6 / 14
Ⅰ
5
しおりを挟む
「ある日、ローム家は引っ越しをすることになったんだ。荷物を全部引っ越し業者のトラックに積み終えると、パパとママとエレーヌは、積んだ荷物とは別にしておいた大事なものを持って、パパの車に乗り込んだ。
パパはたばこを一箱、ママは口紅とレースのハンカチの入ったハンドバッグ、そしてエレーヌは、キャラメルとクシの入った小さなポシェットと俺。エレーヌは運転席のパパの隣に座っていた。そこがエレーヌの指定席なんだ。家族でお出かけってときには必ず、その席に俺を抱いて座って、一緒に外の景色を眺めるんだ。そりゃいい気分でさ……。
とにかく、その日もそうやって俺はエレーヌに抱かれて、助手席に座っていたんだ。よく晴れた日で、あたたかな気持ちのいい風が吹く日だった。それでエレーヌと俺は窓を開けて、風を楽しんでいた。パパとママは新しい街のことや、新しい家のことを夢中になって話し合っていた。
エレーヌは急にキャラメルが食べたくて仕方なくなったんだ。それで、エレーヌはポシェットの中からキャラメルを取り出すために、俺を車のダッシュボードの上に座らせた。キャラメルを口の中にほうりこんだとたん、エレーヌはウトウトし始めたんだ」
一瞬、ピエールのうつろな瞳に、春の空に浮かぶ雲のかげがうつりこんだのを、シャルル・ド・ラングの金色の瞳が見つめていました。
パパはたばこを一箱、ママは口紅とレースのハンカチの入ったハンドバッグ、そしてエレーヌは、キャラメルとクシの入った小さなポシェットと俺。エレーヌは運転席のパパの隣に座っていた。そこがエレーヌの指定席なんだ。家族でお出かけってときには必ず、その席に俺を抱いて座って、一緒に外の景色を眺めるんだ。そりゃいい気分でさ……。
とにかく、その日もそうやって俺はエレーヌに抱かれて、助手席に座っていたんだ。よく晴れた日で、あたたかな気持ちのいい風が吹く日だった。それでエレーヌと俺は窓を開けて、風を楽しんでいた。パパとママは新しい街のことや、新しい家のことを夢中になって話し合っていた。
エレーヌは急にキャラメルが食べたくて仕方なくなったんだ。それで、エレーヌはポシェットの中からキャラメルを取り出すために、俺を車のダッシュボードの上に座らせた。キャラメルを口の中にほうりこんだとたん、エレーヌはウトウトし始めたんだ」
一瞬、ピエールのうつろな瞳に、春の空に浮かぶ雲のかげがうつりこんだのを、シャルル・ド・ラングの金色の瞳が見つめていました。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
タロウのひまわり
光野朝風
児童書・童話
捨て犬のタロウは人間不信で憎しみにも近い感情を抱きやさぐれていました。
ある日誰も信用していなかったタロウの前にタロウを受け入れてくれる存在が現れます。
タロウはやがて受け入れてくれた存在に恩返しをするため懸命な行動に出ます。
出会いと別れ、そして自己犠牲のものがたり。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
キコのおつかい
紅粉 藍
児童書・童話
絵本風のやさしい文体で、主人公の女の子・キコのおつかいが描かれています。冬支度のために木の実をとってくるようにお母さんに言いつけられたキコ。初めてのひとりでのおつかいはきちんとできるのでしょうか?秋という季節特有の寒さと温かさと彩りを感じながら、キコといっしょにドキドキしたりほんわかしたりしてみてください。
箱庭の少女と永遠の夜
藍沢紗夜
児童書・童話
夜だけが、その少女の世界の全てだった。
その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。
すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。
ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。
キング・フロッグの憂鬱
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
森の中の沼に住むキング・フロッグの心配事は、大事な王冠を盗まれないかと言う事。その事を考えると夜も眠れないほどでした。そんなキング・フロッグに物知りのナマズはある提案をして……大人のお伽噺。掌編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる