上 下
15 / 17

14

しおりを挟む
 「一体、何を考えているのあなたはっ!!」

 思い切り落とされた雷に、ラナはびくっと肩をすくませた。

 城へ戻ったラナとイベリスは、そのまま会議の間へと呼ばれ、事の子細を説明する事となった。その際、ラナの夜歩きの事も明るみに出てしまい、ただ今説教の真っ最中であった。

 「ご、ごめんなさい…フリージアお姉様」

 城の兵を動かしたのは、なんと長女のフリージアだった。

 ベンジャミンが城に来たと聞いた瞬間、良からぬ事態だとすぐに察知し、急いで兵を向かわせたのだった。

 「王女の身でありながら、夜な夜な一人で森を歩き回っていたなんて!何かあったらどうするの?!」

 「でも…カエルは夜行性なのよ?夜に行かなきゃ捕まえられないわ」

 「だからって一人で出歩いていい理由にはならないでしょう!?」

 「っ!…だ、だって…行きたいと申告したところで、許可なんてしてもらえないから…」

 「当たり前です!」

 そこまで言って、フリージアは憂いを瞳に宿した。

 「ねぇ、ラナ…。どうしてそんな危険な事をしたの?何か、そうしなければならない理由でもあったの?」

 「……それは…」

 ラナは言いにくそうに俯いた。

 すると、代わりにイベリスが口を開いた。

 「城の皆に認めてほしいから、だそうだ」

 「っ…」

 「認める?何を認めてほしいの?」

 「こいつの存在価値だ」

 「え?存在価値?一体どういう事なの?」

 さっぱり分からない、とフリージアは続きを促す。

 「こいつは、自分の事をこの世に必要のない存在だと思っている。皆が求めた男として生まれなかったから、自分には存在価値はないのだと。だから歴史に残るほどの功績を挙げて、少しでもその価値をあげたかったと、俺にそう話していた」

 フリージアの顔に悲しみが浮かぶ。

 「まぁ、ラナ……。あなた…そんな風に思っていたの?」

 「…………」

 ラナは俯いたまま、服の裾をギュッと握りしめた。

 「そんな事…あるはずないじゃない!」

 「っ!……お姉様…?」

 フリージアの強い断言に、ラナは驚いて顔を上げた。

 「確かに、あなたが産まれた時は残念がる人もいたわ。でもそれを覆して余りあるほどに、あなたはとても可愛かった」

 「!」

 「素直で、聞き分けが良くて、ものすごく元気で。いつも皆をその可愛い笑顔で幸せにしてくれてた。……正直言うとね?真ん中のアベリアやプリムラより、あなたの方が可愛いと思っているの」

 「え!?」

 「だって!あの子達ったら、私の事を口うるさいだのなんだのって、悪口ばっかり言うのよ?こっちは2人のためを思って言ってるのに!」

 「…………」

 フリージアは、ラナを優しく抱きしめた。

 「あなたは私の大事な大事な可愛い妹よ。誰がなんと言おうとね。だからもう、危ない事はしないで」

 「っ……」

 ラナはフリージアを抱きしめ返し、その胸に顔をうずめた。

 「はい……お姉様」

 家族との間にあった溝は、王子の助けもあって無事に埋まった。

 もう、王女が自分を悲観する事はない。

 「あ、そうだ。ねぇ、知ってた?実はお父様の部屋にね、あなたが小さい頃に描いたお父様の似顔絵がまだ飾ってあるのよ?」

 「ええっ?!」

 小さな驚きをたくさん受けながら、王女は平和に暮らす事だろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

マッチ箱のウンチ

はまだかよこ
児童書・童話
尾籠な話で申し訳ありません。昭和の中頃。小学生の大半に寄生虫がいた頃の話です。美弥子の検便の顛末、読んでください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

レット・一途・ビー

右京之介
児童書・童話
カエル、ゴキブリ、カメムシ、クモ、むかで。 嫌われ者の五匹がいかだに乗って太平洋を漂流中。 この先、どうなるかって? 「何とかなるさ! 人生はレット・一途・ビー!」

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

キング・フロッグの憂鬱

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
森の中の沼に住むキング・フロッグの心配事は、大事な王冠を盗まれないかと言う事。その事を考えると夜も眠れないほどでした。そんなキング・フロッグに物知りのナマズはある提案をして……大人のお伽噺。掌編小説です。

児童小説をどうぞ

小木田十(おぎたみつる)
児童書・童話
児童小説のコーナーです。大人も楽しめるよ。 / 小木田十(おぎたみつる)フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。

処理中です...