ある羊と流れ星の物語

ねこうさぎしゃ

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第一章

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 ヒツジのことばに、ネコはどこか得意そうな様子で、しっぽをひとつしならせると、
「だから、わたしはわたしの好きな時間に出歩くの。ところで、あなたこそどうしてこんな夜更けにまだ目を覚ましているの? ほかのヒツジたちはみんなすっかり眠ってしまっているっていうのに」
「さぁ、どうしてなんでしょうか。どうしてぼくが眠ってしまわないのか、ぼくにもわからないんです」
「あら、それじゃあなた、つまり不眠症なのね」
「ふみんしょう?」
 ヒツジは知らないことばを耳にして、その意味を知るためにたずねかえしました。しかしネコはそれには答えず、瞳をいっそうきらきらさせながら、
「やっぱりね、あなたはどこかほかのヒツジたちとはちがっていると思ったわ」
 そう言いながら、ヒツジに近づいてくると、ほんのすぐ目の前で、二本の前足を体の前で上品にそろえておしりをおろしました。うすぼんやりした月明かりに照らされたネコの毛皮は、カラスの羽の濡れたときみたいにつやつやとしていて、大きな瞳は夢のようにきらめいています。

「きみの目は星みたいですね」
 ヒツジは、なんだか夢見心地になりながら、うっとりとネコに言いました。ネコは小首をかしげてほほえむと、
「ありがとう。あなたってやさしいのね」
 ネコのことばに、ヒツジの頭は一瞬ボウっとなり、そのままうわごとでも言うような調子でつづけました。
「なんていう星座なの?」
「まぁ、星座ですって? うふふふ、あなた、とってもユニークなことを言うのね」
 ネコの笑う声も、夜空の星のようにきらきらした光の粉をふりまいていました。それはまるで、いつかおじいさんと見た流れ星のきらめく様と同じでした。
ネコがわずかに体を動かすたびに、ネコの毛皮の上にも光が走り、星がまたたくようでした。ヒツジはゆっくりと目をしばたかせながら、
「きみの毛皮にも星が住んでいるんだね」
「あら、ありがとう。この毛皮、わたしの自慢なの。わたし、シャルトリューなのよ」
「シャルトリュー?」
 そのことばの意味はわかりませんでしたが、ヒツジの耳にはとても素敵に響き、新しい星座のなまえを聞いたような気になりました。そこでヒツジは、
「そういう星座なんですね」
「まぁ、あなたって、なんでも星座に結びつけるのが好きなの? シャルトリューっていうのはね、星座よりもっといいものなのよ。わたし、血統書つきなの」
 ヒツジは血統書ということばも知りませんでしたが、星座よりもっといいものと聞いて、目を丸くしました。ヒツジのその様子に、ネコは満足そうに長いしっぽを振った後、
「それにしてもあなた、どのくらい眠らずにいるの?」
 ネコにたずねられ、ヒツジは小さく首をひねりました。
「どれくらいでしょうか……。少なくとも、あなたがたがここに来たときには、眠らなくなってからしばらく経っていたと思いますよ」
「まぁ、それは憂鬱ね」
「ゆううつ?」
 そのことばもはじめて聞くものでした。ネコはやはりヒツジが聞き返したことには返事をせず、長いしっぽをもぞもぞと動かしたかと思うと、しっぽの先の方に軽くかみついたり、舌でそろそろと毛並みをとととのえたりしていました。その様子をぼんやり眺めながら、ヒツジはこうして夜更けに歩き回っているネコも、自分とおなじように眠れずにいるのだろうかと思いはじめ、たずねてみました。
「きみも眠れないのですか?」
「あら、わたしはちがうのよ。わたしはもともと夜にはあまり眠らないの。わたしはたいてい昼間に眠るのよ。心配してくださるなんて、ご親切なのね」
 ネコはにっこりと笑いました。それから、突然何かを思い出したように、大きなため息をつきました。その様子がとてもつらそうに見えたので、ヒツジは体の具合でも悪くなったのかと心配になって、あわててネコにたずねました。
「どうかしたのですか?」
「わたしね、このところとっても憂鬱なのよ」
「ゆううつ?」
 先ほど聞いたことばでした。それでヒツジは、「ゆううつ」ということばが、なにかとても具合の悪いことをさすのだとわかりました。
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