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何年か前の事だった。
家の裏から聞いた事も無い様な奇妙な悲鳴を聞きつけて、かなたはそちらに駆け付けた。
「いい、い、いきなり動くとは卑怯です!脅かしっこは無しですよ! 」
そこでは尻もちをついた姉が人差し指を伸ばして地面に対して抗議していた。
「今のお姉ちゃん? 」
弟の声に涙ぐませた瞳のままますみは振り向いた。
「かなた。驚かせてしまいましたか。ごめんなさい。あまりにも驚いて」
何事かと姉の指す先を見て見ればそこには一匹のヒキガエルが座り込んでいた。
「一体何をしていたのさ」
怪訝そうなかなたにますみは身を起してスカートの砂を払うと真面目な表情で答えた。
「姉はこの美しい生き物と和解しようとしていた所です」
かなたは思わず二度瞬きをした。自分の姉がいかにヒキガエルを苦手としているかを良く知っていたからだ。
「お姉ちゃん?ヒキガエルが美しいって言った? 」
「当然です!神様がお創りになったものはすべからく良いものであり美しいのです」
言うなりますみはヒキガエルの前に背を正して座った。
ヒキガエルは喉を膨らめたり縮めたりあまり興味無さそうにしている。
「今日こそきっと姉はやり遂げて見せますよ! 」
そっと手を伸ばしていく過程で再びヒキガエルがこそっと動く、弟の手前悲鳴こそ噛み殺したものの、無理な体勢であったにもかかわらず見事に二歩ほど飛び退っていた。
かなたはその様子が可笑しく思えたが真剣そのものの姉を笑う訳にはいかない。
「い、今のはちょっとバランスを崩しただけです。ちゃんと和解してみせます」
「別に喧嘩していた訳じゃないんでしょう?無理に関わらなくて良いんじゃないかなぁ? 」
するとますみは真面目な顔のまま言った。
「姉はこの美しい生き物を避けてきました。それは彼等に対する侮辱です。だからこそ和解しなくては! 」
美しいと思いたい相手を撫でようとその頭上に手を伸ばしてゆくますみ。
所がかなたはため息とともに告げた。
「和解は良いけどさ、そいつ、毒持っているから触らない方がいいよ? 」
再び上がった表記出来ない発音の悲鳴と共にますみは驚く程後方に跳ね跳んでいた。
さすがのかなたも笑いをこらえる事が出来なかった。
「そ、そういう事は、は、早く教えて下さいっ! 」
姉の威厳が丸つぶれになったますみは耳まで真っ赤にしながら抗議した。
かなたはごめんごめんと小さく微笑んで彼女の手を引いて起こしてやった。
「お姉ちゃんのそう言うトコ、俺尊敬しているんだけど真面目すぎて危なっかしんだよなぁ」
バツが悪そうに地表に目を泳がせるますみはそんな事ありませんと答えた。
「お姉ちゃんの言う事は本当かもしれないけどさ、俺はね?こうも思うんだ。例えば何かどうしても苦手なものとか、嫌悪感を持ってしまうものがあったりしたとして、それはさ、神様がそう感じる様にしてくれているんじゃないかな。それにはもしかしたら意味があるのかもしれない。何でもかんでも無理して受け入れなくていいんじゃないかなぁ。俺は苦手なものがあっても良いと思うよ? 」
弟の言葉を視線を真っ直ぐ合わせて聞いていたますみだったが、ふっと表情を和らげてありがとうと言った。
「かなたは姉の気付かない沢山の事を教えてくれます。かなたが姉の世界を広げてくれます」
「俺はお姉ちゃんに教わってばっかりだけどなぁ。でも役に立ったなら嬉しいよ。お姉ちゃんはさ、なんでも生真面目に考えすぎるんだよなぁ。とっても良いトコだけどとっても危うくて心配」
ますみは気をつけますと言った後ああと顔を上げた。
「ヒキガエルには失礼をしました。せめて食べ物くらいはあげるべきでしょうか。リンゴとか食べるでしょうか。彼らが何を食べるのかかなたは知っていますか? 」
「ミミズとか昆虫だよ」
青ざめるますみの表情にかなたは笑いをこらえ、必要ないと思うけどどうしてもって言うんなら俺がやっておくよと答えた。
