いつも通りの聖夜

GreenWings

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第四幕:クリスマスの昼過ぎ

クリスマスの昼過ぎ

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 目を覚ましたジャスティンは見知らぬ部屋にいる事に気づいた。
 状況を把握しようと寝床から身を起こすと突然横から何者かにしがみつかれてしまって面食らった上、それがまたあまりにもきつかったものだからなんだよと悪態をついてしまう。

「ジャスティン、あなたって子は……」

 震える声の主が自分の母親であることを知り思わず彼は身を固くする。

 母親はジャスティンの顔に両手を這わせ、じっと見つめた。
 そしてハッとなり涙を流した。

「ごめんなさいジャスティン」

 ジャスティンは狼狽した。
 クリスマスツリーが届いた後自分はどうやって戻ったのだろう、なぜ母親が泣いているのだろう。
 
「母さん、俺どうなっているの? 」

「ああ、そうね、お医者様が言うには問題ないみたいよ」

「医者? 」

 確かにそこは病室のようだった。

「俺、怪我でもしたの? 」

 それで記憶でも飛んでいるのだろうか。

「そうじゃないわ」

「よくわからないけど、なんで母さんが俺に謝るの? 」

 母親は心からすまなそうな顔をした。

「それはね、あなたの顔を知っているつもりだったんだなってわかったから」

「どういう事さ」

 怪訝そうな顔をするジャスティンを胸に抱きしめ、母親は罪を告白するかのように言った。

「さっきあなたの顔を見た時にね、気が付いたの。あなたの顔を見たらあなただってわかるのだけど、あなたがどんな顔をしているのかわかっていなかったんだって。私は本当にあなたと向かい合っていなかったのね」

 母親の言葉の意味がわからずジャスティンは返事ができなかった。

「お母さんを許してちょうだい」

「許すもなにも……。 夜中抜け出したのは俺なんだけどね……」

「ええ、そうね。そうさせてごめんなさい」

 身を放そうとしない母親に戸惑っていたジャスティンだったが、他の者が同じ部屋にいる事に気づき、慌てて放してくれるように言った。

 隣のベッドでニネットが父親に静かに叱られている所だった。

 その向こうではネオが両親に号泣されて困っていた。

 一番向こうではマックが父親にこっぴどくしぼられている所だ。

 自分たちの命が危うかった事を告げられ、四人はなぜそんなことをしたのか問い詰められた。

 口を開いたのはマックだった。
 マックはサンタが実際に来るかどうか確かめるためだったと言い、賭けに関しては言わなかった。

 マックの父親はそんなくだらない事の為に寒空で夜を明かそうとしたのかと再び怒鳴り散らした。

「そんなことをせんでも毎年サンタはやって来ているだろうが! 」

「そうなのかな」

 マックが言うとマックの父親が当たり前だと再び声をあげた。

「今朝だって最新ゲームのセットがちゃんと届いていたんだ!サンタはお前が居なくてなくてさぞ面食らったろう!こっちは捜索願を出すやら街中探しまわるやら大変だったんだからな! 」

「もうしないよ」

 マックはうなだれてみせた。

「当たり前だ!まぁ、とにかく無事でよかった……」

 マックとその父親のやり取りが続いているさなか、ジャスティンの母親が息子を見つめて言った。

「ジャスティン、それでどうだったの? 」

「え? 」

 母親は息子の顔をまっすぐに瞳に映していた。

「サンタさんは来たの?プレゼントはもらえた? 」

 ジャスティンは一度目をそらし、こう言った。

「母さん達が俺達を見つけた時、なにがあった? 」

「あなた達が居た以外には無かったわ」

 その答えが来ることは想像していた。
 一晩で巨大な大樹が突然現れたのなら自分たちの事だけではなくその事についても大人たちは矢継ぎ早に聞いてくるはずだ

「じゃぁ、それが答えなんじゃないの……? 」

 ジャスティンはつまらなそうにそう答えた。

「見た事もないほど大きなツリー?!馬鹿らしい! 」

 向こうでマックの父親が息子の話を聞いて笑い飛ばした。

「さっき医者が言ってたがな、体が冷たくなりすぎると幻覚を見るそうだ、お前が見たのはまさにそれだよ」

 その言葉に子供たちは自分だけが体験した訳ではなかった事を認識した

「おじさん、私も見たわ!とっても綺麗な大きな樹だった! 」

 ニネットがマックの援護をする。

「はん、集団幻覚ってやつだよお嬢ちゃん、見たいって思ってたものが同じだとなる事があるのさ」

「父さんは見ていないからそう言ってるだけなんだ」

 マックがそう言った。

「ああ、あの日は寒かったしな、遠くの摩天楼がそう見えても仕方ないからな」

 マックの父親が手を振ってそう答える。

 そのやりとりを見てジャスティンは肩をすくめた。所が意に介さない者が居た。

「ジャスティン」

 母親は息子の顔を両手で支えて言った。

「私は私が見たことを聞いているのではないの。あなたに聞いているのよ。プレゼントは届いたの? 」

 自分から視線を外さずにまじめな顔を向ける母親を見てジャスティンはふと思った。
 こうやって最後に視線が繋がったのは果たしていつだったろう。

 息子はすぐには答えなかったが母親は辛抱強くそれを待った。
 そして小さな声で答えは返った。

「届いたよ」

「なぁに?もう一度言って」

「届いたとも! 」

 今度は大きな声だった。

「サンタは来たんだ!俺達は全員それを受け取った。あれは嘘じゃない!もし今、あそこにツリーが無かったとしても、俺達が居た時にはあったんだ! 」

「そうよ、間違いないわ」

 ニネットがはなれた所からそう言った。

 ジャスティンの母親はそれに振り返らずただ息子を見ていた。
 そしてしばらく黙っていたのちにこれまでジャスティンが見た事もないくらい柔らかに表情を和らげた。

「そう」

「ああ」

「来たのね」

「来たよ」

「よかったわ。ジャスティン」

 息子を胸に抱きしめてジャスティンの母は深いため息をついた。

「なんだよ、笑わないのかよ! 」

 母親の腕の中でジャスティンは抗議の声をあげた。

「どうしてよ。あなたが良い子だって認められたんじゃない。母親としてこれは喜ばしい事だわ!そうだ!あなたが大丈夫な様ならこれから買い物に出かけましょう! 」

 ジャスティンは身を引き放し母親の顔を見た。

「買い物?! 」

「そう!まずレストランで食事をして、その後あなたへのプレゼントを買いに行くの!素敵でしょ?サンタさんのプレゼントにはかなわないかもしれないけれど、それでも少しくらいは喜んでくれるのでしょう? 」

「なんだよそれ!うちにそんな余裕ないだろ」

 母親の様子がおかしいのでジャスティンは再び戸惑っていた。

「なによ。クリスマスくらいいいじゃない!その代わり、しばらくごはんは質素にする必要はあるかもだけれど……」

「無理すんなよ。もうサンタにもらったよ! 」

 だがジャスティンの母親は引き下がらなかった。

「だから今度はお母さんがあげるのよ!なんだっけ、ジャスティンが好きなの、えっと…… マスクドライバー?だっけ?あれのなんかこう…… つけるの!それ買いに行こう! 」

 周りに注目されだしたためジャスティンの顔が染まり始める。

「そうじゃないよ…… そんなの欲しがる歳じゃないよ……」

「何よ良いじゃない、ちがうの?じゃぁまって?必ず思い出すから…ええと……マスクが付いていたのは確かなのよ…… 」
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