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10.大切な人(ウィル目線)

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(ウィル目線)



「今日も、私は1人で眠れば良いのでしょうか?」

---ドキッとした。エリーゼの私を真っ直ぐ見る瞳から目が離せない。



「やはり、私では力不足でしょうか?」

---そんな事ある訳ない。ずっとずっとエリーゼを手に入れたかった。



「私の心は心配ではっ!!無いのでしょうか…。」

----心配で心配で仕方無いんだ…。君がいなくなってしまったら生きていけない…。







私は公爵家の後継ではあるが、この家での立場はものすごく低い。

理由は単純だ。
私が、前妻との子どもだからだ。

私の母親は、私が5歳の時に亡くなった。
母の事を愛していた父は数年、抜け殻のようになった。

母を亡くした時の父は、酷いものだった。酒に入り浸り、公務もおざなりになった。子どもながらに、あぁはなりたく無いものだと思った。
私自身、最愛の母親を亡くした事は大変ショックだった。

父は、それを支えた侍女のフィオナと、周りの反対を押し切って再婚した。


2人の間に子どもができていないから後継が私なだけであって、父は母親にそっくりな私を見る事は辛いらしく、業務的な会話以外顔を合わせる事が無くなった。




あの母の死と、父の再婚から私は何に対しても執着する事が無くなった。
大切なものを作るのが怖くなった。



父も私の顔を見る事を避けたし、新しい母も私を居ない者として扱った。
私は決められた事にただ、従った。



そんな私が唯一心が許せたのが、
幼馴染であり親友のマジューだった。
(カレンがいつもくっついて来たが。)


どうしても辛くなった時、消えたくなった時など、木に登り木の上で空を眺めていたが、いつもマジューがただ一緒にいてくれた。




結婚相手も、父と母が決めた者とする予定だった。


しかし、エリーゼに出会ってしまった。

いつも通り公爵令息として参加した夜会で、いつも通り公爵家の爵位につられ群がる女性達を適当にあしらい、人目につかないように部屋の端に避難して会場を見渡しボーッと観察していると、
1人の男性が誤って1人の女性のドレスにワインをこぼしてしまっていた。

必死に謝り頭を下げる男性を、女性は下から覗き込むようにして、謝罪を制止しようとしている。
その表情はとてもにこやかで、顔を上げた男性も、その笑顔にホッとした表情をしていた。その上、女性は男性に自分のハンカチを差し出した。自分の方が濡れているのに…。


私はその女性から目が離せなくなった。
マジューにすぐ確認し、エリーゼの事を知った。


今まで何にも執着してこなかった私が、初めて彼女の事を知りたい、彼女の視線に入りたい。
そう思って、彼女の元に急いだ。
自分のハンカチを渡し、少し照れながら
「ありがとうございます。」
と言いながら受け取るエリーゼに心奪われた。

初めて父と母に
「エリーゼに結婚を申し込みます。」
と、主張した。
初めての自分で選択した。
初めて望んだ。







そんなエリーゼを大切にしたいのに、
危険な目に合わせてしまった。

失うのが怖くて
逃げてしまっていた。

初めてできた大切な存在にどうしたら良いか分からなかった。



そんな臆病な私に、一緒に戦おうと言ってくれたエリーゼ。




次こそ。
次こそエリーゼを守ってみせる。

必ず裏切り者を見つけ、
エリーゼを傷つけたカレンには容赦しない。大切なマジューの大切な人であっても…。

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