6 / 14
*
しおりを挟む
夜になると、つぼみ姫は夜空に輝く月のやわらかな光に照らされて、かたいつぼみを星のようにきらめかせながら、ドニおじいさんの言ったことを考えていました。じっと物思いに耽るつぼみ姫の美しさには、夜空で瞬くほんとうの星たちさえ、うっとりと見とれてしまうほどでした。庭園の他の花たちは、つぼみでありながら誰よりも美しいつぼみ姫に嫉妬して、激しい言葉を投げつけました。
「今日もあなたは咲かなかったわね。花は花開いてこそ美しいもの。けれど、あなたはずっとつぼみのままなんてね」
「ほんとうにつまらない花だこと!」
「そもそも、あなたは花じゃないのかもしれないわよ」
「そうよ、あなたはきっと落ちこぼれの花なのよ」
花たちが意地悪に笑いさざめく声を聞いて、つぼみ姫は言い返さずにはいられませんでした。
「でも、ドニおじいさんは、わたしがいつかきっと花開くと言っていたわ」
「ふん、ドニと言えば、あんたドニにわたし達のことを告げ口していたわね」
「告げ口?」
つぼみ姫は驚いて聞き返しました。
「わたし達はあんたをあわれんでやっているのに、まるであんたに意地悪をしているみたいな言い方をしていたじゃないの」
「わたしそんなつもりじゃ……」
つぼみ姫の声を遮って、花の一本が脅すように言いました。
「もしもドニが勘違いをしてわたし達の世話をしなくなったら、あんたいったいどうしてくれるのよ。そんなことになったら、ただじゃおかないから」
つぼみ姫は恐ろしくなって、茎を折り曲げて体をふるわせました。そんなつぼみ姫を見て、花たちはいい気味だと言うように嗤いました。
花の一本が吹く風に乗って、つぼみ姫の方にぐっと身を乗り出すようにして言いました。
「だいたい、ドニのあんな大嘘を信じるなんてね。いつまでもつぼみのままのあんたを不憫に思って、口から出まかせを言っただけに決まっているじゃない」
つぼみ姫は驚いて、思わず大きな声を出しました。
「大嘘ですって? いいえ、ドニおじいさんは心の底からほんとうにそうだと思って言ってくれたに決まっているわ!」
「なんておめでたい『つぼみちゃん』なのかしら! ねぇ皆さん、ほんとうにこの子とドニ、それにシュシュはいい取り合わせだと思わない?」
「ええ、思うわ。いつまでたってもつぼみのままの出来損ないに、老いぼれの人間と年寄りの猫だなんてねぇ!」
花たちはいっせいに笑い出しました。つぼみ姫は怪訝に思って、笑いさざめく花たちに尋ねました。
「老いぼれ? 年寄り? それってどういう意味なの?」
花たちはあきれてくすくすと笑い合いました。
「あなた、意味も分からないでドニに『おじいさん』って呼びかけていたの?」
「だって、鳥や蝶たちもそう呼んでいるから……」
「あきれたわ。あなたやっぱり『つぼみ姫』ね」
花たちはさんざん笑い、つぼみ姫の聞いたことには何も答えずに眠ってしまいました。
つぼみ姫は東の空が金色のおひさまの光ににじんできても、眠ることができませんでした。
「今日もあなたは咲かなかったわね。花は花開いてこそ美しいもの。けれど、あなたはずっとつぼみのままなんてね」
「ほんとうにつまらない花だこと!」
「そもそも、あなたは花じゃないのかもしれないわよ」
「そうよ、あなたはきっと落ちこぼれの花なのよ」
花たちが意地悪に笑いさざめく声を聞いて、つぼみ姫は言い返さずにはいられませんでした。
「でも、ドニおじいさんは、わたしがいつかきっと花開くと言っていたわ」
「ふん、ドニと言えば、あんたドニにわたし達のことを告げ口していたわね」
「告げ口?」
つぼみ姫は驚いて聞き返しました。
「わたし達はあんたをあわれんでやっているのに、まるであんたに意地悪をしているみたいな言い方をしていたじゃないの」
「わたしそんなつもりじゃ……」
つぼみ姫の声を遮って、花の一本が脅すように言いました。
「もしもドニが勘違いをしてわたし達の世話をしなくなったら、あんたいったいどうしてくれるのよ。そんなことになったら、ただじゃおかないから」
つぼみ姫は恐ろしくなって、茎を折り曲げて体をふるわせました。そんなつぼみ姫を見て、花たちはいい気味だと言うように嗤いました。
花の一本が吹く風に乗って、つぼみ姫の方にぐっと身を乗り出すようにして言いました。
「だいたい、ドニのあんな大嘘を信じるなんてね。いつまでもつぼみのままのあんたを不憫に思って、口から出まかせを言っただけに決まっているじゃない」
つぼみ姫は驚いて、思わず大きな声を出しました。
「大嘘ですって? いいえ、ドニおじいさんは心の底からほんとうにそうだと思って言ってくれたに決まっているわ!」
「なんておめでたい『つぼみちゃん』なのかしら! ねぇ皆さん、ほんとうにこの子とドニ、それにシュシュはいい取り合わせだと思わない?」
「ええ、思うわ。いつまでたってもつぼみのままの出来損ないに、老いぼれの人間と年寄りの猫だなんてねぇ!」
花たちはいっせいに笑い出しました。つぼみ姫は怪訝に思って、笑いさざめく花たちに尋ねました。
「老いぼれ? 年寄り? それってどういう意味なの?」
花たちはあきれてくすくすと笑い合いました。
「あなた、意味も分からないでドニに『おじいさん』って呼びかけていたの?」
「だって、鳥や蝶たちもそう呼んでいるから……」
「あきれたわ。あなたやっぱり『つぼみ姫』ね」
花たちはさんざん笑い、つぼみ姫の聞いたことには何も答えずに眠ってしまいました。
つぼみ姫は東の空が金色のおひさまの光ににじんできても、眠ることができませんでした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
眠れる森のうさぎ姫
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
白うさぎ王国のアヴェリン姫のもっぱらの悩みは、いつも眠たくて仕方がないことでした。王国一の名医に『眠い眠い病』だと言われたアヴェリン姫は、人間たちのお伽噺の「眠れる森の美女」の中に、自分の病の秘密が解き明かされているのではと思い、それを知るために危険を顧みず人間界へと足を踏み入れて行くのですが……。
シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。
以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。
不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。
デシデーリオ
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
田舎の領主の娘はその美貌ゆえに求婚者が絶えなかったが、欲深さのためにもっと条件のいい相手を探すのに余念がなかった。清貧を好む父親は、そんな娘の行く末を心配していたが、ある日娘の前に一匹のネズミが現れて「助けてくれた恩返しにネズミの国の王妃にしてあげよう」と申し出る……尽きる事のない人間の欲望──デシデーリオ──に惑わされた娘のお話。
ドラゴンの愛
かわの みくた
児童書・童話
一話完結の短編集です。
おやすみなさいのその前に、一話ずつ読んで夢の中。目を閉じて、幸せな続きを空想しましょ。
たとえ種族は違っても、大切に思う気持ちは変わらない。そんなドラゴンたちの愛や恋の物語です。
フロイント
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
光の妖精が女王として統治する国・ラングリンドに住む美しい娘・アデライデは父と二人、つつましくも幸せに暮らしていた。そのアデライデに一目で心惹かれたのは、恐ろしい姿に強い異臭を放つ名前すら持たぬ魔物だった──心優しい異形の魔物と美しい人間の女性の純愛物語。
ミシオン王子とハトになったヴォロンテーヌ
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
その昔、天の国と地上がまだ近かった頃、自ら人間へ生まれ変わることを望んだ一人の天使が、ある国の王子ミシオンとして転生する。
だが人間界に生まれ変わったミシオンは、普通の人間と同じように前世の記憶(天使だった頃の記憶)も志も忘れてしまう。
甘やかされ愚かに育ってしまったミシオンは、二十歳になった時、退屈しのぎに自らの国を見て回る旅に出ることにする。そこからミシオンの成長が始まっていく……。魂の成長と愛の物語。
ある羊と流れ星の物語
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
たくさんの仲間と共に、優しい羊飼いのおじいさんと暮らしていたヒツジは、おじいさんの突然の死で境遇が一変してしまいます。
後から来た羊飼いの家族は、おじいさんのような優しい人間ではありませんでした。
そんな中、その家族に飼われていた一匹の美しいネコだけが、羊の心を癒してくれるのでした……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる