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妖精女王
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一言も発することができず立ち尽くしているフロイントに、女王は光の眼差しを注いで言った。
「あなたを見守るうちに、わたくしはこの世界の偉大なる力がわたくしに何をさせようとしているのかを理解しました。わたくしの取るべき行動、行くべき道が、あなたと、そしてアデライデを見守る中ではっきりと浮かび上がったのです。この世界は今、変化の時を迎えようとしています。影には影の役割、存在意義があるもの──。彼らもまたわたくし達同様、大いなる力によってこの世界に存在することを許された者たちであるのです。光と影とは本来独立して存在できるものではありません。互いにその力を補い合い、強め合うことで一つの世界、秩序が生まれるのです。それこそが原初の姿、この世界の本来あるべき形。わたくし達は今こそそこに立ち戻るべきときが来ているのです」
女王の力強く、粛々と光を放つ声は、フロイントとアデライデの眼前に、光と影が一つに溶け合うイメージを広げ、そのあまりに厳かで美しい幻影に、二人は思わず息を呑んで互いの手を強く握り合った。
「わたくしがこのままラングリンドの女王の座に就き続けても、もはやより新しい光をもたらすことはなく、ただ停滞を生むだけでしょう。停滞したものはいずれ死ぬ──そのようなことを、わたくしも大いなる力も、望んではいません。これからは新しい世界を築いていかねばならないのです。しかしそれは本来の世界の姿でもあるのです。種族を超え、あらゆる存在が共に栄える世界──それこそがわたくし達の還るべき世界、安住の地。そしてあなた達はその世界を最初に築き上げる魂なのです。
フロイント、あなたはラングリンドの最初の人の王としてすべての民の父となり、影に対しては厳然と接し、民に対しては自らの姿をもって影との共存の道を示して導くのです。そしてアデライデ、あなたは聖なる光をもってすべての民の母となり、人々が自ら進んで影の虜となる道を進まぬよう、民の心を清らかに保つのです。あなた方は二本の柱、一対の翼となって、ラングリンドをより良い国へと築き上げることができるでしょう。あなた達は新しく、そして懐かしい世界の象徴となるのです」
フロイントはやはり瞬きも忘れて茫然と立ちすくんでいた。フロイントには女王の語る言葉は荒唐無稽な、現実離れした物語のようにしか聞こえなかった。──というよりも、やはり自分は今、夢の世界にいるのかもしれないという思いがフロイントから冷静さを奪い、激しい混乱の中に放り込まれたようで、心は落ち着きを失くして彷徨った。
女王は戸惑いを隠せずにいるフロイントにゆっくりと声を掛けた。
「フロイント、これは大いなる力によってあらかじめ決められていたことなのです。そしてまた、これはわたくしの願いでもあるのです」
アデライデのやさしい手が、どくどくと脈打つ自分の胸にそっと置かれた感覚でようやく我に返った。アデライデの澄み切った空のような瞳に、やはりこれが現実であるのだと覚ったフロイントは、ごくりと喉を鳴らして女王に視線を戻すと、不安とおそれを滲ませた声で言った。
「──し、しかし如何に魂を宿していたとはいえ、俺は影の国の住人、魔物だった存在……。光の国の民が……光の眷族たちが、俺を認めるとは思えない……」
「わたくしが選んだ王を、民は皆受け入れるでしょう」
女王は確信に満ちた声で答えた。だがフロイントは尚も言った。
「たとえラングリンドの住人たちが俺を受け入れることがあったとしても、あなたの言うそのような大事が俺に務まるとは思えない。第一、あなたによって人間の身に生まれ変わったこの俺からは、魔物どもに対抗できるような魔力はおろか、あの木々の葉一枚揺らす風すら起こせない。微力ながらも俺にあった魔力は、魔物の肉体と共に完全に俺から去ってしまったのだ。このような無力な俺ではラングリンドを守ることはできない。みすみす奴らの餌食にするとわかっていて、ラングリンドを預かることなどはできない。それに……」
「フロイント」
女王はやさしく、しかし厳かな声で遮った。
「ときに真の魔法は魔力を必要としないものです。大いなる力を映した魂には、偉大なる力の一部もまた移されています。この力を世に揮うのに、魔力は必要ではないのです」