家の裏から聞いた事も無い様な奇妙な悲鳴を聞きつけて、かなたはそちらに駆け付けた。
「いい、い、いきなり動くとは卑怯です!脅かしっこは無しですよ! 」
そこでは尻もちをついた姉が人差し指を伸ばして地面に対して抗議していた。
「今のお姉ちゃん? 」
弟の声に涙ぐませた瞳のままますみは振り向いた。
「かなた。驚かせてしまいましたか。ごめんなさい。あまりにも驚いて」
何事かと姉の指す先を見て見ればそこには一匹のヒキガエルが座り込んでいた。
「一体何をしていたのさ」
怪訝そうなかなたにますみは身を起してスカートの砂を払うと真面目な表情で答えた。
「姉はこの美しい生き物と和解しようとしていた所です」
かなたは思わず二度瞬きをした。自分の姉がいかにヒキガエルを苦手としているかを良く知っていたからだ。
「お姉ちゃん?ヒキガエルが美しいって言った? 」
「当然です!神様がお創りになったものはすべからく良いものであり美しいのです」
言うなりますみはヒキガエルの前に背を正して座った。
ヒキガエルは喉を膨らめたり縮めたりあまり興味無さそうにしている。
「今日こそきっと姉はやり遂げて見せますよ! 」
そっと手を伸ばしていく過程で再びヒキガエルがこそっと動く、弟の手前悲鳴こそ噛み殺したものの、無理な体勢であったにもかかわらず見事に二歩ほど飛び退っていた。
かなたはその様子が可笑しく思えたが真剣そのものの姉を笑う訳にはいかない。
「い、今のはちょっとバランスを崩しただけです。ちゃんと和解してみせます」
「別に喧嘩していた訳じゃないんでしょう?無理に関わらなくて良いんじゃないかなぁ? 」
するとますみは真面目な顔のまま言った。
「姉はこの美しい生き物を避けてきました。それは彼等に対する侮辱です。だからこそ和解しなくては! 」
美しいと思いたい相手を撫でようとその頭上に手を伸ばしてゆくますみ。
所がかなたはため息とともに告げた。
「和解は良いけどさ、そいつ、毒持っているから触らない方がいいよ? 」
再び上がった表記出来ない発音の悲鳴と共にますみは驚く程後方に跳ね跳んでいた。
さすがのかなたも笑いをこらえる事が出来なかった。
「そ、そういう事は、は、早く教えて下さいっ! 」
姉の威厳が丸つぶれになったますみは耳まで真っ赤にしながら抗議した。
かなたはごめんごめんと小さく微笑んで彼女の手を引いて起こしてやった。
「お姉ちゃんのそう言うトコ、俺尊敬しているんだけど真面目すぎて危なっかしんだよなぁ」
バツが悪そうに地表に目を泳がせるますみはそんな事ありませんと答えた。
「お姉ちゃんの言う事は本当かもしれないけどさ、俺はね?こうも思うんだ。例えば何かどうしても苦手なものとか、嫌悪感を持ってしまうものがあったりしたとして、それはさ、神様がそう感じる様にしてくれているんじゃないかな。それにはもしかしたら意味があるのかもしれない。何でもかんでも無理して受け入れなくていいんじゃないかなぁ。俺は苦手なものがあっても良いと思うよ? 」
弟の言葉を視線を真っ直ぐ合わせて聞いていたますみだったが、ふっと表情を和らげてありがとうと言った。
「かなたは姉の気付かない沢山の事を教えてくれます。かなたが姉の世界を広げてくれます」
「俺はお姉ちゃんに教わってばっかりだけどなぁ。でも役に立ったなら嬉しいよ。お姉ちゃんはさ、なんでも生真面目に考えすぎるんだよなぁ。とっても良いトコだけどとっても危うくて心配」
ますみは気をつけますと言った後ああと顔を上げた。
「ヒキガエルには失礼をしました。せめて食べ物くらいはあげるべきでしょうか。リンゴとか食べるでしょうか。彼らが何を食べるのかかなたは知っていますか? 」
「ミミズとか昆虫だよ」
青ざめるますみの表情にかなたは笑いをこらえ、必要ないと思うけどどうしてもって言うんなら俺がやっておくよと答えた。
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