた。再び上流で決壊があったのだろう。
 水面は先ほどより目に見えて上がり、流木だけではなく巨大な岩も目前で転がりながら下って行っている。
 かなたを乗せていた車は今や影も形も無く、流されたのか押しつぶされたのかさえ分からなかった。

「お前はそんなに神が好きだったんだな。弟よりも」

 今までの葛藤や苦しみのすべてが引波の様に無くなって行く。そしてそれとは打って変わって想像を絶する後悔が怒涛の様に押し寄せた。
 あまりにも頭がすっきりし過ぎて現状が刃のような痛みになって全身を切りつける。
 弟を見捨てた、自分が死なせた、想像していたよりもはるかに自分の中で大きかった。
 声も出せず、ますみはよろよろと後ずさるとそのままぺたんと座り込んだ。
 震えは既に止まっていた。涙も流れていなかった。ただ体中から急激に熱が抜けてゆく、自分がゼロになってゆく感覚を思い知っていた。

「お おい、 ちょ ちょっと待ておい!そ そりゃないだろ!おい!しっかりしろ!お前、こんな事で曇るのか?!嘘だろ?たかだか弟が死んだくらいで! 」

 悪魔は狼狽した。ますみの魂は高潔で強く、稀に見る輝きを持っていたはずだった。だがどうだろう、今その輝きが急激に失われ色が曇り始めているのだ。まるで存在する事を諦めるかの様に、自ら消滅しようとするかの様に。

「ま まて!そこまで落ち込む事ないだろう!お前の責任じゃない!これは避けられなかったんだ。おい!気をしっかり持て! 」

 聞いているのかいないのか、ますみの魂は眩しいものではなくなってきていた。

「冗談じゃないぞ!諦めろってのか?こんな事で無くなっちまうのか?お前、悪魔相手に啖呵切るほど強い奴だったろ!しっかりしろ! 」

 生気を失った少女の瞳は何も映さず悪魔の声など耳に入れてはいない。

「おおい…… 何だってんだよ!気を張れよ!これじゃあの小僧も浮かばれないぞ! 」

 ますみは出来の良い人形の様に動かなかった。今の呼吸の浅さがより一層人間味を失わせていた。

「…… わかった!わかったよ!死んだ奴を生き返らせる事は俺には無理だがせめて遺体には引き合わせてやる。ああ大サービスだぞ?手厚く埋葬してやれ。そうしたらお前だってそこまで寂しかないだろう。な?待ってろ? 」

 言うなり悪魔は浮き上がり、そのまま川に飛び込んだ。

 ますみは悪魔が姿を消した事さえ気づかずにただ茫然と焦点の合わない視線をガードレールに向けていた。
 何も考えられていなかった訳では無い、気が触れていた訳でもない。意識を失いそうな後悔に身を焼かれながら自分を激しく嫌悪し責め立てていたのだ。
 心の底から誰かに憎悪を向けたのは初めてだった。そしてその相手が自分だったのだ。お前が代りに死ねば良かったのに!お前のせいでかなたは失われてしまった!ますみの自己嫌悪は常軌を逸した深さで自分を攻撃していた。

 かなたがこの世を去ったと言うのに自分がのうのうと生きていて良いのだろうか、だが自殺はクリスチャンにとって大罪、しかし人間が最初に犯した殺人は他ならぬ弟殺しだ。そうだ、自分と同じだ。最も重い罪を犯した者を罰して何が悪かろう。そうだ、こんな悪人など生かしておいて良い訳が無い、殺してしまおう。殺す事が罪であるのならその罰も課してやれば良い。

 ますみはふらりと立ち上がった。
 ガードレールの向こうにおあつらえ向きの暴流があるではないか。
 この泥の中で弟は命を失った。重くて冷たい土砂の中に埋もれてどれほど苦しかったろう。あの可愛らしい顔がこの中に沈んでしまったと思うとギリギリと胸が締め付けられ血を吐きそうに思えた。
 同じ川で死んだのなら一緒の所に行けるだろうか、いや罪の無いかなたと違い、弟を殺した自分に天への道はもう無いだろう、ああ、本当に会えなくなってしまったんだ。そんな事を考えてますみはふた雫ばかり涙をこぼした。

