ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ

ねこうさぎしゃ

文字の大きさ
上 下
44 / 44
エピローグ

エピローグ

しおりを挟む
 それからふたりはすぐに結婚し、ミシオン王子はほどなくミシオン国王となり、ヴォロンテーヌは王妃となりました。良き友リーデルは、約束通りミシオン国王の側近として軍の全権を任され、生涯腹心の友であり続けました。
 ミシオン国王は魂の声に忠実に従って国を治め、王妃となったヴォロンテーヌもミシオン国王をよく助けたので、国は未だかつてないほどの善政によってみるみる豊かになり、貧しい人も病んだ人も皆等しく癒され、幸福になりました。
 ミシオン国王は政務の合間に、自ら王宮の庭を耕して畑を作り、ヴォロンテーヌ王妃やリーデルと共に野菜を育て、たくさんの動物を飼い、絞りたてのヤギの乳とパンを食べるのを好みました。
 あるとき、王妃とふたりで畑仕事をしていたミシオン国王は、ヴォロンテーヌ王妃と並んで木陰に座り、絞りたてのヤギの乳を飲み、挽いたばかりの粉で作ったパンを食べて休憩を取りながら、しみじみと言いました。

「しかし、あの村で食べていたヤギの乳とパンは、これよりずっと美味しかったように思う。労働や素晴らしい自然の中で食べていたためにそう感じていたというより、やはり尊い天のみ使いによって養われたヤギや粉を原料としていたからだろうか」
「そうした可能性は充分にあるでしょう」
 ヴォロンテーヌ王妃が頷いたのを見て、ミシオン国王は、特別なことは何もないと言ったあのルーメンの──天使の言葉を思い出しました。そこでミシオン国王は愉快な思いで笑い、
「それではやはり、魔法がかけられていたようなものなのだな。そう思わないか?」
 とヴォロンテーヌ王妃に言いました。ヴォロンテーヌ王妃は、静かな微笑を浮かべてミシオン国王を見つめました。
「わたくしの愛しい陛下、わたくしはこう思います。尊いみ使いが育てたものを口にして、心を満たし魂の栄養とする人々もいる一方、ただお腹を満たし体の栄養とするだけの人々もいるでしょう。そうした人々の差は、そのときの彼らの魂の状態によるのではないでしょうか。陛下はあの村においでになる前に、既に魂が目覚めはじめていたのでしょう。ですから、もし魔法と言うのなら、陛下はその魔法がよく効くための素地を、あのときもうお持ちになっていたのでしょう」
 ミシオン国王はヴォロンテーヌ王妃をまじまじと見て、
「わたしはほんとうに何にも勝る宝を手に入れた」
 と、静かな微笑みを美しい王妃に返しました。
 ふたりは互いの魂を慈しんで人間としての生を全うし、天の王国に帰るときまで末永く幸福に暮らしました。
 人々はミシオン国王を『天使の王』、ヴォロンテーヌ王妃を『天使の妃』と呼んで愛し、子ども達にいつも話して聞かせたので、ふたりの物語はそれから何代にもわたって国の人々に語り継がれ、尊敬を集め、手本とされました。
 ミシオン国王とヴォロンテーヌ王妃の国は、長きにわたって平和に繁栄したそうです。 
    
                                                             


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

つぼみ姫

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
世界の西の西の果て、ある城の庭園に、つぼみのままの美しい花がありました。どうしても花を開かせたい国王は、腕の良い元庭師のドニに世話を命じます。年老いて、森で静かに飼い猫のシュシュと暮らしていたドニは最初は気が進みませんでしたが、その不思議に光る美しいつぼみを一目見て、世話をすることに決めました。おまけに、ドニにはそのつぼみの言葉が聞こえるのです。その日から、ドニとつぼみの間には、不思議な絆が芽生えていくのでした……。 ※第15回「絵本・児童書大賞」奨励賞受賞作。

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

眠れる森のうさぎ姫

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
白うさぎ王国のアヴェリン姫のもっぱらの悩みは、いつも眠たくて仕方がないことでした。王国一の名医に『眠い眠い病』だと言われたアヴェリン姫は、人間たちのお伽噺の「眠れる森の美女」の中に、自分の病の秘密が解き明かされているのではと思い、それを知るために危険を顧みず人間界へと足を踏み入れて行くのですが……。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

ある羊と流れ星の物語

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
たくさんの仲間と共に、優しい羊飼いのおじいさんと暮らしていたヒツジは、おじいさんの突然の死で境遇が一変してしまいます。 後から来た羊飼いの家族は、おじいさんのような優しい人間ではありませんでした。 そんな中、その家族に飼われていた一匹の美しいネコだけが、羊の心を癒してくれるのでした……。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

処理中です...