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話がようやく一段落した所で、トリトマが薬草茶を淹れてくれた。
「はぁー、おいしい。やっぱりトリィのお茶が一番おいしいわ」
「そうか?なんだか変わったにおいがするぞ?本当にこれは茶なのか?」
裁縫用の指ぬきに入れてもらったお茶を、イベリスは顔をしかめてのぞき込む。
「それは眠りに効く薬草が入っている。気に入らないなら飲まなければ良い。ラナ、飲んだらすぐに帰るのだぞ?」
「分かったわ。淹れてくれてありがとう」
「お前はそれでも一応王女なのだぞ?供もつけず夜中にこんな場所をうろつくもんじゃない」
「だってこの方が動きやすくて楽なんですもの」
「はぁ、全く…」
「おい…今何と言った?」
「…は?」
2人が見やると、カエルが訝るような目を向けていた。
「こいつが……王女だと?」
「ん?なんだラナ、このカエルに話していなかったのか?」
「あら?…そういえば、言ってなかったかも」
「お前な…」
「だって訊かれなかったんだもの」
「おい、一体何の冗談だ?」
「冗談ではない。ラナは正真正銘、グリーン王国の第五王女ラナンキュラスだ」
「な、なにぃー?!」
今日はもう何度驚いただろう。
イベリスはまたしても目を剥いた。
そろそろ目玉が取れるのではなかろうか。
「こっ、こいつっ、こんななりで王女なのか?!」
「ああ、そうだ。私も最初は驚いたがな、こんななりでも王女だ」
「ふふっ、うまく変装できてるでしょう?森で散策するための格好なんだけど、設定は一応ベンジャミンの家の小間使いって事になってるから、堂々と町を歩いても誰も気にも止めないのよ?」
「な……」
なんて奴だ…。こんな王女が存在していて良いのか…?
「…って、ちょっと待て!なぜグリーンの王女がレッドにいるんだ?!」
「はぁ?何を言っている。ここはレッドではなく、グリーン王国だぞ」
「え…………なんだってぇぇぇぇええ?!」
本日最後にして最大の驚き。
目の周りの筋肉は遂に限界を迎えた。
「ラナ……それも言ってなかったのか?」
「だから訊かれなかったんだってば。てっきり分かってるものだと思ってたわ」
「そんな……そんなっ……」
俺は………国を出てしまったのか……?!
イベリスが落とされた川は、グリーン王国とレッド王国の国境とされる大きな川へと繋がっていた。
流されているうちに、いつの間にかその国境を越えていたのだった。
愕然としている様子に、ラナとトリトマは顔を見合わせた。
「あー……まさかとは思うが…お前、もしかして自分の国を出た事がないのか?」
その問いに、イベリスはびくりと反応した。
「っ!?…いっ、今まで出る必要がなかっただけだ!それにっ、他国の民は野蛮だと聞く!俺にもしもの事があったら、国が困るだろうが!」
「まぁ…」
「とんだ箱入りだな…」
呆れる2人をよそに、イベリスは頭を抱える。
どうしたらいいんだ…?!
