つぼみ姫

ねこうさぎしゃ

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 とうとうある日の明け方、王さまは夢の中にまで聴こえ始めたその音楽の出所を探し当てるため、たったひとり馬に乗ってお城を出ました。それに気がつく人は誰もありませんでした。
 王さまは馬の手綱を操って、どんどん音楽の源の方へと進んでいき、ついに森の奥へとやって来ました。
 濃い木々の緑の息吹の香る深い森の奥、木漏れ日を受けて不思議に美しく光る巨大な花を見た王さまは息をのみました。王さまにはそれが庭園から姿を消した、あの美しいつぼみの花であることがすぐにわかりました。そして近頃ずっと自分を誘うように聴こえていた美しい音楽が、その宝石のようなきらめきを放つ巨大な花の中心から聞こえてくることにも気がつきました。
 王さまは馬からおりると、冠を脱いで馬の背の鞍に乗せました。そして馬の首を何度かさすってやってから、花の方にゆっくりと近づいていきました。
 今や死せる者の魂を地下に運ぶ花となったつぼみ姫は、王さまの姿をなつかしく見ていました。王さまは相変わらず、暗い沼の縁を思わす瞳で、重苦しい影を全身にまとわりつかせていました。けれど、つぼみ姫には王さまの影の正体がよくわかりました。それは絶望でした。王さまの抱える深く暗い悲しみが、全身を刺し貫く痛みとなって、つぼみ姫にも伝わってきました。
「王さま」
 深いあわれみを持ったつぼみ姫の呼び掛けに、王さまは驚いて立ち止まりました。
「まさか……花の声が聞こえる……」
「王さま、時期ときを迎えた人には、わたしの声が聞こえるのですよ」
 そのとき地中深くにあったつぼみ姫の根は、白い衣をまとった美しい女の人が、微笑みをたたえながら地下の眠りの国から歩いて来るのを見ていました。女の人は、やはり白い衣装に身を包んだ利発そうな男の子の手を引いていました。つぼみ姫には、それが王さまの死んだお妃さまと王子さまであることがわかりました。ふたりは王さまを迎えに来たのです。
「王さま、あなたはわたしが眠りの王国とこの世をつなぐ花であることを知っていたのですね」
 王さまは声を殺して泣きました。
「聖なる命の花よ、どうかわたしを亡き王妃と息子の元に連れて行ってはくれまいか……」
「王さま、あなたはわたしが口ずさむ眠りの国の音楽を聴いてここへ来たのでしょう。そして今、あなたはわたしの話すことをはっきりと聞いています。それはつまりそのときが来たということです。あなたがずっと待ち望んでいたそのときが」
「願いを叶えてくれるか」
「王妃さまと王子さまが、あなたを迎えに来ています」
 王さまはつぼみ姫の言葉を聞くと、とうとう声を上げて泣き出しました。
「さぁ、ここにいらっしゃい」
 つぼみ姫はきらきらと光る花びらを、王さまに向かって揺らしました。


 




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