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風のスクリーン
しおりを挟む快速電車が巻き上げた熱気は
しばらくの間
そこに留まっていたけれど
やがて 諦めたように
元のところにおさまった。
図書館の二階の
締め切った窓から見ても
それは
大昔に消えたどこかの「国」の
体操選手の着地のように
あざやかに見えた。
……………………………
Cが起こる前
「国」というものがあったという。
ACという「国」があった。
図書館の電子情報に残るACは
とても滑稽で
すべてが
ジョークのようだ。
ネズミの国で 幼児にように
はしゃぐ大人たち。
20語以上話すと
つじつまが合わなくなり
「お前らはウソつきだ」と
駄々をこねる 最高権力者。
……………
わたしの知識は
ほとんど 図書館で得たもの。
わたしたちVが 知識を得るには
図書館に通うしか 方法はない。
……………
Cを造ったのは CN。
Vを造ったのは AC。
CNとACは
CとVを繋げて
世界を作り替える つもりだった。
らしい。
どこで
誰が 間違えたのか。
CNが 間違えた。
ACが 間違えた。
CNもACも 間違えた。
間違っていると知っていて
わざと 間違えた。
わざと。
なぜ。
……………
結果は 計画外だった。
ACが 消えてしまった。
ACだったところは
大部分Qになった。
……………
CはCNの「実験室」で造られた。
CNはCを世界中に広げる。
そして
たくさんのひとが 消えた。
大きな混乱が起こり
たくさんの「国」の
政府が倒れた。
そこにVが颯爽と登場した。
VはCを駆逐するという。
世界はそれに賭けた。
その結果は わたしたちだ。
勝利?
敗北?
わたしたちは
そんなことのために
存在して いる わけ
ではない。
……………
Vを受けたものはVになる。
VのMはVM、WはVW。
Vを拒否した僅かなものは
全員Cを被った。
Cを被ったものは
MはCM、WはCW。
CとVが作り替えた世界がどんなものか
分かり始めたのはVの数年後だった。
CMとCWは50%以上が消えた。
CMとCWが交わっても
子供はできない。
CMとVWが交わると
子供はできる。
できる子供はCだ。
CWとVMが交わると
Vが生まれる。
……………………………
99はX。
エックスだ。
99はQのレジスタンス。
青い瞳と
褐色の肌。
金色の髪。
99はX。
…………………………
わたしはミカ。
JNのミカ。
VWのミカ。
すべてコード。
わたしたちはコード。
これはわたしたちVWの記憶。
共有した記憶。
………………………
「エキゾが来た。」
チャンピオンが言った。
チャンピオンの視線の先に
エキゾと呼ばれたWがいた。
髪が長く、夏服を着たW。
エキゾは 軽やかに 机の間を漂い
「JNの話をしてあげる」と言う。
……………
JN。
Cの後
ACを追いかけるように消えた「国」。
今はCNの片隅にある。
私たちのいる この場所のことだ。
図書館の電子情報を探しても
JNは見つからない。
図書館のWは
「あまりに ちっぽけなので
とっくの昔に 捨ててしまった。」という。
………………………………
公園は閑散としている。
ジャングルジムのそばのベンチで
チャンピオンが弁当を食べている。
チャンピオンの弁当は大きい。
チャンピオンの母親が毎朝作る。
今日のおかずは
豚肉の生姜焼きと卵焼き。
他人の弁当は 本当に美味しそう。
毎日こんな大きな弁当を作るのは
とても大変なはず。
……………
ジャングルジム、という単語を
スティーリーダンの「いかした仕事」という曲のなかで聴くと
すごく「いかした」意味がありそうに聞こえる。
なぜこの単語を使ったんだろう。
響きがいいわけでもなさそう。
ライムを踏んでもいない。
……………………………
どのくらい前の話か
正確に分からない。
公園に動物が飼われていた
らしい。
熊やトラがいたという。
本当だろうか。
こんな ちっぽけな公園に。
エサは 誰が
やってたんだろうか。
本当の話というのは
ときに作り話より
ずっと荒唐無稽に思える。
そうだよね。
……………………………
動物園がなくなったのは
ひとがトラに
喰われたからだという。
図書館のWが教えてくれた。
電子情報に ちゃんと
あった。
イケダヒロシ。
50才。
銀行員。
トラに喰われる。
喉を食いちぎられ
内蔵を引きずり出して
喰われた。
なぜ。
…………………………
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