ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ

ねこうさぎしゃ

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第四章

その5

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 マリス王女が行ってしまうと、ヒュブリス国王はがっくりと玉座に座り込みました。
「なんと愚かな娘に育ってしまったのか……。ミシオン王子よ、そなたは知っておったのだな? それであのとき、そなたはわしに足元を見よと忠告したのだな」
 ミシオン王子はこのような形で娘の裏切りを知ったヒュブリス国王に同情し、心苦しく眉を曇らせながら頷きました。
「国を想い身を引いて去ってしまった恋人を捜すうちに、あなたの城の庭に侵入してしまい、思いがけずマリス王女とアビティオ大臣の逢引きを目撃し、彼らの話を耳にしたのです」
「そうであったか……。釈明の機会も与えず牢に投獄したわしに、そなたはそれでも救いの手を差し伸べようとしたのか……」
 ミシオン王子は静かにヒュブリス国王に言いました。
「ヒュブリス国王、わたしはわたしの兵に言って、略奪などの蛮行は行わないようにさせています。どのような思惑があったにせよ、あなたがわたしの国を長きにわたって支援してくれていたことは事実であり、わたしはこれに感謝しています。わたしはわたしの信ずる正義によって国を治める王となりたい。それはあなたの言った正義とは真逆ではありますが、わたしは必ずや我々の国が共に栄え、民が安心して豊かに暮らせる国にすると誓います。ですから、ヒュブリス国王。わたしが善き王となるために、力を貸して頂けますか?」
 そのとき、玉座の間に一羽の白い可憐なハトが入って来てミシオン王子のまわりを嬉しそうに飛び回りました。
「ヴォロンテーヌ! よかった、無事だったか……!」
 ミシオン王子は歓喜して叫びました。リーデルもヴォロンテーヌの無事に安堵するとともに、戦場での果敢な姿を讃えました。
「ヴォロンテーヌ。王子と一体となって戦うきみの勇敢な姿に我々の士気は高められ、そして勝利に導かれた。ありがとう」
  ヴォロンテーヌはリーデルの方にも飛んで行き、喜びを表すように何度か翼を羽ばたかせた後、ミシオン王子の肩にとまりました。
 ミシオン王子は喜びに涙をにじませ、愛しそうにヴォロンテーヌに頬を寄せ、ヴォロンテーヌも王子に応えるように蜂蜜色の美しい瞳を細めて体を寄せました。
  それからヴォロンテーヌはヒュブリス国王の方をまっすぐに見つめると、まるで貴婦人がドレスの裾を広げて挨拶をするように、両の翼を広げて頭を垂れました。
 ヒュブリス国王はその気品に満ちた白いハトが、ミシオン王子と心を通わせ合っている様子を驚いて見ていましたが、やがて国王はもう何年も氷に閉ざされていた心に胸を締め付けるようなあたたかい光が射し、あたかも息を吹き返した小さな花が、氷の大地を割って芽吹くような喜びの気持ちが沸くのを感じました。そして両手で顔を覆うと、思わず泣き出しました。
 その拍子にヒュブリス国王の頭からは冠が落ち、冷たい大理石の床の上で、いつまでもカラカラと音を立てていました。


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