シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ

文字の大きさ
上 下
13 / 14

5

しおりを挟む
「パパ、ママ、そっちのほうをもう一度さがして」
「エレーヌ、ここはもう何度もさがしたけど、ピエールはいなかっただろう」
「ねぇ、エレーヌ。もしかしたらピエールは親切な誰かに拾われて、幸せに暮らしているかもしれないわよ」
 懐かしいパパとママの声も聞こえました。
「いいえ、あの子はわたしじゃなきゃダメなのよ! ピエールは、きっとどこかでわたしを待っているはずよ。だから絶対見つけてあげなきゃいけないの!」
 エレーヌの言葉に、ピエールの心は嬉しさのあまり、もうほとんど爆発しそうなくらいでした。

 ──そうだよ、エレーヌ……! 俺はずっときみを待っていたんだよ……! エレーヌ、俺はここだよ……! 

 ピエールはエレーヌに届くことを祈りながら、心の中で必死に叫びました。
 エレーヌがどんどんピエールに近づいてくる気配がします。そしてとうとう、エレーヌは草むらに落ちているピエールを見つけました!
「ピエール!」
 エレーヌは大声でピエールの名前を叫ぶと、泣きながら駆け寄って来て、ピエールを急いで抱き上げ、ぎゅっと抱きしめました。



「あぁ、ピエール! 会いたかったわ!」
 エレーヌは涙でぬれた頬で、ピエールに頬ずりしました。
「ごめんなさい、わたしがうっかり居眠りなんかしちゃったから、あなたをこんな目に遭わせてしまって……。かわいそうに、耳が破れてしまってる。ああ、ピエール、ほんとうにごめんなさい。もう離さないわ。耳はまた、わたしが縫ってあげるから」
 エレーヌはピエールにキスをすると、ピエールを胸に抱きかかえたまま、もと来た道を、走って引き返して行きました。
 ピエールの汚れた頬は、エレーヌのあたたかい涙でぬれていました。それはまるで、ピエールの涙でもあるかのようでした。
 ピエールは、小走りに駆けるエレーヌの胸の中で、自分の破れた耳が勢いよく揺れるたび、詰め物の綿の切れ端が、春のやわらかな風に乗って、タンポポの綿毛のように空へと昇って行くのを見て、これが夢ではないことを確信しました。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

便利なゴミ箱

とものりのり
児童書・童話
おばあちゃんの便利なゴミ箱には何でも捨てられる。タケちゃんが捨ててしまった大事な物とは?

タロウのひまわり

光野朝風
児童書・童話
捨て犬のタロウは人間不信で憎しみにも近い感情を抱きやさぐれていました。 ある日誰も信用していなかったタロウの前にタロウを受け入れてくれる存在が現れます。 タロウはやがて受け入れてくれた存在に恩返しをするため懸命な行動に出ます。 出会いと別れ、そして自己犠牲のものがたり。

【総集編】アリとキリギリスパロディ集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。 1分で読める! 各話読切 アリとキリギリスのパロディ集

おっとりドンの童歌

花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。 意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。 「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。 なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。 「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。 その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。 道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。 その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。 みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。 ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。 ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。 ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

キコのおつかい

紅粉 藍
児童書・童話
絵本風のやさしい文体で、主人公の女の子・キコのおつかいが描かれています。冬支度のために木の実をとってくるようにお母さんに言いつけられたキコ。初めてのひとりでのおつかいはきちんとできるのでしょうか?秋という季節特有の寒さと温かさと彩りを感じながら、キコといっしょにドキドキしたりほんわかしたりしてみてください。

箱庭の少女と永遠の夜

藍沢紗夜
児童書・童話
 夜だけが、その少女の世界の全てだった。  その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。  すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。  ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。

キング・フロッグの憂鬱

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
森の中の沼に住むキング・フロッグの心配事は、大事な王冠を盗まれないかと言う事。その事を考えると夜も眠れないほどでした。そんなキング・フロッグに物知りのナマズはある提案をして……大人のお伽噺。掌編小説です。

処理中です...