つぼみ姫

ねこうさぎしゃ

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 そのやり取りに聞き耳を立てていた庭園の花たちが、ざわざわと冷たい灰色の風に揺れながら言いました。
「死ぬって、枯れるということよ」
「枯れて散ってしまうということよ」
「ばかな子ね。そんなことも知らないなんて、やっぱりあなたは『つぼみ姫』よ」
「永遠に咲くことのない可哀想なつぼみ。とうとうドニも失ってしまったわね」
 つぼみ姫は思わず大声をあげました。
「ドニおじいさんが枯れてしまったですって? おじいさんが散ってしまったですって?」
 つぼみ姫のかたいつぼみは、灰色の雲を映して鈍くくすんでいきました。つぼみ姫はただもう茫然となって、泣き続けるツグミを見つめていましたが、すぐにシュシュのことを思い出し、ツグミに尋ねました。
「春告げさん、シュシュはどうしているの? いつもドニおじいさんと一緒だった猫のシュシュは……」
 ツグミはしゃっくりを上げながら、かなしそうに答えました。
「シュシュはおじいさんのところにいます。死んだおじいさんの胸の上にうずくまって、そこから動こうとしないのです。その姿があんまりあわれで、ぼくの胸はもう張り裂けそうです。シュシュは大変いい猫で、けっしてぼく達を追い回して捕まえるなんてことはしないのです。ぼく達はいい友人でしたし、ドニおじいさんはほんとうに分け隔てなく、ぼく達の誰にも親切で……」
 ツグミはそこで言葉を詰まらせると、再び泣き声をあげ始めました。
 つぼみ姫は、シュシュこそひどいショックを受けているに違いないと思えてなりませんでした。
「かわいそうなシュシュ……。シュシュはわたしなんかよりずっと長いことドニおじいさんと一緒にいたのよ。きっとわたしよりも、ずっとずっと恐ろしい思いに傷ついているに違いないわ……」
 つぼみ姫はこころを決めると、ツグミに向かって言いました。
「春告げさん、あなたわたしの根っこを土から掘り起こして、ドニおじいさんの家まで運ぶなんていうことができて?」
 ツグミはびっくりして、翼を勢いよく動かしました。
「そんなことをしたら、つぼみ姫も死んでしまいますよ!」
 庭園の花たちも風に身をよじって言いました。
「なんてばかな子なのかしら。そんなことをしたら、あなたは枯れておしまいになってしまうわよ」
「つぼみのまま枯れてしまうなんて、いいお笑い種だわね」
「あんたが行ってしまったら、王さまはもうわたし達の世話をするための人間を寄越さなくなってしまうかもしれないじゃないの!」
「そんなことになったら、あんた、ただで済まされるとでも思っているの?」
 つぼみ姫は花たちの言葉を無視して、ツグミに言いました。
「お願い、わたしをシュシュのところへ……ドニおじいさんのところへ連れて行って」
 ツグミは気が進みませんでしたが、つぼみ姫の意思が固いこと知ると、ツグミのほうでも意を決し、できるだけ傷をつけないように注意深くくちばしで根を掘り起こしていきました。敏感な根が少しずつ土の中から現れるにしたがって、つぼみ姫はぴりぴりと刺すような痛みを感じました。まわりでは花たちが大騒ぎをしていましたが、どんな言葉もつぼみ姫の耳には入りませんでした。
 じっと黙って耐え続け、やがてすっかり地中から全身のすべてがのぞいてしまうと、ツグミはつぼみ姫の茎のちょうど真ん中あたりをそっとくちばしにくわえ、ざわざわと騒がしい庭園から飛び立ちました。



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