悪魔と委員長

GreenWings

文字の大きさ
上 下
11 / 48

幕間

しおりを挟む
 何年か前の事だった。

 家の裏から聞いた事も無い様な奇妙な悲鳴を聞きつけて、かなたはそちらに駆け付けた。

「いい、い、いきなり動くとは卑怯です!脅かしっこは無しですよ! 」

 そこでは尻もちをついた姉が人差し指を伸ばして地面に対して抗議していた。

「今のお姉ちゃん? 」

 弟の声に涙ぐませた瞳のままますみは振り向いた。

「かなた。驚かせてしまいましたか。ごめんなさい。あまりにも驚いて」

 何事かと姉の指す先を見て見ればそこには一匹のヒキガエルが座り込んでいた。

「一体何をしていたのさ」

 怪訝そうなかなたにますみは身を起してスカートの砂を払うと真面目な表情で答えた。

「姉はこの美しい生き物と和解しようとしていた所です」

 かなたは思わず二度瞬きをした。自分の姉がいかにヒキガエルを苦手としているかを良く知っていたからだ。

「お姉ちゃん?ヒキガエルが美しいって言った? 」

「当然です!神様がお創りになったものはすべからく良いものであり美しいのです」

 言うなりますみはヒキガエルの前に背を正して座った。
 ヒキガエルは喉を膨らめたり縮めたりあまり興味無さそうにしている。

「今日こそきっと姉はやり遂げて見せますよ! 」

 そっと手を伸ばしていく過程で再びヒキガエルがこそっと動く、弟の手前悲鳴こそ噛み殺したものの、無理な体勢であったにもかかわらず見事に二歩ほど飛び退すさっていた。

 かなたはその様子が可笑しく思えたが真剣そのものの姉を笑う訳にはいかない。

「い、今のはちょっとバランスを崩しただけです。ちゃんと和解してみせます」

「別に喧嘩していた訳じゃないんでしょう?無理に関わらなくて良いんじゃないかなぁ? 」

 するとますみは真面目な顔のまま言った。

「姉はこの美しい生き物を避けてきました。それは彼等に対する侮辱です。だからこそ和解しなくては! 」

 美しいと思いたい相手を撫でようとその頭上に手を伸ばしてゆくますみ。
 所がかなたはため息とともに告げた。

「和解は良いけどさ、そいつ、毒持っているから触らない方がいいよ? 」

 再び上がった表記出来ない発音の悲鳴と共にますみは驚く程後方に跳ね跳んでいた。

 さすがのかなたも笑いをこらえる事が出来なかった。

「そ、そういう事は、は、早く教えて下さいっ! 」

 姉の威厳が丸つぶれになったますみは耳まで真っ赤にしながら抗議した。

 かなたはごめんごめんと小さく微笑んで彼女の手を引いて起こしてやった。

「お姉ちゃんのそう言うトコ、俺尊敬しているんだけど真面目すぎて危なっかしんだよなぁ」

 バツが悪そうに地表に目を泳がせるますみはそんな事ありませんと答えた。

「お姉ちゃんの言う事は本当かもしれないけどさ、俺はね?こうも思うんだ。例えば何かどうしても苦手なものとか、嫌悪感を持ってしまうものがあったりしたとして、それはさ、神様がそう感じる様にしてくれているんじゃないかな。それにはもしかしたら意味があるのかもしれない。何でもかんでも無理して受け入れなくていいんじゃないかなぁ。俺は苦手なものがあっても良いと思うよ? 」

 弟の言葉を視線を真っ直ぐ合わせて聞いていたますみだったが、ふっと表情を和らげてありがとうと言った。

「かなたは姉の気付かない沢山の事を教えてくれます。かなたが姉の世界を広げてくれます」

「俺はお姉ちゃんに教わってばっかりだけどなぁ。でも役に立ったなら嬉しいよ。お姉ちゃんはさ、なんでも生真面目に考えすぎるんだよなぁ。とっても良いトコだけどとっても危うくて心配」

 ますみは気をつけますと言った後ああと顔を上げた。

「ヒキガエルには失礼をしました。せめて食べ物くらいはあげるべきでしょうか。リンゴとか食べるでしょうか。彼らが何を食べるのかかなたは知っていますか? 」

「ミミズとか昆虫だよ」

 青ざめるますみの表情にかなたは笑いをこらえ、必要ないと思うけどどうしてもって言うんなら俺がやっておくよと答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天之琉華譚 唐紅のザンカ

ナクアル
キャラ文芸
 由緒正しい四神家の出身でありながら、落ちこぼれである天笠弥咲。 道楽でやっている古物商店の店先で倒れていた浪人から一宿一飯のお礼だと“曰く付きの古書”を押し付けられる。 しかしそれを機に周辺で不審死が相次ぎ、天笠弥咲は知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、不思議な出来事により自身の大切な妹が拷問を受けていると聞き殺人犯を捜索し始める。 その矢先、偶然出くわした殺人現場で極彩色の着物を身に着け、唐紅色の髪をした天女が吐き捨てる。「お前のその瞳は凄く汚い色だな?」そんな失礼極まりない第一声が天笠弥咲と奴隷少女ザンカの出会いだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

臓物爆裂残虐的女子スプラッターガール蛇

フブスグル湖の悪魔
キャラ文芸
体の6割強を蛭と触手と蟲と肉塊で構成されており出来た傷口から、赤と緑のストライプ柄の触手やら鎌を生やせたり体を改造させたりバットを取り出したりすることの出来るスプラッターガール(命名私)である、間宮蛭子こと、スプラッターガール蛇が非生産的に過ごす日々を荒れ気味な文章で書いた臓物炸裂スプラッタ系日常小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

薔薇と少年

白亜凛
キャラ文芸
 路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。  夕べ、店の近くで男が刺されたという。  警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。  常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。  ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。  アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。  事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。

「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」

GOM
キャラ文芸
  ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。  そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。  GOMがお送りします地元ファンタジー物語。  アルファポリス初登場です。 イラスト:鷲羽さん  

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

図書準備室のシキガミさま

山岸マロニィ
青春
港町の丘の上の女子高の、図書準備室の本棚の奥。 隠された秘密の小部屋に、シキガミさまはいる―― 転入生の石見雪乃は、図書館通学を選んだ。 宇宙飛行士の母に振り回されて疲れ果て、誰にも関わりたくないから。 けれど、図書準備室でシキガミさまと出会ってしまい…… ──呼び出した人に「おかえりください」と言われなければ、シキガミさまは消えてしまう── シキガミさまの儀式が行われた三十三年前に何があったのか。 そのヒントは、コピー本のリレー小説にあった。 探る雪乃の先にあったのは、忘れられない出会いと、彼女を見守る温かい眼差し。 礼拝堂の鐘が街に響く時、ほんとうの心を思い出す。 【不定期更新】

処理中です...