フロイント

ねこうさぎしゃ

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ラングリンド

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「……アデライデ、俺はまだこれをほんとうのこととは思えない……。これが俺の目が実際に見ている光景だとは、とても信じられないのだ……」
 光の精霊たちと動物たちの作った道を通り終えたフロイントは、熱っぽく湿りを帯びた声で呟いた。
「女王は確かに自分が選ぶ者をラングリンドの民は受け入れると言ったが、俺はその言葉をほんとうに信じ切ることはできなかった──。だがこうして光の精霊たちを目の当たりにした今、俺は女王の意思が女王の加護に他ならないのだということを痛感する思いだ。ラングリンドの誇り高い光の戦士である精霊たちが俺に礼を尽くすなど、到底考えられることではない。女王の加護はこれほどまでに途方もない威光を、俺のような者にまで授けてくれるのか……」
 女王への畏敬の念を新たにして震え出したフロイントの指先を、アデライデはそっと力を込めて握り直した。
「確かに女王様のお力は偉大で、わたし達ラングリンドの民にとって、女王様への信頼は揺るぎのないものです。でもフロイント、女王様のご加護ということについて言うならば、わたし達ラングリンドの民は、皆等しく女王様のご加護を受けています。ですから、こうして彼らがあなたに敬意を表すのは、女王様のご意思があるばかりではないと思うのです」
 アデライデはそこでいったん言葉を切って一瞬逡巡した後、再びその柔らかな花びらを思わす唇を開いた。
「──あの日……あなたがわたしを見つけてくれた日のことです。……実はわたしはあなたに見つけられるより前に、この森で既にバルトロークに襲われかけていたのです」
「なんだって?」
 フロイントは驚き、思わず立ち止まってアデライデに向き直った。
「わたしもそのときには知らなかったことでした。あの日、わたしは森で花を摘み、キイチゴを集めようとしていました。けれど突然わたしは仕留められる小動物のように、何者かによって狙い定められているような気配を感じて、大きな不安と恐ろしさのために身をすくませていました。そのとき光の精霊たちが木々の間を滑り抜けてわたしのまわりを取り囲み、盾となって守ってくれたのです。そのときにはわたしはそれが女王様と戦った光の精霊たちとは知らず、またわたしを襲おうとしたのがバルトロークであったことも知りませんでした。そうして森の精霊たちに守られたその後に、わたしはあなたに見つけらたのです」
「そうだったのか……。しかし、いつそのことを知ったのだ?」
「あの冷たく恐ろしい氷の城に連れ去られたときに、バルトローク自らによって聞かされました。でもそのときにも、バルトロークはラングリンドの古い精霊たちが企みを阻止したとしか言わなかったので、わたしは女王様のお話を聞くまで、あのときわたしを守ってくれたのが光の精霊たちであるとは知らなかったのですが……」
「そうか……。おそらくはバルトロークも彼らが女王の戦士たちであるとは知らなかったのだろう。奴は俺よりも早く誕生した魔物の上、自ら魔王の寵臣であると豪語していたが、光と影の大戦については何も知らなかったのだろう。もっともこの話は魔族の間では古い伝承──昔語りとしか見なされていなかったし、そもそも魔族が大敗を喫したというような話を甘んじて受け入れるような魔物などいなかったからな。しかしそんな古い物語のような口伝と言えども、この大戦が魔物にもたらした被害の甚大さについて語られるくだりは、魔物にとっては本能的な恐怖を刺激するものだった。だからもしこの森の精霊たちが女王と共に戦った光の精霊たちであると知っていたなら、さしものバルトロークもおまえに手出しをしようというような愚かな考えは起こさなかったはずだ──ましてやたった一人で光の精霊たちに臨もうなどとはな。簡単に追い払われてしまうことは火を見るよりも明らかなのだから──」
「わたしが言いたいのは、まさにそこなのですフロイント」
 アデライデはフロイントの手を握る指にぐっと力を込めた。
「光の精霊たちはバルトロークを追い払うことはしても、あなたに対しては何もせず、ただ静観していただけでした。女王様のお話にもありました──光の精霊たちは『魂をもった魔物がアデライデを連れて行った』と報告した、と……。つまり、彼らには最初からあなたの魂が見えていて、そしてその魂がいずれは目覚め、素晴らしい光を放つとわかっていたのではないでしょうか。ですから、わたしには森の精霊たちが今こうしてあなたの前に膝を折るのは、精霊たち自身の意思でそうしているのだと思えてならないのです──」
 アデライデの言葉に、フロイントは胸を衝かれる思いで大きく目を見開いた。思わずアデライデの両手を胸に抱くように取りながらその清らかな青い瞳を見つめるうちに、頬には熱い涙がこぼれて伝った。フロイントは後ろを振り返り、まだそこに膝を着いて自分たちを見送っている光の精霊の一団を見ると、目を伏せて深く頭を下げた。
 精霊たちはこの新しい王の心からの礼を受けると、ひときわ強く輝いて応えた。やがて光の精霊たちは兵士の姿を解き、また元の粒子の姿に戻ると、ひとところに集まっていた動物たちを引き連れるようにして森の奥へと消えていった。


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