ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ

ねこうさぎしゃ

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第三章

その5

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 ルーメンとヴォロンテーヌはミシオン王子を見ると、驚いてすぐに駆け寄ってきました。
「ご無事でございましたか。いやはや、よかった。リーデルが申すには、愛馬をお見つけになって、共に捕まえようと森に入ったはよいが、いつの間にか霧のようなものに阻まれて、殿下のお姿を見失ってしもうたと言うことじゃったから、ずいぶん心配しておりました。つい今しがたまで、リーデルを中心に、若者たちが一晩中森の中を捜索しておりましたのじゃが、ひとまず仮眠をとって夜が明けてからもう一度捜索しようと言うことになりましてな」
 ミシオン王子はそれを聞いて、大変申し訳ない気持ちになりながら、
「実は王宮の衛兵たちに森で見つけられ、強引に王宮に連れ帰られていたのです。なんとしてもこの村に帰らねばと思って戻って来ました。リーデルや村の人たちには、夜が明けてから心配をかけたことを詫びに行くつもりです」
 ミシオン王子は荒い息でそう一息に言うと、突然ふたりの前に跪きました。そして驚いて王子を見るルーメンとヴォロンテーヌに言いました。
「わたしはこの村でたくさんのことを教えて頂きました。この一年、この村で暮らせたことは、わたしの人生を根本から変え、この先も生きていく上で、一生涯の宝とも指針ともなるでしょう。わたしにとってルーメン、あなたはまるでもうひとりの父のようであり、得難い教師でもありました。ヴォロンテーヌ、あなたのその慎み深い聡明さは、いつもわたしの心を素直に開かせてくれた。わたしはこれまで、このような尊敬を抱く女性に出会ったことがない。どうかわたしの妻になってはくれまいか? そしてわたしをあなたの父の真の息子としてはいただけないだろうか」
 ミシオン王子の言葉に、ふたりは大変驚き、しばらくは息もつけないように立ち尽くしていましたが、やがてルーメンはミシオン王子の手を取って立たせると、
「殿下、そのようなもったいないお言葉を聞かせて頂いて、わしらにはありがたいことですじゃが、どうして農夫の娘と王子が結婚などできるでしょうか」
「ルーメン、あなたまでそのようなことをおっしゃるのですか」
「殿下、わしは人間に貴賤などないことは知っておりますが、しかしまた守るべき法があることも知っておるのです。この国には建国以来、王家に生まれた者は貴族の称号を持つ者としか婚姻してはならないという法律があることは、たとえしがない農夫とて知らぬ者はおりません」
「それならわたしはたった今、王子の称号も権利も財産も、すべてを捨てます」
 勢い込んで言ったミシオン王子の言葉に、ヴォロンテーヌは悲鳴のような小さな叫びをあげると、
「王子さま、どうかそのような恐ろしいことをおっしゃらないでください。あなたは立派な国王となるべくお生まれになったお方です。あなたが国王になられれば、多くの人々がその恩恵に与り、この国は富み栄えて天の栄光を後世にまで伝えるでしょう。そのあなたがどうして農夫の娘のためなどに、そのすべてを捨て去ってしまえるでしょうか。どうか王子さま、わたくしにそのような罪深いことをさせないでください」
「ヴォロンテーヌ、だがわたしはあなたなしではいられないのだ」
 ミシオン王子がヴォロンテーヌに近寄ろうとすると、ヴォロンテーヌは大急ぎで床に跪きました。そして、
「それならば、わたくしは今すぐ消え去ることを望みます」
 と言うと、両手を組んで大粒の涙を流しながら、天の国の王に必死に祈りました。
「あぁ、王子のお心を惑わした罪を赦し、わたくしを御身のお側に行かせてくださいますように!」
 ヴォロンテーヌははじめて王子と会った時から、心の中では王子を深く愛し続けていたのですが、ミシオン王子が高い志と気高い精神を持っていることを知るにつけ、得難い王になるであろうことがわかったので、その機会が自分のせいで失われることはなんとしても避けたかったのです。それに、王子が自分に求婚したという事実が、もしも村の外の広い世間に知られては、身の程知らずの罪深い娘だと言われるばかりか、今日まで大切に育ててくれたルーメンまでもが人に蔑まれ、貶められる事態になるだろうと思ったのです。
 ミシオン王子がヴォロンテーヌの痛々しい姿にたまりかねて駆け寄ろうとしたとき、突然頭上から昼の太陽よりもまばゆい光がヴォロンテーヌに降り注ぎ、ヴォロンテーヌは美しい純白のハトに姿を変えました。驚いて王子が見ている前で、ハトになったヴォロンテーヌは白い翼を羽ばたかせると、小屋の窓から外に飛んで行ってしまいました。

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