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腕を拘束されたまま石の階段を登り、ラナとトリトマは地下倉庫から出てきた。
閉じ込められていた場所は、朽ちた無人の教会だった。
確か森の北側の墓地に、このような場所があった気がする。外へ出ていないのではっきりとは分からないが。
2人は自分達をさらった大柄な男に、礼拝堂へと連れてこられた。
そこには、すらりと細身の男が1人、こちらに背を向けて立っていた。着ているものから察するに、かなり身分の高い人物であるようだ。
その男は振り向くと、眼鏡をかけた目でにこりと微笑みかけてきた。
「お初にお目にかかります、深森の魔女殿。そして…グリーン王国第五王女、ラナンキュラス様」
「っ!?」
ラナとトリトマは目を見開いた。
私を、知っている…?
「…あなたは、誰なの?」
ラナは警戒心を露に問いかけた。
「私はローレル。レッド王国で宰相を務めております」
「なんですって?!」
レッド王国の宰相が、どうしてこんな所に…?!
「本日は、そちらにいる深森の魔女殿へお礼をしに参りました」
「……礼?…悪いが、レッドの宰相にそんな事をされる覚えはない」
「いいえ、あるはずです。…あなたは先日、我が城へといらっしゃいましたよね?」
「!」
「そしてあなたは…………憎き王子に呪いをかけてくださいました」
「なっ…!?」
ローレルと名乗った男の顔が、ニタリと歪む。
「私は常々思っておりました。なぜあんなにも傲慢で、だらしなくて、愚かな男が王位を継承できるのかと。私の方が優れているのに。私の方が国に貢献しているのに。私の方がふさわしいのに。王の血がその身に流れているというだけでもてはやされるあの男が、どうにも許せなかった。…そんな時です。王子が行方不明になったと知らせが入りました」
「…………」
「従者達に話を聞いてみると、王子が消える少し前、城の敷地で黒いローブをまとった女を見かけたとの事でした。私は表面上は王子の捜索を命じましたが、その裏で、ローブの女について調べさせました。そして……あなたの存在に行き着いた」
宰相の笑みにトリトマはぴくりと反応するも、無言を貫き睨み返した。
「更に詳しく調べるためあなたの家を張り込ませていると、驚くべき事実が発覚しました。なんと、王子が行方不明になったのはあなたの仕業だというではありませんか!」
熱弁をふるうローレルは、興奮で目を見開いた。
「これは天の助けだと思いました!憎き王子はカエルの姿にされ無力。呪いをかけた魔女は世間から離れた孤独の存在。このまま王子は見つからず、あなたも彼を手にかけた罪で処刑してしまえば、私の王への道は切り開かれたも同然です!神は、王にふさわしき者は私であると仰っているのです!」
そう言い切ると、ローレルはふと悲しみを目に宿した。
「…ただ、一つだけ気がかりが」
その目は、つい…とラナを捉えた。
「それは、あなたがその話を聞いてしまったという事です」
「っ!!」
「っ…お、お前っ!!ラナを手にかける気か!?」
トリトマは、かばうようにラナの前に立った。
「なんとも悲しい事ですが、大義の前に小さな犠牲は付きものです。けれど私は王女に感謝しているのですよ?あなたのおかげで、この呪いの話を知る事ができたのですから」
「何が大義だっ!お前こそ傲慢で愚かではないか!一国の王女を殺して無事で済むと思っているのか?!」
「…………」
その言葉に、ローレルのこめかみがぴくりと動いた。
顔に笑みを貼りつけたまま、ゆっくりとトリトマの元へと歩み寄る。
そして…。
バシィッ!
激しい音をたて、ローレルはトリトマの頬を手の甲で殴り飛ばした。
勢いのままにトリトマの体は床へ叩きつけられる。
「っぐ…!」
「トリィっ!!」
「…大罪人は口を慎め。私は愚かではない」
トリトマを睨み付けるその目は、冷酷そのものであった。
ローレルが歪んだ笑みを見せる。
「安心なさい、あなたはまだ殺しません。レッドの民衆の前で、私の功績のために処刑されなければいけないのですから。今日はお礼をしに来たと言ったでしょう?王子を屠る機会を与えてくれたあなたに、ご友人とお別れの言葉を交わす時間を差し上げましょう」
「そんなものはいらんっ!彼女は何も関係ない、全部私が悪いんだ!罰でも何でも受けるから今すぐ彼女を解放してくれ!!」
「残念ですがそれはできません。神の示された道を遮るものは、全て排除しなければなりません」
そう言って、ラナの方へと向き直った。
「指一本でも触れてみろ!その前に私がお前を殺してやるっっ!」
トリトマは力を込めた。瞳に紅い光が灯り、ローレルの体を魔力が絡め取る。
「くっ……おい」
ローレルの呼びかけに、ラナの後ろにいた大柄の男が動いた。
そのままトリトマを踏みつける。
「ぅぐっ!」
「そいつに目隠しをしておけ。邪魔をされてはかなわん」
「やめろ──ぅああっ!ラナっっ!!」
「トリィっ!!お願いっ、トリィに乱暴しないで!!」
しかしローレルは聞く耳を持たない。
トリトマの顔には再び銀の鎖が巻かれた。
閉じ込められていた場所は、朽ちた無人の教会だった。
確か森の北側の墓地に、このような場所があった気がする。外へ出ていないのではっきりとは分からないが。
2人は自分達をさらった大柄な男に、礼拝堂へと連れてこられた。
そこには、すらりと細身の男が1人、こちらに背を向けて立っていた。着ているものから察するに、かなり身分の高い人物であるようだ。
その男は振り向くと、眼鏡をかけた目でにこりと微笑みかけてきた。
「お初にお目にかかります、深森の魔女殿。そして…グリーン王国第五王女、ラナンキュラス様」
「っ!?」
ラナとトリトマは目を見開いた。
私を、知っている…?
