上 下
24 / 32
月にのぼった野ねずみの一家~シャルル・ド・ラングシリーズ2

しおりを挟む
 ジェラルドは、もう嬉しくて楽しくて仕方がありませんでした。大笑いしながらギィに飛び掛かったり、逆に飛びつかれたりしながら、ひしひしと幸せを噛みしめました。
 二匹は遊び疲れると、柔らかくて心地よい月の上に仲良く並んでごろりと寝転がりました。ブルーベリーのジャムよりももっと濃い藍色の空を眺めていると、ギィが感心したようにジェラルドに話しかけました。
「ジェラルド、ほんとうに強くなったなぁ。それに、昔はぼくの方がほんの少しだけ大きかったのに、もうジェラルドの方が大きいんじゃないかな」
「そうかな? ぼく、毎日みたいに、お父さんとレスリング遊びをして特訓してるんだ」
「うん、きっとそのおかげだね。すっかり力持ちになっているみたいだ」
「ほんとう? ほんとうにそうならいいな。ぼく、強くなりたいんだ。今度は大切な誰かを、ぼくが守れるように」
 ギィはそれを聞くと、にっこりと笑いました。
「きみならできるさ」
「うん。……ねぇ、ギィ兄さん」
「なんだい?」
「ほんとうに、ありがとう……」
 ギィは体を起こすと、ジェラルドを優しいまなざしで見ました。ジェラルドも起き上って、真剣な表情でギィを見つめました。ギィが何か大切なことを言おうとしていることがわかったからです。
「ジェラルド、ぼくからひとつ、きみに頼みがあるんだ」
「うん、なんでも言って。ぼく、なんだってするよ」
「約束してほしいんだ。ぼくの分まで、精いっぱい生きるってこと」
 ジェラルドは思わず息を止め、ギィを見ました。



「ジェラルド、ぼくはこれからも、きみの中で生き続ける。だからきみは、きみ自身とぼくの分、二匹分の一生を精いっぱい生きる。楽しいときは二匹分楽しんで、悲しいときはその悲しみをぼくと分け合う。そうやって、大人になってからも、ずっとぼくをきみの中に住まわせて生きていく。どうかな? 約束してくれるかい?」
 ジェラルドはあふれた涙をごしごしと腕でぬぐうと、ギィを見つめて何度もうなずきました。
「約束するよ。兄さんの分まで、兄さんと一緒に、力いっぱい生きる……」
「ありがとう、ジェラルド」
 二匹は固く抱き合いました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

ふさすぐりと巨人のお話

ふしきの
児童書・童話
大人のおとぎ話

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

ティー・ブレイク~うさぎの国の物語エピソードゼロ

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
既出の「眠れる森のうさぎ姫」の少し前のお話です。魔法使いルタニが人間の姿になった理由とは…。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

コミュ障解消しましょう。どうでしょう無理でしょう

桃月熊
児童書・童話
中三と高一の間の春休みに、コミュ障解消セミナーに参加させられる少年の話。

処理中です...