 ついと一歩、足が前に出る。そうだ、罪を償わなくては。
 再び一歩出る。が直後ますみは強引に引き止められた。

「何やってんだよお前は! 」

 焦点は声を掛けた者にではなく、彼の抱えていたものに当たる。

 思うより先に体が動いていた。
 悪魔の腕から奪い取る様にして弟の体を寝かせると気道確保を試みる。
 首から下は泥まみれで顔だけがそうでないという不自然な状態だったがむしろ好都合だ。
 顔を近付けるが息をしている様子はない。
 すぐさまますみは弟の胸にとりついた。十六歳未満相手だから片腕で胸の厚み三分の一まで、毎分100~120回の心臓マッサージ、そんな知識を即座に思い出し事に当たる。弟の呼吸が止まってどれくらいなのかは不明だが短ければ短い程蘇生率は上がる。
 三十回行った所で二回の人工呼吸、焦って早く入れてしまうと肺ではなく胃に流れてしまう。かといって心臓マッサージを十秒開けるのは危険とされている。かなたの胸がゆっくり持ち上がるのを確認しながら息を込める。
 そしてすぐに胸部圧迫を続ける。

「小娘…… 何やってんだ……? 何かのまじないかよ」

「黙りなさい! 」

 ますみは必死でかなたの胸を押した。意味があるのかそうでないのかは問題ではない。今できる事はこれだけしかないのだ。

「かなた!戻りなさい!姉です!わかりますか?!目を開けて下さい! 」

 声を掛けながら必死で胸を押す。

「気持ちはわからんでもないがな、死んだ奴は悪魔だって蘇らせられねぇんだ。叩こうが喚こうがどうにかなるもんかよ。寝てる奴を起こすわけじゃねぇんだぞ」

「かなた!目を覚まして下さい!かなた!姉です!あなたはまだ死んではなりません!かなた!起きて下さい! 」

 息を吹き込む、自分の持つ命を、魂を分け与えるかの様に、ますみはかなたの胸に息を吹き込む。

「けぇっ、息吹だって?お前神にでもなったつもりかよ。土くれに息を掛けたってあれか? 」

「かなた!生きなさい!生きて下さいかなた!姉を、私を一人にしないでください! 」

 何度も何度も胸を押す。かなたの体はそれに応じてゴム人形の様に幾らか跳ねていたが目を開けようとはしなかった。

「かなた!かなた!姉を許して下さい!姉は…… あなたを、かけがえのないあなたを他のものと比較しました…… 姉を許して下さい!かなた!どうか!かなた! 」

「もう諦めろ!死者を愚弄するのか」

 悪魔がますみの頭を掴むがますみはそのまま続けた。

「黙りなさいエスレフェス!かなたはまだ死んだと決まっていません!まだ、まだ天の入り口で戸惑っているだけかもしれません!私の声が聞こえたらきっと戻って来てくれます!かなた!こちらです!かなた! 」

「おーそうかい、じゃぁ気が済むまでやったらいい。俺はお前の魂の色が戻ればそれで良いんだ。現に幾らか戻って来ているみたいだしな」

 悪魔はますみから手を放すとガードレールの上に座り込んだ。

「かなた!姉はあきらめませんよ!あなたは姉を置き去りにする子ではありません。そうでしょ?かなた、姉を守ってくれると、あなたはそう言いましたよ!だから…… だから守ってください!この情けなくて非力な姉を……寄り添って下さい!あなたが居ないと…… 姉はだめなのです!かなた! 」

 何度押しても生き物ではない様に無反応な弟の様子に自分に対する悔しさがこみあげてくる。

「かなた…… ああ もっと優しくすれば良かった…… もっと大切にしたらよかった…… 姉は後悔ばかりです…… かなた…… お願いです…… かなた…… 」

 必死に早いテンポで心臓マッサージをし、その間に息を乱さずにゆっくりかつ遅すぎずに息を吹き込むという芸当は本職でもなくただの女子中学生には非常に負担の大きな作業だった。
 何度も何度も繰り返すうち次第に体力は削られ息も上がってきてしまう。それでもペースを乱す訳には行かない。それでも諦める訳には行かない。きっとこれは、最後のチャンスなのだから。

「かなた!お願いです!目を開けて下さい!お願い!かなた!今後姉を恨んでも構いません…… どうか戻って来て下さい!かなた!かなた!かなた! 」

 いくら気持ちを込めようと、どこか無機的な反応しか戻らない。
 まるでおもちゃでも相手にしている様だ。体も冷たい、本当にもう助からないのかもしれない。でも微かでも希望があるならますみは諦める訳には行かなかった。

「かなた!目を開けて!かなた!お願いです!かなた!一人にしないでください!かなた…… お願い…… お姉ちゃんを置いて行かないで……! 」

 何度目かの人工呼吸、その刹那吹き込んだものが急激に押し返された。
 驚いて顔を放すと今までゴム人形のようだった相手がゲホゲホと咳き込んで弱々しく目を開けるところだった。

