24 / 44
第三章
その4
しおりを挟む
「とにかく」
と王子は続けました。
「わたしはヴォロンテーヌ以外の娘と結婚するつもりはありません。ヴォロンテーヌは美しいだけではなく、分別があって慎み深く、しかも聡明なのです」
王子の言葉にパラン国王は眉を寄せて言いました。
「もしほんとうにその娘に分別があるのなら、決しておまえとの結婚など望まないだろう。それともその娘は、その聡明さとやらであれこれ策をめぐらせて、おまえに自分と結婚するようそそのかしでもしたのか?」
「ヴォロンテーヌはそのような娘ではありません」
「それなら、そのヴォロンテーヌという娘とは、結婚の約束などはしていないということですね」
ジェニトリーチェ王妃に尋ねられ、王子は頷きました。
「ええ、それはまだ……」
結婚の約束どころか、王子はまだ自分の気持ちすら伝えていないことを思い出しました。それに、リーデルの言葉を聞いただけでヴォロンテーヌも自分を愛していると信じて彼女と結婚するつもりでいましたが、確かに父の言う通り、慎み深く分別のあるヴォロンテーヌが、果たして自分の求婚を受けてくれるかどうかはわかりませんでした。
「とにかく、その娘がどんなに美しかろうとも、どんなに慎み深かかろうとも、農夫の娘との結婚など、絶対に許すわけにはいかない」
パラン国王は語気荒く言うと、
「私たちはおまえを少し甘やかし過ぎたようだな。王子でありながら、こんな愚か者に育ってしまうとは。よいか、明日の朝いちばんで、隣国はヒュブリス国王のもとに、謹んでマリス王女との婚約をお受けする旨お伝え申し上げるから、そのつもりでいるように」
と言い捨てて、ジェニトリーチェ王妃を伴って、さっさと自室に帰ってしまいました。
王子はひどいショックを受けましたが、密かに王宮を抜け出し、共に連れ帰った愛馬に跨ると、大急ぎで村に向かって馬を走らせました。
一度も休むことなく走り続けたおかげで、夜明け前には村のルーメンの小屋に着くことができました。
と王子は続けました。
「わたしはヴォロンテーヌ以外の娘と結婚するつもりはありません。ヴォロンテーヌは美しいだけではなく、分別があって慎み深く、しかも聡明なのです」
王子の言葉にパラン国王は眉を寄せて言いました。
「もしほんとうにその娘に分別があるのなら、決しておまえとの結婚など望まないだろう。それともその娘は、その聡明さとやらであれこれ策をめぐらせて、おまえに自分と結婚するようそそのかしでもしたのか?」
「ヴォロンテーヌはそのような娘ではありません」
「それなら、そのヴォロンテーヌという娘とは、結婚の約束などはしていないということですね」
ジェニトリーチェ王妃に尋ねられ、王子は頷きました。
「ええ、それはまだ……」
結婚の約束どころか、王子はまだ自分の気持ちすら伝えていないことを思い出しました。それに、リーデルの言葉を聞いただけでヴォロンテーヌも自分を愛していると信じて彼女と結婚するつもりでいましたが、確かに父の言う通り、慎み深く分別のあるヴォロンテーヌが、果たして自分の求婚を受けてくれるかどうかはわかりませんでした。
「とにかく、その娘がどんなに美しかろうとも、どんなに慎み深かかろうとも、農夫の娘との結婚など、絶対に許すわけにはいかない」
パラン国王は語気荒く言うと、
「私たちはおまえを少し甘やかし過ぎたようだな。王子でありながら、こんな愚か者に育ってしまうとは。よいか、明日の朝いちばんで、隣国はヒュブリス国王のもとに、謹んでマリス王女との婚約をお受けする旨お伝え申し上げるから、そのつもりでいるように」
と言い捨てて、ジェニトリーチェ王妃を伴って、さっさと自室に帰ってしまいました。
王子はひどいショックを受けましたが、密かに王宮を抜け出し、共に連れ帰った愛馬に跨ると、大急ぎで村に向かって馬を走らせました。
一度も休むことなく走り続けたおかげで、夜明け前には村のルーメンの小屋に着くことができました。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
つぼみ姫
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
世界の西の西の果て、ある城の庭園に、つぼみのままの美しい花がありました。どうしても花を開かせたい国王は、腕の良い元庭師のドニに世話を命じます。年老いて、森で静かに飼い猫のシュシュと暮らしていたドニは最初は気が進みませんでしたが、その不思議に光る美しいつぼみを一目見て、世話をすることに決めました。おまけに、ドニにはそのつぼみの言葉が聞こえるのです。その日から、ドニとつぼみの間には、不思議な絆が芽生えていくのでした……。
※第15回「絵本・児童書大賞」奨励賞受賞作。
シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。
以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。
不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。
眠れる森のうさぎ姫
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
白うさぎ王国のアヴェリン姫のもっぱらの悩みは、いつも眠たくて仕方がないことでした。王国一の名医に『眠い眠い病』だと言われたアヴェリン姫は、人間たちのお伽噺の「眠れる森の美女」の中に、自分の病の秘密が解き明かされているのではと思い、それを知るために危険を顧みず人間界へと足を踏み入れて行くのですが……。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
ある羊と流れ星の物語
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
たくさんの仲間と共に、優しい羊飼いのおじいさんと暮らしていたヒツジは、おじいさんの突然の死で境遇が一変してしまいます。
後から来た羊飼いの家族は、おじいさんのような優しい人間ではありませんでした。
そんな中、その家族に飼われていた一匹の美しいネコだけが、羊の心を癒してくれるのでした……。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる