シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ

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 話を聞き終えると、シャルルは何度か大きくうなずいて、
「ということは、きみは捨てられたわけじゃないのですね。それは言ってみれば、不可抗力だ。エレーヌにしても、きみが風にさらわれたことを、ずいぶん後になってから気がついたのではないしょうか」
「そうかもな。こうなった最初の頃は、俺はエレーヌがきっと俺をさがしに来ると信じていたんだ。でも結局、誰も来ないままだ。見てみろよ。もうこんなにボロボロになっちまった」
 ピエールの破れた耳はまた小さく震え、裂け目からのぞく中身の綿が小刻みに揺れました。
 たしかにピエールの耳は破れて傷ついていましたが、ほんとうに破れてしまっているのは、ピエールの心でした。
 シャルル・ド・ラングは、ピエールに言いました。
「わたしと一緒に行きますか?」
 ピエールはうつろな瞳で、考えごとをするようにシャルルを見つめながら、
「そんなことできないさ。俺はあんたとちがって、自分で腕のひとつも動かせないただのヌイグルミなんだからな。せいぜい、ここにこうして寝転がっているのが関の山さ」
「ほんとうにそうでしょうか」
 シャルルはコホン、とひとつ咳ばらいをすると、不思議に輝く金色の瞳でピエールをじっと見つめました。その瞳に見つめられているうちに、ピエールはなんとなく落ち着かない気持ちになって、くるくると瞳を動かして言いました。
「まぁ、そうだな。たしかに目ぐらいなら動かせるさ」
 シャルルは微笑みを浮かべ、黙ってピエールを見ていました。
 ピエールは妙な胸さわぎのようなものをおぼえ、シャルルからあわてて目をそらすと、
「わかったよ、あんたと行くのもいいだろうさ。こんなところにいたって、どうせ誰もやって来ないんだからな」
「それでは、ちょっと失礼しますよ」
 そう言うと、シャルルはピエールを胸に抱きあげ、歩き出しました。
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