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翌朝、いつものようにドニおじいさんとシュシュがやってくると、つぼみ姫はあいさつもそこそこに、ドニおじいさんに尋ねました。
「ねぇ、ドニおじいさん。『老いぼれ』ってなんのこと?」
ドニおじいさんはびっくりしてつぼみ姫に聞きました。
「どうやってそんな言葉を知ったんだい?」
「昨日の晩、花たちに聞いたの。ドニおじいさんが老いぼれで、シュシュは年寄りだって。ねぇ、老いぼれってなんのこと? 年寄りってどういうことなの?」
「やれやれ、困った花たちだ」
ドニおじいさんは肩をすくめて白い頭をかきました。
「老いぼれというのも年寄りというのも、年を取っているということだよ」
「年を取っているってどういうことなの?」
「長く生きているってことさ」
「でも、それっていけないことなの? 何か問題があるの? だって、森の木々だって長く生きているのでしょ?」
「うん、そうだね。長く生きることは、いけないことではないんだよ。問題という問題があるわけでもないが、人間や動物は年を取ると思うように体を動かしにくくなるからね、その点だけ不自由と言えば、まぁそうかもしれない。だが生きていると、みんないつかは年を取って、わしやシュシュのようになるんだよ」
「わたしもいつかそうなるの?」
「さてなぁ、おまえさんは花だから、わしやシュシュとまるっきり同じってわけじゃないだろうからねぇ。でもいずれにしたって、つぼみが開かないうちからそんなことを心配しなくてもいいんだよ」
「わたし、つぼみが開くなら年を取って不自由になってもいいわ。ねぇドニおじいさん、やっぱりわたしは今日も開かないのかしら。このままずっとつぼみのままだったら、どうしたらいいのかしら」
ドニおじいさんは静かに首を振りました。
「必ず咲くよ。そのときが来たら、おまえさんは誰よりも美しい花を咲かせるよ」
「でも、それはいったいいつなの?」
「花にはみんな咲くにふさわしい時があるんだよ。大事なのは、必ず咲くことをきちんと知っていることだよ」
ドニおじいさんはつぼみ姫を諭すように優しく言いました。
ドニおじいさんにやさしく言われても、つぼみ姫は心の奥にうずまく不安を抑えきれませんでした。
「でも、もしも咲かなかったら? わたしはやっぱり落ちこぼれの花なの?」
「この世に落ちこぼれの花なんて、一本だってありはしないよ。確かに花開いている姿は美しいかもしれない。けれど、花の美しさというのは姿や形だけじゃないんだよ。香りという美を咲かせる花だってあるんだからね」
「香り……。ねぇドニおじいさん、わたしにも香りはあって?」
ドニおじいさんはつぼみ姫に顔を近づけて、大きく息を吸い込むと、にっこり笑いました。
「うんうん、あるとも。とってもいい香りだよ」
つぼみ姫はパッと明るくつぼみを輝かせました。
「ほんとう? どんな香りなの?」
「そうだなぁ、あたたかくてやさしくて、なつかしい香りがするねぇ。なんだかとっても幸せな気分になって、眠たくなってくるよ」
つぼみ姫は少しの間黙って、自分の香りについて考えていましたが、そっと吹いてくる風に揺れながら、
「わたし、ドニおじいさんやシュシュの香りも素敵だと思うわ。いつも清々しい緑の香りがするんですもの」
「そうかい、それは嬉しいねぇ。なぁ? シュシュ」
微笑んでつぼみ姫を優しく撫でるドニおじいさんの横で、シュシュは「にゃあ」と返事をしました。
つぼみ姫はもう他の花たちの言うことに惑わされるのはやめようと思いながら、皺の刻まれたドニおじいさんの手に身を預けていました。
「ねぇ、ドニおじいさん。『老いぼれ』ってなんのこと?」
ドニおじいさんはびっくりしてつぼみ姫に聞きました。
「どうやってそんな言葉を知ったんだい?」
「昨日の晩、花たちに聞いたの。ドニおじいさんが老いぼれで、シュシュは年寄りだって。ねぇ、老いぼれってなんのこと? 年寄りってどういうことなの?」
「やれやれ、困った花たちだ」
ドニおじいさんは肩をすくめて白い頭をかきました。
「老いぼれというのも年寄りというのも、年を取っているということだよ」
「年を取っているってどういうことなの?」
「長く生きているってことさ」
「でも、それっていけないことなの? 何か問題があるの? だって、森の木々だって長く生きているのでしょ?」
「うん、そうだね。長く生きることは、いけないことではないんだよ。問題という問題があるわけでもないが、人間や動物は年を取ると思うように体を動かしにくくなるからね、その点だけ不自由と言えば、まぁそうかもしれない。だが生きていると、みんないつかは年を取って、わしやシュシュのようになるんだよ」
「わたしもいつかそうなるの?」
「さてなぁ、おまえさんは花だから、わしやシュシュとまるっきり同じってわけじゃないだろうからねぇ。でもいずれにしたって、つぼみが開かないうちからそんなことを心配しなくてもいいんだよ」
「わたし、つぼみが開くなら年を取って不自由になってもいいわ。ねぇドニおじいさん、やっぱりわたしは今日も開かないのかしら。このままずっとつぼみのままだったら、どうしたらいいのかしら」
ドニおじいさんは静かに首を振りました。
「必ず咲くよ。そのときが来たら、おまえさんは誰よりも美しい花を咲かせるよ」
「でも、それはいったいいつなの?」
「花にはみんな咲くにふさわしい時があるんだよ。大事なのは、必ず咲くことをきちんと知っていることだよ」
ドニおじいさんはつぼみ姫を諭すように優しく言いました。
ドニおじいさんにやさしく言われても、つぼみ姫は心の奥にうずまく不安を抑えきれませんでした。
「でも、もしも咲かなかったら? わたしはやっぱり落ちこぼれの花なの?」
「この世に落ちこぼれの花なんて、一本だってありはしないよ。確かに花開いている姿は美しいかもしれない。けれど、花の美しさというのは姿や形だけじゃないんだよ。香りという美を咲かせる花だってあるんだからね」
「香り……。ねぇドニおじいさん、わたしにも香りはあって?」
ドニおじいさんはつぼみ姫に顔を近づけて、大きく息を吸い込むと、にっこり笑いました。
「うんうん、あるとも。とってもいい香りだよ」
つぼみ姫はパッと明るくつぼみを輝かせました。
「ほんとう? どんな香りなの?」
「そうだなぁ、あたたかくてやさしくて、なつかしい香りがするねぇ。なんだかとっても幸せな気分になって、眠たくなってくるよ」
つぼみ姫は少しの間黙って、自分の香りについて考えていましたが、そっと吹いてくる風に揺れながら、
「わたし、ドニおじいさんやシュシュの香りも素敵だと思うわ。いつも清々しい緑の香りがするんですもの」
「そうかい、それは嬉しいねぇ。なぁ? シュシュ」
微笑んでつぼみ姫を優しく撫でるドニおじいさんの横で、シュシュは「にゃあ」と返事をしました。
つぼみ姫はもう他の花たちの言うことに惑わされるのはやめようと思いながら、皺の刻まれたドニおじいさんの手に身を預けていました。
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