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ときどき、庭園には立派な冠を輝かせながら、王さまが何人かの家来を引き連れてやって来ました。
そんなとき、まわりの花たちはひどく張り切って、色とりどりの花びらをいつも以上にときめかせ、王さまの気を引こうとしました。けれど、当の王さまはそんな花たちには目もくれず、足早につぼみ姫の元を訪れるだけで、庭園に咲き乱れる他の花々の様子を見ようともしませんでした。それで花たちはますます腹を立てて、つぼみ姫を無視したり、意地悪を言ったりしましたが、つぼみ姫自身はというと、この王さまのことがあまり好きではありませんでした。
王さまはいつもどこか暗い影を引きずるようにしてやって来ては、同じように暗く沈んだ瞳で、じっとつぼみ姫を見つめました。そしてドニおじいさんに花の開く気配があるかを尋ね、ドニおじいさんが曖昧な返事をすると、無言のまま踵を返し、来たときと同じように、何も映してなどいない瞳で、足早に去って行くのでした。その暗い瞳には、ドニおじいさんやシュシュのそれに宿るようなあたたかさは、微塵も感じられませんでした。
「わたし、王さまってあまり好きじゃないわ」
低く落とした声で言うつぼみ姫を、ドニおじいさんは優しい口調でたしなめました。
「そんなことを言うもんじゃないよ」
「だってほんとうのことだもの。あの王さまときたら、不吉な沼みたいなんですもの。あの目にじっと見つめられたときのわたしの気持ちが想像できて? わたし、王さまに見られると、ほんとうに嫌な気分になるの。だってあの人、わたしがつぼみのままでいることが、あきらかに不満そうなんですもの。おかげでわたし、ますます自分が情けなくなるわ。わたしはやっぱり役立たずで、花としての値打ちも意味もない出来損ないなんだわって思えてくるもの」
「そんな風に自分を卑下するのはおやめ」
思いのほか強いドニおじいさんの口調に、つぼみ姫は黙って深いため息をつきました。そしてなぐさめるような眼差しを注ぐドニおじいさんを見上げて、
「でも王さまのことでいちばん嫌だと思うのは、王さまがドニおじいさんに、ねぎらいの言葉ひとつかけないことよ」
と、呟きました。
「つぼみ姫、おまえはほんとうに優しい子だね」
ドニおじいさんはそう言って、つぼみ姫にしみじみとあたたかい眼差しを向けました。
けれどつぼみ姫はドニおじいさんの愛情深い視線にくるまれると、なんだか心の底からじわじわとやるせない想いが込み上げて来て、かたいつぼみをふるふるとふるわせました。
「わたし、ほんとうに悲しいわ。王さまが不機嫌なのはわたしがいつまでたっても開かないせいでしょう? それで王さまはわたしのお世話をしているドニおじいさんに、あいさつのひとつもしないで行ってしまうんじゃなくて?」
「そんな心配をしなくていいんだよ。王さまのご機嫌がいつも悪いのは、わしやつぼみ姫にはなんの関係もないんだよ。それは王さまの問題なんだから、つぼみ姫が気にすることなんてないんだよ」
ドニおじいさんは節くれだった指で、つぼみ姫をそっと撫でてくれました。けれど、ドニおじいさんの指が優しければ優しいほど、つぼみ姫の心には、悲しみがうら寂しい秋の雨のように降りしきるのでした。
いつまでもふるえのおさまらないつぼみ姫を、シュシュのふわふわと柔らかいしっぽが包みました。
「にゃあん」
「ありがとうシュシュ……、ドニおじいさん……」
つぼみ姫は茎をしならせて、青や緑やピンクにきらめくつぼみを、ドニおじいさんやシュシュの体にこすりつけました。でも、つぼみ姫の心の寂しさが、完全に消えることはありませんでした。
そんなとき、まわりの花たちはひどく張り切って、色とりどりの花びらをいつも以上にときめかせ、王さまの気を引こうとしました。けれど、当の王さまはそんな花たちには目もくれず、足早につぼみ姫の元を訪れるだけで、庭園に咲き乱れる他の花々の様子を見ようともしませんでした。それで花たちはますます腹を立てて、つぼみ姫を無視したり、意地悪を言ったりしましたが、つぼみ姫自身はというと、この王さまのことがあまり好きではありませんでした。
王さまはいつもどこか暗い影を引きずるようにしてやって来ては、同じように暗く沈んだ瞳で、じっとつぼみ姫を見つめました。そしてドニおじいさんに花の開く気配があるかを尋ね、ドニおじいさんが曖昧な返事をすると、無言のまま踵を返し、来たときと同じように、何も映してなどいない瞳で、足早に去って行くのでした。その暗い瞳には、ドニおじいさんやシュシュのそれに宿るようなあたたかさは、微塵も感じられませんでした。
「わたし、王さまってあまり好きじゃないわ」
低く落とした声で言うつぼみ姫を、ドニおじいさんは優しい口調でたしなめました。
「そんなことを言うもんじゃないよ」
「だってほんとうのことだもの。あの王さまときたら、不吉な沼みたいなんですもの。あの目にじっと見つめられたときのわたしの気持ちが想像できて? わたし、王さまに見られると、ほんとうに嫌な気分になるの。だってあの人、わたしがつぼみのままでいることが、あきらかに不満そうなんですもの。おかげでわたし、ますます自分が情けなくなるわ。わたしはやっぱり役立たずで、花としての値打ちも意味もない出来損ないなんだわって思えてくるもの」
「そんな風に自分を卑下するのはおやめ」
思いのほか強いドニおじいさんの口調に、つぼみ姫は黙って深いため息をつきました。そしてなぐさめるような眼差しを注ぐドニおじいさんを見上げて、
「でも王さまのことでいちばん嫌だと思うのは、王さまがドニおじいさんに、ねぎらいの言葉ひとつかけないことよ」
と、呟きました。
「つぼみ姫、おまえはほんとうに優しい子だね」
ドニおじいさんはそう言って、つぼみ姫にしみじみとあたたかい眼差しを向けました。
けれどつぼみ姫はドニおじいさんの愛情深い視線にくるまれると、なんだか心の底からじわじわとやるせない想いが込み上げて来て、かたいつぼみをふるふるとふるわせました。
「わたし、ほんとうに悲しいわ。王さまが不機嫌なのはわたしがいつまでたっても開かないせいでしょう? それで王さまはわたしのお世話をしているドニおじいさんに、あいさつのひとつもしないで行ってしまうんじゃなくて?」
「そんな心配をしなくていいんだよ。王さまのご機嫌がいつも悪いのは、わしやつぼみ姫にはなんの関係もないんだよ。それは王さまの問題なんだから、つぼみ姫が気にすることなんてないんだよ」
ドニおじいさんは節くれだった指で、つぼみ姫をそっと撫でてくれました。けれど、ドニおじいさんの指が優しければ優しいほど、つぼみ姫の心には、悲しみがうら寂しい秋の雨のように降りしきるのでした。
いつまでもふるえのおさまらないつぼみ姫を、シュシュのふわふわと柔らかいしっぽが包みました。
「にゃあん」
「ありがとうシュシュ……、ドニおじいさん……」
つぼみ姫は茎をしならせて、青や緑やピンクにきらめくつぼみを、ドニおじいさんやシュシュの体にこすりつけました。でも、つぼみ姫の心の寂しさが、完全に消えることはありませんでした。
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