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17.始動1

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伯爵家の皆様は、私が落ち着くまで側で見守ってくださった。


「さあ、フレミア。今日は色々あって疲れたでしょう。ゆっくり休みなさいな。別邸が気に入れば良いのですが…」


「そうですね…母上。日が暮れても困るので、そろそろ別邸の方へ向かいたいと思います」


皆に別れを告げ、別邸と呼ばれる場所へ向かう。


「まぁ…!」


別邸へ着くと、思わず感嘆の声が溢れてしまう。

別邸にするのは勿体ない程素敵な屋敷だった。
古い建物ではあるが、とても手入れが行き届いていた。

(きっと、私の為に準備してくださっていたのね…)

その心遣いがとても嬉しい。


「さぁ、お手をどうぞ」


ラウル様の手を取り中に入ると、
見知った顔がズラリと並んでいる。


「お帰りなさいませ、ラウル様、フレミア様」


「皆…!!ただいま…!」


(今まで私の家族はお母様だけだと思っていたけれど、皆がいてくれたのだったわ)


使用人の皆は、別邸に着いてから本当に忙しかった事に間違いない。
それでも私達が気持ちよくこの家に入る事ができるように大急ぎで用意してくれたのだろう。

しかし、その苦労を少しも見せていない。
そのプロ精神には感服してしまう。


「さぁ、お食事も用意してありますよ」


そう促されダイニングへ向かい席に着くと、私の好きな料理ばかりが次々と運ばれてくる。


私の誕生日等を特別に祝ったりすると義母と妹が怒る為、そのような日にはシェフがこっそりと私の好きな料理のフルコースにしてくれた事を思い出す。


食事が終わり、紅茶を飲み一息つく。


「凄く美味しかった。もしかして…シェフは私の好きな物を知っているのだろうか…。私の好きな物ばかり出てきたのですが…」


ラウル様が驚いたように話す。


「ふふ、今日のメニューは私が好きな物ばかりだったのですよ。シェフジョセフは昔からお祝い事の時にはこうしてこっそり私の好きなメニューにしてくれていたのです」

そう言ってシェフジョセフの方を見ると、微笑んでくれた。


「それは良かった。これから色々な事を2人でお祝いする時に同じ物が好きであればジョセフも助かりますね」


そう言ってラウル様が目を細める。


「ふふ、そうですね。ラウル様…そう言えば以前は眼帯をされていましたが、傷の方は良くなられたのですか?」


「…うーん。やっぱり仕事柄眼帯をしていると死角ができてやり辛くて…眼帯は外してしまいました。その…フレミアは私のこの顔の傷をどう思いますか?」

傷……?
そういえば全く気にした事は無かった…。


「以前も言いましたが、この傷はラウル様の勲章ですので…誇らしく思います。傷はあっても、ラウル様の瞳はこんなに真っ直ぐで美しくて…」


そう言いながら無意識にラウル様の傷に手が伸び、そっと触れる。
しかしハッと我に帰り、慌てて手を引っ込める。


「わ、私ったらこんなはしたない事を!」

自分から男性に触れるなんて!
穴があったら入りたい…


しかし、引っ込めた手をすかさずラウル様に掴まれ、


「フレミアにはもっともっと触れていて貰いたいです」


と、手の甲にキスされる。


(私……この先、心臓が持つかしら………)


あたふたしているとラウル様が、


"……それなら、このままで良いかな…何か勿体無い気がしてきたな……"


何かボソッと呟いたけれども、思考がショートしかけていた私には気に留める余裕は無かったのだった。



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