フロイントは押し黙ったが、その心はやはり不安のためにあらぬ世界を彷徨うようだった。
「あなたを見守るうちに、わたくしはこの世界の偉大なる力がわたくしに何をさせようとしているのかを理解しました。わたくしの取るべき行動、行くべき道が、あなたと、そしてアデライデを見守る中ではっきりと浮かび上がったのです。この世界は今、変化の時を迎えようとしています。影には影の役割、存在意義があるもの──。彼らもまたわたくし達同様、大いなる力によってこの世界に存在することを許された者たちであるのです。光と影とは本来独立して存在できるものではありません。互いにその力を補い合い、強め合うことで一つの世界、秩序が生まれるのです。それこそが原初の姿、この世界の本来あるべき形。わたくし達は今こそそこに立ち戻るべきときが来ているのです」
女王の力強く、粛々と光を放つ声は、フロイントとアデライデの眼前に、光と影が一つに溶け合うイメージを広げ、そのあまりに厳かで美しい幻影に、二人は思わず息を呑んで互いの手を強く握り合った。
「わたくしがこのままラングリンドの女王の座に就き続けても、もはやより新しい光をもたらすことはなく、ただ停滞を生むだけでしょう。停滞したものはいずれ死ぬ──そのようなことを、わたくしも大いなる力も、望んではいません。これからは新しい世界を築いていかねばならないのです。しかしそれは本来の世界の姿でもあるのです。種族を超え、あらゆる存在が共に栄える世界──それこそがわたくし達の還るべき世界、安住の地。そしてあなた達はその世界を最初に築き上げる魂なのです。
フロイント、あなたはラングリンドの最初の人の王としてすべての民の父となり、影に対しては厳然と接し、民に対しては自らの姿をもって影との共存の道を示して導くのです。そしてアデライデ、あなたは聖なる光をもってすべての民の母となり、人々が自ら進んで影の虜となる道を進まぬよう、民の心を清らかに保つのです。あなた方は二本の柱、一対の翼となって、ラングリンドをより良い国へと築き上げることができるでしょう。あなた達は新しく、そして懐かしい世界の象徴となるのです」
フロイントはやはり瞬きも忘れて茫然と立ちすくんでいた。フロイントには女王の語る言葉は荒唐無稽な、現実離れした物語のようにしか聞こえなかった。──というよりも、やはり自分は今、夢の世界にいるのかもしれないという思いがフロイントから冷静さを奪い、激しい混乱の中に放り込まれたようで、心は落ち着きを失くして彷徨った。
女王は戸惑いを隠せずにいるフロイントにゆっくりと声を掛けた。
「フロイント、これは大いなる力によってあらかじめ決められていたことなのです。そしてまた、これはわたくしの願いでもあるのです」
アデライデのやさしい手が、どくどくと脈打つ自分の胸にそっと置かれた感覚でようやく我に返った。アデライデの澄み切った空のような瞳に、やはりこれが現実であるのだと覚ったフロイントは、ごくりと喉を鳴らして女王に視線を戻すと、不安とおそれを滲ませた声で言った。
「──し、しかし如何に魂を宿していたとはいえ、俺は影の国の住人、魔物だった存在……。光の国の民が……光の眷族たちが、俺を認めるとは思えない……」
「わたくしが選んだ王を、民は皆受け入れるでしょう」
女王は確信に満ちた声で答えた。だがフロイントは尚も言った。
「たとえラングリンドの住人たちが俺を受け入れることがあったとしても、あなたの言うそのような大事が俺に務まるとは思えない。第一、あなたによって人間の身に生まれ変わったこの俺からは、魔物どもに対抗できるような魔力はおろか、あの木々の葉一枚揺らす風すら起こせない。微力ながらも俺にあった魔力は、魔物の肉体と共に完全に俺から去ってしまったのだ。このような無力な俺ではラングリンドを守ることはできない。みすみす奴らの餌食にするとわかっていて、ラングリンドを預かることなどはできない。それに……」
「フロイント」
女王はやさしく、しかし厳かな声で遮った。
「ときに真の魔法は魔力を必要としないものです。大いなる力を映した魂には、偉大なる力の一部もまた移されています。この力を世に揮うのに、魔力は必要ではないのです」
フロイントは押し黙ったが、その心はやはり不安のためにあらぬ世界を彷徨うようだった。
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