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17.奇跡

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「な、なんですって…!?」


産まれたばかりの我が子を見る。
生まれたてで顔は皺だらけだが、確かに額に十字の刻印がある。

「ニケ様…。」

「あぁ、私は聖女様を見た事があるが、同じ刻印で間違いない。この子は…。聖女だ…!!」


「ニケ様、とりあえずはご退出をお願いします。奥様はまだ事後処理等あります。お子様も綺麗にしなければいけませんからねっ!」

産婆に追い出されていくニケ様。

私も痛い事後処理が終わり、緊張の糸が切れたのかトロトロと眠気が襲い、眠りについてしまうのだった。



目を覚ますと、隣りで眠る我が子と、それを愛おしそうに見つめるニケ様がいた。


「フィオナ…。本当にありがとう。こんなに可愛い子を産んでくれて。そしてお疲れ様。我が子が聖女だなんて、ちょっとまだ信じられないな…。」


「こちらこそありがとうございます…。本当に…。」

十字の刻印を優しく触ってみる。

「聖女であろうと無かろうと私にとったら女神だけど…。あ、女神はフィオナか。じゃあこの子は天使だな。」

ほっぺをツンツンと触りながら、そんな事を平然と言うニケ様。思わず赤面してしまう。


「お、お義父様に抱っこしてもらいましょう!」


「そうだね。ちょうど父を呼んだ所だ。」

そう言うとタイミングよく義父が入ってくる。

「フィオナ、ご苦労だったな。この子が2人の子か…!!か、か、可愛い…!!おじいちゃんですよ~!!」

寝ている子どもの手をツンツンする義父。ニケ様と同じ反応をするなんてさすが親子だ。

すると、顔がクチャっとなったかと思えば、起きて泣き出してしまった。

自然に子どもに手が伸び、抱っこする。


「泣き止んだ….。もうこの子は母親がわかっているのだな…。フィオナ、この子の名前だけれどフルールなんてどうだろうか。」

「可愛らしい名前ですね。素敵です。フルール…。貴女の名前ですよ。さぁ、ニケ様抱いてあげてくださいな。」


「あぁ。柔らかいな…。フルール、可愛い。なんて可愛いんだ。これから君は沢山の人を救っていくのだろう…。きっと聖女として大変な事もあるかもしれないが、君の父様と母様はずっと君の味方でいるからな…。もう少し、私達だけの可愛い娘でいてくれ。」


「こらニケ。私もフルールの味方だ!」

義父がつっこむ。

「ははっ!そうですね。ほら、父上も抱いてあげてください。」

車椅子に座る義父の腕にそっと抱かせる。


「ニケをこうして抱いた事を思い出す…。あぁ…。アイツにもフルールを抱っこさせてやりたかった…!!」

「父上…。」
「お義父様…。」

そう言って涙を流す義父。

「あぁすまんなぁ。こんなめでたい時にこんなしんみりさせてしまって。お、この子は力が強いのう!掴んだ小指を離さんわ…。ん…???」

「どうされましたか…?」


「ん??ん???んん???」


そう言って義父がフルールを抱っこしたまま立ち上がった!!


「ちちちょっと父上…!!!って……えっ!?」

慌ててニケ様がフルールに手を伸ばすが、義父の足はしっかりと身体を支え、背筋も伸び、顔色もとても優れている。


「まさか……!!!」


「息苦しさも目眩も無い…!!こんなに気分が良いのはいつ以来だろうか…!!」

「フルール…!!貴女の力なの…!?」

我が子を見るが、ただ義父の小指を握りキョトンとしているだけだった。


「信じられない…。これが聖女の力か…!!しかし、フルールが聖女である事は、1か月後に神殿長が戻られ検証されるまで秘密にしておこう。屋敷の者にも必ず漏らさぬように伝えよう。」


「そうですわね。良からぬ事を考える者がいそうですものね。」

(ゴードンやマーガレットなど…。)


「そしてニケ様。神殿長がお戻りになられるのは2ヶ月先では無かったのですか?」

「1ヶ月先だ。」

ニケ様がふふっと笑う。


「マーガレットには2カ月先とおっしゃって…。」


「ふっふっふぇぇぇぇん!!」
「ああぁフルールおじいちゃんだぞ、どうしたのだ?!」
「どうしたフルール!父様が良いのだな!?ほらおいで!あぁ泣き止まない!」

フルールが突然泣き出した。

聖女といえども、他の子と何も変わらぬ赤子に翻弄される2人を見ると、笑みが溢れるのだった。






次回マーガレット視点です。



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