上 下
12 / 36

12.皆との別れ

しおりを挟む


「まぁ。この藍色新色ね。素晴らしいわ」


私は今領地へ視察へ来ている。
きっとこれが最後の視察になるだろう。


「ありがとうございます!フレミア様をイメージして染めたのです!そして今品種改良して育てている植物がこれでして…来月にもなればご報告できると思います!」


…来月。その言葉に胸がチクリと痛む。

「ごめんなさい、私もうすぐラウル様の元へ嫁ぐのです。なので、ここに来るのは最後になりますわ…」


「「「えええええっ!!!」」」


「でも、貴方達の腕は確かです。きっと私がいなくても大丈夫ですわ」

少し寂しいがニコリと微笑む。


「そ、そんな…ではフレミア様はアイロワニー伯爵領へ…?」


「そうね。すぐ隣だから貴方達の活躍はすぐ耳にできるわ」


「フレミア様…そんな…」


気落ちした彼らを見るのは辛く、後ろ髪を引かれるようだったが、その場を後にし侯爵家へ戻る


(帳簿は取られてしまったから…手紙の整理をしましょう)


侯爵家へ届く大量の手紙の仕分けを始める。

(えーっと…これとこれはいらない…あ…ワルヤーク伯爵の令息からまた届いているわ…何度断ってもしつこいのよね…)


「って….あっ!!ジュリー!!」



必死になって仕分けをしていると、いつのまにか妹が側に立っており、私の持っている封筒を取り上げた。



「あらぁ?お姉様。このお手紙、ワルヤーク伯爵家のアボン様からじゃないですかぁ!?アボン様、すっごくカッコいいですよね!!なになに……はっっ!?何でお姉様が婚約して欲しいなんて言われてるのよ!!!」

中身を開け発狂する妹。

「私は何度も断っているのだけれどちょっとしつこくて……痛いっ」


取り返そうとてを伸ばすが、その手をはたき落とされる。


「これ、お姉様はいらないですわよねぇ?醜草騎士と結婚しますものねぇ?じゃあ、私がアボン様を頂きますわ!アボン様は次男だし最高だわ!お姉様って意地悪ね!!こっそり捨てようとして!!早速お返事を書きますわー!!」


「ちょ、ちょっと待ってジュリー!アボン様はやめておきなさい!ワルヤーク伯爵家は近頃経営が難しく、怪しい取引をしている噂を聞いたわ…!きっと私に求婚したのも侯爵家のお金目……」


「ああああぁぁうるさい!!お姉様はさっさとバケモノと結婚しなさいよ!!私は美丈夫と名高いアボン様と結婚するわ!!羨ましいからって邪魔しないでよ!!」


そう言って手紙を握りしめ、部屋を出て行く妹…


(私は忠告したわ…後は両親が止めてくれるか……)


バタンッと乱暴に閉められる扉を見てため息を吐くのだった。



ーーーーー



そうしていよいよラウル様の元へ向かう日。


「フレミア様、折角ラウル様の元へ向かう日ですのに!そんな疲れたお顔をしないでください!」


侍女リアーナが私の髪を整えながら苦言を呈す。


「少しでも私ができる事をしようと思って…」

実は、ものすごく寝不足だ。

そして鏡に映る自分とリアーナをボーッと見る。

リアーナにこうして身支度をしてもらう事はきっと最後だろう。

そう思うと酷く胸が痛い。

「リアーナ…ありがとう…」

涙が出そうになるが、折角綺麗に化粧をしてもらったのだ。台無しにする訳にはいかない。

「ふふ、とんでもございませんわ」

こちらは寂しくて泣きそうなのに…リアーナはニコニコしている。

いつもはすぐ泣く癖にこんな時はニコニコしちゃって…
もう少し寂しがってくれても良いのに…と少し思ってしまうのだった。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私じゃなくてもいいですね?

ユユ
恋愛
子爵家の跡継ぎと伯爵家の長女の婚約は 仲の良い父親同士が決めたものだった。 男は女遊びを繰り返し 婚約者に微塵も興味がなかった…。 一方でビビアン・ガデュエットは人生を変えたいと願った。 婚姻まであと2年。 ※ 作り話です。 ※ 完結保証付き

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】長年の婚約者を捨て才色兼備の恋人を選んだら全てを失った!

つくも茄子
恋愛
公爵家の跡取り息子ブライアンは才色兼備の子爵令嬢ナディアと恋人になった。美人で頭の良いナディアと家柄は良いが凡庸な婚約者のキャロライン。ブライアンは「公爵夫人はナディアの方が相応しい」と長年の婚約者を勝手に婚約を白紙にしてしまった。一人息子のたっての願いという事で、ブライアンとナディアは婚約。美しく優秀な婚約者を得て鼻高々のブライアンであったが、雲行きは次第に怪しくなり遂には……。 他サイトにも公開中。

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

いいですよ、離婚しましょう。だって、あなたはその女性が好きなのでしょう?

水垣するめ
恋愛
アリシアとロバートが結婚したのは一年前。 貴族にありがちな親と親との政略結婚だった。 二人は婚約した後、何事も無く結婚して、ロバートは婿養子としてこの家に来た。 しかし結婚してから一ヶ月経った頃、「出かけてくる」と言って週に一度、朝から晩まで出かけるようになった。 アリシアはすぐに、ロバートは幼馴染のサラに会いに行っているのだと分かった。 彼が昔から幼馴染を好意を寄せていたのは分かっていたからだ。 しかし、アリシアは私以外の女性と一切関わるな、と言うつもりもなかったし、幼馴染とも関係を切れ、なんて狭量なことを言うつもりも無かった。 だから、毎週一度会うぐらいなら、それくらいは情けとして良いだろう、と思っていた。 ずっと愛していたのだからしょうがない、とも思っていた。 一日中家を空けることは無かったし、結婚している以上ある程度の節度は守っていると思っていた。 しかし、ロバートはアリシアの信頼を裏切っていた。 そしてアリシアは家からロバートを追放しようと決意する。

処理中です...