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第二幕:聖夜
第二場:起こらない奇跡
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言葉をなくしてしまったかのように押し黙ったままの子供たちは降りしきる雪の中に背を預け合って座りこんでいた。
寒さに慣れたのかそうでないのか、いつしか体の震えは止まり、身を切るような痛みはあまり感じなくなっていた。
それはただ待つしかない身としてはとてもありがたい事で、そのまま身を凍えさせる事もなく待ち人の登場まで過ごす事ができればなどと思えた。
身を縮め、膝を抱えていたものだから皆すっかり雪にまみれ、誰が誰だかわからなくなってしまっている。
冷たいはずの雪だが逆にそれが風よけになってくれているのだろうかと思ったり、あるいはどうでもよかったりした。
体も心も淀んだ夜に染まった黒い雪に覆われ、凍りついてしまったかのように動かない。
そんなさなかにそれは起こった。
光がさした。
それは闇の中だからこそ見えるよう様なささやかなものだった。
雲に隙間ができ、そこから星明かりがもれたのだ。
無関心だった四人は無意識にその微かで清らかな筋を見つめた。
一瞬だった。
全天を覆う雲の総てがはじけ飛ぶようにかき消え、磨き上げられたような星々がこうこうと輝き視界いっぱいに広がった。
そしてそれと同時に辺りを敷き詰めていた闇色の雪が白銀に照りかえした。
余りの事態に四人はきょろきょろとあたりを見回すしかない。
「晴れた……」
「うん」
ひときわ強い風が四人を掠めて吹きぬけ、それが見つめる先で大きな渦になった。
見えない風がそうなったとわかったのは周りの雪を派手に巻き上げ、らせん状に吸いあげたからだ。
子供たちは思わず立ち上がり、それを凝視した。
突風は周囲の雪を天高く持ち上げ、それを上空から四方八方に花火かクラッカーの様にまき散らし、星明かりがその飛沫一つ一つをきらめかせて彩りを添える。
「なんだこれ……! 」
マックが思わす声を漏らす。
「ああっ……」
ニネットは両手で口を押さえた。
「これは…… 」
「いや、こんなのたまたまだ! 」
ネオが否定した。
この時期に起こり得るはずの無い竜巻は天を覆いかねない勢いで立ち昇り月明かりを受けて輝いた。
しかしなにより驚くべきはそれではなかった。
「見て! 」
跳ねるように立ち上がったニネットが体をいっぱいに伸ばして指差しす。
巨大であるにもかかわらず、その場から一切動こうとしない竜巻の中にそれは確かに見えた。
大樹。
いまだかつて見た事もないほど巨大な大樹がその中にあった。
全員が息をのんだ。
星明かりを受けてなのか、あるいは自らそうしているのか、大樹には光の玉がちりばめられていた。
それだけではない、竜巻がさえぎる中よくよく見れば柊の飾りや羊飼いの杖、金色のベルまで輝いている。
目の前の光景が日常から逸脱しすぎていて言葉が出ない。
そんなことはおかまいなしに竜巻はさらに雪を巻き上げ、そして派手にそれらを撒き散らして唐突に消え去った。
大芝原のエリアのあちこちにどさどさと雪が落っこちて重い音を立てる中、四人の子供たちの前には竜巻の何倍も巨大な大樹がそびえていた。
闇を照らすかのように内から光をにじませ、数え切れないほどのオーナメントで身を飾り、あちこちにろうそくの灯をともして、確かにそれは目の前に登場した。
その幹があまりにも太いので向こう側の景色が完全に隠れてしまう程にそれは巨大だった。
ジャスティンは一歩踏み出し、そして見上げた。
視界いっぱいが張り出した枝でふさがれ空が一切見えなくなっている。
上が見えないものだからベツレヘムの星があるのかどうかは確認できないが、これは間違いなくクリスマスツリーだ。しかも、想像を絶する大きさの!
「ジャスティン! 」
黄色い声にジャスティンは振り返った。
「来たのよ!サンタさんが!アハハ! 」
ニネットが胸に両手をあてて身を乗り出して叫んだ。
「来たのよ!ジャスティン!見て!こんな大きなツリー!私見た事ないわ!きっと世界中のどこにもないはずよ! 」
小躍りしながらニネットはジャスティンに駆け寄るとその手を取って大樹に引っ張って行った。
「そんな馬鹿な……。 論理的にあり得ない。だってそうだろ?! 」
ネオが目を見開いたままそう漏らしたが、マックは穏やかな表情で微笑んでいた。
「こりゃ、反論の余地がないな」
「けどマック!こんな事ってあるかい? 」
狼狽するネオをマックは笑った。
「認めるしかないだろネオ、他にどう説明するってんだ?姿は見てなかったさ、けど人間業じゃない。こりゃ、本物の仕業だ」
マックの見つめる先でジャスティンはニネットにとられた手を大樹に押し付けられていた。
「ほら!本当にある!すごい!すごいよジャスティン! 」
「あ、ああ…… 」
自分の手と幹を交互に見てジャスティンはようやくそう漏らした。
「ジャスティン! 」
ニネットがジャスティンの顔を下から覗きこむ。
「来たんだよ。サンタさん!ジャスティンの所に」
「そうか…… え? そうか、来てくれたんだ」
「うんっ! 」
いつもよりも大きく頷くニネットの姿にジャスティンはようやく表情を取り戻し、そしてもう一度空を覆う偉大な大樹を見上げた。
「来たんだ! 」
「うんっ!来たよっ! 」
来たんだぁっ! 」
「うんっ! 」
叫ぶジャスティンにニネットは何度も頷いた。
「奇跡が起こった! 」
「違うわよジャスティン」
