ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ

ねこうさぎしゃ

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第三章

その7

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 マリス王女はまるで不快なものを見るように眉を寄せると、
「わたくしがミシオン王子と結婚するなんて話、たとえ嘘でも不愉快だわ。愚かで臆病な王子だともっぱらの噂だもの。勉強嫌いで、遊ぶことしか頭になく、戦いの訓練もさぼってばかりで、なんとか剣を持たせてみても、相手が負けなければ不機嫌になるんですってよ」
 マリス王女の言葉で、ミシオン王子はかつての自分を思い起こし、植え込みの中で目を伏せました。隣国の王女にまで自分の悪評が伝わっているとは思ってもみなかったことでしたが、自分を戒めるにはよい機会だと思って、マリス王女の言葉に耳を傾けました。
「今では誰もかれもが呆れているか、そうでなければ自分の出世のために王子のご機嫌うかがいばかりしているような連中しか周りにいないそうよ。それでも王子は満足してふんぞりかえっているらしいじゃないの。取柄と言えば美しいことだけだとか」
「いや、どうでしょうね。行方知れずになっていたこの一年の間にいったい何があったかはわかりませんが、今日会ったミシオン王子は、体つきはもちろん、顔つきも変わってすっかり別人のようでした。以前は感じられなかった落ち着きと知性があって、こちらをつぶさに観察しているようだった。あれは油断のならない男の目でしたよ」
 ミシオン王子はそっとアビティオ大臣を見上げました。大臣は眉を寄せて、記憶の中のミシオン王子を睨みつけているようでした。しかしミシオン王子は次の瞬間、マリス王女が発した言葉で、危うく声を上げそうになったほど驚きました。
「どんな男であってもあなたの敵じゃないわ。けれどまぁ、ミシオン王子が帰って来たことで侵略の手筈が整ったとも言えるのだから、そう邪険にするのも悪いわね」
 マリス王女は意地悪く忍び笑いをすると、手に持った扇で口元を隠しながら、
「ねぇ、アビティオ。ミシオン王子はわたくしとの婚約の話が出たとき、どんな様子だった? あの国の情勢じゃ泣いて喜んで当然だけど」
 アビティオ大臣は横目でマリス王女を一瞥すると、冷淡な口調で言いました。
「婉曲な表現ではありましたが、不服を表されていましたよ」
「まぁっ、なんですって? 我が国の援助を受けているような弱小の国の王子の分際で、このわたくしとの婚約が不服ですって? わたくしにはあちこちの王家から縁組の申し入れがあるのよ。わたくしは数多の貴公子から想いを寄せられているっていうのに、ミシオン王子は不服ですって? なんて生意気で愚かなのかしら」
「マリス王女、声をお落としになってください」
「不愉快だわ。……でもまぁ、いいわ。どうせ婚約だなんて策略でしかないのだもの。でも王子が婚約を受諾しなければ、あなたの計画もご破算になるのじゃなくて?」
「その点は心配ないでしょう。パラン国王とジェニトリーチェ王妃の様子から察するに、きっとミシオン王子は押し切られる形で承諾するでしょう。今日の午前中にも婚約受諾の知らせが届くでしょう」
「ふん、そう。そうしたらすぐにも輿入れね。輿入れの隊列が侍女に変装した兵士たちだとは、まさか誰も思わないでしょうね。ねぇ、アビティオ。パラン国王やジェニトリーチェ王妃は生け捕りでもかまわないけど、ミシオン王子はその場で斬り殺すようにしてちょうだい」
 マリス王女の冷酷な言い方に、ミシオン王子は思わずぞっとしました。

「それが済んだら今度はすぐさま反乱軍を指揮して、お父さまを捕えれば終わりね。あぁ、やっとわたくし達、結婚できるのね」
 ミシオン王子は驚きのあまり体を動かしそうになったのをなんとか堪えました。先ほどから体中を冷たい汗が流れていましたが、いよいよ大変な話を聞いてしまったという思いで、心臓はすっかり落ち着きを失っていました。
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