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32.忠誠(ラウル視点)
しおりを挟むーーーラウル視点
やはり…。
オディロンはフレミアの祖父の子どもだった。
「そして私の母は、妊娠したのにも関わらず身一つで追い出されました。実家に頼ったものの、体裁を気にした両親に金だけ渡され追い出されたのです。そして私を1人で育てる為に無茶をして…過労で帰らぬ人となりました。それから私は…死に物狂いで学び、母の実家を脅して責めて、何とか侯爵家の使用人として働く事が叶ったのです」
「それは…辛かったな…」
何一つ不自由せず育った私が、何を言っても言葉に重みは無いだろう…
「そうですね…母を死に追いやった前侯爵を許せなかった…」
「オディロン…君が…前侯爵夫妻を…殺したのか…?」
できれば、私の予想が外れて欲しい…
そう願い尋ねる。
すると、その願いを裏切るようにオディロンが微笑み答える。
「はい。さすがラウル様ですね。前侯爵夫妻を殺害したのは私です。少量の毒を毎日盛りました。前侯爵夫人も許せなかったのです。夫人は、自分が愛人と逢瀬をする為に母を前侯爵に売っていたのです。私が何者かも知らず、自慢げにそう話しました」
何という事だ…
もう…先代の時からバラレンド侯爵家は崩れていたのだ…
「しかし君の目的が復讐なら、2人が亡くなった事で達成されたのでは無いか?それでも君はこの侯爵家に残り尽力した。罪滅ぼしの為か…?」
「…フレミア様とフレミア様のお母様ですよ…。あの卑劣な義両親に虐げられながらも領民の為にひたむきに頑張る姿を見て…復讐の為だけに生きた自分が情けなく思えたのです…」
「あぁ、オディロンのおかげで救われた領民はたくさんいるさ…そしてフレミアもフレミアの母も…」
特にフレミアは、母が亡くなった後使用人がいなければきっと挫けてしまっていただろう。
「そう言って頂きありがとうございます」
そう言ってオディロンが微笑む。
私はその笑顔を見て直感する。
「……オディロン、君はこの先どうするつもりなんだ…?」
「先程申し上げた通り、母に顔を見せて親孝行をしたいと思います」
「死ぬのか?」
そう聞くと、答える事なく微笑む。
「君の母は君を命懸けで1人で産んで育てたんだ。死んで会いに行っても怒られて帰らされると私は思うのだけれども…」
「はは、そうかもしれませんね…しかし、私には存在意義がありません。この侯爵領も貴方の様な方がいらっしゃれば心配ありません。どんな理由があっても私は人を死に追いやりました。それは許される事ではありません」
「存在意義はある。まだまだこの侯爵家の為に頑張って貰いたいし、君が死んだら悲しむ人が大勢いる。私も、フレミアも、そして…リアーナも…」
「リアーナ…」
オディロンの表情が曇る。
「ここに来る前に…リアーナに頼まれたよ。オディロンの事を…私はフレミアの良き理解者の彼女を悲しませたく無い」
「リアーナが…」
「まだ君にはしなければならない事が山積みだ。どうか、私達と頑張ってくれないか?」
「しかし…私は……」
「前侯爵夫妻は…病死した。その後悪政を敷いた侯爵家を正す為に尽力した。そしてこれからも侯爵家や領民の為にも尽力する。それで良いんだ…。どうか、私の手を取ってくれ」
そう言ってオディロンの目を真っ直ぐ見る。
「…分かりました…。貴方に忠誠を誓います」
そう言って私の前にオディロンは跪いたのだった。
遅くなってしまった…。
愛する妻がいる家に戻る。
「ラウル様っ…お帰りなさいませ…!」
嬉しそうに出迎える愛しい妻。
思わず抱き締める。
「ラ、ラウル様っ」
「ただいま…フレミア…」
そしてフレミアの後ろにソワソワしているリアーナがいた。
私はリアーナに向かい拳を握り親指を立てる。
それを見て、リアーナは嬉しそうに微笑んだ。
そして数日後…。
遂にフレミアの父、義母、ジュリーへの断罪の日がやってきた。
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