「…あなたは、誰なの?」
ラナは警戒心を露に問いかけた。
「私はローレル。レッド王国で宰相を務めております」
「なんですって?!」
レッド王国の宰相が、どうしてこんな所に…?!
「本日は、そちらにいる深森の魔女殿へお礼をしに参りました」
「……礼?…悪いが、レッドの宰相にそんな事をされる覚えはない」
「いいえ、あるはずです。…あなたは先日、我が城へといらっしゃいましたよね?」
「!」
「そしてあなたは…………憎き王子に呪いをかけてくださいました」
「なっ…!?」
ローレルと名乗った男の顔が、ニタリと歪む。
「私は常々思っておりました。なぜあんなにも傲慢で、だらしなくて、愚かな男が王位を継承できるのかと。私の方が優れているのに。私の方が国に貢献しているのに。私の方がふさわしいのに。王の血がその身に流れているというだけでもてはやされるあの男が、どうにも許せなかった。…そんな時です。王子が行方不明になったと知らせが入りました」
「…………」
「従者達に話を聞いてみると、王子が消える少し前、城の敷地で黒いローブをまとった女を見かけたとの事でした。私は表面上は王子の捜索を命じましたが、その裏で、ローブの女について調べさせました。そして……あなたの存在に行き着いた」
宰相の笑みにトリトマはぴくりと反応するも、無言を貫き睨み返した。
「更に詳しく調べるためあなたの家を張り込ませていると、驚くべき事実が発覚しました。なんと、王子が行方不明になったのはあなたの仕業だというではありませんか!」
熱弁をふるうローレルは、興奮で目を見開いた。
「これは天の助けだと思いました!憎き王子はカエルの姿にされ無力。呪いをかけた魔女は世間から離れた孤独の存在。このまま王子は見つからず、あなたも彼を手にかけた罪で処刑してしまえば、私の王への道は切り開かれたも同然です!神は、王にふさわしき者は私であると仰っているのです!」
そう言い切ると、ローレルはふと悲しみを目に宿した。
「…ただ、一つだけ気がかりが」
その目は、つい…とラナを捉えた。
「それは、あなたがその話を聞いてしまったという事です」
「っ!!」
「っ…お、お前っ!!ラナを手にかける気か!?」
トリトマは、かばうようにラナの前に立った。
「なんとも悲しい事ですが、大義の前に小さな犠牲は付きものです。けれど私は王女に感謝しているのですよ?あなたのおかげで、この呪いの話を知る事ができたのですから」
「何が大義だっ!お前こそ傲慢で愚かではないか!一国の王女を殺して無事で済むと思っているのか?!」
「…………」
その言葉に、ローレルのこめかみがぴくりと動いた。
顔に笑みを貼りつけたまま、ゆっくりとトリトマの元へと歩み寄る。
そして…。
バシィッ!
激しい音をたて、ローレルはトリトマの頬を手の甲で殴り飛ばした。
勢いのままにトリトマの体は床へ叩きつけられる。
「っぐ…!」
「トリィっ!!」
「…大罪人は口を慎め。私は愚かではない」
トリトマを睨み付けるその目は、冷酷そのものであった。
ローレルが歪んだ笑みを見せる。
「安心なさい、あなたはまだ殺しません。レッドの民衆の前で、私の功績のために処刑されなければいけないのですから。今日はお礼をしに来たと言ったでしょう?王子を屠る機会を与えてくれたあなたに、ご友人とお別れの言葉を交わす時間を差し上げましょう」
「そんなものはいらんっ!彼女は何も関係ない、全部私が悪いんだ!罰でも何でも受けるから今すぐ彼女を解放してくれ!!」
「残念ですがそれはできません。神の示された道を遮るものは、全て排除しなければなりません」
そう言って、ラナの方へと向き直った。
「指一本でも触れてみろ!その前に私がお前を殺してやるっっ!」
トリトマは力を込めた。瞳に紅い光が灯り、ローレルの体を魔力が絡め取る。
「くっ……おい」
ローレルの呼びかけに、ラナの後ろにいた大柄の男が動いた。
そのままトリトマを踏みつける。
「ぅぐっ!」
「そいつに目隠しをしておけ。邪魔をされてはかなわん」
「やめろ──ぅああっ!ラナっっ!!」
「トリィっ!!お願いっ、トリィに乱暴しないで!!」
しかしローレルは聞く耳を持たない。
トリトマの顔には再び銀の鎖が巻かれた。
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