「ああ…… 神様…… 」

 泥だらけのかけがえのない相手をますみは縋り付く様に抱きしめた。

「あ れ……? お姉ちゃん……?」

 状況が呑み込めないかなたはきょとんとしたまま姉の肩越しに辺りを見回していた。

「そうです、姉です。ああ かなた かなた…… 」

 枯れて居た涙が再び溢れ出す。冷え切っていた体の真ん中に熱が灯って、それが末端に向けて広がって行く様な感覚を覚える。ああ、自分は今、死の淵から舞い戻ったんだ、そんな風に思えた。

「お姉ちゃん…… 俺…… あれぇ? 」

「出来過ぎだなおい」

 悪魔が漏らした後、ますみの歪んだ視界の先にそれは現れた。
 救急車だ。ますみが川の流れを強引に追ったのを心配してレスキュー隊が追ってくれていたのだ。

「ここです!かなたが!!弟が!! 」

 弟から身を放すとますみは立てるかどうか尋ね、弟が肯定するとそっと立たせ、やってくる救急車に引き渡した。即座に検査が始まる。

「まさか本当に生き返るとはな。奇跡でも起こしたのかよお前」

「奇跡ではありません。かなたはまだ生きる運命にあっただけです」

 悪魔の問いにますみはそう答え、そして一度問い返した。

「かなたの顔が汚れていませんでした。あなたの計らいですか」

「そうだと言えば印象が良いんだろうな。が俺が引っ張り出した時からそうだったさ。風船みたいなのが顔にへばりついていてな。息はできなかったろうが、泥を飲み込む事も無かったろうよ。言っとくがな、神のおかげとかじゃねぇからな」

 ますみは寂しそうに目を細めた。

「わかっています。かなたを引き上げたのは悪魔であるあなたで、神様が悪魔に何かをお命じになるとは思えません」

 そうして意外な行動に出た。
 道に転がっていた羊皮紙の前に座ると黒い羽ペンで自分の名前を書きこんだのだ。
 それを突き出しながらますみはこう言った。

「あなたが引き上げてくれたので、かなたを取り戻す事が出来ました。その行為に対しては誠意を示さなくてはなりません」

「けっ!遅いってぇの!俺が助けた訳でもねぇし何もかも終わった後に署名したって契約にならねぇだろうが! 」

 悪態をつきつつそれを奪い取ると心底残念そうな顔でそれを眺める。

「助けるかぁ…… 引っ張り上げた時は助かっていなかったものなぁ…… 契約遂行にならねぇよなぁ…… 助ける事に協力したらにして置けば成立だったじゃないか!くっそぉ……。俺も焦り過ぎていたなぁ…… シンプルにしすぎたなぁ……」

 ひとしきり悔やんだ後、でもまぁと顔を上げ悪魔はにやりと笑った。

──魂の色はすっかり戻ったな。引き上げて正解だった──

「エスレフェス、以前あなたはこう言いましたね。悪魔が居ると幸運がやって来ると」

「ああ、それがどうしたよ」

「あなたが来てからトラブル続きです。バスジャック、父の冤罪、義祖父の死、そして今回の事故、短期間で起こり過ぎています。どこが幸運なのですか」

 悪魔は怪訝そうな顔をした。

「確かにな…… うむ、確かにな……」

 考え込んだ悪魔を前にますみは答えを待たずに弟のもとへ向かった。
 
「確かにな、出来過ぎだな」

 悪魔は不機嫌そうな表情を浮かべた。
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男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

作ろう! 女の子だけの町 ~未来の技術で少女に生まれ変わり、女の子達と楽園暮らし~

白井よもぎ
キャラ文芸
地元の企業に勤める会社員・安藤優也は、林の中で瀕死の未来人と遭遇した。 その未来人は絶滅の危機に瀕した未来を変える為、タイムマシンで現代にやってきたと言う。 しかし時間跳躍の事故により、彼は瀕死の重傷を負ってしまっていた。 自分の命が助からないと悟った未来人は、その場に居合わせた優也に、使命と未来の技術が全て詰まったロボットを託して息絶える。 奇しくも、人類の未来を委ねられた優也。 だが、優也は少女をこよなく愛する変態だった。 未来の技術を手に入れた優也は、その技術を用いて自らを少女へと生まれ変わらせ、不幸な環境で苦しんでいる少女達を勧誘しながら、女の子だけの楽園を作る。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

真夏の温泉物語

矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

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