ここがレッド王国ではないというなら、捜索隊はすぐに迎えには来られないだろう。
いつ、元の生活に戻れるというのか。
それまで、一体どうやって生き延びろというのか。
どんどん青ざめていくカエルに、優しい声がかかる。
「大丈夫よ、カエルさん。私のお城にいれば安全だわ。それに、あなたの捜索隊がこの国に来る時は、必ず国王である父の元に許可を取りに来るはず。お城でそれを待っていれば、きっとすぐに帰れるわ」
「…すぐ?すぐとはいつだ?!」
「それは分からないわ。でも、私と一緒にお城にいる事が一番の近道であるのは間違いないわ。けれど、その姿のままだとあなただと分かってもらえないかも知れない。お迎えが来るまでに、なんとか元に戻る方法を考えましょう?」
「……分かった。ではお前は常に俺が安全であるように取り計らえ!いいな?!」
「ふふっ。ええ、分かったわ」
「居候のくせに偉そうだな」
かくしてイベリスのグリーン王国滞在が決定した。
†††
魔女の家の外。
一対の目が、窓からラナ達を見据えている。
「……………………」
ラナ達が話を終えたのを確認すると、その目はすーっと闇夜に溶けていった。
「はぁー、おいしい。やっぱりトリィのお茶が一番おいしいわ」
「そうか?なんだか変わったにおいがするぞ?本当にこれは茶なのか?」
裁縫用の指ぬきに入れてもらったお茶を、イベリスは顔をしかめてのぞき込む。
「それは眠りに効く薬草が入っている。気に入らないなら飲まなければ良い。ラナ、飲んだらすぐに帰るのだぞ?」
「分かったわ。淹れてくれてありがとう」
「お前はそれでも一応王女なのだぞ?供もつけず夜中にこんな場所をうろつくもんじゃない」
「だってこの方が動きやすくて楽なんですもの」
「はぁ、全く…」
「おい…今何と言った?」
「…は?」
2人が見やると、カエルが訝るような目を向けていた。
「こいつが……王女だと?」
「ん?なんだラナ、このカエルに話していなかったのか?」
「あら?…そういえば、言ってなかったかも」
「お前な…」
「だって訊かれなかったんだもの」
「おい、一体何の冗談だ?」
「冗談ではない。ラナは正真正銘、グリーン王国の第五王女ラナンキュラスだ」
「な、なにぃー?!」
今日はもう何度驚いただろう。
イベリスはまたしても目を剥いた。
そろそろ目玉が取れるのではなかろうか。
「こっ、こいつっ、こんななりで王女なのか?!」
「ああ、そうだ。私も最初は驚いたがな、こんななりでも王女だ」
「ふふっ、うまく変装できてるでしょう?森で散策するための格好なんだけど、設定は一応ベンジャミンの家の小間使いって事になってるから、堂々と町を歩いても誰も気にも止めないのよ?」
「な……」
なんて奴だ…。こんな王女が存在していて良いのか…?
「…って、ちょっと待て!なぜグリーンの王女がレッドにいるんだ?!」
「はぁ?何を言っている。ここはレッドではなく、グリーン王国だぞ」
「え…………なんだってぇぇぇぇええ?!」
本日最後にして最大の驚き。
目の周りの筋肉は遂に限界を迎えた。
「ラナ……それも言ってなかったのか?」
「だから訊かれなかったんだってば。てっきり分かってるものだと思ってたわ」
「そんな……そんなっ……」
俺は………国を出てしまったのか……?!
イベリスが落とされた川は、グリーン王国とレッド王国の国境とされる大きな川へと繋がっていた。
流されているうちに、いつの間にかその国境を越えていたのだった。
愕然としている様子に、ラナとトリトマは顔を見合わせた。
「あー……まさかとは思うが…お前、もしかして自分の国を出た事がないのか?」
その問いに、イベリスはびくりと反応した。
「っ!?…いっ、今まで出る必要がなかっただけだ!それにっ、他国の民は野蛮だと聞く!俺にもしもの事があったら、国が困るだろうが!」
「まぁ…」
「とんだ箱入りだな…」
呆れる2人をよそに、イベリスは頭を抱える。
どうしたらいいんだ…?!
ここがレッド王国ではないというなら、捜索隊はすぐに迎えには来られないだろう。
いつ、元の生活に戻れるというのか。
それまで、一体どうやって生き延びろというのか。
どんどん青ざめていくカエルに、優しい声がかかる。
「大丈夫よ、カエルさん。私のお城にいれば安全だわ。それに、あなたの捜索隊がこの国に来る時は、必ず国王である父の元に許可を取りに来るはず。お城でそれを待っていれば、きっとすぐに帰れるわ」
「…すぐ?すぐとはいつだ?!」
「それは分からないわ。でも、私と一緒にお城にいる事が一番の近道であるのは間違いないわ。けれど、その姿のままだとあなただと分かってもらえないかも知れない。お迎えが来るまでに、なんとか元に戻る方法を考えましょう?」
「……分かった。ではお前は常に俺が安全であるように取り計らえ!いいな?!」
「ふふっ。ええ、分かったわ」
「居候のくせに偉そうだな」
かくしてイベリスのグリーン王国滞在が決定した。
†††
魔女の家の外。
一対の目が、窓からラナ達を見据えている。
「……………………」
ラナ達が話を終えたのを確認すると、その目はすーっと闇夜に溶けていった。
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