ニネットは小さくかぶりを振った。
「何が違うのさ」
「これは奇跡が起こったんじゃないわ。起こる事が当たり前に起こったのよ」
寒さに慣れたのかそうでないのか、いつしか体の震えは止まり、身を切るような痛みはあまり感じなくなっていた。
それはただ待つしかない身としてはとてもありがたい事で、そのまま身を凍えさせる事もなく待ち人の登場まで過ごす事ができればなどと思えた。
身を縮め、膝を抱えていたものだから皆すっかり雪にまみれ、誰が誰だかわからなくなってしまっている。
冷たいはずの雪だが逆にそれが風よけになってくれているのだろうかと思ったり、あるいはどうでもよかったりした。
体も心も淀んだ夜に染まった黒い雪に覆われ、凍りついてしまったかのように動かない。
そんなさなかにそれは起こった。
光がさした。
それは闇の中だからこそ見えるよう様なささやかなものだった。
雲に隙間ができ、そこから星明かりがもれたのだ。
無関心だった四人は無意識にその微かで清らかな筋を見つめた。
一瞬だった。
全天を覆う雲の総てがはじけ飛ぶようにかき消え、磨き上げられたような星々がこうこうと輝き視界いっぱいに広がった。
そしてそれと同時に辺りを敷き詰めていた闇色の雪が白銀に照りかえした。
余りの事態に四人はきょろきょろとあたりを見回すしかない。
「晴れた……」
「うん」
ひときわ強い風が四人を掠めて吹きぬけ、それが見つめる先で大きな渦になった。
見えない風がそうなったとわかったのは周りの雪を派手に巻き上げ、らせん状に吸いあげたからだ。
子供たちは思わず立ち上がり、それを凝視した。
突風は周囲の雪を天高く持ち上げ、それを上空から四方八方に花火かクラッカーの様にまき散らし、星明かりがその飛沫一つ一つをきらめかせて彩りを添える。
「なんだこれ……! 」
マックが思わす声を漏らす。
「ああっ……」
ニネットは両手で口を押さえた。
「これは…… 」
「いや、こんなのたまたまだ! 」
ネオが否定した。
この時期に起こり得るはずの無い竜巻は天を覆いかねない勢いで立ち昇り月明かりを受けて輝いた。
しかしなにより驚くべきはそれではなかった。
「見て! 」
跳ねるように立ち上がったニネットが体をいっぱいに伸ばして指差しす。
巨大であるにもかかわらず、その場から一切動こうとしない竜巻の中にそれは確かに見えた。
大樹。
いまだかつて見た事もないほど巨大な大樹がその中にあった。
全員が息をのんだ。
星明かりを受けてなのか、あるいは自らそうしているのか、大樹には光の玉がちりばめられていた。
それだけではない、竜巻がさえぎる中よくよく見れば柊の飾りや羊飼いの杖、金色のベルまで輝いている。
目の前の光景が日常から逸脱しすぎていて言葉が出ない。
そんなことはおかまいなしに竜巻はさらに雪を巻き上げ、そして派手にそれらを撒き散らして唐突に消え去った。
大芝原のエリアのあちこちにどさどさと雪が落っこちて重い音を立てる中、四人の子供たちの前には竜巻の何倍も巨大な大樹がそびえていた。
闇を照らすかのように内から光をにじませ、数え切れないほどのオーナメントで身を飾り、あちこちにろうそくの灯をともして、確かにそれは目の前に登場した。
その幹があまりにも太いので向こう側の景色が完全に隠れてしまう程にそれは巨大だった。
ジャスティンは一歩踏み出し、そして見上げた。
視界いっぱいが張り出した枝でふさがれ空が一切見えなくなっている。
上が見えないものだからベツレヘムの星があるのかどうかは確認できないが、これは間違いなくクリスマスツリーだ。しかも、想像を絶する大きさの!
「ジャスティン! 」
黄色い声にジャスティンは振り返った。
「来たのよ!サンタさんが!アハハ! 」
ニネットが胸に両手をあてて身を乗り出して叫んだ。
「来たのよ!ジャスティン!見て!こんな大きなツリー!私見た事ないわ!きっと世界中のどこにもないはずよ! 」
小躍りしながらニネットはジャスティンに駆け寄るとその手を取って大樹に引っ張って行った。
「そんな馬鹿な……。 論理的にあり得ない。だってそうだろ?! 」
ネオが目を見開いたままそう漏らしたが、マックは穏やかな表情で微笑んでいた。
「こりゃ、反論の余地がないな」
「けどマック!こんな事ってあるかい? 」
狼狽するネオをマックは笑った。
「認めるしかないだろネオ、他にどう説明するってんだ?姿は見てなかったさ、けど人間業じゃない。こりゃ、本物の仕業だ」
マックの見つめる先でジャスティンはニネットにとられた手を大樹に押し付けられていた。
「ほら!本当にある!すごい!すごいよジャスティン! 」
「あ、ああ…… 」
自分の手と幹を交互に見てジャスティンはようやくそう漏らした。
「ジャスティン! 」
ニネットがジャスティンの顔を下から覗きこむ。
「来たんだよ。サンタさん!ジャスティンの所に」
「そうか…… え? そうか、来てくれたんだ」
「うんっ! 」
いつもよりも大きく頷くニネットの姿にジャスティンはようやく表情を取り戻し、そしてもう一度空を覆う偉大な大樹を見上げた。
「来たんだ! 」
「うんっ!来たよっ! 」
来たんだぁっ! 」
「うんっ! 」
叫ぶジャスティンにニネットは何度も頷いた。
「奇跡が起こった! 」
「違うわよジャスティン」
ニネットは小さくかぶりを振った。
「何が違うのさ」
「これは奇跡が起こったんじゃないわ。起こる事が当たり前に起こったのよ」
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